第51話 冒険者ギルド

 11月に入った。今日は半日休。午後から休みだ。


「これから出かけるのか?」


 昼飯を食べていると従僕長のリッケルから声が掛かる。ここは1階にある使用人用の食堂だ。いつもの従僕の服ではなく、普段着でいることに気付かれたようだ。この普段着も貸し与えられたものだ。結構立派な服である。


「はい、街に出かけようかと思います」


「そうか、だったら」


 そう言って色々教えてくれる。さすが従僕長だ。門限は特にないようだが、あまり遅いと執事に呼び出されるらしい。大体夜9時から0時までに帰宅するのが基本。門限が夜9時とかではないのは助かる。


 そういうリッケルは午後5時に仕事が終わると、街中の酒場に繰り出す。週に2、3回は出掛ける。たまに午後3時くらいに抜け出すので、執事にこっぴどく怒られているらしい。武勇伝のように教えてくれる。なんでも教えてくれる。


 グランヴェル家の紋章は必ず持ち歩くようにと言われて、はいと返事して食堂を出る。このまま1階から外に出る。


(今日は冒険者ギルドいってみるか)


 買い出しの途中で、寄れるような場所には寄った。しかし、街の中心近くにある市場と違って、貴族街の反対側にあり休みでないと寄りにくい場所がある。


 鎧を着た馬鹿デカい大剣を背中に担いだ人とすれ違う。


 この世界には冒険者と呼ばれる魔獣を狩って生活する者たちがいた。買い出しに行くと冒険者と思われる人たちを結構見かける。リッケルから聞いたのだが、この異世界には冒険者ギルドという冒険者のための組織がある。領主も冒険者ギルドに対して魔獣の討伐依頼をすることがあるとのことだ。


 4つある街の門のうち、貴族街のある北門と反対側の南門の近くに冒険者ギルドがあると聞いた。領都の端から端なので、かなり離れている。セシルのパシリの寄り道では遠すぎる。半日休に冒険者ギルドに行くことにした。調べたいことがある。


 街の中央にある市場まで、歩けば2時間かかる。街の反対側なら4時間かかる恐れがある。帰りが遅くなるかもしれないので走っていく。


(お! 冒険者が増えてきたな。剣に槍に杖もいるな)


 南門が正面に大きく見えてくる。そして、大通りに面した冒険者ギルドがある。冒険者がぞろぞろ出てくるこの大きな建物が冒険者ギルドってやつなのだろう。この辺は酒場や宿屋が多いようだ。


 中に入るアレン。


(ふむ、冒険者がパラパラいるな。結構空いているな)


 今は午後3時前だ。時間帯的に余り混んでいないかもしれない。辺りを見て回ると、結構な視線が集まってくる。髪の色かもしれない。8歳だからかもしれない。あまり混んでいなくてよかったと思う。


(冒険者か、俺でもなれるのか?)


 受付からもジッと見られる。綺麗なお姉さんだ。


「すみません」


「はい、なんでしょう?」


「冒険者って僕でもなれますか?」


「う~ん、僕何歳かな?」


「8歳です」


「冒険者は12歳からなの」


 ごめんねと言われる。


(ふむ、なれないのか)


 アレンは従僕になった。

 ロダンが村の発展に貢献した褒美として従僕になったので、このまま従僕でいようかと考えている。しかし、一生不自由な従僕生活を送るつもりは毛頭ない。


 まだ8歳のため、数年は従僕をやっておこうと考えているが、その後は冒険者でもと思った。しかし、12歳まで冒険者にはなれないらしい。


 従僕を辞めるときは、ロダンには、何年か従僕やってみたけど、どうしても自分には合わなかったと伝えるつもりだ。


 今日は、冒険者になること以外に確認することがある。


「そうですか。街の周辺の魔獣について知りたいのですが、何か資料みたいなものはありますか?」


「ごめんね、冒険者のための資料室には入ったら駄目なの」


 どうやら何も教えてくれそうにない。そうですか、と言ってカウンターから離れる。調べに来たのはこの街周辺の魔獣の種類だ。どこにどういう魔獣がいるのか調べに来た。このまま帰っても無駄骨になるので、できるだけ情報を収集したい。建物内を物色する。


(お? これは魔獣の討伐依頼のチラシだな)


 壁の一角に討伐依頼と思われる羊皮紙がべたべた貼られている。魔獣の名前と討伐報酬と思われる依頼料が載っている。日本語で書かれていて普通に読める。


(ふむ、チラシの貼り方がまばらだな。これを剥がして依頼を受けるのか)


 チラシを剥がして依頼を受ける形式と理解するアレンだ。まばらになって剥がされた部分のチラシはきっと討伐依頼を受けたのだろう。何か引きちぎった跡のようなものが壁に貼り付いている。


 チラシには、魔獣のランク、魔獣の名前、討伐報酬が書かれている。


・Eランク 角ウサギ 銅貨1枚

・Dランク ゴブリン 銅貨5枚

・Dランク ビックトード 銅貨8枚

・Cランク オーク 銀貨3枚

・Cランク 鎧アリ 銀貨3枚


 魔導書に記録をしていく。結構な種類の魔獣がいる。


(ほうほう、色々魔獣がいるな。しかし、出現場所が載っていないな。どこにでもいるってことか?)


