第716話 神種ペクタンに会いに

 アレンたちは精霊の園へ向かった。


(やっぱり意味深な感じでクエストが終わったからな。また来ることになったな)


 広大な神界を移動するには、ララッパ団長の改良した魔導船でも時間を要する。

 魔石も鬼のように消費するため、召喚獣の枠に制約がある中、アレンは召喚枠を1つ消費し、鳥Aの召喚獣の「巣」を設置していた。


 目の前には大きな山が見える。

 ここは精霊の園の中心にある大精霊神を祀る御山だ。

 自然豊かで巨大な湖を有する精霊の園には、巨大な山があり、中は空洞で大精霊神がいた。

 しかし、山の形の上部が半分も削られているのは、アレンたちが試練の中で破壊したからだ。


(相変わらず原獣の園と違って随分豊かな自然だな。さて、神種ペクタンとやらはどこにいるのか)


 草S候補の神種ペクタンを回収にやってきた。

 神々に会ってあれこれイベントが発生しないよう手短に済ませたいとアレンは思う。

 これからセシルのレベルとスキル上げを手伝わないといけない。


「ファーブルは上かな!」


 アレンと違い久々に会えるとあってルークは目を輝かせている。


「このまま周辺を探しても意味がないな。大精霊神様への挨拶が良いのではないのか?」


 フォルマールがそう言って指を差す先には巨大な門があり、その横には2体の精霊王が控えていた。

 狐の姿をした火の精霊王コンズと、狸の姿をした土の精霊王ポンズが、大精霊神の御山を守っているようだ。


「お、おう。俺、ここで待っていようか?」


 大精霊神と話したいことがあれば、ゆっくりと話をするが良い。


「何、馬鹿なこと言ってんの!」


「ぐは!? レベル1なのにどうして!!」


 セシルから久しぶりのアイアンクローを食らう。

 レベルも自らの耐久力も無視した痛みがアレンに襲い掛かる。


 渋々了承して門を見ると2体の精霊王が微動だにせずアレンを見つめ返す。


(なんかめっちゃ見られているね。というか睨んでるね。何も悪いことしていないんだけど)


 精霊の園での試練が終わった後、逃げるように、この場を後にして一度も戻ってきていない。

 

「アレン様」


 最後の逃げ場であるソフィーまでも背後から声を掛けられ、アレンは覚悟を決め門へと近づいて行く。


『何をしに来たポンね』


「第一天使ルプト様より神種が芽吹いたので、大精霊神様に会うよう申し付けられました。急に来て申し訳ありませんが、御山に足を踏み入れることをお許しください」


 全面的にルプトのせいでここに来たとアレンは言う。


『……大精霊神イースレイ様への謁見を許すコン。ただし、大精霊神様は人の心が読める。あまり見え透いたことは言わないコンね』


(あれ? 何か失礼なこと言ったかな)


 自覚がないアレンに2体の精霊王が背中を見せたかと思ったら、左右それぞれに分かれ巨大な扉を押していく。


「階段だな。門に来る前から気付いていたけど」


 前回は山の内部へと続く洞窟であったと記憶しているが、山の斜面に設けられた階段が頂上まで続いていた。


『……以前とんでもない人が来て、大空洞が破壊されたからポンね。だから大精霊神様は頂上にいらっしゃるポンよ』


「そうですか! それは失礼しました。では!!」


 これ以上何か言ったら何をされるか分からないので駆けるように上がっていく。


「はぁはぁ」


 精霊王たちの視界が越えた辺りでセシルの息が切れ始める。


「やはり、レベル1だとこの階段は厳しいようだ。時間がもったいないし飛んでいくぞ」


 アレンは振り向き、山の起伏によって大精霊たちが完全に隠れたことを知る。


「おい、それは流石に失礼ではないのか」


 態々設けられた階段を使わないのは失礼だとフォルマールは思ったようだ。


「大丈夫だ。階段すれすれを飛べばバレはしまい。セシルは背中に。クワトロは全員を飛ばしてくれ」


『分かりましたわ』


「ちょっと!!」


 セシルの抗議を無視して背中に担ぐと、諦めたのか手を首に回してくれる。

 全長30メートルあるクワトロを特技「幼雛化」でアレンの肩に乗せられるサイズまで縮小させ、特技「浮遊羽」で仲間たち全員を宙に浮かし一気に頂上を目指す。


 ザアアアアアッ

 ゴガガガガガッ


「『命の雫』が凄い勢いで流れているわね」


 セシルがホッとしながら、階段を自らの足で登らないことを誤魔化すように気付いたことを口にする。


 この煌めく水は「命の雫」と呼ばれ、神界と人間界の生命や魂が雫となり、循環となって世界を巡った形だ。

 人の魂は死後、神界へと向かうらしい。

 神界から今後は恵みとして人間界へと魂は帰っていく。

 神界では大精霊神の御山に集まった「命の雫」が山の麓にある「生命の泉」に集まり、そこから人間界に零れるように落ちていく。


 命の雫が落ちた人間界の先には世界樹があり、世界樹は命の循環によって実をつけ精霊をはぐくみ、大樹自らも人間界全体に恵みをもたらしている。


 過去のエルフとダークエルフの争いと精霊王エリーゼの思いから、神界に「生命の泉」は2つあり、人間界に世界樹も2本ある。

 ダークエルフ側に生えた世界樹はエルフ側に比べて十分成長しておらず半分ほどしかない。


 階段の左右を挟むように頂上から止めどなく、「命の雫」が零れ落ちている。

 アレンたちが御山を半壊して、「命の雫」の流れに問題がでないかセシルは心配だったようだ。


(なんか、凄い勢いで流れてきてるな。これなら泉の水位は十分維持できるだろう)


