第390話 入国拒否

 アレンたちはルド将軍の話を聞いて、ヘビーユーザー島へ移動した。

 島に到着したら、鳥Aの召喚獣をクレビュール王国へ向けて飛ばした。


 これからクレビュール王国に向かう必要がある。

 ベク獣王太子の背後にプロスティア帝国の影があったからだ。


 プロスティア帝国絡みのことなので、ペロムスにも同席させることにする。

 ペロムスにはフィオナのためにプロスティア帝国に行かなければいけない用事がある。

 クレビュール王国に行くが来るか尋ねたところ「行く」と即答される。


 フィオナとの約束をしてから何か月も経つが何も始まっていない。

 行けば少しでも話が進むかもしれないと思ったようだ。


 鳥Aの召喚獣は、王化して強化も含めて25000に達した素早さでクレビュール王国の王都に数時間で到着する。


 そして巣を作って、鳥Aの召喚獣の覚醒スキル「帰巣本能」を使い全員で移動した。

 昼過ぎに聞いた内乱の騒動から随分時間が経ち、夜も更けてしまった。


 しかし、クレビュール王家はアレンたちに会ってくれるようだ。

 少し待ってほしいと配下を遣わせて案内された待合室に待つ。


「シア、心配なら戻ってもいいんじゃねえのか?」


 どこともなく遠くを見ながら、考え事をするシアにドゴラが話しかける。


「む? ドゴラよ。問題ない。これも王族の務めよ。だが、ありがとう」


 ドゴラがシアを心配して声をかけるが問題ないと言う。

 今回、内乱が起きたのはシアの実家とも言うべき、アルバハル獣王国の王都にある王城だ。


 家族や親類、顔の知った者たちも大勢いるだろう。

 内乱が起きたということは、武器が振るわれ、多くの血が流れたということだ。

 ここは任せて、アルバハル獣王国に戻っても良いとドゴラが言うのだが、ここに皆と共にいるとシアは言う。


 既に内乱が鎮圧されたアルバハル獣王国に行くよりも、ここで話を聞く方が、意味があると判断したようだ。


 それからほどなくして、広い会議室に呼ばれた。


(お? 全員来ていいのか。人数が多いなら、俺とシアとペロムス位で対応しようかと思ったのだが)


 アレンのパーティーも随分大きくなった。

 ここにはルークもいる。

 アレンはパーティーに入れたものには基本的に声をかけるようにしている。

 誘うと「いく!」と言ったので連れてきた。

 この状況がどこまで分かっているか分からないが、全てがまだ幼いルークの経験になるだろう。


 ただ、王家と直接会うのは先方の都合に合わせるつもりであった。

 王家が対応してくれるようなので、パーティー全員で王家と対面することにする。


「よく来てくれたのだ」


 魚人国家であるクレビュール王国の国王自ら挨拶をされる。


「夜分、申し訳ありません。火急、確認したいことがありまして」


 アレンも挨拶すると、こちらに座ってくれと言われ、アレンを中心に席に着く。


(王妃も王女もいるな。クレビュールとして対応してくれるということか)


 アレンの目の前には、国王が座り、その両隣には王妃とカルミン王女もいる。

 宰相か大臣だろうか見たことのない立派な恰好をした魚人も2人座っている。

 背後には近衛隊と思える騎士も数名いる。


 クレビュール王国総出とも言うべき布陣で対応してくれるようだ。


「よく来てくれたの。シア獣王女に置かれては、今回の騒動、心からお悔やみ申し上げる」


「いえ、クレビュール王家に置かれても、迅速に対応いただき感謝する」


 国王は、アレンの隣に座るシアにお見舞いの言葉を送る。


「それで、内乱を起こしたベクに協力者がいたようです。何でも魚人が支援していたとか」


 お茶にお茶受けのお菓子が出される中、アレンが今回来た目的を早々に尋ねる。

 夜分も遅いので、前回邪神教の時のように談笑から話を始めない。


 そして、中心にアレンが座っている通り、アレンが話を進める。

 前回の邪神教の時はシアが話のほとんどを進めたが、今回はアレン軍の総帥という立場だ。


「ふむ。これはアルバハル獣王国にも回答していることだが、クレビュール王国は今回の件に一切関与しておらぬ」


 はっきりとクレビュール王国は関わりのないことだと国王は断言した。


(ふむ。何となく嘘を言ってなさそうっぽいな)


