第715話 セシルのエクストラモード

 アレンたちの目の前に、ローブの足元がボロボロになった魔法神イシリスが、鋭い爪をこちらに向け襲い掛かってくる。


(え? 殺気がすごいんだけど!?)


 四足歩行で走る魔法神イシリスは、まるで獲物を狙い定め跳躍した猛獣のようだ。

 狙い定められたのは、アレンでもセシルでもない。

 時空神が持つ霊獣ネスティラドの心臓だとすぐに理解する。


「すみません。速やかに心臓を! イシリス様を落ち着かせてください!!」


『へ!? わ、分かりました!! ほ、ほれ! イシリス! 霊獣ネスティラドの心臓ですよ!!』


『バウ!!』


 放物線状に心臓を時空神が放り投げると、神殿のように天井の高い研究室を高々と舞い上がる。

 大腿部に力を込めた魔法神が一気に高々と跳ね上がり、爪の伸びた両手で鷲掴みする。

 一回転、クルリと回転し、両足で着地すると目を輝かせ、鼓動する心臓に頬を力強く押し当てる。

 何事かと視線が集まる中、一時鼓動を聞いていた魔法神が目をクワッと見開いた。


『バクバクいってる!!』


『そうですね! バクバクですね!!』


 小躍りするように両手で握りしめた魔法神を、夫である時空神が背後から抱え上げ、一緒になって喜びを分かち合っているようだ。


「夫婦とはこういうものか……」


「アレン、たぶん違うわよ」


 アレンの感想に、久々に会ったセシルがきっちりと否定してくれる。

 

 結局、逆海老ぞりになった状態で心臓を持ち上げた魔法神の腹を、時空神は両手で天高く掲げる。

 近代的アートのようなメッセージ性を解読するのが難しい状況に、アレンたちは何を見せられているのか分からない。


「おほん、厳しい試練を達成してきました。それで、報酬を頂いても……」


 喜ばしいことなのだろうが、アレンは報酬の話を進めることにする。


『う?』


 顔だけこちらを向けた魔法神がアレンの言葉を理解しようと首を傾げた。


『イシリス。セシルさんをエクストラモードにしていただけますか?』


 時空神が何の話だと困惑する魔法神に対してフォローを入れる。


 魔法神が欲しい物を持ってきたらセシルに必要な力を得るという試練だった。

 この4つの素材は何でも、古代魔法の研究に必要なようだ。


 古代魔法とは今の理や原理原則によって発動する魔法とは違う、古代の神々が用いたと言われる魔法だ。

 4つ全ての欲しい物を手にしたら、研究成果である古代魔法を提供してほしいという交渉をアレンは勝ち取っている。


【魔法神の欲しい物リスト】

・エクストラモード:霊獣ネスティラドの心臓

・神技:竜神マグラの角

・加護:日と月のカケラ

・神器:獣神ガルムの尾


【魔法神の欲しい物リスト4つ集めた特別報酬】

・古代の魔法


 アレンたちは神界にある大地の迷宮で竜神マグラの角を、原獣の園の2つの朽ちた神殿で日のカケラと月のカケラを手にした。

 十英獣で獣王相談役のテミの占いの力は特に大きい。

 シアの苦闘による厳しい試練によって獣神ガルムの尾を手に入れてくれた。


 そして、今渡した「霊獣ネスティラドの心臓」によって、セシルのエクストラモードと研究結果で利用できるとララッパ団長が教えられた古代魔法を手にすることができる。


『こっちに……』


 魔法神はすぐにでも研究を始めたいのにと言わんばかりに、セシルを呼ぶ。

 ララッパ団長によって通路は素材や資料で埋め尽くされておらず、良く整理されている。


 目の前に椅子があり、足元には魔法陣が描かれている。

 どうやら、この魔法陣に置かれた椅子に座れば、セシルはエクストラモードになれるようだ。


「あの、申し訳ありません。魔法神イシリス様、よろしければセシルのエクストラモードはステータス半分引継ぎのレベル1でお願いします」


『注文が多い……。もう準備は終わっていたのに』


 催促したものの、魔法神は既にセシルのエクストラモードにする準備は整っている。

 だが、アレンの言う条件とは違うようだ。


「ちょっと、アレン。魔法神様が嫌がっているわよ」


 機嫌を悪くして報酬が出なくては困るとセシルが不安になる。


(いやいやセシルはエクストラモードにならずに星5つまで転職を進めてしまったから、他の仲間よりもステータスが低いからな。これはマストだろ。レベル上げのためにソフィーたちも連れてきたし)


『まあ、いいじゃないですか。たしかに人間界にいる人々にとって力は必要なようです。自らの神域に招き入れた開放者は力があった方が良いですし。イシリス、私も手伝いますよ』


 状況を読んでくれてか、時空神は魔法陣をアレンの要望通り修正していく。


『できましたよ。セシルさん、こちらへ』


 ほとんど夫の時空神にやらせた修正作業が終わったことを魔法神が告げる。


「ここに座ったら良いのですか?」


『そう。じゃあ、始まる。むむむむ~ぱっぱらっぱぱ~!! デスペラード!!』


『はいはい。私もですね。ぱっぱらっぱぱ~!!』


 ふざけたような掛け声と共に魔法陣を小躍りしながら回り始めた。

 両手を掲げたり、蟹股で跳ねたりと、あまりにもふざけた行動にアレンたちの目が点になる。

 様子を満足げに見つめていたのだが魔法神に催促されて、時空神も座るセシルを挟んで反対側から一緒に回転しながら踊り始めた。


(大地の神が剣をくれた時もそうだが、神の美的センスは人と違うのか……)


