第63話 春休み②

 セシルの兄のミハイが春休みで帰ってきて、初めての狩猟番の日だ。3月に入り、ようやく魔獣たちも活動を始めた。肉を持って帰れる獲物が多くなる季節だ。


 ノルマのゴブリンを3時頃まで狩っていた。


 アレンは今、持って帰る魔獣の肉を探している。料理長に頼まれたビッグトードの足が、丈夫な棒にくくりつけられている。この棒を肩に担いで持って帰る。別の棒には角ウサギが5体宙吊りになっている。魔獣は棒に吊して持って帰るスタイルだ。


(角ウサギにビッグトードは捕まえたと。ホーク、あばれどりという地面を走る鳥がいる。なるべく近くにいるのを何体でもいいから探してきて)


 アレンは召喚獣にあばれどりという魔獣を探すように指示する。4体の鳥Eの召喚獣が空を舞う。最近6体から4体に鳥Eの召喚獣の数を減らした。


(お、もう見つけたか)


 1体の鳥Eの召喚獣があばれどりを見つけたようだ。すでに捕まえた魔獣を肩に担ぎ走り出す。


 1キロメートルも移動しないうちに1体のあばれどりが歩いているのが見えた。ムキムキの鶏のように見える。


(おりゃ!!)


 腕力に物を言わせて、あばれどりのこめかみ目掛けて鉄球を投げ込む。即死のようだ。抵抗をすることなく倒れる。レベルが上がり、Dランクの魔獣ならほとんど一撃で倒せるようになった。


(ふむ、そろそろ狩場をもっと奥にするかな)


 瞬殺したあばれどりの首を短剣で切って血抜きをする。


 狩場をもっと白竜山脈近くにすれば、Cランクの魔獣が多くいるらしい。狩場を変えたほうが、経験値効率がいいか検討をする。


(タマがあんまりやられるようなら魔石が勿体ないし、このあたりだとDランクの魔獣が中心なんだよな)


 肉のために狩る獲物は鉄球で倒している。しかし、ゴブリンなど肉が不要なものは獣Eの召喚獣に倒させている。50メートルの範囲内なら召喚可能で、鉄球以上に便利で効率的だ。


(とりあえず、強化のレベルだけでもあげるか。上がったらCランクの魔獣に挑戦すると)


 クレナ村にいる頃は狩りをする機会が少なかった。そのため、生成、合成、強化を均一に上げてきた。そのほうが、召喚レベルが早く上がり、貰える加護が向上するからだ。


 しかし、今はレベルアップによるステータス増加の恩恵が大きい。強化のスキルのレベル上げを優先させ、召喚獣の強化を図りたい。


 ゴブリンにも負けることがある獣Eの召喚獣だ。このままCランクのいる狩場に行ったら間違いなく今まで以上に負けて、Eランクの魔石を消費する。


 Cランクの魔獣は強化スキルを5にしてからと考えながら、あばれどりの様子を確認する。もう血は十分抜けたようだ。3本目の棒にくくりつけ、両肩に担ぎ、街へ走り出す。


 大量の魔獣を棒に引っ提げ門を抜ける。門番は、最初の頃は驚いていたが、最近何も言わなくなった。


 貴族街を進み、館を目指す。館の裏門はそこまで大きくないため、獲物が取れた時は表門から入る。


(ふう、これくらい捕まえたらいいだろう)


 セシルの指示で、今日は結構多めに魔獣を捕まえた。春休みで帰ってきたセシルの兄のミハイのために沢山捕まえてきてと言われた。セシルは兄が大好きだ。


 庭先にはアレン専用の魔獣置きの板がある。庭師の指示で魔獣はここに置かないといけない。


 キン キン


 魔獣を置いていると、庭先で剣戟の音が聞こえる。


 見るとミハイと騎士団長が試合を行なっている。グランヴェル男爵、男爵夫人、トマス、セシルもその様子を見学している。


 試合を見ると、クレナとずっとしてきた騎士ごっこを思い出す。料理長を呼ぶことも忘れて見入ってしまう。


(おお! ミハイさん中々の動きじゃないのか? そういえば騎士団長が剣を振っているの初めて見たな)


「ふむ、ここまでです。ミハイお坊ちゃま。中々の腕前でございますな」


「ありがとう、でもそろそろお坊ちゃまはやめてほしいな」


 ははは、その一言であたりに笑いが起こる。久々に帰ってきたミハイの成長を皆で確認しているようだ。


 試合も終わったので、料理長に魔獣を捕まえたことを報告しに行く。もう5時過ぎなので、今が一番忙しい時間だ。料理長からはもう少し早く帰ってきてほしいぞと毎度言われる。ゴブリン狩りのノルマがあるので、なるべく早く帰りますとだけ答えている。


「ん? アレン、戻ってきたの? すごいじゃない、たくさん捕まえてきたわね」


 なんか久々に褒められた気がするなとセシルを見る。ここにいる皆の視線がアレンに集まる。


「ただいま戻りました」


 視線に応え、軽くお辞儀をして館に戻ろうとする。


「すごいな、こんなに捕まえるなんて。アレン君もどうだい?」


(ん? 俺か?)


