第319話 光の先
テオメニアにいる魔神リカオロンを倒した翌日、ローゼンヘイムの女王の間にアレンたちはいる。
「すみません。短い期間で、このような対応をしていただきまして」
「いえ。エルマール教国の救済はローゼンヘイムとしても対応しないといけないことです。アレン様のお陰で、この国に大地は戻ってきましたから」
「ありがとうございます。では、また何かあったら連絡します」
アレンはローゼンヘイムのフォルテニアにある神殿で女王と会話をしていた。
そして、アレンたちを案内するように、エルフの兵たちが誘導する。
神殿を抜け、それなりに歩いてついた場所は巨大な倉庫だった。
かなり大きい倉庫で奥行きもある。
見上げるほどの扉を開けると、食料が袋に入れられ山のように積まれてある。
「フォルテニアが冬を越せるだけの食料があります。どうぞお使いください」
エルフの兵が胸を張り教えてくれる。
今何をしているのかというとエルマール教国のニールに食糧支援をしているところだ。
ローゼンヘイムに食料を分けてほしいといったところ、もちろんですと首都フォルテニアの食糧庫にある全食料を分けて貰った。
既に何十万人とエルフ達が戻ってきたフォルテニアの全食料を渡して大丈夫なのかというと全く問題はないらしい。
世界で最も食料を輸出しているのはギアムート帝国だと学園の授業で習った。
広大な土地を持つギアムート帝国は穀倉地帯がいくつもあるらしい。
戦争に大量の食糧が必要であるし、魔導具を買うためバウキス帝国にも食料を売っているらしい。
ギアムート帝国の数十分の一の人口のローゼンヘイムは、食料をほとんど輸出していないのだが、それは自分らが食べる分しか作らないかららしい。
作らないのと作れないのは全く違う。
精霊魔法使いの多いローゼンヘイムにおいて、木、土、水の精霊魔法の使い手も多いと言う。
ソフィーも木属性の精霊を顕現できる。
精霊との相性がとてもいいようだ。
その精霊魔法によって、食料を作ろうと思えば、ギアムート帝国に匹敵する量の食料を生産することも可能だという。
そして、戦争からの復興を見越して食料生産を去年から増産したばかりだという。
そういうわけで、もう4月という、冬が終わりこれから食料を増やしていかないといけないこの時期に大量の食糧を分けて貰った。
フォルテニアの食糧庫が空になっても、食料は近隣の街から調整できると女王から言われた。
「では。ありがとうございました。では、飛びますよ」
「はい」
案内してくれたエルフの兵と一緒にアレンは仲間と共に転移した。
「「「おおお!!!」」」
転移してすぐに歓声が上がる。
「こ、これは……」
ワナワナしながら、ニコライ神官が寄って来る。
ここは、エルマール教国のニールの街の近くだ。
アレンたちがここに食料を持ってくると伝えたので、神官たちが待っていてくれた。
そこに山積みの食料を持って飛んできた。
「ありがとうございます」
「どのような食料があるのか、エルフの担当の兵にも来てもらいました。後程説明を聞いてください」
山のような食糧はほぼ穀物なのだが、色々あるので、何があるのかの説明をするのにエルフの兵に1人来てもらった。
(ずいぶん喜んでくれているが、今年は食料生産が絶望的だろうしな)
邪教徒の攻撃を受け、小さな村や街が大きな被害を受けた。
ニールのように大きな外壁に囲まれた街であるなら、邪教徒の侵攻を防げた。
しかし、木の柵を組んだ程度の村だととてもじゃないが侵攻を防ぐなど無理であった。
エルマール教国の食料生産を担う村や街が攻撃を受け、現在も移動に制限がかかる状況だ。
隣国からの支援についても、魔導船の運航を休止している状況だ。
邪教徒に噛まれて1日経つと邪教徒になってしまう。
爆発的に増える可能性があるが、殲滅するには時間がかかる。
それらを解決するための食糧支援だ。
街の外に出る機会を最小限にし、その間に召喚獣たちを使いエルマール教国の邪教徒たちを一掃する。
深く頭を下げ、神官たちがお礼を言う。
元々アレンが必要ではと動いたことで、求めてもいなかったことだ。
「これで、大方のことは片付いたはずです。召喚獣については今後数が減るかもしれませんが、徹底的に対応しますのでご安心を」
虫Aの召喚獣が日々、親ハッチと子ハッチを生み続けている。
空も飛べ機動力もある。
使役したトロルキングとオーガキングも千体を超えた。
これらは、街から街への食糧を運ぶための護衛の役目も担ってもらう。
さすがに、食料の運搬作業は、エルマール教国の仕事だ。
「何から何までありがとうございました」
一瞬、ゆっくりお礼をさせてほしいと言おうとしたが、既にメルルがタムタムを降臨させている。
既に次への行動に移しているようだ。