「もう、なんなのよ……」


 セシルが率直に感じた思ったのは「何やら馬鹿にされている」「騙されている」といったところだろう。

 何か言った方が良いのかと、ツッコミマスターの血が騒ぐセシルは、椅子のひじ掛けをそれぞれ握りしめ立ち上がろうとする。


「あらまあ、魔法陣が光り始めましたわ!」


「本当だ。セシルが陽炎のように揺れているぞ!!」


 傍観していたソフィーとルークが明らかなセシルの周りの変化に気付いた。

 セシルの肉体が身を纏う防具ごと陽炎のように揺れ始める。


「本当! エクストラスキルみたい!」


『お静かに。セシルさんを開放者にするため、イシリスが神力を込めています。その結果、魂が揺らいでいるのです。ここはイシリスの神域の中心、まもなく、体の変化は落ち着くはずです』


 よく分からない踊りをしている時空神が困惑するセシルのために状況を解説してくれる。


(エクストラモードはノーマルモードだった者を神域に迎え入れることを意味するからな。この古ぼけた椅子はイシリスの椅子か)


 全てを理解できるわけではないが、イシリスの行動と現状から状況を導き出していく。

 時空神の言うとおり、セシルの体ははっきりとし始める。


『報酬あげた。私、研究する』


「え? ありがとうございます」


 それだけ呟くと、魔法神はセシルの礼など聞く暇がないのか、鼓動するネスティラドの心臓を抱えた魔法神は研究室の奥へと引っ込んでしまった。


 【名 前】セシル=グランヴェル

 【年 齢】17

 【加護①】魔法神(加護特大)

 【加護②】時空神(加護大)

 【職 業】魔導帝

 【レベル】1

 【体 力】1502

 【魔 力】2174

 【霊 力】2174

 【攻撃力】1147

 【耐久力】1159

 【素早さ】2025

 【知 力】2214

 【幸 運】1815

 【加護①】全ステータス3万、クールタイム半減、魔法威力2倍

 【加護②】全ステータス1万、魔法発動速度1・5倍、魔法効果範囲1・5倍

 【神 技】魔力蓄積、知力強化、古代魔法(未完成)

 【スキル】魔導帝〈1〉、火〈1〉、小隕石〈1〉、神技発動、組手〈6〉

・装備一覧

 【武 器】神器「原魔の杖」 体力10000、魔力30000、知力30000、魔法攻撃ダメージ30パーセント

 【 鎧 】グリモワールローブ 耐久力20000、魔法耐性(極大)

 【指輪①】知力5000、知力5000

 【指輪②】知力5000、知力5000

 【腕輪①】攻撃魔法発動時間半減、クールタイム半減、魔力5000、知力5000

 【腕輪②】魔法攻撃ダメージ10パーセント、魔力回復1パーセント、魔力5000、知力5000

 【首 飾】知力3000

 【耳飾①】魔法攻撃ダメージ10パーセント、魔力2000、知力2000

 【耳飾②】魔法攻撃ダメージ7パーセント

 【腰 帯】闇属性、知力10000、魔力10000

 【足輪①】素早さ5000、転移、回避率20パーセント

 【足輪②】素早さ5000、転移、回避率20パーセント

※ノーマルモードで時空神の修行をしたため、スキルレベル7以上の魔法無し



「レベル1からになっちゃったわね。でも、クレナとかよりずいぶん低いわ」


 アレンが魔導書を見ていると、セシルが覗き込んで何だかガッカリしている。


「クレナはエクストラモードからのレベル1を繰り返してきたからな」


 クレナはエクストラモードで剣帝レベル99になった後も、竜騎士として、転職を重ね、天騎士だ。

 転職する前の半分のステータスが引き継がれるルールだと、ノーマルモードのレベル60上限を繰り返したセシルと90近くのレベルを何度も転職したクレナとではステータスに差が生まれて当然だ。


(ノーマルモードだからな。時空神の加護を貰っているが、神技、神器はまだってところか。加護は時と空間を操る時空神らしい奴を手にしたな)


 セシルは1ヶ月ほどの間に、ノーマルモードでありながらも1人で時空神の試練を受けていた。

 「神技」、「神器」、「加護」の内、「加護(大)」を獲得してくれていたようだ。


「なるほどね。それでどうするの? やっぱりS級ダンジョンに潜る形かしら?」


 どこの世界、いつの時代にもベストなレベル上げスポットはあるものだ。

 さっさとレベル99まで上げたいとセシルは言う。


「そうだけど、ルプトからペクタンとか言う神種が芽吹いたらしいからな。そっちに寄ってからにしよう」


「お! じゃあ、ファーブルに会えるのか!!」


 久々に精霊神となったファーブルに会えるとあって、ルークは嬉しそうだ。

 精霊の園での試練の後、精霊神となったローゼンとファーブルとは会えていない。


「その予定だ。よし、巣の設置は解除していないからな。精霊の園へ移動するぞ」


(魔法神の転移先もこれからセシルが試練受けるだろうし、ここもそのままにしておくか)


 どこにでも、無限に転移できるわけではないし、巣の設置場所を増やすとフォルダーを圧迫する。

 この辺りの調整もやり込み要素だとアレンは考える。


 アレンは魔法神の研究施設を後にしたのであった。



あとがき

―――――――――――――――――――――――――――――――――、

フォローと☆の評価、何卒よろしくお願いいたします。


ヘルモード書籍10巻発売ですヾ(*´∀`*)ノ

何卒、さらなる応援よろしくお願いしますm(_ _)m

購入特典情報⇒https://www.es-novel.jp/special/hellmode/


コミカライズ版ヘルモード最新話はこちらで読むことができます。

⇒https://www.comic-earthstar.jp/detail/hellmode/

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る