第208話 魔神レーゼル戦①
「あ? 何も知らないだと? 解放者っていうのは俺のことを言っているのか?」
アレンは、無知だと言った魔神レーゼルに対して、苛立ちを見せる。
そのついでに解放者とは何なのか聞いてみる。
(ほうほう、立ち上がると結構大きいな。身長2.5メートルくらいか。体のサイズはエルフ感ないな。武器らしきものは持っていないけど、この筋肉質な体格は前衛もいける感じだよな?)
態度とは裏腹に、立ち上がった魔神レーゼルの体を上から下までしっかり確認する。
物理攻撃が得意な前衛なのか、魔法が得意な後衛なのか相手の戦闘スタイルなどをなるべく戦闘開始前に把握したいと思っている。
戦闘スタイルは体からにじみ出てくるものだとアレンは思っている。
魔神レーゼルが以前、霊Bの召喚獣を魔法で倒したことを思い出す。見た目と過去の知識から、前衛も後衛もできるタイプの敵なのかと分析を進める。
『ふん。それが何も知らないと言っているのだ』
(解放者については何も教えてくれないと。まあいいか。油断はさせたことだし挑発もしておくか)
「余裕ぶっこきやがって、俺は聞いているぞ? お前ダークエルフなんだってな? 転職で魔神になる方法俺にも教えてくれよ」
『……ほう』
魔神レーゼルの表情が変わっていく。隣にいるネフティラが息を呑む。
「どうした、顔色が変わったが? 世界樹が欲しいとか抜かして、ローゼンヘイムを攻めてきやがって。世界樹が良く見えるフォルテニアは楽しめたか?」
『エルフの女王から聞いたのか? 世界樹は元来我らの物だったのだ。エルフ共が独占したのだろう』
静かに語る魔神レーゼルであるが、明らかに声に怒気が籠っている。
「そんなことはありません! 世界樹はずっとエルフが管理をしておりました!!」
『ふん、お前はハイエルフ……ローゼンヘイムの王族か。祈りの巫女の末裔は何も知らないと見える。本当にずっと管理していたと信じているとはな』
(おいおい、ソフィーが怒ってどうする。まあ、世界樹はエルフとダークエルフにとって大事なものみたいだからな。有難味を感じない俺には分からんか。それにしてもダークエルフの物だと? 女王はそんなこと何も言っていなかったな)
アレンは、ソフィーと魔神レーゼルの会話で、世界樹を巡るエルフとダークエルフの歴史を思う。
ダークエルフが本当に世界樹を管理していた時代が数千年前にあったのかもしれない。
もしかしたら、魔神レーゼルも魔神になる前に、世界樹を管理していたなんて偽りを、年上のダークエルフから信じさせられたのかもしれない。
そんなことは分からないし、これからすることに変更もない。
「どっちが正しいかなんて知らんが、お前が魔獣を引きつれて何百万ってエルフを虐殺した事実だけははっきりしているぞ」
アレンが、魔神レーゼルとソフィーの会話を遮るように発言する。
『確かにそれは事実だな。これからもっと多くのエルフが死ぬことになるだろう。そのために我はここにいる。それだったらどうする?』
「もちろん倒すに決まっているだろう。どれだけの犠牲が出たと思っているんだ!!」
アレンの言葉が合図だった。
全員が戦闘態勢に移行する。
クレナとドゴラは武器を構え、キールは回復の準備をする。
アレンとキールは、必要な補助をこの玉座の間に入る前に全て済ませている状態だ。補助の掛け直しの時間も惜しい。
魔神レーゼルとネフティラもアレン達に反応し攻撃の体勢を取ろうとする。
そんな中、最も攻撃が早いのは、高速召喚が使えるアレンだ。
ネフティラの真横に指揮化した竜Bの召喚獣が現れ、覚醒スキル「怒りの業火」を使わせる。
指揮化した竜Bの召喚獣が、光を宿した口元から光線のような炎を吐き出す。
閃光のような炎に包まれる魔神レーゼルとネフティラ。
指揮化した竜Bの召喚獣の覚醒スキルの炎は、神殿内の広い範囲を焼き尽くす。木を基調とした建物は、指揮化した竜Bの覚醒スキルの炎に耐え切れず、消し炭になっていく。大きな丸太の柱も何本か灰になり、柱の役割を果たせず倒れていく。
そして、指揮化して体長20メートルになっている竜Bの召喚獣には、この神殿は小さすぎたようで、神殿の屋根は竜Bの召喚獣が動くだけでメリメリと剥がれていく。
神殿は指揮化した竜Bの召喚獣により一瞬で半壊した。
『魔族を1体倒しました。経験値7200000を取得しました』
(うし、ネフティラは倒したぞ。これで残りは魔神レーゼルだな)
魔導書のログでネフティラを倒したことを確認する。
アレンは、歴史と風情漂うフォルテニアの神殿を半壊させてしまったが、戦いだけに集中している。神殿内に魔神レーゼルがいた時点でこうなることは分かっていた。
魔神を倒した後、エルフ達でまた作り直してもらったらいい。
魔導書の表紙には、1体の魔族を倒したというログが流れている。前回は指揮化スキルを解放できていなかったため、召喚獣の攻撃をネフティラの回復魔法で耐えられたかもしれないが、今回は無理だったようだ。
『ほう、ネフティラを一撃か』
しかし、炎の中から防具すら燃えていない魔神レーゼルがゆっくり出て来る。
(ダメージゼロかよ)
その平然とした態度から、何のダメージも受けていないように感じる。
「クレナ、ドゴラ強敵だぞ! 攻撃をもろに受けないようにしろ!!」
「分かった!」
「ああ!」
そう言ってクレナとドゴラが武器を手に突っ込んで行く。
魔神レーゼルは、仕方なさそうに相手をしている。
「げふ!」
「がは!」
魔神レーゼルの拳がクレナの武器に激突する。するとクレナが耐えきれず吹き飛ばされていく。ドゴラも同様だ。
「キール、回復はドゴラを中心だ」
「ああ、分かっている」
指揮化した竜Bの覚醒スキルを魔神レーゼルにぶつけたが、ほぼ無傷だった。
これだけの耐久力なら、同じく攻撃系の覚醒スキルのある獣B、霊Bの召喚獣でもそこまで変わらない結果になるだろう。
アレンは、立ち位置をセシルやキールとクレナやドゴラの間に変え、中衛ポジションを取りながら、石Cの召喚獣の特技「みがわり」や覚醒スキル「自己犠牲」を高速召喚で活用し、クレナとドゴラが死なないよう体力の管理を行う。
クレナとドゴラは魚Bの召喚獣の特技「タートルシールド」及び覚醒スキル「タートルバリア」を既に受けているので、魔神レーゼルの攻撃は6割減だ。
それでも油断すれば死ぬのではないかという威力の攻撃を魔神レーゼルは繰り出している。
(あまりに力の差があり過ぎて本気を出していない感じか? 魔神レーゼルにエクストラスキルを使われる前に勝負を決めるぞ)
上位魔族グラスターのエクストラスキルは脅威であった。
倒すのに1時間かかってしまった。
魔神のエクストラスキルは全滅も覚悟しないといけない一撃になるだろうと予想する。
なるべく早く勝負を決めたい。
「クレナ、エクストラスキルだ!」
「うん、分かった」
アレンの言葉に返事をすると、クレナの体は陽炎のように屈折を始める。
『ほう、エクストラの門か』
クレナの変化に魔神レーゼルは一言つぶやいた。しかし、その表情に一切の動揺はない。
構えることもなく、クレナの下に魔神レーゼルが向かって行く。
(よし、フォルマールもエクストラスキル頼むぞ)
魔神レーゼルがエクストラモードのクレナに意識を向けた、その時だった。
『グルルゥ!』
アレンの指示により、神殿から1キロメートルも離れている鳥Bの召喚獣が一声鳴いた。
鳴いた鳥Bの召喚獣の背中にフォルマールが立っている。
アレンの指示で鳴いた鳥Bの声を合図に、半壊した神殿の隙間から弓矢を構える。
フォルマールの全身が陽炎のように屈折をしていく。
フォルマールはエクストラスキル「光の矢」を発動する。
構えた矢は光源を宿し、輝き始める。
そして、輝きはそのままに矢を射る。神殿の隙間から、魔神の心臓付近を背中から狙う。
光の矢が軌道を修正しながら、魔神レーゼルの背中の心臓付近を直撃する。
魔神レーゼルは背後からの急な攻撃で一瞬硬直をする。
「や!!」
その瞬間に魔神レーゼルに向かっていたクレナは距離を一気に詰め、大剣を握りしめ首元目掛けて両手で振り落とす。
(お? 防具のない首元に直撃だ! やったか?)
フォルマールが遠距離からエクストラスキル「光の矢」を使い、意識を背中に向かせた。
そしてその隙に、首を切り落とす勢いでクレナがエクストラスキル「限界突破」を使い大剣を振り落とす。
『なるほど、見た目通りの子供か。実力差も分からぬとはな』
クレナの大剣は魔神レーゼルの首元で微動だにせず止まっている。
1滴の血も流れているようには見えない。
首元に直撃してもダメージのようなものがあるようには全く見えなかったのであった。
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