第645話 大地の迷宮RTA⑭アンドレ戦(1)
全身オリハルコンで覆われた80階層ボスは土の化身アンドレを名乗った。
前世で昔見た、亀の怪獣映画を彷彿させるように、後ろ足でどっしりと立ち、亀の甲羅を背にし、腹筋が分かれたような腹を見せている。
背中の甲羅には金色に輝くオリハルコンが無数に生えており、耐久力が高そうだ。
(大地の神の眷属か。アンドレっぽい面(つら)しやがって。80階層ボスは霊獣ではないのか)
床石を直接歩くことなく上空を移動するアレンたちと視線が合うほどの巨躯に、仲間たちは驚愕する。
そんな中、アレンは何か80階層ボスが何なのか確認する。
土の化身の「化身」とは、以前、火の神フレイヤが自らの眷属がいくつ先だと言っていたことを覚えている。
大地の神に仕えた眷属が行きつく先なのだろう。
以前は土の聖獣だったのかもしれない。
その前は人間だった面影など300メートルに達する巨躯に面影など存在しなかった。
『ふふふ、いつまでそこでボーっとしている。恐怖で声も出ないか』
アンドレがアレンたちを挑発する。
しかし、アレンが攻撃の開始の号令をかけていないため、隊列をゆっくりと広げるものの攻撃には移らない。
攻撃魔法の使い手は魔力を練り、ゴーレム使いたちは魔導盤や魔導キューブの石板を攻撃主体に切り替えていく。
『ギャウ……』
ハクだけが「待て」をギリギリの状態で耐え、今にも突っ込んでいきそうだ。
この時、時間にして1分にも満たないのだが、アレンはこの状況での「勝利の条件」を確認する。
(奥には出口。扉つきかよ。アンドレの首には鍵があると。その鍵が必要なら、俺らが持っているのでは空きそうにないのか。クワトロ、万里眼を使って)
クワトロに万里眼を使うと、遥か5キロメートルほど離れたところで、入り口と反対側に設けられた出口には、入り口と同じ大きさの扉がある。
大きさにして100メートルにもなろう巨大な門だ。
門の取っ手の部分には鍵穴があることが発見できる、アレンたちは「鍵」を2つ持っている。
先ほどの鍵の使用で消えなかったため、2個の鍵があるのだが、どうも使用できそうにない。
(思い込みは払しょくすべきだが、こんなにあからさまにぶら下げやがって。さて、鑑定っと)
巨大な亀の姿をしたアンドレは首飾りをしており、喉元には手の平サイズのオリハルコンに輝く鍵がキラキラと輝いている。
どれだけ長い鎖で括り付けているのかしらないが、アダマンタイトに輝く鎖で首元に鍵がかけられている。
クワトロの特技「鑑定眼」の結果を見る。
【名 前】 アンドレ
【年 齢】 142780
【種 族】 土の化身
【体 力】 280000
【霊 力】 250000
【攻撃力】 230000
【耐久力】 300000
【素早さ】 300000
【知 力】 210000
【幸 運】 260000
【攻撃属性】 土
【耐久属性】 土、物理耐性(強)、魔法耐性(強)
(亜神ってレベルじゃない。年齢も10万年以上生きてるし。つうか、その巨躯でかなり素早いな)
亜神級の霊獣もびっくりするほどのステータスだ。
これまでの階層ボスとは一線を隔す情報を、アレンは鳥Fの召喚獣を使って仲間たちに伝達していく。
『よし、戦闘は避けられそうにない。ハク初陣は任せたぞ!』
『ギャウ!!』
全長300メートルの敵に対して、全長30メートルのハクは翼を大きく広げ、胸元めがけて突っ込んでいく。
初陣の意味は分からなかったが、どうも攻撃してよいだけは理解したように思える。
ハクが体当たりした衝撃で、アンドレの巨躯が一瞬浮いたかと思うと、大きく後ろへ後退する。
『むぐ!? なんだこの力は!! 流石はここまで攻略してきたというわけか! だが!!』
ズオオオオオオン
『ギャワワ!?』
地響きを鳴らして着地した後、アンドレは驚愕している。
