11章 神界編②原獣の園と大地の神ガイアの迷宮

第549話 家族に報告

 アレンたちは大精霊神の与える問題を解決した。

 半分ほどの大きさになっていた生命の泉が十分な水位に戻る中、精霊の園を後にする。

 大精霊神の祀る御山を破壊し、睨むポンズやコンズの視線も痛かったこともあり、今後の話をするためシャンダール天空国の王城へ移動した。


 アレン、ソフィー、ルーク、メルス、ルプトで、王城の一室に移動する。


「今日は誰もいないわね。フィオナは街かしら?」


 ペロムスたちがいた形跡が置いてある荷物から僅かにする。


「ペロムスと街で市場調査しているみたいだな。とりあえず、座って話そう」


(ペロムスは苦戦中か。金は必ずいるし、なんとかしないとな)


 アレンたちは円卓に座り、これからの話をしようと言う。


 天空王に会うために半月近く待たされたり、謁見の場でも「下界の者」という印象があった。

 あまり良いイメージを貰っていないのだが、メルスが召喚獣と分かり随分協力的になった。


 この会議室は、天空王にメルスが連絡したり、アレンの仲間の商人ペロムスが商売の取引に使うために借りた一室だ。


 メルスは今回の精霊の園の一件解決に向け、天空王の王城経由でルプトに連絡した。

 さらに、精霊を地上に向かわせるための契約書を天空王に依頼したりと色々動いてくれた。


 現在は取引のために神界の街に繰り出しているのか、ペロムスたちはこの場にはいないが、結婚したばかりの妻のフィオナと一緒に3ヵ月で金貨1億枚を用意すべく商売を進めてくれている。

 どうも、ペロムスは神界との契約に苦戦しているようで、現時点で金貨1億枚の目途が立っていない。

 アレンはペロムスに助力すべく、精霊の園の一件が終わったので天空国との取引に入ろうと思う。


「どうなるかと思ったけど、何とかなったわね」


 セシルがポツリと精霊の園での戦いから間もないこの状況で、一言漏らす。

 アレンはセシルの言葉に、思考をペロムスから先ほどの精霊の園の戦いに戻した。


『な、何とかって! 大精霊神様の御山をあんなにして!!』


 精霊の園にいる大精霊神がいる巨大な山は、人間世界と神界の命の循環を担っていたのだが、アレンたちは精霊獣との戦いで見るも無残な状況に半壊している。


(ふむ、厳しい問題だった。さすが、大精霊神の与えた問題よな)


 あの時の戦いの高揚が懐かしく感じる。


『こら! ルプト!!』


『ごめんなさい。お兄ちゃん……』


 セシルの言葉に、流れで一緒の円卓に座った創造神エルメアに仕える第一天使ルプトが思わず声を上げた。

 双子の兄であり、今はアレンの召喚獣になったメルスに怒られて凹んでしまう。

 メルスが召喚獣になっても兄妹の関係は変わらないようだ。


 キッ


(なんかまたルプトから睨まれたんだけど)


 ほのぼのとした状況に妹のミュラを思い出していたところ、ルプトから睨まれてしまう。


「これからどうするのだ?」


 ソフィーはローゼンが精霊の園で眠りにつき落ち込み気味だ。

 ソフィーに代わり、フォルマールがこれからどうするのかアレンに聞いてくる。


「そうだな。ソフィー、ルーク、フォルマールは神界闘技場に行ってもらうかな」


「闘技場か。私たちも神の訓練を受けると言うことだな」


「そうだ。この神界に来たのは、皆で強くなることだからな。3人ともエクストラモードになった。フォルマールには『俺が引いた』弓神様もいらっしゃるしな」


(その前にレベルも少し上げておくか。剣神の神域に入るといつレベルが上がるか分からないし)


