第335話 チームアレン③ 合流
「アレン、間に合ったのよね?」
状況が状況だけに間に合ったのかセシルは不安だ。
「ああ、セシル。かなりギリギリだったな」
(シア獣王女発見。というかエクストラスキル解放しまくりだ)
エクストラスキルを解放している者が多くいることが分かる。
魔王軍との戦争であれば、要塞が間もなく陥落する合図であったりする。
エクストラスキルはクールタイムが1日のものが多く、むやみやたらと使わない。
Aランクの魔獣が攻めて来たとき何人かが解放し対処に当たる。
守りが崩壊したり、攻撃の術を失ったりして、もう無理だと判断したとき大勢でエクストラスキルを使用し、問題の対処を図る。
しかし、これは火事場の馬鹿力で、この後すべきことは、そのまま玉砕するか、要塞を放棄するかの2つしかなかったりする。
アレンは運よく、玉砕か放棄をする前にたどり着くことができたと思う。
「お、おい。弓ひかれているぞ。こんなに近づいて大丈夫なのか?」
「大丈夫。このままだと、共闘できないから話をつけないと。というかドゴラはもっと盾を上げて俺らを守ってくれ」
そう言ってドゴラの盾に、というかドゴラを盾にアレンとセシルが身をひそめる。
ゼウ獣王子が誇り高いと言っていたシア獣王女に筋を通すため、一言挨拶に行くことにする。
「大丈夫じゃねえじゃねえか!!」
ドゴラがツッコミを入れるが、防壁の上にいるシア獣王女に、鳥Bの召喚獣の上にいる自分らが分かるように近づいていく。
ルド隊長が制止したため、獣人の弓部隊たちは弓を引いたが矢を射ることはしないようだ。
ドゴラ、アレン、セシルは防壁の上に降り立った。
「お前たちは?」
ルド隊長が端的にいきなりやって来た不審者たちに問う。
「Sランク冒険者のアレンといいます。御助力に伺いました。シア獣王女様と兵たちとお見受けします」
ルド隊長に聞かれたので、シア獣王女に聞こえるように自らの肩書と目的を答える。
なお、こんなに警戒されないなら自らのことをSランク冒険者とは言わない。
「アレン? あの兄上に協力したアレンか?」
直ぐに自分が誰なのかシア獣王女は分かってくれたようだ。
シア獣王女に対して、ゼウ獣王子が定期的に手紙を送っていたという話は聞いていた。
「そうです。そのアレンです。ゼウ獣王子様より御助力を依頼されております」
「む!?」
一瞬、シア獣王女の顔に拒否反応がでたが、直ぐに表情は戻り受け入れるようだ。
もしかしたら、ゼウ獣王子に助けられたという事実は都合が悪いかもしれない。
ゼウ獣王子はライオンの獣人だが、シア獣王女は虎の獣人なのか。
兄妹なのに種族が違うのは腹違いか何かなのかと、シア獣王女の拒否反応とは裏腹にゼウ獣王子との違いを見る。
(いや、今はそんなことを考えている暇はないぞ)
シア獣王女は戦姫と呼ばれ、誇り高く荒々しい性格だとゼウ獣王子から聞いていた。
好戦的な性格も相まって、ギアムート帝国が取り込もうとしているのは、もっと温厚なゼウ獣王子だ。
いきなり襲い掛かる性格なのかと聞いた時は思ったが、そんな気配は一切しなかった。
シア獣王女に抱き抱えられて死にかけているラス副隊長を見たからだ。
その所作は慈愛に満ちており、戦姫と呼ばれたイメージからはかけ離れていた。
「回復薬があります。死にそうなので、使いますね」
そう言うと収納から取り出した天の恵みを使い、ラス副隊長も含めて効果範囲内にいるほとんどの獣人と魚人の兵たちの傷を治していく。
シア獣王女とアレンたちとのやり取りが続いているが、今なお、邪教徒や魔獣たちが防壁を攻め落とそうと攻め続けている。
「聞いていた通りか。助力というが、余はなにも持っておらぬ。礼は出来ぬぞ?」
見返りを求められても礼ができる立場にはないと言う。
「もちろんです。私たちはこの邪教徒たちを殲滅しにやって来たのです」
(噛まれたみたいだし、香味野菜も使ってと)
香味野菜も1つ使用する。
「そ、そんな。奇跡か」
絶命寸前で意識が混濁していたラス副隊長の意識が戻り、鎧が粉砕された部分を確認する。
香味野菜の効果により黒い影が体から出て行く。
「邪教徒だと? それに今のは何だ?」
