第27話 レベルアップ②

 アレンは1人、休耕地の中心でアルバヘロンを押さえ込んでいる。


「やばい、2体も降りてくるとは思わなかった。死ぬかと思ったぜ。まあ召喚獣は1体もやられていないから完全試合だったな」


 思わず独り言をいってしまう。


 ゲルダとともに村長宅にアルバヘロンの徴税方法について尋ねた。それから、3日に1度のペースでアルバヘロンを狩り続けた。どうやら上空にアルバヘロンが飛んでいる状態で3体の虫Gの挑発があれば、激怒して地面に降りてくるようだ。


 虫G1体でも2体でも降りてこないし、上空に飛んでいないと降りてこない。また、対象が魔獣限定と考えられる。いまのところ、タンチョウのような魔獣ではない鳥が上空にいても降りてきたことがない。


・空にアルバヘロンが飛んでくるまで待つ

・虫G3体による挑発

・降りてきたら、やられる前に虫G3体をカードに変える

・虫F2体による吸い付く

・石を投げ弱ったところで、獣F16体で囲みつつ引き倒す

・首を木刀で押さえつけて止めを刺す


 初戦で苦戦したものの、召喚獣の特技を把握できたため2戦目以降は、無傷で勝った。いわゆる勝ちパターンというやつである。


 そして、今日も捕まえようとしたら、なんと2体同時に降りてきたのである。そういえば、アルバヘロンは単体であったり、複数の群れで飛んでいる。


(もう少し虫Fのチューを増やすかな。事故ったら怖いからな)


 そうこうしているうちに魔導書が淡く光る。木刀で首を押さえ込んでいたら、止めをさせたのだ。


「やった、レベルが上がった!!」


 さらに大きな声で独り言を言ってしまう。魔導書には銀の文字で倒しましたの文字のあとに、黄色の文字が続いていた。


『アルバヘロンを1体倒しました。経験値100を取得しました』


『経験値が1000/1000になりました。レベルが2になりました。体力が25上がりました。魔力が40上がりました。攻撃力が14上がりました。耐久力が14上がりました。素早さが26上がりました。知力が40上がりました。幸運が26上がりました』


(や、やばい、めっさ上がった。さすが剣聖に並ぶ能力値だな。それにしてもSのステータスとCのステータスじゃ上昇値が随分違う。なるほどなるほど)


 ステータスがどうなったか確認する。


 【名 前】 アレン

 【年 齢】 6

 【職 業】 召喚士

 【レベル】 2

 【体 力】 39(65)+80

 【魔 力】 36(60)+35

 【攻撃力】 14(24)+80

 【耐久力】 14(24)+16

 【素早さ】 30(51)+26

 【知 力】 42(70)+10

 【幸 運】 30(51)+35

 【スキル】 召喚〈3〉、生成〈3〉、合成〈3〉、強化〈2〉、拡張〈2〉、削除、剣術〈3〉、投擲〈3〉

 【経験値】 0/2,000


・スキルレベル

 【召 喚】 3

 【生 成】 3

 【合 成】 3

 【強 化】 2

・スキル経験値

 【生 成】 11,933/100,000

 【合 成】 2,610/100,000

 【強 化】 1,480/10,000

・取得可能召喚獣

 【 虫 】 FGH

 【 獣 】 FGH

 【 鳥 】 FG

 【 草 】 F


・ホルダー

 【 虫 】 F2枚、G3枚

 【 獣 】 F16枚

 【 鳥 】 F2枚

 【 草 】 F7枚


(なるほど、レベルアップすると体力と魔力が全快するのか)


 召喚スキルのレベルアップ時は、いつも魔力を消耗している状態なので、魔力が全回復しているのは新鮮である。


(増えたステータスは()内に加算されて0.6掛けか。そのままレベルアップ分が増えたりはしないと。このあたりはシビアだな)


 魔導書を見ながらステータスの増加分を確認する。


(6年かけてようやくレベルアップしたな。この世界では、レベルアップのことを神の与えた試練を乗り越えるとか、達成するって言うんだったっけか)


