第328話 チームキール③ 国境線(2)
クレナはキールと一緒に跨っている鳥Bの召喚獣から飛び降りた。
そして、ミュハン隊長を握り潰そうとする大猿の太い腕を切り落とす。
あまりのことで兵たちは何が起こったか分からない。
そんな外壁の上の兵たちが驚く中、体の傷が全て消えることに気付く。
大猿に握りつぶされ死にかけていたミュハン隊長の顔色がどんどん良くなっていく。
魔法が使える者、回復魔法が使える者、スキルが使える者は魔力の回復を感じる。
「なんだこれは。どうなっている? 奇跡か?」
ミュハン隊長は目の前で、頭が要塞の上に出た大猿と対峙した、ピンクの髪の女性を見る。
ミュハン隊長や兵たちが回復したのは、キールが天の恵みを使ったからだ。
今にも陥落しそうな要塞なので、兵隊の体力と魔力の回復が最優先だ。
メルスが虫Aの召喚獣、親ハッチ、子ハッチを使い、広範囲に戦線を広げてくれているお陰で、キールとクレナが戦う要塞への邪教徒や魔獣たちの加勢は少ないと考える。
ならば、この要塞に群がる大勢の邪教徒たちを倒せば、要塞の防衛は達成だ。
魔法やスキルが使える兵たちを回復させ戦線復帰を促す。
『クキャアアアアアア!!!』
泣き声とも叫び声とも取れる大声を上げ、片腕を失った大猿の魔獣が失った方とは反対の手を握りしめクレナを叩き潰そうとする。
「むん!」
ズン
クレナは大剣を使い、大猿の拳を受け止める。
衝撃でクレナの足元の外壁の石畳が一気に粉砕され陥没する。
しかし、それがどうしたと受け止め、クレナは力任せに大猿の拳を大剣で弾き飛ばす。
そして、拳を弾き飛ばされた衝撃で上体を反らした大猿の肩から胸に達するほどの一撃を食らわす。
スキル「斬撃」によって大きく空いた胸からは、鮮血が飛び城壁を真っ赤に染める。
「クレナ、門が破壊されそうだ。地面に降りて戦ってくれ!!」
大猿が地響きを立て大の字になって背面に倒れる中、キールの叫び声が聞こえる。
要塞の正面にある大きな鋼鉄の正門は、魔獣からの侵攻を止めるべく閉ざされている。
下半身山羊の姿をした邪教徒が大勢で体当たり続けており、今にも破壊されそうだ。
「分かった。皆さん、外壁の上は任せました!!」
クレナはキールに指示に従うため、大きな声でこの外壁の上の守りを兵たちに任せることにする。
「ああ、き、君は。君たちは一体。って馬鹿な!!」
「何なのだ?」とミュハン隊長が言おうとしたが、クレナはそのまま地面に飛び降りた。
今この要塞は数万という邪教徒や魔獣たちが囲んでいる。
そんな状況であるにもかかわらず、当たり前のように飛び降りてしまい、ミュハン隊長は思わず外壁の下を覗き込んでしまう。
クレナは異形なる集団たちに囲まれていた。
「我は剣帝クレナ。かかってこい!!」
クレナは凛とした表情で高らかに名乗った。
そこに騎士ごっこのような遊び心はなく、真剣な表情だ。
大猿が大声を出して絶命し、クレナ自らも大声で叫んだため、邪教徒や魔獣たちの意識がそっちに行く。
門を必死に叩いていた邪教徒たちが背面で騒ぐクレナに気付き、体をそちらに向けた。
『『『グヒン、グヒン』』』
不気味な声を上げ、既に人間としての意識を失った邪教徒たちが、クレナに狙いを定める。
下半身どころか、上半身の一部も人間の姿を辞めつつある。
山羊の角が生えていたり、目も山羊そのものだ。
獲物がやって来たとニタリと笑い、一気に体の二回りも大きな山羊の下半身に力を入れ、蹄で地面を蹴り突っ込んで来る。
「燃えよ! 鳳凰破!!」
『『『グピャアアア!!!』』』
クレナの体が一瞬炎に包まれる。
そして、大剣を360度、横薙ぎに切りつけると、斬撃とともに炎が発生する。
まるでクレナを中心に火柱が生まれたように見え、横薙ぎに切り裂かれ、魔獣や邪教徒が炎に包まれ絶命する。
門が少々燃えてしまったが、門を襲う邪教徒の集団を一掃できたようだ。
邪教徒はアレンの分析ではCランクからBランクの魔獣ほどで、才能のない人間には脅威だが、クレナにとって敵ではない。
今回、召喚獣の数に制約があるため魚系統の召喚獣のバフは貰えていないが、クレナの攻撃力は15000を超えている。
これに武器の攻撃力が加算される。
そして、スキルの効果が攻撃力に加算される。
Cランクの耐久力は数百で、Bランクの魔獣なら高くても2000程度だ。
圧倒的なステータス差と武器の威力によって、ほぼ即死の一撃となる。
10体を超える邪教徒が一気に死んだが、クレナの特技「鳳凰破」を使っても邪教徒も魔獣たちも一切怯むことはなかった。
我先にと向かって来る。