「ああ、これであの下半身がぬめぬめした魔獣にならなくなりましたので、ご安心を。説明は後にさせていただきますね」
「真か!? そうか。分かった」
あまり詳細を説明する時間はない。
今はこの陥落しそうな、魔法で作ったと思われるお手製の要塞を守ることを優先したい。
シア獣王女も頷き、その考えには同意のようだ。
アレンは鳥Bの召喚獣を削除し、新たにできた枠で鳥Eの召喚獣を召喚する。
アレンの遥か頭上に上がり覚醒スキル「千里眼」を発動する。
(ふむ。全力で囲んできているではないか。というか視界の範囲外からワラワラやってきているな)
地の果てから追って来ている。
千里眼は半径100キロメートルという広大な範囲を、かなり細かい様子まで見ることができる。
どうもいくつか戦った痕跡が見られ、邪教徒や魔獣の死体が転がっている。
犠牲も多く出たであろうに何度も襲われながら、必死に力無きクレビュールの民を守ってきたことが窺える。
「セシル、シア獣王女様より正式に応援要請を受けた。全力で支援する。まずは戦いの狼煙を上げてくれ。盛大に頼む」
「え? 分かったわ」
そう言って、セシルは一歩前に出る。
そして、自らを陽炎のように揺らしエクストラスキル「小隕石」を発動する。
「「「な!?」」」
エクストラスキル「小隕石」の発動範囲はとてつもなく広い。
この10メートルを超える防壁の上から見える位置全てが攻撃範囲だ。
真っ赤に焼けた巨大な岩が1キロメートルほど離れたところに落下する。
これからやって来る邪教徒や魔獣を一掃するためだ。
多くの湿地帯の沼などが沸騰し蒸発する。
そして、水蒸気を生じさせながら土を吹き飛ばしていく。
あまりの衝撃で空間が歪んだと錯覚するほどの威力の余波は、波打ちながら防壁にも到達する。
兵たちが足をふらつかせながらも地形が変わるほどの、セシルのエクストラスキル「小隕石」に見入ってしまう。
「じゃあ、周辺の攻撃に移るわね」
「ああ、でかいのは残しておいてくれ。使役したい」
「そう、分かったわ」
そう言って、セシルは驚き慄く獣人たちの元に歩みを進める。
魔法部隊のいる位置が、邪教徒や魔獣たちが良く見え攻撃魔法がかけやすい位置となっている。
その位置から攻撃魔法を邪教徒と魔獣たちに狙いを定めていく。
攻撃魔法はクレナのような攻撃スキルとは法則が違う。
メルスの話では管理している神が違うため、スキルの法則も違うらしい。
火、氷、雷、光の4つの属性の魔法をセシルは使えるのだが、放つことができる魔法は24種類だ。
それぞれスキルレベルと同じく6通りの魔法を発動することができる。
なお、クレナやドゴラの攻撃スキルはスキルレベルが上がっても威力が上がるだけだ。
例えば、火魔法なら以下のとおり
・火魔法レベル1「ファイア」は単体攻撃。威力は知力依存。発動まで3秒。消費魔力は5。クールタイムは5秒。
・火魔法レベル2「フレイムランス」は複数攻撃。威力及び攻撃範囲は知力依存。発動まで6秒。消費魔力は20。クールタイムは10秒。
・火魔法レベル3「メガファイア」は単体攻撃。威力は知力依存。発動まで15秒。消費魔力は30。クールタイムは1分。
・火魔法レベル4「フレイムレイン」は複数攻撃。威力及び攻撃範囲は知力依存。発動まで30秒。消費魔力は100。クールタイムは3分。
・火魔法レベル5「フレア」は単体攻撃。威力は知力依存。発動まで1分。消費魔力は200。クールタイムは5分。
・火魔法レベル6「インフェルノ」は複数攻撃。威力及び攻撃範囲は知力依存。発動まで3分。消費魔力は500。クールタイムは10分。
魔法のスキルレベルが上がる度に、威力も上がり、攻撃対象は単体に複数にと交互に変わっていく。
「フレイムランス」
無数に発生した火の槍が邪教徒と魔獣たちに降り注ぐ。
「え? 火魔法だと。何故この場で火魔法を」
「な、なぜあの威力で、そのように早く発動できるのだ?」
魔法部隊の間にセシルの加勢で一気に動揺が走る。
集中力を失い、間違えるはずのない発動条件の幾何学的記号を誤り、魔法効果が四散してしまうものまで出てくる。
今迫って来る邪教徒も魔獣も火に強い耐性があることを知っている。