 レベルが上がったことで思い出す。ロダンは常人よりずいぶん力持ちだ。水くみ場から自宅の水甕まで運ぶ用の桶もかなり大きい。恐らく何十体とグレイトボアを狩ってきてレベルが上がっているのだろう。

 どうしたら父さんみたいに強くなれるのか聞いたことがある。そしたら、人には神が試練を与えており、その試練を乗り越えると、神が力をお与えになるとのことである。これが異世界の人のレベルアップの考えや神への信仰のようだ。


(おっといけない。そろそろやってくるから。急いで戻らないと)


 慌てて2体目のアルバヘロンを先に倒した1体目のアルバヘロンに重ねるように置く。まとめて抱えて持って帰る。あまり時間がない。


「ただいま!」


「!? おかえり」


 驚かないように返事をするテレシアである。今日もアレンがアルバヘロンを捕まえてきた。それも今日は2体である。


「今日も捕まえてきたのか」


 土間にいるロダンからも声が掛かる。


「うん、父さん。って大丈夫?」


 ロダンはこの1か月で随分体が良くなってきた。座っていることも、立っていることもできるようになった。ただあまり長いこと立っていたり、移動するとお腹に痛みを感じるようだ。今は座って刈り取った小麦の藁を棒で叩いている。こうして叩いて柔らかくして、それから編んで草鞋や冬靴を作る。


 結構大きめなこん棒で叩くので傷が開かないか、アレンがロダンの身を気遣うのだ。


「ああ、アレンにばかりなんでもさせるわけには……」


 ロダンがアレンの顔を見て固まる。何かの変化に気付いたようだ。


「え? 父さん?」


「いやなんでもない。気のせいだ」


(お? なんだなんだ?)


 その時である。


 カーン

 カーン

 カーン


「ああ! いけない、クレナが来る前に干しておかないと」


 そう言ってアレンがアルバヘロンを担いだまま外の細い用水路に向かう。ここにはアルバヘロンの血抜きをするための、物干し台のようなものが取り付けてある。

 高さは2メートルちょいあるので、薪やらなんやら家にある棒や板を使って作った簡素なものである。これを使って、アルバヘロンを逆さまに吊るして、首を切って血を抜く。血は用水路を流れていく。


「あれーん」


 クレナが元気に走ってくる。手には木刀を握りしめている。


「やあ、クレナ。ちょっと待ってね。今終わるから」


 クレナとは毎日遊んでいる。だいたい13時過ぎから16時の間までだ。しかし、3日に1回は狩りがあるから15時の鐘が鳴ってから来てと伝えている。それまでに捕まえて、用水路の上に吊るしておくのである。


 2体のアルバヘロンの作業をしているとクレナがやってくる。


「あれんすごい! きょうは2たいつかまえたんだ!!」


 キラキラした目で見られる。魔獣について恐怖心がないクレナである。かなり怖がりのマッシュに見習わせたいなと思いながら2体の血抜きまでの作業を手早く終わらせる。


 これから1時間ほど遊んでクレナは帰宅する。マッシュは家の窓からその様子を見ている。マッシュが外に出るのは来年の春からという話である。もうすぐ3歳だ。


(とりあえず、10体のノルマが終わったぞ)


 1体を解体したら1回分のボア狩りの報酬なみの肉塊が手に入った。10体なので、これで冬は越せそうである。あとは干し肉にして薪などと交換する作業がある。


(来月になるとアルバヘロンが飛ばなくなるから今月中はなるべく多めに狩らないとな。次のレベルまで20体か。今年中にレベル3は難しいかな)


「隙あり」


 ごっこ中も考え事をしていたら、コツンと頭を叩かれる。


「いたた」


「もうっ! ぼーとしたらだめ!!」


 アレンが真面目にやらなくて頬を膨らませるクレナ。ごめんよと頭を摩りながら謝るアレンであった。

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