 国王に王妃、カルミン王女に一緒に座る宰相っぽい貴族を見るが、嘘をついていないような表情だ。


「では、プロスティア帝国が関与していると?」


 アレンは読心術ができるわけでもないが、これが真実である前提で話を進める。


「……そちらは、我々には分からぬことだの」


 獣王と王城を守る、十英獣も何人か所属する獣王親衛隊とやり合う規模の魚人が、今回の騒動に関わっていた。

 クレビュール王国ではないなら、プロスティア帝国なのかと問うが分からないという回答だ。


(まあ、属国に正確に情報は伝えていないか)


 これまでプロスティア帝国についてあれこれ調べてきたが、分からないことがとても多い。

 分かるのは貿易からどんなものを生産しているか。

 輸入している内容から何を求めているかくらいだ。


「そうですか」


 ラターシュ王国よりさらに小さく、プロスティア帝国の属国であるクレビュール王国には今回の件は本当に何も聞かされてないのかもしれない。

 このクレビュールという王国は、プロスティア帝国が地上にある国と取引をするために作られた国のように思える。


 ここでは情報は得られないのかもしれない。


「……ただ」


「え?」


 国王が思い立ったかのように言葉を発する。

 何か覚悟のようなものを感じるかもしれない。


「……最近、帝国の軍部が騒がしいということを聞いたの。どこまで本当か定かではないが」


「ありがとうございます」


(ほう、軍部が動いたってことかな。これは感謝だな)


 今の発言はクレビュール王国の国王が外部にプロスティア帝国の情報を漏らしたことになる。

 ゆっくり王妃やカルミン王女を見るが、何か覚悟のようなものを感じる。


 自国を救った英雄にできることをしてくれたようだ。


(ってことは、まあ、どちらにせよ、プロスティア帝国に行かねばならないな)


 アレンはプロスティア帝国に行く用事が1つ増えたとはっきり理解する。

 1つは聖珠を集めに聖魚マクリスに会いに行くことだ。

 これは、ペロムスが交わしたフィオナとの約束を達成することにも関わっている。


 そして、もう1つは内乱を起こしたベク獣王太子を追って、ベク獣王太子の何らかのたくらみを阻止することだろう。

 人族を攻め滅ぼそうとしている、ベク獣王太子が獣王になれずに逃げだした。

 そのベク獣王太子に力を貸しているのがプロスティア帝国だ。


 今のところ何が起きているのか分からないが、ほっとくわけにはいかない。


 それにと思い、横に座るシアに話しかける。


「シア、もし、ベクから獣王の証を取り返したら、それはもう獣王ということではないのか?」


(結局、シアかゼウさん、どちらが獣王になるか議論の途中で騒動を起こしたみたいだし)


 王城で内乱まで犯したベク獣王太子から、獣王の証たる3点セットの武器と防具と聖珠を取り返すこと。


 ゼウとシアのどちらが獣王になるのか決まっていない。

 何故、揉めているかというと、2人とも獣王の試練を越えたからだ。

 こんな前代未聞のことが起き、獣王国の王城内で意見が割れてしまった。

 この状況に獣王国にさらなる試練がやってきた。

 今回の問題を解決した者が獣王になる。


 これは、誰から見ても公平な評価をシアに与えるだろう。

 アレンは力を貸すわけだが、それも含めて獣王の力だ。

 シアは獣人の帝国を築くためにアレンの仲間になると決断したのだ。

 王とは、個人の力を証明してなるものではない。

 あらゆる手段を高じて画策し、時には現獣王や臣下や民草から認められ、幸運にも愛され、そして力の限りを尽くし王座は奪うものだとアレンは考える。


(まあ、ゼウさんの余命が残りわずかになるかもしれないけど)


 ゼウ獣王子の妃は大変な恐妻家で、夫が獣王になることを信じて疑っていないらしい。

 ゼウ獣王子が獣王にならなければ、ゼウ獣王子の命もそこまでかもしれない。

 その辺りはまた別の方法で考えないといけない。


「たしかに、しかし、それには……」


 シアもアレンの考えに賛同する。

 これ以上の次期獣王としての証を示すことができることはないだろう。

 ただ1つ気がかりがあると、シアは「それには」の言葉と共に国王を見つめる。


「申し訳ない。入国証は出せぬのだ」


 そう言って国王ははっきりと入国証は出せないと言った。

 テーブルに座っているものの、一国の王が頭を下げる。

 それを王妃も王女も臣下も止めようとはしない。

 一国の王として、絶対にできないという意味する。


「それは、どちらの入国証ですか? たしか、入国証はクレビュール発行のものと、プロスティア帝国発行のものがありますが」


 入国証は2種類ある。

 1種類目は、クレビュール王国が発行する魚人に対する入国証だ。

 魚人なら、この入国証で十分で、プロスティア帝国に入ることができる。


 2種類目は、プロスティア帝国が発行する魚人以外に対して発行する入国証だ。

 この入国証には、魚人以外が海底にあるプロスティア帝国で呼吸をすることができる。

 水の神アクアの加護付きの入国証だ。


「当然、プロスティア帝国発行の入国証だ。はっきりと断られた」


 アレンたちのためにクレビュール王国の国王はプロスティア帝国に掛け合ってくれていたようだ。


「ベク獣王太子は入国させたのにですか?」


「そ、それは、先ほども言った通りはっきりとはせぬことだ」


(まあ、これ以上責めても仕方ないか。プロスティア帝国に必ずベクがいるという確証はないがな)


