第336話 チームアレン④ お礼(1)
アレンたちはシア獣王女と合流し、邪教徒と魔獣たちの殲滅を開始した。
結局3時間とかけずに向かって来る敵を殲滅し、その後、隊列の編成が終わったシア獣王女の部隊と戦線を前に進めることにした。
シア獣王女の部隊は1500人ほどがアレンたちとの共同戦線を組んでくれた。
全て才能有りで、アレンとしても助かった。
邪教徒やBランクの魔獣なら、シア獣王女の部隊でも問題ない。
数は力だ。
避難者の救援や、短時間で広範囲に殲滅するには、どうしても人手がいる。
金の豆、銀の豆を使い、魔獣を寄せ付けない安全地帯も作っていかないといけないなど人手はどうしてもいる。
訓練された兵ということもあり、よく動いてくれる。
アレンのチームとキールのチームは、鳥Bの召喚獣を仕舞うことができる。
アレンとメルスが、再召喚が可能だからだ。
そして空いた枠で、魚系統の召喚獣を出して、シア獣王女とその部隊にバフをかけることも可能だ。
このクレビュールという国はそこまで大きくない。
その3分の2ほどが邪教徒たちに占領されてしまったのだが、3日ほどかけて3分の1ほどの殲滅が粗方終わった。
完全に殲滅しないと邪教徒がまた増えてしまうのだが、それよりも、まだ生きているかもしれない街や村の住人、そして避難者の救出を優先させてきた。
ソフィーのいる砂漠や、キールのいる滅びかけたカルロネア共和国より、殲滅が早く終わりそうだ。
この小国がまだ存在しているのも、シア獣王女とその部隊が踏ん張ってくれたお陰であることは間違いないだろう。
次に順調なのはキールのチームだ。
メルスは軍隊を集合させて『明日からカルロネア共和国の救出と邪教徒どもの殲滅に向かう。人手が必要だ。才能があるものは手を上げろ』などと言っている。
才能のない者にも国境線上まで逃げてきた避難民の誘導、香味野菜や金、銀の豆の使用など、要塞にいた者たちをかなりこき使っている様子だ。
あとからやって来た将軍率いる2万ほどに達した軍隊にも同じことをしている。
「やはり、私たちも行く必要があるのでしょうか?」
「当然だ。功労者にはしっかり労うことが王家の務めだ。ゼウ獣王子から聞いていた通りだな」
明らかに不満げな顔をするアレンを見て、ゼウ獣王子からの手紙でアレンは王家を敬う性格ではないと書かれていたことをシア獣王女は思い出す。
ここは、他国とクレビュールの境にあるカルロ要塞都市という要塞の役割のある大きな街だ。
アレンたちが戦線を押し上げたお陰で、クレビュールの民たちを守る戦闘もなく、順調にクレビュールの王家と民はカルロ要塞都市に昨晩到着した。
中央にある大きな建物にシア獣王女とアレンたちは呼ばれた。
斥候部隊が、シア獣王女の元に今日の朝一で状況を伝えに来た。
何でもお礼が言いたいらしい。
一言お礼の言葉を聞いて、とっとと戦線に戻ろうとアレンは思う。
「こちらへ」
クレビュール王家の役人と思われる者に部屋に案内される。
入ると、国王、王妃、王女と思われる3人の魚人がテーブルに座っている。
近衛の騎士たちがその後ろに数人ほど控えている。
(ん? 謁見の間的な感じじゃないのか。まあ、シア獣王女がいるからな)
この建物にも謁見の間があるが、ちょっと広めの会議室のようなところで謁見をするようだ。
大国の王女であるシア獣王女を謁見の広間に座らせるのは良くないと思ったのだろう。
クレビュール王国はプロスティア帝国の属国で国土も小さい小国だ。
国家を救った恩のあるシア獣王女にも気を使った形だ。
ここに座りなさいと言われて、4人がけのようなので、ドゴラ、シア獣王女、アレン、セシルの並びで座る。
シア獣王女とパーティーリーダーでSランク冒険者のアレンが中央にという並びのようだ。
アレン以上にドゴラは無言を貫いており、ほぼ空気の状態になっている。
(シア獣王女はプロスティア帝国と国交を結びたいんだっけ。これはゼウ獣王子もうかうかしてられなくなったのか?)
