第219話 謁見①
アレンたちはルキドラール将軍とフィラメール長老に加え10名ほどのエルフたちと共に、王城にやって来た。
豪華な馬車がホテルに迎えに来てくれた。そして馬車に運ばれてやってきた王城の門では、多くの役人に迎えられた。
「こちらです」と案内された一室はとても豪華だ。
「アレン、俺も来てよかったのか」
「あ? いいんじゃないのか? それで言うと俺も別に国王にとって謁見する理由はないからな」
今回アレン達は別に国王から呼び出されてここにいるわけではない。
ルキドラール将軍とフィラメール長老の威を借りて乗り込んできた形だ。
数年前まで開拓村の平民だったドゴラは、ここにいて良いのかとアレンに尋ねてしまう。
絢爛豪華な部屋に通され、随分恐縮しているようだ。
ローゼンヘイムでは、今いる王城ほどの絢爛豪華さはなかった。自然との調和を重んじるエルフの作った建物は、女王のいる建物であってもどこか素朴さがあった。
そんなこと気にしても始まらないぞとアレンは、盛り付けられた果物を手に取りバリバリ食べる。
クレナも一緒になってモリモリ食べる。
さっき昼食あんなに食べたでしょとセシルがため息をつく。
「大変お待たせいたしました。謁見の準備が整いましたのでこちらにお越しください」
しばらく待っていると、役人が扉をノックして入って来る。
結構な高官なのかなと思うほど、光沢のある高級な服を着ている。
「なんのなんの、ローゼンヘイムとは国交がないのに迅速な対応痛み入るのじゃ」
フィラメール長老が役人の言葉に返事をする。
謁見まで10日待たされたが、急に連絡をしてきて10日は十分迅速に対応してくれたと言って良いのだろう。
「ただ、謁見の間にそのような武装は」
役人が気まずそうにアレン達を見ながら言う。
アレン達は今回フル装備でやって来た。
ドゴラはさっき買ったばかりの大盾も持っての来城だ。黒光りした両手斧と大盾を見て、何と戦うためにここに来たのかと役人は困惑している。
どうやら武装を解除して謁見に臨んでほしいようだ。
(やっぱり、武器を持っての謁見は駄目だったのか。学園武術大会のセレモニーの時も武器は不携帯だったような気がするしな)
学園武術大会で優勝した際に、アレンは王太子に会っている。
その際も武器を持ってはいけなかった。
それを分かっていて、アレン達はフル武装でやって来た。
「これは失礼したのじゃ。ラターシュ王国への儀礼を欠いてしもうたの。お互い武装はなしで臨むということかの?」
「え、そ、そういうわけでは……」
(フィラメールのお爺ちゃんが外交力全開な件について。伊達に帝国とやり合っているわけではないな)
今回、アレン達が国王との謁見に臨むために女王が遣わしたフィラメール長老が、どんな人なのかソフィーに聞いていた。
ローゼンヘイムは女王が国家元首の国だ。
しかし、政治は長老会の合議で動いている。
その長老たちであるが、議会のないときはそれぞれの役割がある。
農業、道路などのインフラ、財務などに長老達が1人ずつ割り当てられて、各分野を動かしている。
フィラメール長老に与えられた分野は外交だ。
内政担当がほとんどの長老に於いて、数少ない外交分野の長老なのだ。
そして、普段は海を挟んだ隣国であり、大国でもあるギアムート帝国と外交面でやり合っている。
5大陸同盟の国家間の会議にも出席し、世界を動かすような発言もしてきた。
当然、ラターシュ王国もフィラメール長老がやって来たことを知っている。
「フィラメール。あまりラターシュ王国を困らせてはいけませんよ。ラターシュ王国が非礼な対応をするわけないでしょう」
役人を見ながらソフィーがフィラメール長老を窘める。
「は、ソフィアローネ王女殿下。これは失礼しましたのじゃ」
ソフィーの発言にやって来た役人が息を吞む。
もう少し待ってほしいという内容のことを言って、役人がこの部屋から出て行く。
そして、更に30分ほど経過して再び役人がやって来る。
謁見の間の武装は最小限にしているので、非武装で来てほしいと頼まれる。
これ以上ここで粘るつもりはないので「そうですか」と武器や盾はその場に置いて役人に付いて行く。
(精霊神は肩に乗ったままなんだな)
アレンはソフィーの肩に乗る精霊神を見る。
武装を解除させるのに必死だった役人の意識が、ソフィーの肩に乗る精霊神に向く事は無かった。
精霊神はソフィーの肩に乗ったまま謁見に臨むようだ。
絢爛豪華な装飾と綺麗な模様の絨毯を見ると、こういった世界もあるんだなとアレンは思う。
こちらですと案内された大きな扉にも警備の騎士が2名立っている。
その扉が速やかに開かれると、奥の玉座まで絨毯が続いているのが見えた。
そして、数十人かもっと多い煌びやかな服を着た貴族達が、絨毯を挟んで両サイドに立っている。
(国王になったばかりの国王は、あくまでも王威を示すと。謁見は別に個室でもできるらしいのにな。グランヴェル子爵は来ているかな。お、いたいた)
