第644話 大地の迷宮RTA⑬シューティングゲーム

【61階層・残り12:41】

・アダマンタイトのスコップ1個

・鍵2個

・その他必要アイテム省略


 61階層に降り、最初の通路を進んだ先にあるT字路を曲がったところで、十体を超える罠使いたちが床石をこねくり回していた。


 モコモコ


 土をこねて作り上げた岩の塊には、罠の起動スイッチが入っており、背中の風船のひもを最後に取り付けて、空中へ浮かし始めていた。


(空中散布とかひどすぎる)


 おかげで床石を歩かず進んできたアレンたちの視界いっぱいに罠が存在する。


「野郎ども! 1つ残らず撃ち落とすぞ!!」


「へい!」

「へい!」

「へい!」


 ガララ提督の掛け声でスティンガーのパーティーのドワーフたちが大きな声で返事をする。

 タイムアタックをしているアレンたちの移動に差しつかえるため、すぐにガララ提督が指示を出した。


「僕もやるからね! みんな振り落とされないでね!!」


 ゴゴゴゴゴッ


 メルルが魔導キューブの石板を変更すると、船体の両の翼先に砲台が生まれた衝撃で、船体全体が波打つように大きく揺れた。


「ちょっと!」


 アレンたちはタムタムの上に乗っているため、思わずセシルが悲鳴を上げた。

 ただ、セシルはレベルがカンストしたステータスもあって、船体が多少揺れたからといって地面に投げ出されることもない。

 他のヘルミオスのパーティーの後衛者たちも同じだ。


 超合体している3体のゴーレムとタムタムが、数キロメートル離れた風船や罠使い本体を多連砲で打ち破壊していく。

 風船が弾け、岩が落ちた先では罠が起動し、毒ガスが溢れたり、大きな爆発が生じたりしている。


「パーティーに絶対に近づけるなよ!! 転移で吹き飛ばされるからな!!」


 ガララ提督の檄が激しさを増す。


 ズウウウム

 ブオオオン


 撃ち落とした罠の1つから罠が起動し、広範囲にわたり罠使いを飲み込むほどの魔法陣が生じる。

 どうやら転移罠が発動したようだ。


『モコモコ!?』

『モコモコ!?』

『モコモコ!?』


 驚く罠使いたちが、転移罠に飲み込まれどこかえ消えてしまった。


 転移罠は仲間たちが分断され、とても危険な罠であるが、それ以上に現在タイムアタック中だ。

 ほとんど時間をかけず、ばらけてしまった仲間と合流出来たらよいが、それができなければ挑戦をあきらめる事態になってしまう。


(ガララ提督たちを攻略に誘っておいて本当に良かったな。まるでシューティングゲームだ)


 48人(体)で構成された大地の迷宮攻略PTの3分の1のメルルも含めて16人はゴーレム使いだ。

 ゴーレム使いには魔法使いを圧倒する射程の長さによる精密射撃の能力がある。


 ゴーレムの砲撃に魔法陣が生じると、高火力のレーザービームが出力され、風船を破壊して地面に落とす。


 ガララ提督たちは5人1組で操縦しているため、1人が操縦士、残りの4人が攻撃に集中することができる。

 メルルはタムタムの機能「人工知能」で演算を任せながら、罠の撃墜に専念することができる。


 ゴーレム使いたちは石板を無数に所有しており、その機能の幅は膨大で、精霊や召喚獣とは違う攻撃の多様さをもつ。


『クアアアアアア!!』


 アレンたちが有利に迷宮攻略を進める中、100メートルはあろう巨大な鳥の霊獣が大きく鳴いた。

 T字路のアレンたちが曲がらなかった側にいた霊獣が背後からこちらに向かってくる。

 霊獣の口には紐でつながった岩の塊を咥えている。


「おい! 罠を持ってきてるぞ! そいつを絶対にこっちに近づけるな!!」


 ガララ提督の声がゴーレム越しに響き渡る。


「へい! お任せを!!」


 隊列の後部を任せられている超合体ゴーレムが反転したまま、エンジン出力部を反転させ、巧みに逆走する。

 1人で本体を操作し、残り4人はそれぞれのスクリーンに数キロメートルも離れた霊獣や、罠使いが造った罠を捉えている。


「翼だ!」

「飛べなくしてやるぜ!!」

「落ちろ! 鳥っころ!!」


 多連式の砲台の石板にはめなおしたドワーフたちが、飛行力を落とすため面で制圧し破壊するように、霊獣の翼をハチの巣にする。


(む? かなりの体力だな。マクリスも反転させるか?)