ハクのステータスは、アンドレ同様、神の域に踏み込んでおり、思いがけない一撃を食らってしまったというのが正直な感想だろう。
だが、吹き飛ばされた先で腰をひねるようにオリハルコンのトゲトゲがびっしりと生えたモーニングスターの玉が先端に付いた長い尾を振るう。
ハクは側面からの凶悪な一撃にもろに受けた。
腰を乗せ全体重が遠心力に置き換わった尾先のオリハルコンのトゲトゲによって、鱗に覆われた腹部は大いに損傷を受け、ハクは吹き飛ばされていく。
「タバサさん、イングレッサさん回復を!!」
「はい! オールヒール!!」
「はい! オールヒール!!」
最も高いステータスを誇るハクを尾の一振りで無造作に吹き飛ばす。
既に10時間以上に渡ってダンジョンで戦ってきた仲間たちだが、緊張感は最高潮だ。
アレンたちの大地の迷宮攻略パーティーにおいて、肉弾戦する者たちはとても少ない。
ゴーレムはバフが効かないし、回復魔法も効果がない。
(俺やシアがこの一撃を受けたら即死だな。グラハンとルバンカは完全に守りに徹した方が良いか)
アンドレの初手の攻撃によって、被ダメを無視した肉弾戦をするのは、ハク、メルス、ルバンカくらいで、アレンとシアはステータス的に攻撃をもろに受けるような戦い方はしない。
バフを多いに受けたルバンカなら、即死にはならないだろうが、この大地の迷宮は再召喚は不可なので、一度やられてしまうとパーティーからの離脱を意味する。
攻撃役であり、壁役なのはハクとメルスを中心に据える。
なお、天使Bの召喚獣は装備枠で出し放題だ(もう少し前の「話」に説明を移動させます)。
アレンはメルスに「剣盾」に装備を調整させる。
『メルルたちは遠距離から一斉射撃を!! 攻撃は主に腹や頭を狙ってください!!』
ゴーレムたちたちは守りを気にする必要ないという。
一定の距離を取りデカい的を相手に敵の体力を削るように指示をする。
「……分かった! タムタム! いっけえええ!!」
『滅殺します!』
アレンの意図で組むのに数秒の時間を要したが、理解して行動に移る。
飛行モードを解除しないタムタムの各翼部に設けられた砲からガンガン熱光線や砲弾を打ち狙う。
ドドドドドッ
ドオオオオン
ガララ提督たち3体の全長100メートルの超身兵となったゴーレムも、一斉にアンドレへの攻撃を始めたため、まるで爆音が響き渡り怪獣映画のような状況になる。
(さて、これでどうかな? どうも遠距離攻撃はなさそうだけど。見た目的にはブレスとか吐いてきそうだが)
アレンはアンドレの行動をよく見ていた。
アンドレはハクが最初に攻撃を加えようと翼を広げ突っ込んだ時に、合わせるように自らも前のめりになった。
攻撃や守りの手段が近接戦闘しかない敵の動きによくみられる動きだ。
長距離から嫌らしく攻撃を加えるメルルたちの攻撃を、遠距離攻撃で迎撃する動きも見られない。
クワトロの特技「鑑定眼」は敵のスキルまでは分からないので、速やかに敵の攻撃手段を把握する必要がある。
ステータスが圧倒的で、ハクでなければ一撃死も普通にあり得るので、不測の事態を避けたい。
『シアはハクの隙間から攻撃を。神技の発動を控えてくれ!!』
『分かった! 真爆拳!!』
スキル「獣帝化」発動中のシアも攻撃を開始する。
『むむ! 貴様が皆に指示を出しているのか!!』
シアの攻撃をやすやすと前足の甲で受けると、そのまま前のめりにアレンに突っ込んでくる。
(おっと、バレてしまった。まあ、バレたところでってところだがな)
アンドレに聞こえないよう鳥Fの召喚獣を使って指示を出していたのだが、アレンが指揮者であることが分かってしまったようだ。
仲間たちが威勢よくアレンの指示に返事しており、中には元気よくアレンの方を向く者もいる。
アレンが引く場所を埋めるようにメルスが参戦する。
『ふん! マジックシールド!!』
メルスが剣盾の特技「マジックシールド」を発動させる。