 王城で内乱を起こし、騒動の中で魚人と共に王都を脱出したと聞いている。

 しかその足でプロスティア帝国に入ったかどうか、足取りは在確認中だ。


 もし、プロスティア帝国に入国させたならベク獣王太子には、プロスティア帝国が入国証を発行させたのだろう。

 ベク獣王太子がプロスティア帝国に入ったことを前提に動くことが一番良いと考える。


「困りましたわね。プロスティア帝国に入れないとなると」


 ソフィーが困ったと言う。


「いや、まあ、プロスティア帝国に入る必要はある」


「そうですが、アレン様……」


 無理なものは無理だとソフィーは思った。


「国王陛下、クレビュール王国発行の入国証なら発行できますか?」


「それは当然できるが、しかし」


(できると言ったな。では発行してもらうぞ)


 アレンはクレビュール王国の国王から入国証を発行すると言質を取ったと判断する。


 この状況になってアレンの仲間たちも違和感に気付いた。

 人族やエルフ、獣人ではプロスティア帝国では活動できないと言おうとするが、アレンは問題ないという顔をしている。

 その真意は何なのかと思う。

 アレンはこの状況において、何らかの秘策があるように思える。


「アレン、プロスティア帝国で活動する方法があるのね?」


 セシルが代表してアレンに問う。

 あれこれ検証したり、実験をするアレンに何か今回の問題を解決できる秘策があったのかと考える。


「あるぞ。俺は、この状況に既視感がある。過去に経験したよくあることだ」


(やっぱりこういう国はどこにでもあるんだな)


 アレンはこの状況に慣れていた。


 前世では、行きたい場所に行けないことがほとんどであった。

 時には鍵がないと入れなかったり、時には移動の手段として船がないといけなかった。


 そんな中、今回のパターンは「入国拒否」に分類されるとアレンは考える。


 種族などが異なり受け入れてもらえず、入国拒否した国、村、城などがあった。

 人間嫌いのエルフの里に入らないとストーリーが進まない。

 魔王城にも潜入し、魔王の動向を探ったこともある。


 そんなときに使った方法を今回も使えばよい。


「皆に見せるのは初めてになるな。今回は王道の方法で入国するぞ。タコス。擬態を使ってくれ。俺だけでいい」


 皆に説明していなかったと説明を入れ、実演することにする。


『アレン様にだけ擬態でゴワスね』


 魚Aの召喚獣に覚醒スキル「擬態」を使うように言う。


「「「!?」」」


 国王、王妃、カルミン王女、そして臣下に近衛の騎士達も驚く中。壁から巨大なタコの姿をした魚Aの召喚獣が顔を出す。

 全長30メートルもあるので、顔と口元の一部しか部屋には入らない。


 その魚Aの召喚獣が筒状の口から泡を1つ吹いた。

 大きな風船上の泡がふあふあとアレンの元に飛んでいきアレンに当たる。


 デロン!


 アレンに泡が当たるとともに、忍者が煙球を投げた時に出てきそうな効果音が鳴り響く。

 そして、アレンの体に煙が多い、姿を消す。


「あ、アレン様、アレン様!? え? なぜそのようなお姿に!?」


「ぐふふ」


 ソフィーが思わず驚愕し、目の前に王族がいるにもかかわらず、ガタッと椅子を倒して立ち上がった。


 そこにはアレンの面影のある魚人が立っている。


(ふむ、これが魚人の姿か)


 アレンは指と指の間に水かきが出来た手を閉じたり開いたりして感触を確かめる。


「ちょっと!? アレン、なんで魚人になっているのよ!!」


 セシルも思わず声が出る。

 人族から魚人になったアレンに誰もが驚いている。


「これが俺の真の姿だ」


(一度は言ってみたかった)


 アレンは何か大きな夢が叶ったような気がする。


「訳わかんないわよ!!」


 流石にセシルもアレンのこの状況にはついていけなかったようだ。


「さて、クレビュール王国は入国証を発行してくれるようだ。プロスティア帝国に行くぞ!」


 アレンはこれから向かうはるか先の大海原を指さし、自信をもって口にするのであった。

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