クレナは誰もいなくなった門を背にする。
向かってくる邪教徒と魔獣の集団に対して、大剣を高く掲げた。
魔力を剣に込めるに連れて、大剣と共にクレナは光に包まれた。
それを見たAランクと思われる大型の熊の魔獣が邪教徒を払いのけクレナの元に迫って来た。
「覇王剣!!」
あと一歩で凶悪な熊の魔獣の爪がクレナに迫ろうとしたときにクレナが剣を一気に振り下ろす。
『!?』
大型の熊の魔獣は声を出すことすら許されなかった。
腹部に直撃を受け、四肢が肉片になって吹き飛んでいく。
しかし、威力はそれだけでは留まらない。
まばゆい光と共に衝撃波が前面の広範囲に襲っていく。
邪教徒と魔獣を粉砕しながら、地面を吹き飛ばし、数十メートル先の川に架けられた橋に達する。
恐らく、カルバルナ王国とカルロネア共和国が戦争になったらすぐに壊せる作りになっていたのだろう。
邪教徒から身を守るため、カルバルナ王国の兵が根元から破壊したと思われる橋に特技「覇王剣」の衝撃波が達する。
まだ原形を留めていた橋は粉々に破壊され、粉砕された橋を巻きあげた水しぶきは数十メートルに達した。
クレナには「斬撃」、「鳳凰破」、「快癒剣」、「覇王剣」の4つの特技があり、それぞれ威力や性能、攻撃範囲、クールタイムは違う。
斬撃は一番使い勝手が良く、普段剣を振るうときは斬撃を使う。
上段から大剣を振っても、横薙ぎに振っても、斜めに袈裟懸けから振っても発動する。
消費魔力は10。剣撃の威力を倍程度に高めてくれる。無属性の攻撃。クールタイムはない。
鳳凰破は360度に切りつけることができ、周囲10メートル程度の敵を炎で焼くことができる。
横薙ぎでしかスキルは発動せず、切りつけた威力は斬撃より高い。
消費魔力は30。火属性の攻撃。クールタイムは10秒。
快癒剣は切りつけた際、与えたダメージの4分の1、クレナの体力が回復する。
なお、オーバーキルして倒す以上のダメージを与えても最大で回復するのは敵の体力の4分の1までだ。
消費魔力は50。威力は斬撃程度。無属性の攻撃。クールタイムは30秒。
覇王剣は単体に高威力の斬撃を食らわし、前面数十メートルに高威力の衝撃波をもたらす。
上段から振り下ろさないと発動しない。
消費魔力は100。威力は斬撃の数倍。周りに与える衝撃波も斬撃の2倍以上。
光属性の攻撃。クールタイムは10分だ。
クレナは属性も異なり、威力もクールタイムも異なるスキルを駆使して、邪教徒と魔獣を殲滅していく。
クールタイムが異なるため、同じスキルの発動はできないので、敵との立ち位置を変えつつ異なるスキルを発動させていく。
大剣を振るう度に数体から数十体の邪教徒や魔獣を倒していく。
圧倒的な数に囲まれているが、そんなことを物ともしない。
「エルメア様は、我らを見捨てはしなかったのか」
「あの女性はなんだ。戦神様の生まれ変わりか?」
外壁の上から口々に言う。
「我らを神はお見捨てにならなかった。皆の者、ここは加勢をしてくれた者に任せ、配置を変えるぞ!!」
「「「は!!」」」
この要塞は、外壁は低いがかなり大きい。
ミュハン隊長は、兵たちの配置を変更する。
既に何万という邪教徒と魔獣に囲まれており、正面である正門が守られても他が落ちては意味がない。
兵たちは大きく返事をし、中央の人数を減らし、左右に配置を固めていく。
キールはぐるぐると上空を飛びながら、浄化魔法で攻め込まれ過ぎている箇所の邪教徒を蒸発させ、Aランクの魔獣にも大きくダメージを与える。
今はAランクの魔獣だからといって虫Aの召喚獣に使役させている暇はない。
そして、回復魔法、天の恵み、金の豆と重要度を判断しながら戦況を変えていく。
クレナと2人で要塞の守りを固めていく。
ズウウウウウウン
「!?」
ミュハン隊長が上空に舞うグリフォンに乗った金色の衣を纏った青年を見ながら、今何が起きているのか聞かなくてはならないと思っていた時、はるか先でまばゆい光が生じた。
どうやら、数キロメートル先で強大な雷が降りそそいだようだ。
巨大な水柱とも粉砕された土砂とも取れるものが巻き上がった。
そして数秒後、地響きのような音が聞こえる。
メルスが覚醒スキル「裁きの雷」を発動したようだ。
22000に達する全魔力を込め発動する、この覚醒スキルによって粉砕された土砂と共に邪教徒も魔獣たちもなすすべもなく焼き尽くされ粉砕される。
国境線での戦いはそのまま、日が沈んでも続いたのであった。
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