 端から段々ランクが上がっていくようだ。


「おいおい、なんでこんなところに子供がいるんだ? おい坊主ここは坊主の来るところじゃねえぞ」


 夢中になって調べていたら、後ろから声が掛かる。振り向くアレンだ。


 剣を腰に差した冒険者が声を掛けてくる。歳は20代前半くらいだろうか。腕や頬に傷跡が無数にある。


「すみません、もう出ていきます。ちなみにこの魔獣は何故どこにいるか載っていないんですか?」


 どうやらあまりここにいては駄目なようだ。冒険者から絡まれても面倒なので出ていく。しかし、その前に確認できるならと、話しかけてきた冒険者に質問をする。


「ああ? まあ、こいつらはそこら中にいるからな」


 めんどくさそうに教えてくれる。なんでも高ランクの魔獣ほど白竜山脈の近くにいるとのことだ。


(ふむ、白竜山脈ってクレナ村の先にあるんじゃないのか? 街近くまで伸びているのか?)


 まだ世界地図も領内の地図も見たことはない。たぶん館のどこかに地図があると思うが、館の書庫に入れないのだ。入れる場所に制限のある従僕である。


 冒険者の話では、ランク別で街から離れていくらしい。しっかり記録を取っていく。


 ・街周辺 Eランクの魔獣

 ・歩いて1日 EDランクの魔獣

 ・歩いて3日 DCランクの魔獣

 ・歩いて7日 CBランクの魔獣


「このマーダーガルシュは誰も討伐しないんですね?」


 教えてくれるので、あれこれ聞いてみる。誰も討伐の依頼を受けてくれないのか、報酬の大きいマーダーガルシュの討伐依頼がまだ貼ってある。


・Bランク マーダーガルシュ ランバ村 金貨200枚


(今ランバ村周辺にいるのか。金貨200枚とか一気に報酬がでかくなったな)


 討伐依頼を受け討伐しに行っても、どこかに移動してしまって、無駄骨になりやすいという話であった。Bランクの中でもかなり強いというのも討伐依頼を受けない理由でもある。冒険者が依頼を受けないのでマーダーガルシュの討伐は騎士団がすることが多いという話だ。


「じゃあ、この白竜は誰も受けないんですか?」


 一番端に貼られた羊皮紙の討伐依頼は、変色している、何十年も前から貼ってそうだ。


「おいおい、いつまで質問するんだ?」


「これが最後です」


 いいじゃないですかと言ってぐいぐい質問する。


・Aランク 白竜 白竜山脈 金貨1000枚


 それは、他の討伐報酬がかすむほどの高額報酬だった。


 しゃあねえなと質問に答えてくれる。割といい人なのかもしれない。子供が冒険者ギルドにいてトラブルになるかもと思って声をかけてくれたのかなと思うアレンだ。


 白竜山脈の白竜は、その強さから誰も受けない。だがどうしても倒したいので金貨1000枚の報酬とのことだ。白竜山脈はミスリル鉱脈なのだ。しかし、白竜がいるので採掘できないとのことだ。


(ほうほう、白竜倒して報酬で金貨1000枚出してもおつりが出るくらいの価値があるということか)


「レイブ~ン、もう討伐依頼の報告終わったよ~。何してんの? せっかく早く依頼が終わったのに」


 アレンと話していた冒険者に声が掛かる。どうやら目の前の冒険者の仲間のようだ。へそが見える格好で短剣を持っている。その後ろには杖を持っているフードを被った女性だ。10代後半と20代前半の女冒険者のようだ。


 飲みに行くよと言われて分かったと答えている。


「ん? どうしたの? その子」


 短剣を持った女冒険者がアレンに気付く。


「いえ、魔獣について聞いていたところです。レイブンさんありがとうございました」


 聞きたいことは聞けたので、丁寧に礼を言い、冒険者ギルドから出る。


(ふむふむ、やはり街の近くはランクの低い魔獣しかいないと。遠くに行かないと経験値の高い魔獣はいないってことか)


 冒険者ギルドで貴重な情報が得られた。次にやることが決まるアレンであった。

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