第202話 ラポルカ要塞攻防戦②

 新たに上がってきた兵達に戦闘を任せ、階段を降りると、階段の下にも兵達の部隊が待機している。


 8時間ぶっ通しで戦い疲弊したエルフの兵達は、そのままラポルカ要塞中央付近に設けられた休憩施設に向かっていく。


 速やかに食事を取り、野戦用に設けられた風呂のある仮設の建物に入って行く。


(いい流れだな。エルフ達は困惑しているけど。まあ、今回の魔獣達は、絶対にエルフ達を休ませない作戦だろ。後ろにいる魔獣達は戦いに参加していなかったし)


 アレンは鳥Eの召喚獣を使い、エルフ達が作戦通り動いているか確認をしている。


 そして、何時間にも渡る戦いの中で、魔獣達の動きから魔王軍の作戦を分析してきた。

 魔王軍の動きは、以前に大軍でやって来たティアモ攻防戦と明らかに違う。


 海洋を南進する魔獣達はアレンを休ませないように、戦闘に参加しない魔獣達は休むという方法を取ってきた。魔獣に比べて疲労しやすい人間相手には有効な作戦だと思う。


 数百万にも上る魔獣達を引き連れた魔王軍だからできる作戦だと分析する。

 これだけ多いと、常に戦う魔獣達は全体の何分の1しかいなくても十分な数になる。

 参加しない魔獣達を休ませれば、1日中エルフ達を攻め続けることができる。


 1日24時間、数百万の大軍が常に攻め続け、ラポルカ要塞を陥落させようとしている。


(1つ魔王軍が残念なことは、海洋でもラポルカ要塞と同じ作戦を取ったことだな。多分指揮したり作戦を考えたりする魔王軍の幹部がそんなにいないんだろうな。だから作戦が似てくると。予想できずにこの作戦をやられてたら、かなり厳しかったかもな)


 海洋で戦うアレンは、ラポルカ要塞攻防戦より2日早く戦闘を開始した。

 お陰で、海洋と同じ作戦を取るのではと予想することができた。


 魔王軍は作戦の実行がとても早い。これは指揮系統がしっかりしていて、幹部となる者の人数が少ないのだろう。

 だが、それだけに同じ軍幹部の作戦になってしまい、今回のラポルカ要塞攻略の方法をアレンは予想することができた。


 今回アレンが伝えた作戦は、30万人ほどいるラポルカ要塞のエルフの兵を、3分の1に割るということだ。


 戦う兵、予備で待機する兵、休憩する兵を8時間ごとに交代する。

 現在8時間が経過したので、予備で外壁の内側で待機していた兵と交代した。

 異世界の戦争に三交代勤務のシフト制を導入した。


 予備で待機する兵の役割は、戦っている兵の陣形が崩れた際に対応することだ。


 兵達の中には、1度に10万しか戦わないのかと思う者もいて、かなり不安そうにしていた。

 兵の数を抑えるため、指揮化した召喚獣と天の恵みを過去にないほどに使い、スキル使用制限なしで補うことにした。


 休憩に入った兵たちは風呂に入った後、休憩施設に変更した建物や、仮設の休憩施設に入って行く。


(よしよし、皆熟睡しているな)


『素晴らしいデスわ。さすがアレン様デス』


 建物内の様子を、連絡要員の霊Bの召喚獣と共に確認する。

 つい1時間前に死闘を繰り広げて興奮した兵達が、既に寝息を立てて熟睡している。


 日は明るく、四方で激戦を繰り広げており、魔獣の咆哮などの戦闘音が、この壁の薄い仮設の休憩施設の中にも入ってきている。

 しかし、そんなことは関係ないかのようにエルフ達は皆眠りに就いている。


 そして、この広い休憩施設の中央には、2メートルほどの1本の木が生えている。

 草Fの覚醒スキル「ハーブ」の木だ。


(ふむハーブを100本持ってきたが、十分だったか)


 今回アレンは、指揮化した鳥Bの召喚獣の背中に、草Fの覚醒スキル「ハーブ」で作った木を100本載せて、天の恵み2000個と共に運んだ。


 草Fの召喚獣の覚醒スキル「ハーブ」は、草Fの召喚獣を2メートルほどの木に変える。

 そして、この木の香りを嗅ぐと、魔力の自然回復の速度が6時間から3時間になる。香りが届く範囲は植えたところから半径100メートルだ。持ってきた2メートルの丈の木を植木鉢に植えて、要塞の各所にある休憩施設に設置した。


 覚醒スキル「ハーブ」の木の匂いには強い安静効果がある。アレンの父ロダンがグレイトボアから攻撃を受け、腹に大穴が開き、完全に回復できずに激痛を負った状態で使用しても熟睡できたことだろう。


 兵達はこんな状況で眠れるのか疑いながらも、床につくと全ての疲労が溶け出すように熟睡してしまう。


(今のところ各方面で順調だが、南側の外壁の殲滅速度が一番遅いと。召喚獣の数も少なく、遠距離攻撃もないからな。この辺りは仕方ないか)


