第224話 白竜退治①

「うしうし、これでミュラも才能を手に入れたし、あとやることは1つだな?」


「うん? 何かすることがあるのか?」


 ロダンがどういうことだと問う。


「いや、何でも俺の友人がせっかく男爵になれたのに、領内に白竜がいて困っているんだって。だから皆で男爵祝いをしようって話をしていたんだ」


「お、おい、それって」


「うん、父さん。明日、白竜退治に行くんだ」


 アレンは笑顔でそう答える。


「アレン、それは本当なの?」


 「白竜だと!?」と驚くロダンの横に座るテレシアも心配そうな表情を浮かべている。


「母さん、心配はいらないよ。そのために仲間がいるからね」


 そういうとアレンの仲間たち全員が頷いた。

 全員が問題ないと言う表情をしているのを見てアレンとクレナの両親が息を吞む。


 白竜とは、開拓村の人々にとって畏れの対象のような存在だ。

 ドゴラの父親も、無表情ながら心配そうにしているように見える。


 今回村に戻ってきたのは、久々の帰省と仲間の紹介のためもあったが、白竜退治も目的に入っている。


 王領となった旧カルネル領では、白竜を倒したらキールが当主になることが遠のくのではと考えていた。

 キールがきちんとした形でカルネル家の当主になったので、もう気兼ねの必要はない。

 男爵になる手続きも既に済んでいるので、国王が「白竜がいなくなったからやっぱり止めた」と言っても通用しない。

 もしそんなことを言ってきたら、白竜より怖いものを国王は見ることになるだろうとアレンは考えている。


 ただいま会はアレンたちの久々の帰省ということもあり夜遅くまで行われ、一晩が過ぎた。

 クレナとドゴラは近くに実家があるので、そっちで一晩を過ごし、その他の仲間たちはアレンの実家で一晩を過ごした。


「ん? 早いな」


 白竜退治は急いでやらなくてはいけない用事でもないので、朝起きてから実家に置いておく分の天の恵みを作っていると、アレンが寝泊まりした部屋にドゴラが入ってくる。


「ああ、別に実家でやることねえだろ」


「そうなのか」


(ちゃんと、ハミルトン家の騎士になったことを伝えたのかね)


 ローゼンヘイムの戦争の褒美で、ドゴラはハミルトン家の騎士になった。

 今回のローゼンヘイムでの戦争の戦果に対する褒美は王都に滞在している間に概ね決まった。


 国王への報告はほぼキールの戦果で埋め尽くされたが、当然キールだけが褒美を貰えるわけではない。


 クレナは名誉男爵に、ドゴラはハミルトン家の騎士に、そして、セシルはグランヴェル領の減税を褒美としてもらった。


 貴族となるのは名誉とつかない家を継げる男爵からだ。

 家名を持つことができるのも、家を継げる男爵からだ。

 星1つという認識であるドゴラが男爵になるのは、今回の戦果でも厳しいらしい。


 騎士がそこまで低い褒美かと言われたらそういうことはない。

 平民が騎士になるためには、基本的に学園を卒業し、戦場に行くことが必要だ。

 ドゴラは14歳にして、1回の戦争で騎士となった。


 ドゴラをどこの騎士にするかという話になったが、口利きができる中で一番爵位の高いハミルトン伯爵家で受け入れることになった。


 騎士にも格がある。

 最も格が高いのは国王を守る近衛騎士団の騎士だ。

 そして、最も格が低いのは男爵などの下級貴族に仕える騎士だ。


 お互い仲間である、セシルのいるグランヴェル子爵家や、これから家を建て直すキールのいるカルネル男爵家よりいいのではという配慮を、グランヴェル子爵がしてくれた。


 なお、アレンは今回の戦争におけるラターシュ王国からの一切のお礼を辞退している。

 身に余るお礼をローゼンヘイムから既に貰っているという説明だ。


(金槌は渡せたのかな)


 食料やお酒はアレンたちでお金を出し合ったが、ドゴラは武器屋をしている父親のために、王都で鍛冶用の槌とお土産を無言で買っていた。


「あら、揃ったわね」


 今日の最後はセシルだった。

 全員揃ったので朝食を済ませて、開拓村を後にする。

 最後まで不安そうにしているテレシアの顔を見ると黙って行った方が良かったのかもしれないと思う。


「気を付けていくんだぞ」


「うん、父さん。お土産に白竜の肉を持って帰るよ」


「……」


 なんと答えたらいいか分からず、ロダンが沈黙してしまう。

 そのまま、鳥Bの召喚獣に跨り、アレンたちは白竜山脈に向かう。


 白竜山脈がだんだん大きく見えてくる中、アレンはホルダーを確認する。


(そろそろ、カードの編成を調整するか。仲間たちもレベル45だし)