 アレンは『俺が引いた』の部分のトーンを上げ、自らの成果を誇示する。

 神域への侵入を許可する羅神くじで、弓神コロネをアレンは引き当てている。


 エクストラモードになったソフィー、ルーク、フォルマールはまだまだ強くなれると言う。

 現在クレナとヘルミオスパーティーが向かった神界闘技場には、ソフィーとフォルマールを強化できるかもしれない弓神がいる。

 また、ルークがファーブルから貰った神器は短剣扱いのようなので、剣神から神技を授けてくれるかもしれない。


 精霊獣を倒したとき20上がり、ソフィー、ルーク、フォルマールのレベルは80になった。

 エクストラモードはレベルが99まで上がるので、数日アイアンゴーレム狩りしてもいいかもしれないなとアレンは思案する。


 アイアンゴーレム狩りだけでレベル99にするのは難しいが90辺りまでは比較的数日で上げることができる。

 ある程度レベルを上げてから、亜神級の霊獣を1体狩ればレベル99に到達する。


「なるほど、ただ、本件で起きたことを女王陛下に報告をしたい。数日、暇をくれないか?」


 アイアンゴーレム狩りの前にすることがあると言う。


「フォルマール! 今、そのようなことを……」


「ん? そうだな」


 今回、精霊の園の一件で、ローゼンヘイムもファブラーゼもエルフとダークエルフに関わる大きな決断をした。

 本件について、ソフィーとルークに女王と王に報告させる時間がほしいとフォルマールはアレンに提案する。


(フォルマールはなんか頼りになる感じになったな。何かあったんだろうな。最後、大精霊神は意味深な感じだったし、後で詳しく聞いておくか)


 あれこれ発言するタイプではなかったのだが、ソフィーに代わりグイグイと発言してくる。

 今回の精霊の園の一件でフォルマールも色々思うことがあるのだろう。

 アレンたちが見てこなかった世界を見てきたような覚悟ともとれる雰囲気がフォルマールにある。

 他の仲間たちは修行中の身なので勝手なことを言うなとソフィーは感情を口に出そうとするが、アレンは賛同する。


『じゃあ、私が送ろう』


 話がまとまったなとメルスが口を開く。


「いや、メルスもルプトと話をしたいこともあるだろう。水入らずだな」


 メルスは精霊の園の一件で、ルプトを創造神エルメアの代理として調停として呼び寄せた。

 さらに、天空王に指示をして精霊たちとの契約書を数千枚と大量に用意するなど、十分働き活躍をしてくれた。

 ルプトと久々に会ったようだし、兄妹水入らずで過ごすと良いと数日暇を与えることにする。


『本当! お兄ちゃん休むの?』


『む? いいのか? というか、ルプトよ。お前はエルメア様に今回の一件で報告があるだろう?』


『大丈夫よ。適当に報告しておくから』


(メルスはこれで性格は真面目なんだが、ルプトはおおざっぱな性格のようだな。ふむ、家族に報告ね)


 見た目がほぼ同じだが兄妹の性格の違いを感じる。


 メルスとルプトを置いて、アレンはソフィーとフォルマールをローゼンヘイムに移動させる。

 その後、ルークをファブラーゼの里に移動したら、目の前にルークの父でダークエルフの王オルバースが側近たちとアレンたちの目の前にいた。

 ずっと、アレン鳥Aの召喚獣の転移先として「巣」を設置した部屋で待っていたようだ。

 広間というほど広くない部屋に、長老らしき者や将軍らしき者たちが大勢いた。


「おお! ルークトッド様、よくぞ無事に戻られましたのじゃ!!」


 長老の1人がルークを見るや否や、ワナワナして涙ぐんで抱き着いてしまった。


「ちょ、おいって! やめろよ!! あ、父様! 大精霊神の試練を乗り越えたよ!!」


「うむ、さすが我が息子だ。よくやったぞ」


 ルークは長老に抱き着かれても嬉しくなさそうだが、奥にいるオルバース王には大精霊神の問題を解いたことを笑顔で報告する。

 その横にいる王妃の母が小さく震えているのは、もしかしたらルークが戻ってこないことを覚悟していたのかもしれない。

 王妃は無言で目に溜まっていた涙を拭った。


 せっかくの親子の会話だと、アレンはセシルと共にすぐにその場を後にした。


 アレンとセシルは、そのままアレンの実家のロダン村に向かった。


「ロダン村ね? 地上の用事って、ここなの?」


 転移した場所はロダン村だとすぐに分かったが、セシルは用事を聞いていない。


「……そうなんだ。俺たちのことについて両親にはちゃんと話しておきたいなと思って」


「ふぇ? ちょ! 私たちの関係って! 私、心の準備はできていないわよ!!」


 神妙な趣のアレンが見つめるので、セシルの顔が一気に赤くなる。


「俺もだ。けじめをつけたいから、横で見ておいてほしい」


「そんなに言うなら。わ、分かったわよ……」


 セシルが頷くとアレンたちは実家の村長宅に向かう。

 村長宅の前には行列ができており、よく見ると先頭には僧侶の才能があるミュラが、怪我を負った村人を癒しているようだ。


(この前に渡したマクリスの聖珠が活躍しているな。村もデカくなったし、毎日のけが人は多いのかな)