 アレンは前回来た時より倍ほどの、まるで土石流のような水量に、ホッとするところがある。

 ダークエルフ側の里にも恵みをもたらすため、生命の泉は2つ存在し、「命の雫」の量が足りない問題があった。

 この水量ならきっと2つの泉は十分な水量を維持できるだろう。


 アレンたちはあっという間に頂上に達し、頑張って登りましたよ感を出すために、すぐに着地した。


「床石のように真っすぐですわね」


 ソフィーがまるで整形したような頂上の足元を見る。


「土の精霊の力だろうな」


 巨大な山の中腹が半壊し、頂上となっており、生命の泉が凄い勢いで溢れている。

 足元の石張りの地面が頂上を覆っている。

 ぼぼ1枚岩で数キロメートルもありそうな床石に人ならざる精霊の力を感じる。


 なお、足元を完全に覆っているわけではなく、ところどころ裂け目があり、「命の雫」が床石にぶつかり、水しぶきがザパンザパンと跳ね上がっている。

 

「頂上の水量はもっとすごいようだな。この雫に触れると肉体が溶けるからな。フォルマールは気をつけろよ」


「おい、何で私にだけ言う」


 生命の泉の源泉は頂上にあり、この雫は命の循環の源なのだが、人族が触れてしまえば、肉体は溶け、形は残らないらしい。

 エルフ、ダークエルフは世界樹を守り、生命の循環を維持する役目がある分、命の雫に対する抵抗力がある。


 だが、仲間のために「真実の鏡」を手に入れるために源泉に飛び込んだフォルマールは骨も残さず、一度溶けてしまっている。

 そのフォルマールだが魂の状態でエルフたちの壮絶な歴史を知り、精霊王エリーゼに会い、大精霊神イースレイとの交渉の結果、エクストラモード、神技、神器などの力を得て、強力な仲間となった。


(覚悟は人を成長させるか。さて、静かに見つめているのが怖いんだけど)


「お! ファーブルだ!! 久しぶりだな!!」


 御山頂上の床石の中央には大きな座椅子のような祭壇が設けられる。

 仰々しい席に付くのは、上位神にして、精霊の園を守り、人間界と神界の精霊を支配し、世界樹を管理する精霊神イースレイが横になり、こちら側に頭を向けている。


 大空洞の時にあったように、床石を大中小と3段ほどの段差が設けられた祭壇には、1体の老齢な白銀のカモシカの姿をした大精霊神イースレイが横たわっていた。

 数十メートルの巨躯であり、頭の先まで立ち上がると100メートルに達しそうだ。


 大精霊神の仰々しい祭壇の横には、気持ちほどの小さな座布団が左右に2つ置かれ、その上で精霊神ローゼンとファーブルが同じく体を起こし、こちらに顔を向けていた。


『ルークは相変わらずね。イースレイ様にちゃんと挨拶できる?』


 漆黒のイタチは優しい目つきで語り掛けてくる。


「お? 子供扱いするなよ! 任せとけ!!」


 見た目8歳で褐色少年の姿のルークはアレンたちと共にイースレイの席の近くまで近づいてゆっくりと腰を下ろした。

 成長の遅いハイダークエルフのため、既に17歳なのだが、見た目も言動も、まだまだ小学校低学年だ。


 横一列に並ぶ中、ソフィーも他の仲間と同様にローゼンに語りかけたい気持ちを我慢してリーダーであるアレンに最初の発言を任せる。


「お久しぶりでございます。第一天使ルプト様の命により、神種が芽吹いたと聞いて、再び大精霊神イースレイ様の前に伺いました」


 ルプトのせいでここに来たことを前面に出し、伏して、非礼なきように挨拶する。


『相変らず物は言いようですね。ルプトからはそろそろこちらに顔を見せる旨、聞いていましたが……。とんでもないことをしてくれましたが、これを落ち着かせるのも私の仕事でしょうか』


 祭壇の上から声が優しさの中に問い詰めるような厳しさを含めた口調で語り掛けてくる。


「と言いますと?」


 神種をアレンの草Sの召喚獣にしようとこの場にやってきた。

 精霊獣神を倒した時、口から吐きだすように出てきたのが神種だ。

 アレンとしては倒した際に手にしたドロップアイテムのような感覚なのだが、貴重な草Sの召喚獣候補だ。


 まるで、愚痴を零すような発言にアレンは話を合わせ、新たな召喚獣を手にするまで、話を合わせることにする。


『この音を聞いてください』


 ドドドドッ


 ナイアガラの滝の側にいるような大瀑布の側にいるような音が聞こえる。

 

「これがどうしたと言うのでしょうか? 小さな人に過ぎない私には見当もつきかねますが……」

 

 分からないことは分からないと言える人間だ。


『なるほど、そうでしょう。大それたことをしたというのに、その自覚がないと……』


「申し訳ございません。してどのようなことでしょうか」


『あなたが霊獣ネスティラドを狩った結果、世界の理が変わろうとしているのです』


 大精霊神がアレンに諭すように告げるのであった。




あとがき

―――――――――――――――――――――――――――――――――、

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