第223話 ただいま会②

「なんでグランヴェル家のお嬢様がここにいるんだ?」


 ロダンもテレシアもわけが分からなかった。

 クレナの両親のゲルダとミチルダも同じだ。


 変に心配させまいと、実はダンジョンに頻繁に通っているとか、学園や仲間達の細かい話をアレンはしていなかった。それで言うと従僕をしていたころゴブリン村やオーク村を襲撃していたなんて話もしていなかった。


 クレナやドゴラ他にも何人かで、皆で仲良く学園に通い、賃貸の一軒家を借りて共同生活をしているくらいの説明で済ませていた。


 結構何も親に話していなかったんだなとアレンは思う。

セシルがちゃんと紹介しなさいよとアレンに目で訴えるので、細かい紹介をすることにする。


「僕がグランヴェル家で従僕をしているころから、セシルとは一緒に過ごしていて、そのまま一緒に学園に行ったんだ」


「ん? そうなのか。なんか貴族と仲良くなるものなのか? 皆一緒に住んでいるのか?」


 この家に帰って来てからアレンがずっとセシルとはため口で話していることをロダンは思い出す。農奴として生まれて、その辺りの常識に疎いが、長いこと一緒にいるとため口も大丈夫になるのかなとロダンは勘違いをする。


「うん、皆俺の仲間だ。今ちょっと離れている子が1人いたりするけどね。えっと、クレナとドゴラ以外全員紹介するね」


「ああ」


「そこのツンツン頭がキールだ。最近隣の領の領主になった男爵だ」


「おい、なんか雑だな。間違ってはいないが」


 キールからもしっかりツッコミを頂く。


「ぶっ!! 男爵だと!? 貴族じゃねえか、ってへばっ!!」


 ゲルダもアレンが王都で買ってきた果実酒を噴き出して絶叫する。

 そして、料理の上に吹き出すなと妻のミチルダの拳がゲルダの頬に決まる。

 大樽で買ってきたが勿体ないなとアレンは思う。


 ミチルダのゲルダへの拳に反応して、クレナの妹のリリィがシュッシュと空に拳を振るう。リリィは拳士の才能がある。


「それで、こっちのソフィーは隣の国の王女で、その隣の男はフォルマールって言って、王女の護衛だな」


 アレン達と違って、両親は王国史も魔王史も学んでいない。

 地理の知識もほとんどないのでローゼンヘイムを隣の国と説明する。


「ソフィアローネと申しますわ。アレン様の親御様方、お会いできて光栄ですわ」


 ソフィーが丁寧に自らを名乗る。

 フォルマールは軽くお辞儀をするだけで済ませる。


「お、王族だと。どういうことだよ? アレン何言ってんだ?」


 アレンが突拍子もない冗談を言ったとゲルダは思う。


「学園の2年生になった時に隣の国から学びにやって来たんだよ」


 担任の講師にお世話するようにお願いされ、それから同じ家に住んで活動を共にしていると言う説明をアレンは付け足す。


「だ、だからって、本当かよ? それにしても隣の国は耳が長いんだな」


 隣の国どころか、隣の領にすら行ったことのないゲルダがまじまじとソフィーの長い耳を見ながら感想を呟く。

 そんなゲルダにソフィーが苦笑し、フォルマールがムスッとする。


「それで言うとクレナも名誉男爵になったんだけどね」


「「「え?」」」


 皆の視線が大きな骨付き肉にかぶりつくクレナに集中する。


「ほえ?」


 クレナはキールが男爵になりカルネル家を再興したときに、一緒に男爵になった。


 王国にはクレナが剣王になったことを伝えていないが、剣聖であっても学園を卒業したら貴族になる決まりだ。

 しかし、キールもクレナも男爵だが、クレナの場合は1代限りの男爵らしい。


 この1代限りの男爵は別名で名誉男爵と呼ばれている。

 剣聖や大魔導士や聖女など、3つ星の才能の子供が学園を卒業すると名誉男爵になる。


 そして、戦場で活躍し続けると、家督を継げる男爵となり、さらに子爵、伯爵と爵位が上がっていく。剣聖ドベルグはその数十年に及ぶ永い功績を称えられ侯爵となった。


「なんだよ、学園卒業してからって話じゃなかったのか」


「うん、卒業したよ。ねえ、アレン」


 ゲルダがどういうことだよと娘のクレナに問いかける。


「成績が学園を卒業できる条件を満たしたからって卒業させてくれたんだ」


 そう言って卒業証書を広げて見せる。

 一応全員分の卒業証書が収納に納められている。


(嘘は言っていない気がする。俺がローゼンヘイムの参謀になったりと話すとややこしくなることも多いな。まあ、その辺はそのうちおいおい話せばいいだろう。ん? 少しは文字が読めるようになったのかな?)