 アレンがミュラに渡したもの

・マクリスの聖珠 

 魔力回復1パーセント、体力5000、魔力5000、知力5000

・体力5000の指輪

・魔力5000の指輪


 ミュラに渡した理由は誕生日プレゼントだ。

 毎年、誕生日プレゼントをせがまれているアレンだが、2月に10歳になったミュラの誕生日プレゼントで、今年はマクリスの聖珠を渡した。

 それ以外の指輪は去年、誕生日プレゼントに渡したものだ。

 渋々指輪を受け取ったマッシュと違って、ミュラはおねだりが上手のようだ。


「あ! アレンお兄ちゃん!!」


「ただいま」


 アレンが来たことに気付いたミュラは、範囲回復魔法と範囲治癒魔法を並ぶ村人に振りまいて、駆けてくる。


「あれ? 今日は2人だけだね」


「そうよ。こんにちはミュラちゃん、セシルよ。覚えている?」


 セシルとミュラは、ローゼンヘイムの侵攻後に仲間たちで村に戻ってきた時など何度か会っている。


「うん、こんにちは! セシルお姉ちゃん!!」


 返事に笑顔で返すので、母性本能をくすぐられたのか、ミュラの頭をセシルがワシワシと撫でている。


「ミュラ、随分スキルが上がったんじゃないのか?」


「うん。魔法、毎日使ってるよ!」


(毎日か。これはスキルレベルがカンストしているな)


 ミュラは僧侶の才能をローゼンに与えられてからボア狩りに同行したりして、レベルやスキルレベルを上げてきた。

 教皇見習いのキールのコネで、スキル習得のために、エルメア教会の高位の神官を派遣してもらっている。

 S級ダンジョンで手に入った指輪に、マクリスの聖珠によって最大魔力が上昇し、魔力が自然回復する状態になって、すくすくとスキルレベルが上がっているようだ。


 アレンはセシルとミュラと共に1段高床式になった階段を上がり、実家に入る。


「あら? アレン? 帰ってきたの?」


 エプロンをしたアレンの母親のテレシアはアレンたちがやってくることに気付いた。


「ただいま。ちょっと、用事があって帰ってきた」


「そうなの。あら、セシル様もいらっしゃい」


「……お邪魔します」


 セシルがやや緊張気味の趣である。


「ちょっと、大事な話があって帰ってきたんだ。父さんもいるよね?」


 村長として隣村やグランヴェルの街に出かけることもあり村を不在にすることもあるので、ロダンの所在を確認する。


「え? ええ……、今は出かけているけど、暗くなる前には戻ってくるわ。大事な話って、ちょっと、夕飯そんなにいいもの出せないわよ」


 母のテレシアはアレンの奥にいるセシルが赤ら顔でうつむいているのを見て状況を察する。


「いいよ。母さんのいつもの料理が食べたいし」


 アレンの言葉に、心あらずに「そう」と返事をしたテレシアは奥の厨房に向かった。


 それから1時間もしないうちに日がすっかり落ち、夕飯の時間となった。

 

 両親がそれぞれの祖父母をロダン村に連れてきたので、両親、2組の祖父母、アレンとセシル、ミュラの9人で輪になって夕食をとることにする。

 床に座り、旅館に出てきそうな一人用の配膳の上には、それなりの料理を母は用意してくれた。


(あれ? 思ったよりも豪華な料理が出てきたな。セシルがいるからな)


 出来合いの物しか作れないと言っていた母がセシルに気遣ったのかと思う。


 アレンが懐かしさを覚える中、場の雰囲気はかなり重い。

 全員がもくもくと食事をとる雰囲気に、ミュラも黙ってしまう。


「実は父さん、今日帰ってきたのは大事な話があってのことなんだけど」


 アレンが最初に父に報告すると判断したことをテレシアは見逃さなかった。

 すかさず何やらアイコンタクトをテレシアはロダンに送っている。


「ん? おお! そうだな。お前もそんな年になったのか。父さんは嬉しいぞ。いや~、俺の時はもっと大変で……」


「あなた!」


「お、おう……。すまん。それで話とは何だ。アレン」


 ロダンがいきなり話を脱線しかけたことをテレシアが修正する。


(ん? 何の話だ?)


 父のロダンとの話がいきなりかみ合わなかった。

 だが、ここまで来て黙って帰るわけにはいかない。


「実は黙っていたことがあるんだけど」


「うん、アレン。言いなさい」


 今度はテレシアが前のめりになって返事をする。

 セシルの顔がいよいよ赤くなっていく。

 祖父母もミュラも場の雰囲気にのまれて、お椀を掴んだまま会話を黙って聞いている。


「実は俺たち魔王と戦っているんだ」


(ふ、とうとう言ってしまったぜ)


 アレンは目を瞑って、家族の反応を確認することにする。


「え?」

「え?」

「え?」


(ん?)


 ロダンもテレシアもそして、セシルからも何の話だと理解できなかったのか疑問の声を上げてしまうのであった。

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