第576話 魔法神イシリスの研究施設
丸4日間、魔導船の中で終日、アビゲイルから貰った霊石を全て消費する勢いで創生スキル経験値を上げる日々を過ごしてきた。
5日目の朝、魔導船の食堂で皆と食事をとっている。
ジャガイモ顔のドゴラも、この時だけは修行を止めて皆と食事をとる。
「結構長いな。まだつかねえのか? 俺、大地の迷宮ってところに行きたいぞ」
ドゴラがそろそろ着いてもいいんじゃないのかと肉をはさんだパンにかぶりつきながら声を漏らす。
「そうだな。だいたい3日もあれば、どこの神域にも到着するってピヨンさんが言っていたような」
(神界で最も離れている原獣の園でも3日とかって話だし)
魔導コアを連結しまくったこの魔導船の出力は天空船にも引けを取らない。
ブーブー
(ドゴラがブーブー言うから警報がって、敵襲か!?)
各室や廊下などに設けられた警報の魔導具がけたたましく鳴った。
くだらない冗談から頭を戦闘モードに切り替える。
「なんだ? 霊獣か!!」
仲間たちの中で割とビビリ症のキールが立ち上がりあたふたする。
『ちょっと、総帥。聞こえている? イシリス様の神域がないわ! もう1日探したわ!!』
船内に魔導具を通じて、ララッパ団長の叫び声が響く。
アレンたちは慌ててラウンジを出て、魔導船の操縦室に向かう。
魔導船の正面には前方がスクリーンで、外の様子が映し出されている。
「え? これは……」
キールはスクリーンを見て息を飲んだ。
(なんと!)
「何もないわね。ララッパ団長、どういうこと?」
アレンは言葉に詰まり、セシルはララッパ団長に問いかける。
駆けつけてきたアレンたちが見る魔導船の外の景色には、大陸らしい大陸、島らしい島も岩石もない。
遥かなる空の景色が続いていた。
「ちょっと、アレンさん見てください。羅神くじがこのように……」
操舵士ピヨンが操縦席を見るように言う。
操縦席の真ん前には、船の行き先を教える羅神盤が取り付けられており、その上で魔法神イシリスの羅神くじがグルグル回っている。
アレンはこの様子に前世のどこかのテレビ番組で見た、富士の樹海で磁場が強くてコンパスが回る光景を思い出した。
「もしかして、ここが魔法神の神域ということですか?」
「そうなんです。昨晩に到着したのですが、どうも見つからず……」
操舵士ピヨンが気まずそうに答えてくれる。
昨日からこの状況なら、アレンは何かあったらすぐに報告してほしいと思った。
この世界には「報連相」がないのか、さすがにそんなことはないかと自らの考えを否定する。
改めて正面のスクリーンには何も映し出されていない。
魔法神イシリスの神域が、宮殿や城ほどの大きさで小さすぎるのかとも思ったが、それでも発見できないのはおかしい。
(クワトロを呼ぶかな。いや、さすがに、今は大地の迷宮を攻略中か)
特技「万里眼」による索敵能力も優秀だが、クワトロがいないと発動できない。
ヘルミオスのパーティーも合流して大地の迷宮を目下攻略中だ。
共有は、召喚獣の特技や覚醒スキルを召喚士が使える能力ではない。
意識を共有し、召喚獣に特技や覚醒スキルを使わせるスキルなので、召喚獣が離れ離れになると使いようがない。
(メルス、魔法神イシリスの神域がないぞ)
メルルたちと一緒に大地の迷宮を攻略中の元第一天使のメルスの意識に語り掛ける。
『イシリス様の研究施設がか? たしか、デスペラード様が以前の魔王軍の侵攻もあってか、別次元に隠したと聞いているな』
女神である魔法神イシリスの夫は時空神デスペラードだ。
アレンたちも、審判の門をくぐる際に、時空神には会っている。
(時空神がか。じゃあ、見えていないだけか)
『恐らくそういうことだ。アレン殿の言うところの「キューブ状の物体」が入り口を案内してくれるはずだ』
「……どうやら、本当に見えていないだけのようだ。外にホークを出して散策させよう」
アレンは外に5体ほどの鳥Eの召喚獣を召喚させる。
千里眼を発動させながら、辺りを見回す。
「どう? 見つかりそう?」
「ああ、あったぞ、セシル。すみませんが、ピヨンさん、右舷に旋回してあちらの方に……」
アレンは50キロメートルほど離れた場所に魔導船を誘導させる。
そこには1体のキューブ状の物体がポツン浮いている。
アレンは鳥Aの召喚獣の加護「飛翔」で外に飛び出て、キューブ状の物体の下へ向かう。
『これは、アレン様方御一行。魔法神イシリス様の羅神くじを引いたと天空王より連絡は受けております。魔法神イシリス様の研究施設へ向かいますか?』
「はい。お願いします」
『イシリスの「神殿の鍵」は別途必要ですが、お持ちですか?』
神域を案内するには羅神くじが、神域内に入るには別途「鍵」が必要だと言う。
随分、厳重な対応だなと思う。
「時空神デスペラード様よりお預かりしております」
神界に来る前にもらった「イシリスの神殿の鍵」を指し出したと思ったら、宙にふわりと鍵が浮き、キューブ上の物体にに飲み込まれていく。
『では、時空神デスペラード様の次元障壁を部分的に解除します』
カチカチカチ
ブウウウウン
キューブ状の物体がカチカチと体を動かし、六面全ての色をそれぞれ単色にさせると全面が発光する。
空間が窓ガラスを割ったかのように崩れ始めた。
キューブ状の物体を中心に波紋が大きく広がるように、時空に穴が開いたように、今までなかった空間が姿を現す。
「向こうの方に何かあるな」
