第320話 チーム

 光の柱は1つではなかった。

 そして、エルマール教国だけが襲われたわけではなかった。

 教都エルメニアからは光が垂直に上がっていた。

 アレンたちは、南の方から柱が水平に島を覆う光の膜に注がれているように見える。


「どうするの?」


 セシルがこれからどうするのかと聞いてくる。


 祭壇から光の柱を通して、連合国のある大陸中央に浮かぶ島に何らかのものを集めていた。

 南は恐らくまた邪教徒たちに人々が襲われていると思われる。


「いや、島を上空から縦断したが、他にも光の柱があるかもしれない。島の沿岸部を一周してくれ。メルル」


 まだ島の南端から光の柱が伸びていることしか分からない。


「分かった」


 他にどこかに続く光の柱があるかもしれないので、メルルにタムタム「モードイーグル」で移動してもらう。


 全長10キロメートルかそこらの島なので、島の外周は30キロメートル程度だった。

 すぐに一周回って、南の柱の前に戻って来た。


「3本かよ。3カ所もあんな状況になっていたのかよ」


 キールが苦々しい顔をしている。

 島から伸びる光の柱は3本あり、東西南の方角に続いていた。

 北は破壊したので、柱は元々4つあったことになる。


(3カ所か。どうする。というか何故分からなかった。救難信号も送れないほどの状態なのか? いや、遅れて始まったのか)


 まだエルマール教国の救難信号を受けて6日しか経っていない。

 しかも、昨日魔神が倒され復興の道を今日歩み始めたばかりだ。

 エルマール教国が世界全土に救難信号を送っているので、他の3箇所にある国がわざわざ、エルマール教国に救難信号を送るとは考えにくい。

 既に同じ状況で攻め滅ぼされそうな国に助けてほしいとは思わないだろう。


 他にも例えば、魔導具の通信設備のある都市が真っ先に落とされ、連絡できる状況にはない。


 あるいは、近隣の国には助けを求めているが、離れた場所にあるエルマール教国まで情報が伝わるには至っていない。


 もしくは、近隣国と仲が悪く、救難信号は送らなかった。


(何か理由を考えたらどんどん出てくるぞ。今すべきことは)


 アレンは心の中で状況を整理しつつ最善の方法を考える。


 仲間たちもどうしようか考える中、アレンは操縦室に備え付けられた窓に近づいていく。


「む? 召喚できないな」


「え? どういうことよ?」


「いや、島の中央に神殿があっただろ。恐らく、今回の一件を企てた奴がいると思うから、そいつを倒せば解決するかもしれないからな」


 そう思って、窓の外の、光の膜が覆われた島よりの内側に召喚獣を召喚しようとしたが、無理だった。

 光の膜の内側には召喚はできないようだ。


『恐らく、結界か何かだろう。アレン殿の召喚は障壁があれば召喚できないからな』


 目に見えるところなら何でも召喚できるが、障壁扱いになり光の膜の内側には召喚できないということだろう。

 ならばと、光の膜の外側に虫Aの召喚獣を召喚する。


「ハッチ、この光の膜を破壊しろ」


『ギチギチ』


 虫Aの召喚獣は島全体を覆う光の膜を、腹部にある巨大な針で貫こうとする。

 こんなもので人間が刺されたら、風穴が空くどころでは済まない。


 バチバチッ


「おっと。アレン、危ないよ!」


 虫Aの召喚獣の腹部の針が光の膜にぶつかった瞬間に閃光のような光が針の先端に発生する。

 そして、衝撃で虫Aの召喚獣が吹き飛ばされてきたので、メルルが慌てて操縦桿を握る。

 Aランクの召喚獣では光の膜を破れないようだ。


 とりあえず、メルルに視線を送って破壊できないか指示をしてみるが、結果は同じだろう。


「結界だな。う~ん、光の柱をすべて破壊したら、この結界は消えるとかそういう奴なのか」


 メルルも一緒になって、何度も攻撃するが、弾き返され吹き飛ばされるのを見ながら状況を整理する。


(というより、今優先すべき事が決まってきたようだな)


