第352話 グシャラ戦③
シア獣王女の姿が変貌していく。
全身が毛に覆われて獣度が増していく。
(お? 来たか? 獣王化したぞ)
アレンは召喚獣の視界を使ってシア獣王女の変化を確認する。
アルバハル家など一部の特別な家には獣王化という特殊なエクストラスキルが備わっている。
スキルの発動にはどうやら獣神ガルムの許可が必要で、今回許可が降りたようだ。
ゼウ獣王子はS級ダンジョンの最下層ボスとの戦いで、ゴルディノを倒すべく許可を申請した。
その時の申請が初めてで、一発申請が降りたと、討伐後の祝勝会でゼウ獣王子が語って聞かせてくれた。
獣人の見た目についてだが、獣人は完全な獣ではない。
獣の耳と尻尾、角があり、歯が人より発達している。
しかし、体毛の毛深さは個人差がある。
毛深さについて、特に女性に多いのか人族とあまり変わらないものも多い。
男はジャングルみたいな毛深さのものは多い。
2足歩行で歩くのは、魚人も変わらない。
自らを「獣王化」、周りの獣人たちを「獣化」すると聞いた。
『ヨニツヅクノダ! グルオオオオオオオオオオオ!!』
獣王化して、体毛が完全な虎と化したシア獣王女が前傾姿勢になっている。
一応、ギリギリであるが、人であったことが分かる状態だ。
犬歯と爪が長く伸び、性別は装備の感じでギリギリ分かる程度だ。
前世で月を見た狼男はこんな感じであったと記憶している。
そんなシア獣王女が拳を握りしめ、拳を地面に叩きつけた。
パアア!!
光の魔法陣が半径100メートルに渡って作られる。
(やはり半径100メートルか。獣王化にはさらにその上があると)
獣王化にはさらにその上があるとゼウ獣王子から聞いた。
アルバハル獣王国の獣王は、シア獣王女が現在使った獣王化より、一段階上のスキルを持っており、半径1キロメートルに渡って効果が及ぶと言われている。
万の軍勢が一気に獣化するらしい。
ゼウ獣王子が使ったのは星1つ程度、周りの皆を強くするようだが、獣王の場合は星2つ程度強化すると分析している。
勇者ヘルミオスを5大陸同盟の会議の席でぼっこぼこにできたのは、それなりの理由と力があるようだ。
獣王子、獣王女と獣王の違いで効果が違うのかもしれない。
今回はしつこく獣神ガルムに申告するからシア獣王女に許可を出したのかもしれない。
何か別の条件があるのかもしれないが、今はグシャラを倒すことを優先する。
『『『おおお! シア様!! ぐるおおおおおおおおおおおお!!』』』
部隊長の3人の獣人が歓喜する。
自らが獣王になる存在と称えた君主が、獣神ガルムに認められた瞬間だ。
歓喜と共に、全身の血液が逆流しているような、気持ちが肉体から離れていくような浮遊感と恍惚を感じる。
既にキールやセシルの後ろから遠距離攻撃や補助、回復魔法をかけていた3人の力が獣化によって一回り大きくなる。
シア獣王女も獣のようにグシャラに突っ込んでいく。
その瞳にはルド隊長を殺したものに対する憎悪が籠っていた。
『はは。そろそろ切れるよ』
そんな中、精霊神ローゼンが口を開く。
そろそろ精霊王の祝福は切れると教えてくれる。
補助が切れることを教えてくれるサポート役はとても助かるが、今は感謝している暇もない。
(やばい。そろそろ全滅する件について。えっと、確実に倒したいからな。準備するように言ってと)
シア獣王女も獣王化を果たし、今こそというときに精霊王の祝福が切れそうだ。
グシャラの強さから、ステータスが3割下がったら、確実に死人が出そうなのは分かる。
現状もグシャラは上位魔神ということで、かなりギリギリの戦いとなっている。
既に建物を覆う結界のようなものは祭壇を破壊出来たから消えている。
神殿の外に配置している召喚獣たちに共有した視界は既に戻っている。
帰巣本能を使えば、問題なく逃げることができるだろう。
しかし、数百万人の人間を殺したこの張本人たるグシャラはここで確実に殺しておきたい。
貴重な上位魔神だ。
ここは確実にレベルアップをゲットしたい。
「後ろに下がるから。皆、タイミングを合わせてくれ!!」
アレンはその間粘ってほしいと言う。
「うん。分かった」
クレナの同意と共に、アレンは一気に下がる。
その一言で何をするのかは分かる。
巨大な王化した石Aの召喚獣まで一気に後退したアレンは転移を使っていなくなる。