穴の先には、巨大な物体が空の上に浮いているようだ。
どうやら、時空が歪められており、目の前をループするように通り過ぎてしまっていたようだ。
(前世のループの森を思い出すからやめてほしい演出だな)
前世で健一だったころのゲームの記憶で、同じ光景の森をひたすら進み、正解のルートを調べて進んだことを思い出す。
あの時は幼少の頃だったので、攻略本もなく絶望したものだ。
『魔法神イシリス様の研究施設への侵入が許可されました。魔導船のまま、どうぞお入りください』
壊れた時空の穴が、魔導船がすっぽりと入れるほど大きくなった。
アレンは鳥Fの召喚獣を使って、魔導船にいる操舵士ピヨンと連絡を取りながら、魔導船を誘導し、開いた時空の中に存在する巨大な物体に近づいていく。
(なんだろう。近づくと巨大な水晶だな。まるで飛行石かな。それとも第五使徒かな。というか魔導コアをデカくした感じだな)
上下が角の正八面体の物体で、一辺が100キロメートルほどあるようだ。
中は見えないが、水色に輝く巨大な物体が、ゆっくりと水平方向に回転している。
何か前世で似たような物を見たことがあるのだが、大きさは前世の記憶の比ではない。
その形は魔石の上位互換の魔導コアの形状を彷彿とさせる。
『入口が中央にありますので、そちらからお入りください。』
キューブ状の物体が付いてきて案内まではしてくれないようだ。
正八面体の中央の面と面が交差する辺の部分にぽっかりとした穴がある。
巨大な穴はアレンたちが乗ってきた魔導船も十分入れるほどの大きさだ。
魔導船の向きを調整し、回転する研究施設に合わせ、ゆっくりと中に入れる。
(ここが発着場か? 魔導船がぎっしりで中まで船で入れないな)
魔導船が正八面体の中にすっぽりと入ると、ここは魔導船の発着場のようだ。
かなり広い空間なのだが、無数の魔導船が所狭しと鎮座しており、これ以上奥に魔導船で入れそうにない。
魔導船の中にいる、セシルたちも魔導船で進めないことに気付いたようだ。
船から階段を降ろして、ゾロゾロと降りてくる。
「すごいわ! 見たことのない魔導船よ!! これは高速魔導船かしら」
「団長。こっちは何でしょう!! 動力部分見てください!!」
「ちょっと! あんたたち、何勝手に見てるのよ!!」
(ララッパ団長らを連れてきてよかったな。でも、原獣の園に行ってほしいのだが)
その中にはララッパ団長率いる魔導技師団のドワーフたちもいた。
彼らにとって魔法神イシリスは信仰の中心で、研究の拠り所の存在だ。
見たことのない魔導船が所狭しと鎮座しているので、ワクワクが止まらないようだ。
流石に目を輝かせ、騒いでいるララッパ団長らに次の目的地「原獣の園」へ行くようには言えなかった。
操舵士ピヨン1人に原獣の園へ魔導船を操縦して行ってもらうことにする。
アレンたちはピヨンの乗った魔導船を見送った後、内部へ向かって移動を始めた。
「ここに魔法神イシリス様がいらっしゃるのかしら」
試練が受けたいセシルは早く魔法神イシリスに会いたいようだ。
「どうだろ、ホークたちを飛ばしてみるか」
あまりに広いため、鳥Eの召喚獣たちを空高く飛ばし、辺りを散策させる。
上空にも太い鎖で縛った魔導船が博物館のくじらの骨の標本のように展示してある。
上空の魔導船も避けつつ、辺りを見回すが、魔導船とキューブ状の物体しかない。
「中央になんかあるぞ」
アレンたちは後ろ髪引かれる思いのララッパ団長らも連れて、中央にある何らかの装置へ到着した。
円状の魔法陣があり、外枠の光が真っすぐ上に伸びている。
『アレン様御一行ですね』
魔法陣の前に浮いているキューブ状の物体がアレンを認識する。
「そうです。これは何ですか?」
『昇降の魔導具です』
「魔法神イシリス様はどちらにいらっしゃいますか?」
『存じません。ですが、これより上の階層が魔法神イシリス様の研究施設です』
「下の階層は何ですか?」
この構造物は正八面体で2つピラミッドの底辺を合わせたような形をしている。
『下の階層は時空神デスペラード様の次元管理領域でございます』
「では、下の階層には?」
『申し訳ございませんが、時空神デスペラード様の領域への受入れ許可は下りておりません』
「何よ。そんなことを聞いて。上の階へは行けるの?」
アレンがいつもの調子で、ジグゾーパズルの外枠から埋めていくように、キューブ状の物体に質問していると、セシルがアレンの前に出て尋ねる。
『もちろんです。どちらの階層に行きますか?』
「どうやら上部は複数の階層に分かれているようだ。とりあえず、1つ上の階層へ移動してください」
『畏まりました。上部階層へ転移させますので、中にお入りください』
魔法陣の内部へ移動する。
床の幾何学的な模様が光ると、外枠から上部へ伸びる光の壁が輝き、アレンたちは1つ上の階層へ転移した。
「ちょっと! 今度はゴーレムたちじゃない」
「団長。見たことない形状のゴーレムがいますぜ」
「何私の許可なく勝手に見ているの。で、どこよ!!」
「……やっぱり、ピヨンさんたちと一緒に移動してもらった方が良かったんじゃない」
「まあ、そう言うな。ちょっとホークを飛ばして、魔法神がいるか調べてみるよ」
広い空間に所狭しと置かれたゴーレムたちを避けるように鳥Eの召喚獣を飛ばすのであった。
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