「じゃあ、3手に分かれないとだな」


 既視感がある言葉をキールが口にした。

 エルマール教国が襲われたとき、教都テオメニアに行くべきか、救難信号を送ったニールの街にいくべきか、それとも二手に分かれるべきかで議論になった。


「いや、恐らくだが、全ての柱と祭壇の前には魔神がいるんじゃないのか」


 教都テオメニアでもそうだったが、恐らく祭壇を守るために魔神がいると思われる。

 とてもじゃないが8人で三手に分かれて、敵いそうにないとアレンは口にする。

 メルスを合わせても9人だ。


「それでも別れた方がいいって話だ。テオメニアには祭壇の前に魔神がいただろ。別に魔神と戦う必要はねえさ。邪教徒や魔獣に困っている人を助ける。それを優先すればいいんじゃねえか」


 今回は、キールは折れなかった。


「たしかに。だが、魔神が出てくるかもしれないぞ」


 キールの言うことは尤もだと思う。

 しかし、祭壇を守る魔神がボス感を前面に出して、光の柱の前で待っているとは限らない。

 アレンは基本的に安全を第一に動いている。


「アレン、少しは俺たちも信用してくれ。魔神がいたら逃げるなり、召喚獣で連絡を取り合うなりできるだろ」


 アレンはその言葉を聞いて、仲間たちを見る。

 アレンを除いて皆同じ考えのようだ。


 三手に分かれて、邪教徒からの人々の救済を最優先する。

 恐らく魔神を除いて、Aランク以下の邪教徒と巨人系統の魔獣で構成されていると思われる。

 それらを相手するだけなら、パーティーを3つに分けても問題ない。

 魔神とは戦わず、人々を救済することが今やるべきことだと、皆は思っているようだ。

 もしも、強敵に会ってもアレンが助けに来るなり、召喚獣を使って逃げるなりの対策をしたらよい。


「……そうか。そうだな。俺が安全を気にし過ぎたな。パーティーを分けるぞ。少し考えるから香味野菜、天の恵み、金の豆、銀の豆を100個の袋にしていってくれ。あとドゴラをこっちに呼んできてくれ」


 そう言って、あれこれ指示をしながら、収納から100個単位でどんどん操縦室に出していく。


(在庫的には3つに分かれてもまだまだ問題ないか。収納なしだと荷物になるし全部持っていくなら各200個くらいが限界か。それでも足りないなら補充が必要と)


 戦場となっているギアムート帝国、バウキス帝国、ローゼンヘイム、そして今回の騒動のエルマール教国にアレンは自らが作った回復薬を配り続けた。

 しかし、ダンジョンを攻略しながら、嫌な顔をするメルスにも生成させながら在庫を増やしてきた。

 ストックはまだ十分あるので、そうそうなくなりそうにない。


 それぞれの在庫

・金の豆6800

・銀の豆6800

・天の恵み30000

・香味野菜15000

・魔力の種50000

・命の葉1000000


 魔石の在庫

・Sランク6895

・Aランク1万

・Bランク240万

・Cランク100万

・Dランク7万

・Eランク1000万


「召喚獣たちもエルマール教国から呼ぶのか」


「そうだな。散り散りで活動している召喚獣たちの整理もしないとな」


 パーティーの分け方を考えつつ、80体ある召喚獣の枠についても整理する。

・ギアムート帝国北部10体

・ローゼンヘイム北部20体

・エルマール教国15体(内10体は西東に移動予定)