 ミハイがアレンとも試合をしようと言ってくる。どうしようか迷っていると、騎士団長が自らの剣を渡してくる。どうやら、試合をせよということなのだろう。


(おお! さすが騎士団長だ。ミスリルの剣だ、かっこいい。って、試合か。今のステータス狩りモードなんだけど、いいのかな?)


 ステータスを念のために確認する。


 【名 前】 アレン

 【年 齢】 8

 【職 業】 召喚士

 【レベル】 20

 【体 力】 412(515)+130

 【魔 力】 30(780)+200

 【攻撃力】 220(276)+130

 【耐久力】 220(276)+20

 【素早さ】 415(519)+60

 【知 力】 600(750)+40

 【幸 運】 415(519)+200

 【スキル】 召喚〈4〉、生成〈4〉、合成〈4〉、強化〈4〉、拡張〈3〉、収納、削除、剣術〈3〉、投石〈3〉

 【経験値】 126,470/200,000


・スキルレベル

 【召 喚】 4

 【生 成】 4

 【合 成】 4

 【強 化】 4

・スキル経験値

 【生 成】 94,730/1,000,000

 【合 成】 96,610/1,000,000

 【強 化】 310,560/1,000,000

・取得可能召喚獣

 【 虫 】 EFGH

 【 獣 】 EFGH

 【 鳥 】 EFG

 【 草 】 EF

 【 石 】 E


・ホルダー

 【 虫 】 F2枚、E1枚

 【 獣 】 E13枚

 【 鳥 】 E4枚

 【 草 】 E20枚

 【 石 】 


 短刀が邪魔になるので横にどける。狩猟番になって、狩りに行く日は帯刀を許されている。収納に入れていると逆に不自然なので、狩りに行く日は持ち歩くようにしている。


 騎士団長から借りたミスリルの剣を握りしめ、ミハイと一定の距離で相対する。


 皆が見つめる中、


「まあ、ミハイが怪我をしてしまいますわ」


 男爵夫人が心配し始める。Cランクの魔獣を1人で捕まえてくるアレンが相手だ。手加減を知らないかもしれない。男爵夫人は心配そうに両手を胸で握りしめている。


「では、私が合図をしましょう」


 男爵夫人の言葉には答えず、騎士団長が審判をする。


「両者構え」


 アレンとミハイが剣を構える。


「はじめ!」


 合図と共に400を超えたアレンの素早さでミハイに迫る。剣が音を立てながらぶつかり合う。


(ん? え? 結構強くない? って、え??)


 直ぐにアレンは違和感に気付く。ミハイの斬撃がかなり重いのだ。速さもミハイのほうが速い。どうやら手加減していい相手ではないらしい。


 アレンは、これは手加減できないと、攻撃力370を両手に込めて、剣を振り下ろす。


(ぐ、片手で防がれた件について)


 ミハイは、片手でアレンの斬撃を受ける。その後もアレンの劣勢は続いていく。



「奥方様ご安心ください」


 試合を見ている奥方に騎士団長が話しかける。


「え?」


「ミハイ様は、あの学園都市で退学されることなく1年間を乗り越えました。学園に行ってもいない者に負けるはずがありません」


 騎士団長がミハイの勝利を断言した。


 剣を弾き飛ばされるアレン。ミハイの剣先がアレンの喉元に迫る。


「参りました」


「すごいね。さすが、その歳で従僕になるだけのことはあるね!」


(うは! めっさ強い。全然歯が立たなかった)


「いえ、さすがミハイ様でございます。試合をしていただきありがとうございました」


 深々と礼をする。


(そうか、ダンジョンを攻略したと言っていたな。夏休みの課題で)


 ミハイの強さの原因を考える。きっとダンジョン攻略でレベルが上がったに違いない。


(これが、才能のある者がきっちりレベルを上げた強さか。それもまだ1年という話だからな。もしかしてレベル上げだけなら夏休みのダンジョン攻略だけっていうこともありうるぞ)


 3年間通うと聞いた学園だ。まだ1年しか通っていなくてこの強さだ。きっと夏休みの課題で、ダンジョンを攻略してレベルが上がったのだろう。


 ノーマルモード、ヘルモードの100倍の速度でレベルが上がるだけのことがあるようだ。とても敵わない。


 ミハイがアレンに手を差し伸べる。


「さすが、セシルの従僕だ。妹をよろしく頼むよ」


「は、はい」


 ミハイに握手で答えるアレン。才能のあるノーマルモードとの初めての対戦は完敗に終わったのであった。

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