第178話 100万①
ティアモ攻防戦から3日が過ぎた。
アレンはティアモの街で、女王のいる広間に仲間と共にいる。女王や将軍から、この3日間のエルフ達の動きの確認をしている。この広間は相変わらず顔パスで入っていいようだ。
ローゼンヘイムのエルフ達は3日前の攻防戦で、ティアモや他の3つの街で合計10万個を超える魔石を回収することができた。更にアレンら自身が手に入れた魔石が7万個ほどあるが、10万個超についてはエルフ達が利用するという話になっている。
10万個超の魔石のうち5万個は、1万個の天の恵みに変えることにしている。
合間を見ては生成し、できたものから順次渡している。
召喚したままにしている虫系統に召喚枠を取られていることもあり、魔力上昇の加護が少なく、最大魔力がそこまで高くない。魔力回復リングを使っても、天の恵みは1時間に200個程度しか作れない。
そして残り5万個超の魔石は、ネストの街に送った。ネストの街から戦場の最前線であるティアモの街まで、厳重な警備の下魔導船を持ってきて、魔石を大量に積んで送り返したのだ。
この時5000人のエルフが魔導船に乗船して移動してきた。彼らは皆才能のある兵達であり、これから最前線で魔王軍と戦うことになる。
魔石を持って行った理由は、魔導船に魔石を供給するためだ。ネストの街とその周辺の空き地には何十という魔導船が魔石が足りず停まっている。それらの魔導船はこれからフル稼働で動き始めるという話だ。
Bランク以上の魔石5万個超があれば、それだけのことができる。
「しかし、1つの魔導船で5000人避難出来るとしても、全員を避難させるのにはどれだけかかるでしょうか?」
一通り話を聞いて、アレンが説明をしてくれた将軍の1人に問いかける。
「そうだな。この街だけでも70万以上の避難民がいる。まだ魔導船の復旧も終えておらぬからな。全員避難するには4、5日かかるかもしれぬが、それがどうかしたのか?」
なぜ、魔導船の運搬能力について確認するのかと将軍の1人が問う。アレンもその仲間達も、表情が切迫しているからだ。
「はい、悪い話がございます。このティアモの街に向け、魔王軍の軍勢100万が一直線に向かってきております。今は夜間のため移動を止めていますが、あと2日もあればティアモの街にやってくるでしょう」
「「「な!?」」」
驚くエルフの将軍達。女王も玉座から身を乗り出して驚く。
この3日間、ティアモの街から北上し、撤退した魔王軍をアレン達は執拗に攻め続けた。
その魔王軍は、ここから3日ほど移動したところで他の3つの街を攻めていた軍と合流し、さらに北からの増援部隊が合わさり100万ほどの軍勢になったという。
そして、合流してすぐにティアモの街に向け直進していると言う。アレン達はあれこれ手を尽くし、今日一日かけて流れを変えようとしたが、魔王軍は一切アレン達に目を向けずティアモの街に向かっていると言う。
「そ、それでは、最北の砦と同じではないか……」
アレンの報告に絶望をにじませながら、将軍の1人が言葉にする。
ティアモの街の何倍も高く強固な要塞が、ローゼンヘイムの最北にあった。魔王軍と戦うために作られたその要塞は、難攻不落と言われていたが300万の魔王軍によって陥落した。
(まったく、行動が早すぎるぜ。俺らが個別撃破で倒せても3万前後がせいぜいだからな)
今回の戦いは余裕があると思われていた。アレンの航空戦力に魔王軍は対応しきれていない。1日3万体の魔王軍を倒せるなら300万を100日で倒せる。
実際、アレンが来る以前のエルフ達との戦いでの魔王軍の損耗は軽微なものであったが、アレンがやって来てからの戦いで50万体近い魔獣達を倒されている。それは、魔王軍が即断して次の行動を移すのに十分な数であった。
更に、魔王軍はこの街にエルフの女王がいると判断したようだ。ローゼンヘイム唯一の精霊使いが守っているのはティアモの街だ。
そして、急な夜襲を受けたのもティアモの街だ。
さらに防衛戦でもっとも魔王軍に被害が出たのもティアモの街だ。
「その上で提案があります。女王を含めて撤退をしませんか?」
