第717話 世界樹3本分

 アレンは理が変わるなどと言うあまりに壮大な表現に意味が分からないでいる。


『……問うのはここまでにしましょうか』


 挨拶早々に語り出した大精霊神の言葉に意識を向け、傾聴することにする。


『元第一天使メルス様より、霊獣とは神界と人間界を繋ぐ大きな命の循環から外れた者たちが具現化し、神界を徘徊する者という認識は教わったはずです』


 上位神である大精霊神であっても創造神エルメアに仕えた第一天使メルスへの敬意を忘れることはない。


「はい。倒せば、命の循環の循環に帰ると。それがこの結果だというのでしょうか?」


『その通りです。少し前より、水量が激しさを増していたのですが、このようなことは初めてです。生命の泉が決壊しなければ良いのですが……』


 精霊の園に来た時、水位が半分ほどになったのは、ダークエルフの里に世界樹を生やすため、命の雫を多く人間界に提供しなければいけなかったからだ。


 そこまで聞いたところで、この滝の側のような轟音の正体が分かった。

 霊石を集めるために竜人と獣人の協力を得て、多くの霊獣を狩り、上位神でも撃退できないほどの力のあるネスティラドまで倒してみせた。


 水位が半分になっていた生命の泉の話はなんだったのか。

 このことは神界を騒然とするほどの結果となったようだ。


(剣神や時空神も驚いていたからな。こういうことか。っていうか、獣神の園を先に攻略して霊獣狩りに気付いたら、精霊の園のクエストは発生しなかったっぽいな)


 ゲーム脳で大精霊神の話を理解する。


「ただの人族に過ぎない自らの行動が、生命の循環の役に立てたことに感謝の言葉もありません。ですが、私1人では何もできませんでした。仲間と共に協力して行った結果です」


 なんか責められているような気がするので、自らを矮小化しつつ実績を誇張し、全力で責任を回避する。

 ついでに協力してくれた仲間も売りに出す。


「ちょっと! アレン。私、霊獣もネスティラドも狩ってないわよ!」


 セシルが思わず弁明する。


「全ては仲間であるセシルのクエストの達成のため」


(自らの霊力回復リングを得るためにも霊獣を大量に狩ってもらったけど。それは小さき事……)


 どうも命の雫の水量が多くなったのは原獣の園で霊獣を狩りだしてから激しさを増し始めたようだ。


「ぐぬぬ!! こ、これが終わったら覚えていなさいね!!」


『はは! アレンらしいよ』


 ワチャワチャし出したので、祭壇の前に座るローゼンが思わず吹き出してしまった。


『……ローゼンさん。ふざけてはいけませんよ』


『!?』


 精霊神は大精霊神の圧を受けてカチカチに硬直する。


「お? じゃあ、ダークエルフの里を世界樹はエルフの国みたいにでっかくできんのか?」


 ルークは、ローゼンヘイムの首都フォルテニアで行われたペロムスの結婚式の際、世界樹の本当の大きさを知った。


『ダークエルフを導く者よ。今の現状を踏まえると、最大に成長させた世界樹が5本は生やすことができます』


『5本……』


 1本の大樹の側で過ごしてきたソフィーが、あまりにも壮大な話に大精霊神の言葉に絶句する。

 なんとなくであるが、事の重大さに仲間たちも気付いてきたようだ。


 本来であれば世界樹の巨木1本で人間界の恵みを満たしている。


『枢機卿を通じて急ぎ、ダークエルフの里はこれから巨木へと姿を変えるでしょうと、オルバースに神託は行くでしょう。今は泉の側にため池をいくつか作ることと、地上の水量をそれぞれ2本の世界樹について増やすしかできません。これからどうしようか頭を抱える限りです』


 霊獣ネスティラドを狩った結果、起こりうる水量の上昇はこんなものではないと言う。


「お! 俺の里の世界樹もでっかくなんのかよ!!」


 ルークは大声ではしゃぎ喜んでいるようだ。

 だが、ここまで遠回しに攻められ、ある怒りがアレンの中で湧き上がってくる。


「ですがこれも、よどみなき生命の循環が本来のあるべき姿。お騒がせしましたが、私自身は今回の戦いによってレベルが上がらず、対価を感じられない事が正直なところです」


 はっきりと責められ損だとアレンは正直な思いを口に出す。

 魔法神の依頼を正当な流れで受け、自らの報酬もなく、文字通り命がけの戦いを行った結果、随分な言われようだ。

 しかも、生命の泉が潤うのは管理がどうも大変なようだが、それは大精霊神と精霊たちの務めのはずだ。

 なお、神Sの召喚獣の契約ができたことはアレンの中の報酬から除外されている。


『……レベルですか?』


 かつてないほどのアレンの怒りに、大精霊神は興味を示した。


「はい。1も上がりませんでした」


『創造神様は試練を望んでいなかった。いや、流石にそれはないでしょう。どれ……あなたに蓄積された、たゆまぬ試練の成果を見てみましょうか……。ぶ!? レベル250!? アレンさん、其方は本当に人間ですか? 人の理でこのようなレベルなど……』


 あまりの衝撃に巨躯の体を祭壇から思わず転げ落ちそうになる。


「いや、そんなに驚かなくても……」


『……ふむ』


 体勢を立て直した大精霊神は、一つ言葉を零すと大精霊神は静かにアレンを見つめる。

 その時が悠久に思えるほどながく、どうやらその態度に、言葉を選んでいることが分かる。

 

「あの?」


『……私は、古代神とも新世界の神々とも良好な関係を築いています。生命の循環という役目からしたら、いつ誕生した神がどうかとか関係ないからです』


「はい」


『ですので、私の言葉がどの神にとって不都合になることも臨むことではありません』


「はあ……」


『アレンさん。あなたの中には膨大な経験が蓄積されています。そして、霊獣ネスティラドを倒した際に得られたものもその中に含まれています』


「おお!! それほどですか?」


(あれ? ログにはレベルアップはもちろんのこと、経験値の数値的なのも表示されなかったけど?)