国王への謁見のやり方はいくつもある。
個室で国王や大臣と数名ですることもできれば、このように大広間で貴族たちに見せびらかすこともできる。
今回、ローゼンヘイムの重鎮がやってくることは、国王だけでなく王城のだれもが知っている。王威を示すためもあるのだろうが、こそこそと会うこと自体できなかったのだろうと思う。
グランヴェル子爵も今回のアレンたちの謁見に合わせて登城してくれた。
子爵は下級貴族のためか、国王と派閥が違うからか、玉座より扉に近い位置に立っている。
今年になって即位した国王は、玉座にふんぞり返っている。
その後方には数名の近衛騎士団を配備している。
国王の側には近衛騎士団長と思われる男がずっとアレンたちに睨みを利かせている。
フィラメールがあんなことを言わなかったら、もっと多かったのかもしれない。
キールに守らせようとした国王の娘である王女は今年から学園のためかいないようだ。
国王の横には王妃が、そして国王の側には王族と思われる者たちが数名座っている。
先頭として、ソフィーの両どなりにルキドラール大将軍とフィラメール長老が立って進み、ある程度のところで歩みを止める。
その後ろにはアレンとその仲間たちが、その後方にはエルフたちが10名ほど続いている。
国王が横にいる宰相と思われる人物に視線を送る。
「此度はローゼンヘイムより遠路はるばるよくぞお越しくださった」
宰相の話が謁見開始の合図だったのだろう。
若干ざわざわしていた貴族たちが黙って、ローゼンヘイムからやって来た来訪者と、アレンたちを注視する。
「はい、このような機会を設けていただき感謝しますのじゃ。私はローゼンヘイムで長老をしているフィラメールと申す者。まずはお礼を言わせてほしい。よく、あのような状況でラターシュ王国の英傑たちを救済にだして下さったのじゃ」
そう言うとルキドラール大将軍とフィラメール長老が大きく頭を下げた。
ローゼンヘイムにアレンたちがやってくるのが1日でも遅れていれば、ティアモの街は陥落し女王は殺されエルフは滅んでいたのかもしれない。
そのような状況の中で、ラターシュ王国の思惑が何であれ救ってくれたことに疑いの余地はない。
まずは感謝の気持ちを言葉と態度で示す。
「う、うむ。それは当然のことだ。ラターシュ王国も5大陸同盟国の一員である。ギアムート帝国への魔王軍の進軍も厳しいものであるが、ラターシュ王国はローゼンヘイムの救済を最優先と判断をしただけのことだ」
ここまで大げさに頭を下げられるとは思わなかったようだ。
宰相が若干恐縮をしている。
「エルフの女王の名代でやって来ております、ソフィアローネ殿下から一言申し上げますのじゃ」
「う、うむ」
宰相が息を飲む。
今、フィラメールは女王の名代と言った。
これは、5大陸の盟主の1人であるローゼンヘイムの女王の全権委任でソフィーがやって来たということだ。
肩に精霊神を乗せたソフィーが1歩前にでる。
「此度は、ラターシュ王国の英断に感謝します。ローゼンヘイムは受けた恩は必ずお返しします。今後も永久(トワ)にローゼンヘイムはラターシュ王国と共にあることをお忘れなきように」
頭を下げず、まっすぐ国王を見つめソフィーがお礼を言う。
「そ、そうだな。ラターシュ王国は王国として責務を果たしただけだ。ん?」
この時、国王はソフィーの肩に乗る精霊神がジッと国王を見つめていることに気付いた。
国王が精霊神を見つめ返すが、精霊神も視線を外さないため不思議な沈黙が生まれてしまう。
「いかがなされました?」
「ローゼンヘイムでは、そのような小動物を肩に乗せているのだな」
「いえ、そういうわけではありません。ローゼン様、ラターシュ王国の王が話をしたいと仰っておりますわ」
「ローゼン? ローゼン!」
国王は一瞬ローゼンという言葉の意味が分からなかった。
しかし、その言葉は、才能のない王族貴族が通う貴族院を卒業した者でも知っている、エルフの信仰の対象の名前だ。
国王の驚きが貴族達まで伝染していく。
「精霊王がこの場にやって来ているのか?」
「あの小さな生き物がそうなのか?」
「ば、馬鹿、何故指を差す!!」
人々が、それなりに広いこの謁見の間で目を凝らして、ソフィーの肩に乗る精霊神を見ようとする。
なお、精霊王が精霊神に至ったことをローゼンヘイムは既に公表しているが、まだ認知が進んでいないようだ。
ソフィーの言葉に精霊神がゆっくり宙に浮き、国王を見下ろすように見つめる。
『人の子よ。僕は精霊神ローゼン。よく僕のかわいいエルフ達を救ってくれたね。お礼を言うよ。はは』
そんなに大きな声で言っていないが、なぜか精霊神の言葉は広間全体にいる者たちの耳に伝わる。
国王は息を飲む。
ローゼンヘイムの重鎮達に精霊神までこの場にいることを理解する。
こうして、ラターシュ王国の国王に対するアレンたちの謁見が進んでいくのであった。
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