無理してここにいる必要はないと言う。
「ぬ?」
「アレン様、それはできません。先ほど言ったとおり、今現在ネストの街の魔導船は魔石を使い動かす準備をしている段階です。このままでは半分も避難民を運べないでしょう」
「残って魔王軍と戦うということでしょうか? 厳しいかもしれませんが、2日かけて避難民を街から2日分歩いて移動させるとか」
「魔王軍に直ぐに追いつかれるでしょう。それにアレン様に頂いたエルフの霊薬があります。一丸となって逃げ場のない我が国の民を守りましょう。それでよろしいですね?」
「「「は! 女王陛下!!」」」
怯えるものは誰もいなかった。命を賭けて戦う理由があるからだ。
「アレン様もお力添えを頂けるということでよろしいでしょうか?」
(ここには20万を超えるエルフの兵に、回復薬もあるからな。籠城すれば、持つかもしれないが、失敗すれば女王諸共全滅し、ローゼンヘイムの消滅か。一か八かなら確率が高い方がいいな)
「もちろんです。ですが、逃げないのであれば、1つ作戦があります」
「「「おおお!!!」」」
将軍達が思わず声を出す。この数日、奇跡を起こし続けてきた黒髪の少年の作戦だ。
またもや奇跡をもたらすに違いないと、皆視線をアレンに向け、何を言ってくれるのかと期待を持って傾聴する。
「この街に斥候はどれくらいいますか?」
「斥候か。そうだな。まあ3千人はいると思うぞ。我々エルフが斥候職の才能に目覚めることは少ないのだが」
20万の兵のうち3千人は斥候系の職業だと言う。これから100万の軍勢と戦わないといけないのに、なぜ戦力になりにくい斥候職の人数を確認するのかと将軍達は疑問を抱く。
「その中で、素早さを上げるエクストラスキルを持つ斥候はどの程度いますか?」
「ぬ? 索敵や追跡ではなく素早さ増加か?」
エクストラスキルはガチャ要素が高い。しかし、それぞれの職にあった能力のスキルになることがほとんどだ。
「そうだな。3000人のうち、少なくとも100人はいると思うぞ」
代表して答える将軍に、他の将軍が確かにと頷いている。確かな情報のようだ。
「では、その3000人のうち少なくとも2000人を私の配属にしてください。素早さを上げる才能の者は、できれば全員私の配属にしてください」
「ぬ? 3000人必要なら3000人で構わぬ。どうせ籠城で斥候の役目はそうないからな。アレン殿の命は絶対と伝えておく」
エルフの将軍はアレンの作戦を全て聞くことなく即答する。
「ありがとうございます。では、3000人の部隊にどのように動いてほしいか伝えたいので、指揮官を呼んでいただけたらと思います」
「すぐに呼んでこよう」
時間がないことが分かっているため、将軍の1人が女王のいる広間から出ていく。
「この説明の後私達は、魔王軍の進行を遅らせるべく遅滞作戦を敢行します」
「お願いします、アレン様」
女王が代表して返事をする。
「これから斥候部隊の指揮官に作戦を伝えますが、この作戦の成果に関わらず3日後には、数十万の魔王軍がティアモの街を攻めてくるでしょう。そのつもりで守りを固めるなどの行動に移してください」
アレン達で100万の軍勢は倒せないと断言する。あくまでも数を減らし進行を遅滞するだけの作戦になる。
そして、3日あるのだから、壕のようなものを精霊魔法で作るなり、何なりして守りを少しでも固めるように伝える。
「ソフィー」
「はい、女王陛下」
「アレン様をよろしくお願いしますね」
「はい」
ソフィーが遅滞作戦への同行を申し出る前に、女王がソフィーも一緒に行くように伝える。それが王族に生まれた者の定めのようだ。
「連れてきたぞ」
そう言って将軍が1人のエルフを連れてくる。どうやら斥候部隊の指揮官のようだ。
女王の間に急に呼ばれたことと、黒髪の少年がいることに指揮官は戸惑いを感じているようだ。
「夜分遅くにすみません。急ですが、現状とこれからについて説明をさせてください」
こうして、100万の軍勢との攻防が始まるのであった。
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