魚人たちを見ながらプロスティア帝国について思い出す。
一応、学園の授業でも地理の授業で習ったのだが、本当に簡潔なものだった。
なぜなら、プロスティア帝国は5大陸同盟に入っていない。
そして、大陸ではなく、海底に存在する大帝国だ。
プロスティア帝国の東西は連合国のある大陸からアルバハル獣王国のある大陸まで、北は中央大陸に接するほどまでの海底、海域を支配している。
水の神アクアを信仰する魚人国家で、陸上の国で国交があるのは、この魚人国家クレビュール王国だけだ。
そのクレビュール王国も、元はプロスティア帝国の民が入植したらしい。
クレビュール王国の王家はプロスティア帝国の公爵家の1つで、帝国の指示で王国を治めているらしい。
全てに中立を決め込んで、魔王軍に対しては知らん顔という。
そういうわけで、学園の授業でほとんど習っていない。
絵本の話ではなく実際に帝国があったのかが授業を習った時の感想だ。
グランヴェル家で読んだ涙々の「プロスティア帝国物語」以上の知識はほとんど得られなかった。
シア獣王女とはこの3日の間に随分話をした。
「よくもS級ダンジョンを攻略したな!」というのが、最初の晩の防衛線の打ち上げの第一声だった。
それをゼウ獣王子からきた手紙で知った時は、手紙を破り捨ててしまったとか。
せっかく邪神教の教祖を捕まえて、獣王から受けた試練を乗り越えたのに、獣王になれるか分からなくなったという。
シア獣王女は、ゼウ獣王子がしたことの価値が分かったようだ。
ゼウ獣王子は前人未踏のS級ダンジョン攻略以上の価値を手に入れた。
その武勲を上回るという事でシア獣王女が目を付けたのが、何でも内乱を起こすかもしれないという不穏な噂のあるクレビュール王国だ。
うまいこと間を取り持って、プロスティア帝国との間に国交を結ぼうとそういう予定らしい。
プロスティア帝国は海洋資源の宝庫だという。
この世界は海の魔獣のせいで魚介類が簡単には手に入らない。
アレンが海の魚を食べることができるようになったのはつい最近になってからだ。
そして海洋資源は魚介類だけではなく、海底はとても豊かで貴重な鉱物、貝や真珠、サンゴなどの貴金属や装飾品も大量に手に入る。
そして、水の神アクアの加護のある、船に取り付ける海生の魔獣避けの御札も手に入る。
魔獣のいるこの世界で漁業をするなら必須ともいえるらしい。
そして、究極的には金貨数百万枚はするというマクリスの聖珠が取引で手に入るかもしれない。
そういうこともあって、プロスティア帝国は5大陸同盟に入っていないが、クレビュール王国に対して各国は、友好的な対応をしているのが現状だ。
ゼウ獣王子がS級ダンジョン攻略を達成して得たものは名誉の部分が大きい。
勇者ヘルミオスやガララ提督も参加したそれぞれの大陸の英雄の威信をかけての戦いだ。
ゼウ獣王子からS級ダンジョン攻略を聞いても、シア獣王女は獣王の座を諦めることなく、その事実をひっくり返そうとした。
自らも既に邪神教の教祖を捕らえ獣王の試練は達成している。
そして、プロスティア帝国との国交を結ぶことに成功したら名誉よりも重要な実益をアルバハル獣王国にもたらすことができると確信する。
シア獣王女の話では、プロスティア帝国との足掛かりとしてクレビュール王国と同盟を結んだとか。
アレンがシア獣王女とゼウ獣王子のどちらが獣王になった方がいいのか考えていると、昼食の時間と言うこともあり魚料理が運ばれてくる。
テーブルに置かれた巨大な魚の香草焼きを切り分けて持ってきてくれる。
(うひょーうまそう!)
この世界では肉ばかり食べているので、魚は好物になってしまった。
せっかくやって来たので、元を取る気持ちで魚をバクバク食べる。
アレンが食い意地を前面に出しているので、シア獣王女は今起きている状況を説明する。
「あとみ、3日だと……。あ、ありえぬぞ。シア獣王女よ、まさか真か!?」
「すばらしいわ。本当ですの!!」
国王は絶叫した。
カルミン王女も同じく、あれだけ絶望して王都から命からがら逃げだしてカルロ要塞都市に到着した。
そして、無事に到着できたお礼と今の状況を聞くと、あと3日で王都まで奪還できるという話だった。
国王や王女からしたら、カルロ要塞都市について早々に既に邪教徒や魔獣からの危機から脱しつつある状況だ。
「当然です。冒険者ギルドが20年ぶりに任命したSランク冒険者の力を目の前で見れば、疑問に思うことすらないはずです」
シア獣王女は驚くほどのことではないと言う。
ドラゴンほどの大きさの虫Aの召喚獣に護衛されてカルロ要塞都市にやって来た。
それほどの力があったのかと国王も納得をする。
「それほどなのか。アレンと言ったな」
「はい。クレビュール王国の皆さまが無事でよかったです」
(魚も美味しかったです)
ただし、細かい殲滅まで含めるともう少し日数が掛かることも付け加える。
完全に邪教徒から国を浄化するには時間が掛かることの説明もしておく。
当面は、王家はこのカルロ要塞都市で暮らすことになるだろうという話だ。
「アレン様は、あまり不作法ではないのですね」
カルミン王女もアレンに興味津々だ。
貴族でもなく、ただの冒険者だと聞いていたが、随分丁寧な口調だ。
アレンはもっと粗野な態度かと王女は思ったようだ。
「こ、これ。カルミンよ。クレビュールを救ったお方に失礼なことを言うでないぞ」
「申し訳ありません。しかし、これは王家としてお礼をしないといけませんね」
「お礼ですか?」
アレンをガン見して、お礼の話をカルミン王女が切り出してくる。
アレンは国王を見るとそうだなと頷いている。
どうやらお礼の言葉だけではなかったようだ。
「はい。何かご希望がございますか?」
「ああ、えっと」
「はい。なんなりと仰ってください」
「申し訳ございませんが、お受取り致し兼ねます」
「「「え?」」」
国王も王妃も王女も驚く中、アレンは座ったまま頭を下げ、お礼はいらないと断ったのであった。
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