盾自体はメルスの膝から頭くらいまでも守る中くらいの大きさだ。
特技発動によって、盾自体から光を生じ、全長3メートルほどの巨大な光の盾が、元の盾を覆う。
特技が発動させた「マジックシールド」状態は、物理攻撃、ブレス攻撃、魔法攻撃全ての威力を半減させる。
なお、天使Bの召喚獣の武器を変更したら消えてしまい、クールタイムも発動する。
『ひねり潰れるがよい』
ズウウウウムッ
『ふぐぐ!?』
全長3メートルだと、アンドレの巨大な前足に比べたら、はるかに小さい。
ステータス的にも耐えられず、防御に徹したものの、メルスは吹き飛ばされてしまう。
「すまない」
『問題ない』
メルスが絶えた一瞬の隙をついて、アレンはその場から退避していた。
「皆、攻撃を続けてくれ」
「やってるわ!!」
セシルたち魔法使いたちもデカい的のアンドレに対してガンガン攻撃を加える。
『マティルとハクはブレス耐性がない。頭を燃やし尽くせ』
『ああ、分かった! グルアアアアア』
『ギャウ!!』
(攻撃当て放題だから体力が結構減ったな)
ハクを中心に前衛のアレンたちが攻撃を耐えている間も、クワトロの特技「鑑定眼」で体力の減りを確認していた。
耐久力と共に物理耐性や魔法耐性もあるので、ハクとマティルドーラの攻撃では結構体力が削れる。
それ以外はあまり効果がないのだが、それでもわずかながらダメージは効いているようだ。
30分ほど経過し、6割ほど体力を削ったところでアンドレの口元の口角がにやりと上がる。
『ふん、その程度の攻撃………。大地よ、我に癒しの力を……』
腹を地面につけ、頭と両手足を甲羅の中に引っ込める、回転し始める。
パアアァ!!
「ちょっと、これって……」
「ああ、体力が全回復したぞ」
(強力なブレスとか、そういうのはないが、体力削られると回復する系か。霊力も全然減ってないし、何度でも使えると見た方がよいな)
ダメージを大きく受けると回復すると丸まって、体力を回復させる。
「何よ! 卑怯じゃない!!」
『卑怯? 何を言っているんだ。さあ、我を倒さないと鍵は手に入らぬぞ!』
ニヤニヤしながらいくらでも攻撃してこいと言わんばかりの態度だ。
80階層ボスのアンドレは明らかに時間つぶしをしに来ているようだ。
「なるほど、お互い倒すことが目的じゃないってことか」
「え?」
今度はセシルだけに聞こえるように口にする。
(時間が溶けるんだが。作戦を変えるぞ)
「セシル、プチメテオの準備を!」
「え? 分かったわ」
「ハクとマティルはブレスで敵の行動を止めてくれ!!」
『うむ』
『ギャウ!』
マティルドーラとハクが一気に炎を吐いた。
体を屈ませ、アンドレは防御の姿勢をとる。
「今だ!!」
「プチメテオ!!」
『ぬ? なんだ! だが、この程度の魔法! だ、だが、この程度の魔法!!』
「何よ! 倒せないわ!!」
自分の体も覆うほどの巨大で炎を纏った岩が、アンドレの下へと降ってくる。
だが、アンドレは両足を力強く床石を踏み、両の前足でセシルのエクストラスキル「プチメテオ」を受け止めた。
アンドレの床石は大きくめり込むが、甚大なダメージは受けていないように見える。
今にも、エクストラスキル「小隕石」の効果が全て無くなろうとしたところで、アレンは次の作戦の指示を出す。
「シア、今だ!!」
「ああ、分かっている!! 神風連撃爪!!」
『む!?』
シアの両手から繰り出される無数の風の刃がアンドレの首元を襲う。
体を起こし、両手で防いだため、アンドレの首元はがら空きで、容易に首にぶら下げた鍵を通したアダマンタイトの紐を切り裂く。
鎖から開放された「鍵」が地面に向かって鍵が落ち、アンドレは視線で鍵が落ちていく先を見つめるのであった。
あとがき
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