第203話 ラポルカ要塞攻防戦③

 ラポルカ要塞での攻防戦が始まって5日が過ぎた。

 持久作戦を取っている魔王軍との戦いも5日間連続だ。


 1日に使う天の恵みの個数は2000個を超えているが、エルフの兵達は終わりを信じて必死に戦っている。

 アレンは定期的に天の恵みの補充分を鳥Bの召喚獣に運ばせ、ラポルカ要塞から天の恵みが無くならないようにしている。


 30万人いたエルフの兵は、その1割ほどがこの5日間で死亡し、緩やかに防衛力が弱まりつつある。

 潤沢に使える魔力、率先して前に出て戦ってくれる召喚獣、強固な外壁があったおかげで、これだけの犠牲で済んでいると言えるのかもしれない。


 そんな5日間の攻防戦だが大きな成果もあった。


 竜Bと虫Bの召喚獣が戦う東西の外壁の魔獣、それぞれ50万体いたものを半減させた。

 5日間ぶっ通しで魔獣達が向かってくる中、十分な回復魔法が使える状態での戦いは容易であったようで、疲れ知らずの召喚獣が東西合わせて50万体の魔獣を狩りつくした。


 虫Bの召喚獣の子アリポンは、5日間でやられる数より増える数の方が多く、3000体ほど増え、殲滅速度が今なお上昇し続けている。


 なお、魔王軍も東西南北の四方全てで殲滅する方針に変更はなく、南北から20万体ずつの魔獣を東西の外壁に振り分け、魔獣の数の調整を図っているようだ。


 外壁が魔獣の屍骸で埋め尽くされてきているが、今がまだ2月で涼しくて良かったと思う。

 夏にこの戦いがあれば、腐敗した魔獣の屍骸から疫病が発生したかもしれない。




「おせーな。そろそろ戻って来るかな?」


「もうそろそろでしょ。昨日の夜、今日には戻れるって言っていたじゃない」


 キールは後ろに座っているセシルに、アレンの到着を確認する。

 4体の鳥Bの召喚獣に、アレンを除く6人で乗っている。

 フォルマールとソフィーのペア、キールとセシルのペアだ。

 ドゴラとクレナはそれぞれ1人で1体の鳥Bの召喚獣に乗っている。


 クレナもドゴラも完全な近接戦闘なので、鳥Bの召喚獣に乗って、外壁を這い上がろうとする魔獣の背中を切りつける、エルフ兵の手に余るAランクの魔獣を優先して倒すなど、外壁を守る戦い方を続けている。


 仲間達に対してアレンは、エルフ兵が戦いやすいように戦ってくれとだけ伝えている。

 4体の鳥Bの召喚獣に乗りつつ、パーティーで連携を取りながらの戦いになっている。


 刻一刻と変わる戦況の中、最善を尽くすように戦うことが大事だと常にアレンは話してきた。


「前方から3体のドラゴンがやってくる! ドゴラもお願い!!」


「おう!!」


 クレナは3体のAランクの魔獣であるドラゴン達が外壁に突っ込んでくることに気付く。

 Aランクである上ドラゴンともなると、エルフの兵の被害も甚大になるので直ぐに行動を開始する。


 クレナが1体、ドゴラとフォルマールが協力して1体を抑える中、もう1体のドラゴンが外壁に近づいていく。エルフの兵も最優先で叩くべく矢で狙い撃ちにするが、それでも強引に近づいていく。


 そんな中、フォルマールの後ろから声を発するものがいる。


「私が行きます! クレナさん、ドゴラさん下がってください!!」


 ソフィーは自分が倒すと皆に聞こえるよう大きな声を出す。

 直ぐに装備していた耐久力上昇の指輪を、魔力上昇の指輪に変える。これで装備している指輪が2つとも魔力上昇に変わった。


 さらに天の恵みを掴み魔力を全快にする。

 そして、両手で杖を握り締め、意識を集中する。


 ソフィーの姿が陽炎のように屈折していく。

 クレナとドゴラは自分らの相手をしているドラゴンから離れる。


「大精霊よ。私の声にお答えください」


 ソフィーの目の前に炎の塊ができる。


 ドンドンでかくなり、そして巨大な人型に変わる。

 ドラゴンのように大きい、肩幅の広い人型に近い何かが浮いている。


『……我は火の大精霊イフリート。エルフの子よ、精霊王との契約により、魔力を対価に我が力を貸そう』


 ソフィーはエクストラスキル「大精霊顕現」を使い、火の大精霊イフリートをこの世界に顕現させた。

 その火の塊に口などないが、どこからともなく声が響く。


「お願いします。イフリート様」


 ソフィーのお願いで全てを理解したかのように、全身を覆う火がさらに激しくなる。

 そして、そのまま一気にドラゴンに向かって突っ込んでいく。


 クレナやドゴラを相手にしていなかったドラゴンの腹に向かってものすごい勢いで突っ込み、ドラゴンを爆散させ、焦げた肉片に変える。


「相変わらず、すごい威力ね」


 火魔法を使えるセシルが一番驚いている。

 火に耐性のあるドラゴンを焦げた肉片にするのは、セシルの火魔法では不可能だ。


 そのまま、残り2体のドラゴンも焦げた肉片に変え、さらにその他の魔獣の攻撃に向かっていく。


「おお、今日はイフリートだな」


(この前はウンディーネか。やっぱり確率は偏りなく一緒か)