アレンからは先日、テオメニアの魔神を倒したことを聞いている。
そして、テオメニアに跋扈する邪教徒と魔獣たちも殲滅したことも聞いている。
既に結界化され、安全であると。
今後、テオメニアへの移動も含めての話し合いになる。
神官たちが手を振ったり、頭を下げる中、アレンたちはタムタム(モードイーグル)に乗り込んでいく。
「それで、方角は問題ないか?」
「問題ないよ。真南だったし」
操縦室でメルルがタムタムを操縦する。
目指す先は、教都テオメニアの神殿で、祭壇から伸びた光の柱の向かった先だ。
確かに光の柱は上空まで上がると、そのまま真南に進んでいた。
南に行くと何があるのか大体予想はできる。
きっと邪神教の教祖グシャラがいると予測する。
タムタムのバルカン砲で祭壇ごと消し飛ばしてしまったため、光の柱は伸びていない。
真南に光の柱は伸びていたので、ニールからテオメニアに行って、南進する予定だ。
タムタム「モードイーグル」の操縦席の前には連合国のある大陸が表示されている。
そして、窓もしっかり備え付けられており、フロントの窓からは連合国の空の景色が広がっている。
「すまないが、ちょっと部屋に戻ってもいいか?」
移動を開始して早々にドゴラが口にする。
「ああ、問題ない。何かあれば呼ぶよ」
アレンは問題ないと伝える。
ドゴラが素振りやら筋トレをしに自分に割り当てられた部屋に行く。
メルスから特別なエクストラスキルがあると聞いたが、だからといって使いこなせないのでは意味がない。
何が正解か知らないが、特訓の果てに手に入ることが分かったので、タムタムに乗っていてもできる特訓をすることにする。
メルスがおだて上げたせいで、鍛錬熱がこれまで以上になってしまった。
そして半日ほど移動すると、とうとう大陸の中央までやって来た。
「あれ、何かしら。島かしら?」
「島だ。アレン、島が浮いているよ!」
セシルとクレナが目の前に映るはずのないものが見えるので、思わず声が出る。
皆が操縦室のフロントの窓から陸地が見えるのだが、タムタムはそれなりの高度の上空を飛んでいる。
あまり低空を飛ぶと魔獣の攻撃を受けるからだ。
移動を優先し、見張りの負担を減らすために高めに飛んでいたタムタムから見ても上空に島が浮いている。
結構な大きさの島が何で飛んでいるか知らないが、むき出しで大地から隔絶した状態だ。
そして、白い光の膜のようなものが島の全面に見える。
島自体が大きすぎて全容は分からないが、光の柱と同じ色合いのこの光の膜が島全体を球状に覆っているようだ。
「どうする? もっと近づく?」
光の膜が目の前までやってきたところで、タムタムを停止させ、アレンにどうするか確認する。
「とりあえず、島の全容が知りたい。光の膜には近づかず、島をぐるっと回ってくれ」
「分かった!」
タムタムは光の膜から少し離れた位置を保ち、上昇を始める。
島が浮いているので、島の全容を見るためだ。
(全長10キロメートルくらいの島かな。結構デカいな。誰もいないのか?)
岩がごつごつしており、生き物らしい生き物もいない島のようだ。
仲間たちがタムタム(モードイーグル)の両サイドの窓から手分けして何かないか覗き込む。
「あれ? 島に何かあるよ。お城だ」
クレナが窓から何かに気付いた。
どれどれと仲間たちが駆け寄って来る。
「ああ、島の中央の山に城があるぞ。これは神殿か?」
アレンもこれが何か分からないが、城というより神殿のように思える。
皆が一斉に初めての建造物を発見する。
かなり大きな城か神殿のようなものが島の中央の山になっている部分に鎮座していることが分かる。
そして、神殿の中央で煌々と何かが燃えているようだ。
アレンは島の全容を魔導書に転写していく。
アレンが見たものをそのまま魔導書に絵にすることが可能だ。
「島はここまでかな。他に何かないかな。ってあれって」
宙に浮いた島の端から端まで進んでみたが、島の中央に神殿があるだけだねとメルルは言う。
これで島について気付くことは全てだと思ったが、もう1つ見覚えのあるものを発見した。
「これって光の柱じゃないのか」
キールが仲間たち全員が思っていることを代表して口にした。
北からタムタムに乗って宙に浮かぶ島にやって来た。
そして、アレンたちがタムタムの操縦室から見たのは、島の南へと延びる光の柱だ。
「じゃあ……」
「恐らくそう言うことだ。問題は解決していない。エルマール教国のように邪教徒に襲われている国がまだあったんだ」
エルマール教国について、一定の救済をしたアレンたちだが、光の柱がはるか南に続いているのを見て、さらなる戦いが待っていることを知るのであった。
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