 魔神級の強さを誇る、大天使級の霊獣だったようだ。

 高いステータスにものを言わせて、翼の飛行力を失いつつも、無理やり突っ込んでくる。


 アレンは陣地の深くに来た時に対応させるため、特技「フリーズキャノン」をもつマクリスを側に待機させている。

 マクリスの特技は発動までそれなりに時間を要するため、数はこなせないが、岩ごと罠の起動をカチカチに凍らせることができる。


「俺に任せろ! この岩を!!」


 アレンの思考は杞憂に終わる。


 霊獣に比べてはるかに小さい数メートルの岩の塊を狙い定めたかのように、数キロメートル離れた的を、ドワーフの1人が一基の主砲に石板を切り替え打ち抜いた。


 ドオオオオオン


 霊獣の胸元で岩の塊に入った罠の起動スイッチが起動したようだ。

 目の前で岩が弾けたため、胸が大きくえぐれ、さらに、翼を失った霊獣が顔面から地面に墜落した。


『後ろからも狙われています! 前衛はメルルとガララ提督で………。ん!?』


 アレンはマクリスの立ち位置の見直しも含めて、状況に合わせて指示を出そうとしたところだ。

 岩の塊が落ちた先で巨大な穴が生じたのをクワトロの特技「万里眼」が捉えた。


 罠使いのおかげで、61階層以降はかなりの数の罠が新たに誕生する。

 落とし穴の数もこれまでの階層よりも発生率が高くなる。


『落とし穴です! 隊列を維持したまま右下の落とし穴へ向かいます!!』


 アレンが鳥Fの召喚獣を使って仲間たちに指示を出す。


 こうして、メルルやガララ提督のパーティーによるドワーフたちの活躍もあって、順調に罠使いの多い61階層以降を攻略していった。


 70階層にアレンたちは到着する。


【70階層・残り11:27】

・アダマンタイトのスコップ1個

・鍵2個

・その他必要アイテム省略


「アレン様の予想通りでしたわね」


「60階層もアダマンタイトだったからな。こういうのは10階層ごとにやってくるのが定番だな」


「何の定番なのよ」


 ソフィーが感心して、セシルが呆れるいつもの会話だ。


「だが、アレンが来てくれたおかげで、随分これまでの記録は塗り替えた訳だな」


『ん? そうだな』


 3人の掛け合いにシアが参加したことに、アレンは一瞬疑問をもった。

 何か思うことでもあったのかとアレンがシアを見たが、シアとは目線は合わない。


 シアの目線の先には70階層のダンジョンが広がっている。

 何を思ったか。ダンジョンのはるか先を見つめているようだ。


「じゃあ、ソフィーお願いね」


「はい、セシルさん。エイッとな」


(よし、いい角度だ。成長したなソフィーよ。って、む?)


 ソフィーが頷いて、70階層に入って早々の漆黒の床石にアダマンタイトのスコップを、アレン直伝の掛け声と共に振り下ろした。


 アレンが「ソフィーはワイが育てた」と言わんばかりの態度で見つめていたら、アダマンタイトのスコップが淡く輝き始める。


 パアッ


「え、ええ!! 申し訳ありません」


「ちょっと、何よ。アレンが余計なことを教えるから!」


「おい、なんで俺のせいになるんだよ」


「も、申し訳ありません……」


 アレンの言葉でソフィーは大いに涙を浮かべる。

 ヘルミオスのパーティーもワラワラとソフィーの下へ集まり、フォローに回る。


(びっくりするくらい俺のせいみたいになった件について)