 アレンは、イフリートの顕現を見ている。


 ソフィーの大精霊顕現は、火土風水のどれかの大精霊を顕現する。

 顕現した大精霊が、攻撃や回復、補助をしてくれる。クールタイムは1日だ。


 イフリートは、Aランクでも難なく、複数体を倒してくれる。

 ソフィーはこの1ヵ月ほど続く戦争で更に顕現が自在にできるようになったような気がする。


 顕現時間は支払った魔力量に比例するため、ソフィーは魔力上昇リングに指輪を交換し、最大魔力を上げ、全ての魔力で顕現させた。


「アレン様!」


 ソフィーが、アレンが戻って来たことに気付いた。

 アレンは指揮化した鳥Bの召喚獣に乗ってやってきた。


「あ、戻って来たわね。やっぱり結構時間かかった?」


 そう言ってセシルが、アレンの乗っている鳥Bの召喚獣に移動する。


「ああ、殲滅に時間がかかってしまったよ。まだ殲滅は終わっていないが、俺だけ切り上げてきたよ」


 アレンは当初の予定通りの日数で海洋から戻って来た。

 まだ10万体近く魔獣が残っているが、別に最後までアレンがいる必要もない。

 アレンがラポルカ要塞に戻って来ている間に、残した召喚獣達によって殲滅が終わるだろうと踏んで、鳥Bに乗って急いで戻って来た。


 なるべく早く戻った方が、ラポルカ要塞での兵の犠牲が小さく済む。


(さて、北以外の全ての外壁の確認はしたが、こっちが一番魔獣の数が多いと。というか全体的にまだ300万体ほど魔獣がいそうだな。10日と言わんが、結構殲滅に時間がかかりそうだなこれは。ふむふむ)


 東西南壁に行ってから、最後にアレンは北側の外壁にやって来た。

 南側は指揮化した石Bの召喚獣4体しかいないので、竜Bの召喚獣を5体追加した。


「ドラドラ達、出てきて加勢するんだ」


『『『おう!』』』


 7体の竜Bの召喚獣が新たに召喚される。

 壁に張り付いた魔獣達を、エルフ兵達を焼かないように上手に焼き払っていく。


 ラポルカ要塞を守る召喚獣が一気に増えていく。


(やはり、雑魚狩は範囲攻撃のある竜Bが一番殲滅が早いと)


「じゃあ、えっと確か魔王軍の交代は済んだんだっけ?」


「え? とっくに済んだわよ」


(なるほどそうかそうか)


 魔王軍は、エルフの兵達を疲弊させるために12時間に1回のペースで戦闘を交代している。魔獣も一部の種類を除いて、無限に体力があるわけではない。


 そして、2時間ほど前に交代が済み新たな魔獣達が外壁で戦い、先ほどまで戦っていた魔獣達は少し山を下り休憩に入っている。


「皆、じゃあへとへとに疲れた魔獣達を倒しに行くぞ。まだいけるか?」


「え? もちろんよ」


「おお! アレンっぽい」


 セシルがいけると言い、クレナが納得する。疲れた魔獣を攻めるなんて、何てアレンらしい作戦なんだと仲間達は皆納得する。


(よし、2時間も経過すれば、戦闘の持続効果も切れて経験値がフルでこっちに入ってくるだろう)


 経験値は戦闘に参加した全員に割り振られる。

 どこまでが戦闘への参加なのかはかなりあいまいだが、1つ分かったことがある。

 時間があまりにも経過してしまうと、戦闘に参加しても経験値は手に入らないということだ。


 例えば冒険者が魔獣に攻撃をし、手負いにしたが逃がしてしまった時だ。

 翌日、別の冒険者が止めを刺しても、前日の冒険者には経験値は入らない。


 前回の戦闘から一定時間が経過したら、前回戦闘をした者には、その魔獣を別の者が倒しても経験値が入らない。


 今回、2時間経過しているので、倒してもエルフ兵に経験値は振り分けられない。


「じゃあ行くぞ」


「「「おう!」」」


 アレンがラポルカ要塞の攻防戦に参加し、魔王軍との戦いが続いていくのであった。

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