 アレンが今、最も力を入れていることは、スキルレベルを8に上げることだ。

 レベルが76になったこともあり、優先順位をレベルからスキルレベルに変更した。

 ホルダーにあるカードは魔力が上昇する霊Bの召喚獣で埋め尽くされている。


 魔力回復リングは1秒につき最大魔力の1パーセントの魔力を回復させるので、最大魔力が大きければ大きいほどスキル経験を稼ぐことができる。


 Bランクの魔石が大量にあるので、この辺りは気兼ねなく召喚獣の編成を変更できる。


(結構殲滅したがもう少しかな。あ、カルネル領の殲滅も白竜退治後にやるか)


 アレンは開拓村に到着早々に、数十体の霊Bの召喚獣に開拓村周辺のゴブリン村とオーク村の殲滅を指示した。

 従僕をしていたころにほぼほぼ殲滅したが、何年も経っているのでまたゴブリン村とオーク村ができ始めている。

 村人にとって危険な存在でもあるし、グレイトボアを食べる害獣でもある。

 存在させている理由はないので、殲滅が基本だ。

 昨晩から、霊Bの召喚獣が休まず広範囲に移動し殲滅している。

 もし、ゴブリン村とオーク村の中で生存した人を発見した場合、救助を最優先にするように伝えてある。そのための天の恵みもいくつか持たせてある。


 白竜退治後のことも考えつつ飛んでいると、久々に白竜山脈の山頂とすそ野が全容を現してくる。

 そのまま山頂を通り越して、白竜のいる場所に向かう。


 白竜のいる場所は、鳥Eの千里眼で既に捕捉済みだ。


(逃げも隠れも攻撃もしてこないと)


 鳥Eの召喚獣は白竜の上空数百メートルで待機させている。

 その鳥Eの召喚獣を、頭を上げ静かに見つめる白き巨大な竜。


 高い白竜山脈の頂上を超え、アレンたちは白竜が白竜山脈の頂を背にするように回り込む。

 戦闘が始まった時、白竜が逃げまわって、カルネル領側の村や街を襲わないようにするためだ。


 白竜が警戒すべき強敵なのは、鳥Eの召喚獣が初めて全体像を捉えた時から分かった。


(でかくね? なんだ? ダンジョンや戦争でもドラゴンと戦ったが、倍くらいの大きさがあるんだが。天然のドラゴンはこんなものなのか?)


 白い鱗で覆われたその肌は、肉厚な筋肉が鱗の下にあることがはっきりと分かる。

 飛べるのか疑問に思うほどの重量感で、体のサイズに比べて翼が小さく感じる。

 真っ白な肌に対照的な真っ赤な瞳で、鳥Eの召喚獣を捉え続けている。


 何故か明らかに巨大なドラゴンを見て、天然と養殖の魚をイメージする。

 もしかして、ダンジョンマスターに作られたドラゴンは規格が統一されていて同じ大きさになるのか。

 魔王軍として集められたか、魔王軍のいる大陸で増やした魔獣は個体差がなく統一されている。


 白竜山脈に何百年か知らないが君臨し続けている白竜は成長を続けているのかもしれない。


 そんな考察は関係なく「白竜」という種類のドラゴンはこれくらいの大きさというだけの可能性もある。


『おかしなのが来たな。なんだ、お前らは?』


「「「……」」」

 

 とうとう肉眼で見ることができるところまで近づいたアレンが白竜の考察を続けていると、白竜が話しかけてきた。

 象くらいの大きさのある鳥Bの召喚獣たちに跨ったアレンたちが、とても不思議な存在に白竜には見えたようだ。


「話しかけてきたわね」


『ドラゴンが話しかけるのがそんなに不思議か?』


「!?」


 今日もアレンと2人乗りをしているセシルがアレンに話しかけたのだが、白竜が声を拾う。とても白竜まで声が届く距離ではなかったのだが、普通に聞こえたようだ。


(目も耳もとんでもなく良いと。五感全てが優れているとみておいた方がいいな)


 五感は人間の比ではないようだ。


「じゃあ、名乗ったらどうだ?」


「え? 私?」


「グランヴェル家の当主の娘だし。それでいうとキールもだな」


 誰かと問われたので、アレンはとりあえず、セシルとキールから名乗らせることにする。

 キールに一緒に名乗るように伝える。


「私はセシル=グランヴェルよ。あなたを討伐にきたわ」


「俺はキール=フォン=カルネル。俺の領を荒らしやがって」


 白竜山脈を跨いで100年以上に渡っていがみ合ってきたグランヴェル家とカルネル家が、白竜の前で並び立つ。


『ん? グランヴェルとカルネルが手を取ったか。そうか! 来ないと思っていたが、ようやく我を討伐に来たか!! 待っていたぞ!! グルァアアアアアア!!!』


 何百年もこの地にいる白竜は人間世界についてもある程度の知識があるようだ。


 そして、セシルとキールが名乗ったのが攻撃の合図であった。大きく叫びながら白竜が地響きを鳴らして、アレンたちに迫ってくるのであった。

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