だから足止めの意味も込めて、氷魔法で凍らせたり、弱点の雷魔法を使った。
しかし、耐性を無視したセシルの火魔法は邪教徒や魔獣たちを一気に消し炭にしていく。
どれだけやって来ても灰にしていくので、魔法部隊の獣人たちに1つの仮説が生じる。
もしかしたら「掃除」しているのではと考える。
このセシルと呼ばれた女性は、向かって来て欲しくて凍り付き邪魔になっている邪教徒たちも含めて焼き尽くしている。
消し炭にして、攻めて来られるようにスペースを空け、もっと攻めて来いとそういうことなのか。
「って障害が邪魔ね。フレア」
「「「な!?」」」
巨大な炎を掲げた手の平の上空に生む。
狙うはセシルが立つ防壁の前に複雑に存在する氷や岩の塊だ。
これらは魔法部隊が足止めのために、防壁の周りに配置させたものだ。
それをセシルは攻撃の邪魔であると火魔法で吹き飛ばす。
いとも簡単に破壊されることで魔法部隊はその実力を知る。
魔法によって作られた岩や氷はそれ以上の知力を込めた魔法でないと破壊できないことが常識だ。
魔法部隊が協力して作った障害物を1撃の魔法で吹き飛ばしてしまった。
どれだけの魔力をセシルが込めたのかという話だ。
セシルは知力が5000上昇する指輪を2つ装備している。
そして、神秘の杖と呼ばれるアイアンゴーレムを倒して手に入れた知力が8000上昇する武器を手に入れた。
お陰で知力は25000弱ある。
セシルは知力だけならメルスすら凌駕する。
彼ら魔法部隊は装備を加味しても3000から5000ほどしか知力がない。
魔法部隊は100人ほどで構成されている。
5人から10人の班を組み、範囲魔法で討ち漏らした魔獣の殲滅を補い合っている。
それをセシルたった1人でやってのけている。
槍隊が必死に戦っていたが、ものの数分で防壁数十メートルの範囲に邪教徒も魔獣もいなくなってしまった。
セシルの戦闘への参加で、魔法部隊に続き、槍部隊も棒立ちになってしまう。
「まもなく、右手と左手からも魔獣たちがやって来ます。2班に分かれていただけるかしら?」
魔法を放ちながら部隊長に対してセシルは指示をする。
「そ、そうだな」
前方は自分だけで十分だと言う。
魔法部隊の部隊長はただただ返事をする。
槍隊も同じく左右に分かれるようだ。
「魔法と槍は分かれるか。ドゴラは右手を加勢。俺は左手に行こうか」
「あ、前方はセシルだけで大丈夫なのかよ?」
まもなくやってくる右手と左手の魔獣たちを含めた作戦を取ることにする。
「ああ、問題ない。そうだな、オロチ」
『『『ああ、問題ないぞ。グルアアアアアア』』』
(わざと吠えているだろ)
「「「ひ、ひいい!?」」」
状況の確認が終わったので鳥Eの召喚獣をしまい、5頭を持つヒュドラの姿をした竜Aの召喚獣を出した。
体長100メートルに達するその姿に、獣人とクレビュールの兵が震えて見上げてしまう。
5つの巨大で長い首が3方に分かれて、炎を吐き邪教徒と魔獣たちを殲滅する。
虫Aの召喚獣たちは広範囲に広がり、クレビュールの民の方に向かう敵から民を守る。
どうやら、アレンたちのいる防壁を無視して、クレビュールの民の方に向かって行く邪教徒や魔獣たちもいたようだ。
「問題なさそうだな」
(いける気がする)
「そうなのか?」
アレンは独り言を言ったつもりだったが、シア獣王女は返事をする。
これが兄上にS級ダンジョンの攻略を達成させたSランク冒険者とその仲間の力かと思う。
「はい。そこまで殲滅に時間がかからないかと。この要塞での戦いが終了後、前方に進み殲滅範囲を広げていきます。その際、皆様はどうするのかご検討を」
アレンは殲滅後の話をする。
恐らくこのペースでの狩りなら半日もかからないと判断する。
「分かった。ルド隊長、ラス副隊長は隊を2つになるよう編成せよ」
「「御意!!」」
殲滅の間に考えてほしいとアレンは伝えたが、シア獣王女は即決する。
一部はクレビュールの民の護衛に行き、残りの獣人部隊はアレンたちについていくようだ。
こうして、アレンたちはシア獣王女たち獣人部隊との合流を果たしたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます