第218話 王都

 学園で卒業の手続きをしてから9日が経ち、アレン達は王都のホテルにいる。

 ここはラターシュ王国の王都にある王侯貴族御用達のホテルだ。


(相変わらず、歴史情緒ある街並みだな)


 アレンは1人、朝日の差し込む窓から城下町を見つめていた。

 ラターシュ王国の王都は建国以来、一度も遷都はしていないと学園の授業で習った。

 お陰で中世のヨーロッパのようなこの世界において、さらに古風な街並みが広がっている。


 そして、50年かそこらの間に作られた学園都市と違って、この王都には魔導列車も走っていない。

 馬車や行き交う人々が窓から見える。


 アレン達は、ローゼンヘイムからやって来たルキドラール将軍とフィラメール長老との集合場所であるこのホテルに宿泊をしている。昨晩遅くアレン達はこのホテルに到着したが、その旨を、2人には伝えることができた。

 予定通り、今日の午後には王城に向かうことができると言う。


 簡単に身支度をして、アレンは1階にあるエントランスに向かう。


「おはよう。キールが一番か」


 高級なホテルのエントランスのソファーでキールが1人でゆっくりしている。


(あまり眠れなかったのかね)


「ああ、おはよう」


「何だ? 考え事か? 悩んでも仕方ないぞ」


「ああ、分かっているよ。ていうか、アレンは気楽でいいよな」


「まあ、貴族なんて興味ないからな」


(全くない)


「まじかよ。農奴がどうやって生きたら、貴族に興味がないって言えるんだ。前世の記憶がそうさせてんのか?」


 キールは、ローゼンヘイムの戦争での功績を利用して貴族に戻りたいと思っている。

 そのために王都にやって来たと言っても良い。


 カルネル家を復興し、そして妹ニーナと使用人の帰る場所を作る。

 そのために学園都市にやって来て、ローゼンヘイムの戦争にも参加した。


 今回、ローゼンヘイムの重鎮である2人が国王への謁見を希望しているが、アレン達全員も謁見に同席する旨を既に伝えている。


「興味がないのはそれが理由だろうな。まあ、キールの願いが叶うといいが、あの国王だからな。過度な期待はしないことだな」


「分かっているよ。でもあんなもの作ってしまってよかったのか?」


「いいんじゃないのか? 証拠もないんだし」


 キールは何か悪いことをしたような気持ちがあるようだ。

 アレンは問題ないと言う。


(皆自分の大事なものがあると)


 アレンの仲間が望む物はそれぞれの生まれや立場で違っている。


 農奴や平民として生まれ、小さいころから騎士ごっこをしていたクレナやドゴラは、今でも騎士に憧れているように感じる。

 ソフィーはローゼンヘイムを大事にしているし、フォルマールはソフィーの護衛に命を懸けている。


 皆が皆大事なものが違うがアレンがパーティーリーダーとなり1つの目標に向けて進んでいる。


「あら、早いわね」


「そうだろ」


 身支度を済ませて降りてきたセシルに対して、キールが当たり前のように答える。


(そういえば、セシルの一番大事なものって何だろうな。亡き兄ミハイさんの復讐なのかな。たまに厳しい目つきで魔王軍と対峙してたし)


 自分の思いに忠実な仲間の中でセシルだけは違う気がする。大魔導士になれたことは喜んでいるが、それが全てかと言われたらそんなことはない。


 家のことは、既に貴族院を卒業して、グランヴェル家を継ぐべく勉強を兼ねて王城で働く、2歳年上の兄であるトマスが受け持つ事になっている。


「さて、みんな揃ったし、冒険者ギルドに行くぞ」


 そうこうしているうちに仲間達全員揃ったので、アレンが号令を出す。

 

 朝からアレン達は冒険者ギルドに歩いて行く。

 大通りを目指して進んだ先にある。


(冒険者ギルド本部についたぞ。カルロバ先生はクレナのために学園に来たけど、まだ学園にいるのかな)


 国境のない組織である冒険者ギルドのラターシュ王国本部が歩いて数分で見えてくる。

 剣豪の才能を持つカルロバ先生とは、ローゼンヘイムに行く前に会ったきりになってしまったなと思う。


 受付の係員が用件を聞いてくるので、オークションで落札した物の受取りにやってきたと伝える。


「こちらで少々お待ちください」


 そう言われて個室に通され、しばらくすると台車に乗せて大きなものが運ばれてくる。重量があるためか、台車の車輪が重量に耐えかねてガリガリと音を鳴らしている。


「結構大きそうだけど、本当に大丈夫なのか?」


 冒険者ギルド職員が重そうに持ってきた物を見ながら心配そうにキールが言う。


「多分大丈夫だ」


「いやアレン、ドゴラに聞いたんだが」


「……」


 ドゴラは無言で、ギルド職員が持ってきた物の中央にある取っ手を片手で握りしめ担ぎ上げる。


「持てたな。両手斧と一緒に使えそうか?」


「ああ、たぶんいけそうだ。だが、結構というかかなり重いな」


 ドゴラは右手で両手斧を持ち、左手には落札したアダマンタイト製の大盾を握りしめている。


(ドゴラの力次第ってことか。レベルが上がれば解消されるかな)


 ローゼンヘイムの戦争及び魔族戦及び魔神戦を経て、アレンはこのパーティーに足りないものがあると考えた。


 それはパーティー全体の守備だ。


 アレンやキール、ソフィーの補助でステータスの耐久力は上がるが、それでもパーティー全体の守りに不安がある。

 特に上位魔族戦と魔神戦では、かなり厳しい戦いになった。


 戦いに大事なのは攻めと守りのバランスだ。


 これから攻略しようと思っているS級ダンジョンは、Aランクの魔獣が跋扈しているらしい。

 ローゼンヘイムでもAランクの魔獣は多くて3体程度しか同時に戦っていないが、S級ダンジョンではそれどころではないとヘルミオスに聞いた。


 クレナには両手剣で攻撃面を担ってもらう分、ドゴラには大盾を扱えるようにしてもらい守備面を担ってもらう。


 ステータスがさらに上がり、盾術のスキルレベルが上がって行けば自然に扱えるようになるのではという作戦だ。


「斧も盾もかなり重いからな。頑張って持ってくれ」


「ああ」


 そうこうしているうちに入口付近で待機していたギルド職員が、アレン達の下にやって来る。


「品物に間違いはありませんか?」


「はい、間違いありません。いくらで落札してくれたのでしょうか?」


「はい、手数料込みで金貨3600枚になります」


「ちょっとお待ちください」


(金貨5000枚もしなかったな)


 そう言ってアレンは金貨3600枚を準備する。今回のアダマンタイトの大盾はアレンが払うと言っている。

 皆、ステータス1000増加リングを落札したためそこまでお金に余裕がない。

 数百枚程度は持っているが、金貨3600枚も持っているわけではない。


 前に、こういった物はアレンが初期投資で払うと言った。

 そして、仲間達には今後もこうやって融通し合おうと伝えている。


 S級ダンジョンに入れば希少な武器や防具、魔法のアイテムが手に入る。

 しかし、必要なものが違う仲間達に対して均等に手に入るとは考えにくい。

 今後、希少なアイテムがダンジョン攻略中に手に入った時、仲間の誰かに偏る結果になっても気にしないようにと伝えている。


「間違いございません。冒険者ギルドのご利用ありがとうございました」


 冒険者ギルドの職員は、15歳にもならないアレン達が金貨3600枚を持ってきても違和感が無いようだ。アレン達が既にA級ダンジョンを5つ制覇している情報は入っているらしい。


「いえ、あとはE、D、Cランクの魔石をできるだけ募集したいと思っています。よろしいですか?」


「もちろんです」


(うしうし、学園都市でも募集していたが、こっちでもできるだけ購入しておくぞ)


 アレンは学園都市に戻ったら、魔石の募集を再開した。

 ローゼンヘイムの戦争に参加した結果、魔石も回復薬も減ってしまったためだ。


 今後、Cランク以下の魔獣を倒す機会がずいぶん減るので募集するタイミングがあれば募集をする。


 何があって大量の魔石が必要になるか分からない。


(まあ、小国のラターシュ王国で鬼のように募集しても相場は変わらないしな)


 魔石の最大輸出国はバウキス帝国だ。何でも、全ての国の中でもっともダンジョンが多いのが理由らしい。冒険者のなり手も多いらしく、バウキス帝国がある限り、魔石価格は安定しているらしい。


 ちなみに最大輸入国は、ローゼンヘイムだ。ローゼンヘイムはダンジョンが少ないらしく魔石は基本的にギアムート帝国から買うことが多かったという。


 ギアムート帝国は輸出の方がやや多い程度だという。


 アレンは万単位の魔石の募集を行い、手数料も払うので取りに来れなかった場合はグランヴェル子爵の館に郵送するようにお願いする。


「さて、もうすぐ王城に行かないとな」


 大盾を手に入れ、魔石も募集したのであとは王城に行くだけだとアレンは思う。


 ルキドラール大将軍とフィラメール長老のいるホテルに戻るのであった。

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