『はい。世界樹3本分の経験値に相当する量ですね。このような経験値を持つ者を私は初めて見ました』


「世界樹……」


「……3本分ってなんだよ」


 ソフィーとルークが一緒になって大精霊神の言葉が理解できないでいる。


(大精霊神は何でも世界樹で例えがちだな。東京ドーム何杯分のノリかよ。だけど、俺が思っている「経験値」って、ただの敵を倒したときに得られる数値じゃないのか。なんかこの世界の真理。いや神の理に近づいたような……)


 前世の記憶でもありがちな例え方は、大精霊神にとって世界樹のようだ。

 生命の泉に注がれる以上の「経験」がアレンの中にはあった。

 だが、経験値、命の雫、世界樹の3つが、大精霊神が例えたことによって1つの大きな世界の流れに関連付けられる。


『他言は無用ですよ。報酬を貰えなかったというお話なのでせめてもの助言です。アレンさんの今後の決断の一助になればと思います』


「はぁ、貴重は話ありがとうございます。それはレベルアップしなかったこととは関係ないということでしょうか」


『関係は私には分かりかねると言いたいのです。ただこれも創造神様の1つの試練かもしれません。どんな理由があれど、今は貴方の魂に内包されていて現れていない。これ以上のことは分かりかねます』


 大精霊神の言葉は随分遠回しな言い方であったが、アレンは理解できた。


(今の理由だとレベルが上がってしかるべきみたいな言い方だな。神々の中のごたごたに巻き込まれてレベルが上がらなかったかもしれない。レベルアップが上限に達したとか大地の迷宮でもログに流れたし。俺には成長限界がないんじゃないのか。それともレベルアップには何らかのクエストが発生している可能性は捨てきらないと)


 セシルの試練が達成し、アレンには神Sの5つに分かれた肉体を探すという次の目標もできた。

 それとは別に、膨大な量の経験値が蓄積されているが、レベルが上がらない条件を解決するクエストが発生したような気がする。


 アレンは前世で山田健一だったころ、たしかに、レベルには上限があり、クエストを達成しないと、開放されなかったことを思い出す。


 どこから手を付けたものかと思案しようとしたが、耳に響く音によって打ち消された。


 ポチャン


『プルップ~!!』


 大精霊神との対話をかき消すように、足場の隙間から命の雫が吹き上がる中、何かが大きな音を立てて跳ねた。

 鳴き声に似たなにかにアレンたちは視線を向けるが、ちょうど水中にもぐる瞬間だったようで、姿をはっきりとみることはできなかった。


「精霊獣か!」


「ソフィー様!」


 命の雫の源泉の中に何かが動いた。

 精霊獣と精霊の園で戦ったフォルマールはソフィーの身を案じて身を乗り出して盾になろうとする。


 精霊獣とは命の雫を大量に浴びて姿がモササウルスや首長竜など容態が変貌した存在だ。

 精霊獣や精霊獣神とはアレンたちも何度も戦ってきた。


 登頂を覆う足場の隙間はいくつもあり、そのうちの1つの水面が大きく隆起する。

 まさに今、何かが煌めく濁流の中から姿を現そうとしている。


「セシルは俺たちの中に入って」


「え、ええ……」


「フォルマールも陣形を」


「は!」


 レベル1のセシルを守るため、アレン、ソフィー、フォルマール、ルークが陣を組み囲う。


 ドパンッ


 仲間たちの緊張感が増す中、とうとう何かが水中から飛び出てきた。


 大きく飛び上がり、上空に上がったかと思ったらペタンと床石に着地し、体を振るい命の雫を振り払う。


「キノコだな?」


「え、ええ。キノコですわね。手足があるようですが……」


 50センチメートルほどのまあまあの大きさのキノコに手足が生えており、ハク乳色の柄の部分に顔があり、パチクリとした目でアレンたちを見ている。

 ベニテング茸のように、キノコのカサの部分は真っ赤でところどころ真っ白な水玉模様の斑点がある。


(なんか手に入れたらレベルアップしたり、巨大化しそうだな)


 アレンは前世で何故か毎度攫われる姫様を助けるため、フィールドを駆け抜ける髭面で青いオーバーオールを着た何かと一緒にでてきたキノコのようだ。

 こちらを見つめるつぶらな記憶が前世の記憶を呼び戻す。


『プルップー!』


 1つ口を大きく開けて鳴いたかと思うと、もう一度ザブンと源泉の激流に入ったり、別の足場の隙間から顔を表したりしている。


『この子は神種ペクタンです。世界樹の種から芽を出し、精霊神の神力と命の雫によってここまで成長することができました』


「お? こいつがペクタンか。何か、思った感じと違うな。草Sの召喚獣候補なのに、菌糸なのに草って……。世界樹の幼樹?」


 会話の流れを切るかのように神種ペクタンがアレンたちの前に現れたのであった。




あとがき

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