・ロダン村等そのほか5体

・転移用鳥Aの召喚獣10体


 アレンは30体近く活動させていたエルマール教国の獣Aと全ての召喚獣を削除した。

 そして、霊Aの召喚獣は連絡用に1体を残して削除した。

 既に虫Aの召喚獣と使役したAランクの魔獣で数は十分にある。


 これで、東、西、南の3カ所に10体ずつ召喚獣を送ることができる。

 虫Aの召喚獣を一旦カードに戻すと親ハッチと子ハッチが消え、使役した魔獣が死んでしまう。

 この辺りが万能に見える虫Aの召喚獣の弱点のようだ。


 連合国の東と西に飛んで移動させることにする。


「じゃあ、チームを発表するぞ」


 あれこれ同時並行で考えていたが、チームのメンバーが決まったので発表することにする。


「チーム。おお! チームだね」


 アレンの仲間たちは『パーティー』というアレンをリーダーとする冒険者ギルドに登録してある組織とは別の概念について知っている。


 それは『チーム』と言って、現在8人で活動しているが、常に8人全員で行動したほうが、効率がいいとは限らない。

 クレナたちは転職を繰り返して随分強くなった。

 それはリカオロンとの戦いで証明されたとアレンは考えている。


「そうだ。クレナ、3つのチームとそのリーダーを発表するぞ」


 『チーム』とはパーティー内小集団で、それぞれにチームリーダーが存在する。

 構想としては皆に話をしてきたが、こんな形で実行されるとはとも思うが仕方ない。

 今回は、キールの意見の方が正しいとアレンも感じた。


「おおお!」


「まず、東には俺が行く。アレン、セシル、ドゴラだ」


「ええ、リーダーはアレンかしら」


「そうだ。セシル。俺が3人のチームリーダーになる」


「南には、キール、メルス、クレナだ」


「うん分かった。チームリーダーは?」


 クレナが、チームリーダーは自分がいいと言う視線を送る。

 クレナの目がこれまで以上に輝きを発する。


「そうだな。メルスがいいかな」


『いや、アレン殿。これは人間たちでやってくれないか?』


 既に光の膜の破壊を諦め操縦室にいるメルスはリーダーをやらないと言う。


「そうか。確かにそうだな。なら、キールだ」


「ああ、分かった。俺が言い出したことだからな」


 そして、クレナの瞳から輝きが消えていく。

 クレナが明らかに不満そうだが、メルスがやらないならキール一択だ。

 クレナもしっかりリーダーを任せられるようになってくれとフォローをしておく。


「最後に、西にいくのは、ソフィー、フォルマール、メルルだ。チームリーダーはソフィー任せたぞ」


「西ですか?」


 一瞬ソフィーの顔に緊張が走った。


「そうだ。ソフィー。キールも聞いてくれ」


「うん?」


「俺のツバメンもオキヨサンも同行するから、俺の意見を聞くこともできる。しかし、どんなことがあっても自分らで判断してくれ。そのためのリーダーだ」


 鳥Aの召喚獣を同行するので転移で助けることも、霊Aの召喚獣で助言もできる。

 しかし、リーダーを任せたので基本的に自ら判断するように伝える。


「そうだな。分かった」


「分かりました」


「ソフィー。何度も言うが、全て任せるから自分で優先順位を決めてくれ」


「はい」


 ソフィーは、今度ははっきりと自信をもって返事をした。

 

(こんな感じかな。なんだかんだ言って、完全なバランス重視だな)


 召喚ができるアレンとメルスは分かれるのは当然として、チーム「ソフィー」は対処能力が落ちる。

 チーム「ソフィー」は、精霊を顕現できるソフィーと、タムタムを操縦するメルルを配置しバランスを取る。

 ソフィーとメルルがアレンとメルスを除いて頭1つ出た存在になってきているので丁度良い。

 その他にも前衛と後衛なども考慮にいれたチームだ。


 こうやって行先とチームメンバーとチームリーダーを決めた。


 東:アレン(リーダー)、セシル、ドゴラ

 南:キール(リーダー)、クレナ、メルス

 西:ソフィー(リーダー)、フォルマール、メルル


「じゃあ、ここで一旦お別れだ。皆よろしく頼むぞ」


「「「おう!!!」」」


 こうして、光の柱の先で助けを求める人々のため、パーティーを3つのチームに分けたアレンたちであった。

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