 アレンは今こそパーティーリーダーとして真価を発揮するときが来たと自覚する。

 大きく息を吸い込み丹田に力を込め、大声で叫んだ。


『皆さん! まだ攻略の途中です!! 過ぎたことは諦めて、ベストを目指しましょう! それがRTA走者のあるべき姿です!」


「イエッサー!」


 アレンの掛け声にタムタムにのったメルルが合わせてくれる。


『次の80階層は報酬を貰わねばなりません。90階層はスコップ無しで攻略すればよいだけです!! それでは行きましょう!!』


『ギャウ!!』


 今度はハクがアレンのノリに合わせてくれる。

 アレンたちはソフィーが空けた大穴に飛び込んでいく。


 71階層以降も罠使いが跋扈していた。

 風船に吊るされた傀儡人形が70階層までは多く見られたのだが、その形状とは違う罠使いも増え、霊獣たちは力を増す。


 しかし、仲間たち皆の努力の甲斐あって、転移罠を踏み抜くこともなく80階層へ入ることが出来た。


【80階層・残り7:53】

・鍵2個

・その他必要アイテム省略


 80階層のアダマンタイトで出来た通路をテミの指示通り抜けていった先に巨大な門がある。


(80階層で8時間切りか。5分の4攻略でこれだけ時間を残すことが出来たのは良いことか。スコップは失ったけど)


 71階層からは店も宝箱も全無視して80階層を目指してきた。

 おかげで、アイテムは少ないし、新たなスコップもツルハシも作ることが出来なかったが、時間を優先した結果だ。


 タイムアタックとは、確率によって毎回の挑戦の結果がぶれる中、何を優先するかの選択だとアレンは考える。


 80階層のボスは攻略報酬を得るために必ず倒さねばならない。

 これから戦う80階層ボスが竜神マグラの可能性もある。


「これって全てオリハルコンなのかしら」


「そうみたいだ。嫌な感じしかしないな」


 黄金ではない金色の問題。

 金よりも黄色が薄く輝いているのはオリハルコンの証である。


 大地の迷宮80階層を守る壁はオリハルコンで出来ていた。


 大地の神ガイアが創造したと言われる神の鉱石オリハルコンが惜しげもなく使われている。


「では、いきます」


(鍵の消滅はなしか。80階層攻略には『鍵』が必要と。あと2個の鍵はこれからの攻略に重要になってくるのか)


 扉に魔法陣が走り、ゆっくりと何かが起動する中、アレンは今後の攻略に必要なことを考える。


 ゴゴゴゴゴッ


 ソフィーが掛け声を止めて、鍵を扉の穴に差し込んだら巨大な扉が、床石を振動で揺らしながらゆっくりと向かってくるように開放された


『……』


 縦横10キロメートルはある巨大な空間が広がっている。

 ここは80階層の大迷宮の中にある80階層ボスの空間だ。


 空間の外に広がるアダマンタイトの床や壁と違い、オリハルコンに輝いている。


 空間の中央、アレンたちから5キロメートルほど離れたところに居る階層ボスと思われる者が、こちらを静かに見つめている。


 アレンたちは距離を詰めながらも、鳥Fの召喚獣を先行させる。

 仲間たちに一刻も早く覚醒スキル「伝令」で見た情報を共有させるためだ。


「階層ボスよね。何よ、この大きな塊はオリハルコンじゃない」


 セシルの言葉が全てであった。


 全長は300メートルくらいあろうか、これまでのどの敵よりも巨大だ。


 最初は小山のように見えた。

 キラキラとオリハルコンの結晶が無数に生え、眩しいほどのお宝の山だ。


 アレンたちに気付いたのかゆったりと甲羅から頭を出して、手足も動かし始めた。

 カメのように甲羅を身に纏い、甲羅の表面は巨大なツララで覆われている。

 巨大な体を4つの鱗で覆われた足で支えており、甲羅の窪みから出た頭にもゴツゴツとした角が覆われている。


 頭の反対には尻尾があり、亀というには随分と長く100メートル以上ありそうだ。

 その尾の先端は丸く膨らんでおり、鋭く尖った棘がおびただしく生えている。



(オリハルコンの体だ)


『まさか80階層まで攻略する者たちがいるとはな。大地の化身アンドレ。大地の神ガイア様の僕(しもべ)よ』


 80階層ボス「アンドレ」が口を開いた。

 大地の迷宮80階層ボスとの戦いが始まろうとしているのであった。

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