 ここで一度に話をする必要もないかと思う。

 今後、開拓村で召喚獣による開拓を再開させる予定なので、霊Bの召喚獣を通して細かいことは伝えたらいいと考える。


 ロダンがアレンの広げる卒業証書をマジマジと見ている。


「ま、まじかよ。そういえばもう学園が始まっている時期だな」


 4月になり既に学園の始まっている時期にアレンたちが帰って来たことに気付く。既に卒業して実家に帰って来たのかとロダンは思った。


「そういえば、マッシュは学園に行くって去年に言っていたけど勉強は順調か?」


「うん、アレン兄ちゃん! 父ちゃんと勉強頑張っているよ!!」


 アレンの3つ年下のマッシュは、「槍使い」の才能が有り、来年から学園に入るつもりでいる。


 実はグランヴェル子爵の取り計らいで、この開拓村にも講師がやって来ていた。

 目的はロダンとマッシュの学力をつけるためだ。

 

 文字が読めなかったり、計算ができなかったりする村長もいることはいる。

 子供の頃十分な勉強を受けられなかったが、人徳があって村長になった者がそれにあたる。

 しかし、今後村長として領主やその遣いと税の話をしたり、村人の数を把握したりする機会は多い。文字が読め、計算ができた方がいいに決まっている。


 特に、ボア狩りが終わってから春先まではかなりみっちり勉強していたようだ。


(まあ、父さんもレベルが上がっていて知力が常人より高いし割と早く覚えるだろう。それで言うとマッシュもか)


 知力が上がっても知識が増えるわけではないが、記憶力や理解力は向上する。

 例え才能がなく知力の能力値がEであったとしても、レベル1とレベル20では学習速度が変わってくる。


 そして、マッシュだが、元々クレナやドゴラと一緒に勉強をしていた。

 また、去年からボア狩りにも参加している。

 アレンが召喚獣に運ばせたミスリルの槍や盾のお陰で、ボア狩りの危険が格段に減ったこともあり、ロダンも参加を認めた。お陰でマッシュのレベルも上がり知力も上昇しているだろう。


 なお、できたばかりの開拓村は非課税なので十分な量の肉を農奴も平民も食べており、その辺の村より、この開拓村の農奴の方が肉付きが良かったりする。

 

 そんなマッシュを羨ましそうにミュラが見ている。


「ミュラも学園に行きたいか?」


「うん!」


 まだ7歳ほどのミュラも何か分からないが学園に行きたいようだ。


「ミュラ、才能がないと学園には行けないのよ」


 すると、テレシアが頭を撫でながら、ミュラは行けないと諭す。そして、なんでそんな期待させるようなこと言うのとテレシアがアレンを見る。


「え、いけないの?」


 ミュラが泣きそうになる。


「大丈夫。お兄ちゃんがちょっと知り合いの伝手でミュラにも才能が与えられるようにしてきたんだ」


 ミュラの頭をポンポンしながら運が良かったとアレンは言う。


「え? お前何を言ってんだ?」


 さっきからずっとロダンは同じことを言ってしまう。


「え? ほんとう?」


 皆の視線がアレンとミュラに集中する。


「本当だよ。ちなみにどんな才能がいい? おすすめは僧侶だけど」


 ロダンがさらに突っ込もうとするがミュラとの会話を進める。


(これって後で才能のキャンセル効くんだっけ?)


 そう念じながら、ミュラの膝の上の精霊神を見る。

 すると心の読める精霊神が首を横に振る。できないと言うことだろう。


「ん~、なんでそうりょがいいの?」


(やっぱりこの世界でも女の子の方が成長が早いのかな)


 受け答えがマッシュの同じ年頃よりはっきりしているなとミュラと会話をしながら思う。


「父さん、母さん、マッシュが怪我をしたら治してあげられるからだよ」


「わあ、じゃあ、わたしそうりょになる!!」


 かなり誘導しているが、アレンの希望通りミュラは僧侶の才能を選ぶようだ。


「じゃあ精霊神様、ミュラが僧侶になりたいと言うことなのでお願いします」


『うん、そんな感じでいいのって。まあ、子供だしね。はは』


 そう言うと精霊神は中空に浮き始める。

 ゲルダが口をぽかんとして何が始まるんだろうと見ている。

 モモンガの姿をした精霊神が腰を振りながら、ミュラを見つめる。

 ミュラも何か知らないがすごく楽しそうにしていて、宙に浮く精霊神を掴もうとしている。


 そして、ミュラの体に光る雫のような物が降り注ぐ。


「「「な!?」」」


 アレンの仲間と違って状況の分からない家族たちが、驚きの声を上げる。


「お、おい大丈夫なのか?」


 ミュラを包んだ光りが消える中、心配そうにミュラの頬をロダンが摩る。


『これで僧侶になったよ。はは』


「ありがとうございます。精霊神様、またミュラのレベルがカンストしたときはよろしくお願いしますね」


『まあ、そう言ってくると思ったよ。はは』


 ミュラは無事に1つ星の才能の僧侶になった。しかし、今回アレンの仲間たちは星4つまで才能を上げる約束をしている。アレンの代わりに報酬を受け取ったミュラに対しても、当然その権利はあると思っている。


 精霊神もアレンの心を読んでいるはずだが、ミュラの才能の星の数を増やせないとは言わないようだ。


「なんだか、村の外ってすごいことになってんだな」


 ロダンが目の前の超常現象に驚いている。


「そうなんだよ。一応才能があるってことはグランヴェル子爵に伝えてあるので、そろそろやってくる鑑定の儀でもう一度ミュラの鑑定させることになると思う」


「そ、そうなのか」


 ロダンはもう理解が追い付いていないようだが、アレンの言うとおりに対応してくれそうだ。


 4月になり、5歳になると王族を含めて全ての人々が鑑定を受けて才能を知ることになる。ミュラは既に才能がないことになっているが、もう一度鑑定させ前回の鑑定は手違いであったことにする予定だ。


 グランヴェル子爵には、ローゼンヘイムで起きたことはほぼほぼ伝えてある。

 ミュラの件もうまくやっておくと言ってくれた。いつも世話になってばかりだ。


(さて、これで家族に仲間の紹介と、ミュラに才能を与えることは終わったな。後はと)


 実家には家族に会うことが目的だった。そして仲間の紹介も妹のミュラに才能を与えることもできた。

 しかし、アレンには故郷に戻ってすることがあと1つあるのであった。

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