 南側の外壁も戦いが繰り広げられている。

 南には石Bの召喚獣を4体配置した。


 外壁の外なので、虫系統の魔獣達が、石Bの召喚獣達に纏わりつくように群がっている。


『『『……』』』


 言葉を発しない石Bの召喚獣は、指揮化で全長20メートル、兵化でも15メートルある。

 言葉通り虫けらのように巨大な足で踏みつぶしていく。


(やはりこれだけ耐久力があると攻撃を受け付けないな)


 指揮化した石Bの召喚獣の耐久力は7000。

 兵化した石Bの召喚獣の耐久力は5500。


 これに魚バフによる回避率アップにダメージ軽減を受けている。エルフの補助魔法も受けている。


 Bランクの魔獣は1000前後の攻撃力が多いので、石Bの召喚獣の耐久力との差は5倍以上ある。


 これだけ差があると、ダメージは通らない。


 アレンは学園のダンジョンに通っていたころから、耐久力と攻撃力の関係の検証をしてきた。

 攻撃力1000の者の攻撃が、攻撃力3000になったからといって、与えるダメージが3倍になるわけではない。

 なぜなら攻撃を受ける側の耐久力があるので、耐久力と攻撃力の間で計算されたダメージを受けることになるからだ。


 耐久力が高い相手を攻撃する場合、攻撃力1000でも2000でも1しかダメージを与えないが、攻撃力を3000にすると300のダメージを与えるなんてこともある。

 だから攻撃力にダメージが完全に比例するなんてことはない。


(魔獣にもスキルを使える奴が普通にいるからな。その辺りは注意しないとな。あと100体に1体くらいの割合でいるAランクの魔獣もか)


 魔獣の中には、耐久力無効の貫通系のスキルを持っていたり、こちらの防御力を下げるスキルを使ってきたりするものもいる。

 絶対に大丈夫だと過信せず、4体の石Bの召喚獣には、エルフの回復部隊に定期的に回復魔法を掛けさせている。


 指揮化した石Bの召喚獣が、自分の高さほどもある外壁を這うように登る魔獣達を、丸い盾を使いガリガリと力ずくで剥がしていく。


 そんな石Bの攻撃に対して、ローブを着た骸骨が、後方から赤い宝石が先端についた杖を向ける。

 杖の先端には巨大な円状の炎が魔力により生まれ、壁の上にいるエルフごと焼き払わんと飛ばしてくる。


(おお、ラッキー。全反射しろ)


『……』


 壁をこすっていた円状の光沢のある盾を使い、骸骨を含めた前方の広範囲に弾き返す。

 骸骨の魔獣が放った炎を3倍にして虫系統の魔獣を消し炭にしていく。


(やはりAランクの魔獣のスキルをしっかり全反射することが大事だな。殲滅速度は遅いが、西と東は元々エルフ達が守るような構造になっていないからな。この辺はバランスだな)


 南北を守るように作られたラポルカ要塞は東西の攻めに対応していない。

 そのため指揮化と兵化した竜Bと虫Bの召喚獣に任せている。その分エルフの兵は南北に比べて少ない。



 さらに時間が経過する。


 日が暮れたのだが、魔獣達は魔法や大きな松明に火をつけて明かりを確保し、戦いを止めない。

 アレンの予想通り、夜通しで攻めてくるようだ。


 16時間が経過したので、予備として待機していた兵が最前線の外壁に登り、今まで戦ってきた兵達は階段から降り休憩に入る。速やかに持ち場の交代が進んでいく。




 さらに時間が過ぎ、日も替わった深夜だ。


「さて寝るかな」


『はい。アレン様、ごゆっくりお休みくださいデス』


 霊Bの召喚獣がアレンの独り言を拾ってくれる。

 アレンも海洋での魔王軍との戦いの2日目の晩だ。

 頭を潰して倒した海竜系の魔獣の上にいる魔獣達を掃除して今晩の寝床にする。


 服を脱いで、魔導書を頭の上に移動させて、中に入った水を使いシャワーをする。

 魔導書の中にはプール1杯分の水が入っている。

 着替えの寝巻も食料も十分にある。


(今日は15万体くらい倒したかな。あと5日で戻るって豪語したし、もっと効率よくしないとな。せっかく全力で魔獣達が向かってきてくれるんだから、明日の目標は20万体だな。もっと中心に入って戦うか)


 シャワーが終わると、モルモの実を食べながら2日目の戦い方を反省し、より効率の良い殲滅方法を考える。

 この思考と、翌日の実践による検証が一番楽しいといつも思う。


 その後、鳥Bの背中に移動する。大きな海竜系の魔獣の上にいるとはいえ、海中にも魔獣がいて、死んだ魔獣を襲ったりするので、安全ではない。

 鳥Bの召喚獣の背中の上でしばしの仮眠を取るアレンであった。

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