メルスにお願いすることもできたが、王化してこれだけ強くなったメルスを前線から離れさせてまで頼むことではない。
リーダーとは細かいこともこなしてこそだ。
『いまだ! 下がれ!!』
グシャラと仲間たちの攻防が続く中、メルスが叫んだ。
それと同時にアレンが帰ってくる。
皆、前にアレンが掛け声していることもあって、動きも俊敏だ。
『ほほほ。いまさら何ができると……!?』
グシャラの声が詰まる。
アレンの後ろには1000人の獣人たちがいる。
バスクと戦った時は、バスクを転移で移動させたが、今回はエクストラアタックのために待機させておいた。
念のための作戦といったところだ。
シア獣王女が作った魔法陣の効果は続いており、兵たちは皆獣化が一気に始まる。
『!? き、貴様! ブレイブランス!!』
獣人たちとグシャラとの直線状の空間を空け、作戦通りエクストラスキルを使おうとした。
その時、ラス副隊長の視線に横たわったルド隊長が目に入る。
一切動かないその状況に全てを察する
全力で投擲された槍が合図となり、1000人のエクストラスキルが発射される。
『グガガガ!!』
(お、やったか)
さっきから優先して攻撃していた骸骨教皇が叫んだ。
雨あられのようにやってくるエクストラスキルによって砕かれ、地面に骨が四散する。
魔導書を見ると魔神を1体倒したというログが流れ、レベルも1上がっている。
骸骨教皇は魔神になっていたようだ。
『こ、このままでは……』
回復役を倒され、グシャラが1体になってしまった。
このままではやられると判断したのだろう。
そして、グシャラは背面に外の風景が広がっていることに気付いた。
1000人に及ぶ獣化した兵たちのエクストラスキルによる一斉攻撃によって神殿の壁が破壊されてしまったようだ。
「逃げられるわよ!」
セシルが撤退を察知するが、引き留められることもなくグシャラは外に飛び出た。
バスクが逃げ、骸骨教皇はやられ祭壇は破壊された。
このままでは自分もやられてしまうと判断したようだ。
『ほほほ、今日はこのくらいにしておきましょう。では、ってがは!?』
全身が外に出たところで巨大な何かが体を潰そうとする。
巨大な刃物かドリルのような鋭利なものが何本も体に食い込んでいく。
アレンは王化した竜Aの召喚獣を外に待機させていた。
敵が逃げるということ。
神殿ごと破壊するということ。
自分らが逃げる囮に使うということ。
思いつく限りの問題を洗い出し、あらゆることを想定していた。
今回は逃げたグシャラに王化した竜Aの召喚獣が噛みつくことに成功した。
「オロチ、地獄の業火だ」
(貴様には地獄の業火が相応しい)
これまで命を奪ってきた多くのものに対する代償を払えとアレンは思う。
メキメキと咥えながらも、竜Aの召喚獣は15の首から強力な炎のブレスを吐く。
精霊王の祝福は半径1キロメートルに及ぶので、竜Aの召喚獣も3割ステータスが上がっている。
『ま、待ちなさい。待ってください!!』
上位魔神グシャラは命乞いを始めた。
「メルル、バルカン砲だ!!」
当然許すつもりもない。
一瞬だが、こいつから搾り取れるだけ情報を搾り取ろうとも思ったが、ステータスが王化したメルスに匹敵するほどあるので、とてもじゃないが拘束できない。
経験値に変えることを優先にする。
鳥Fの召喚獣を使い、島の少し離れた所にいたメルルにバルカン砲を打つように伝える。
「バルカン砲発射!!」
最後の最後まで自分の役目がやってくることを信じて待機していたメルルがバルカン砲(大)を発射する。
竜Aの召喚獣の1つの首の、グシャラを噛み締めた口先回りを焦がすほどの一撃を食らわす。
超回復で竜Aの召喚獣はメリメリと回復する。
超回復は最大体力の秒間1パーセント回復するので、バルカン砲を食らっても数秒も絶たずに無傷に戻る。
王化しているということもあって最大体力も大きい。
「さて、セシル。止めをお願いする」
ずっと頼りっぱなしの例の一撃をセシルにお願いする。
既にマクリスの聖珠は返してある。
特大の一発をお願いしたい。
「頼まれた! プチメテオ!!」
何となく、外にグシャラが飛び出た時から、こんな気がしたセシルは既にエクストラスキル「小隕石」の発動を準備していた。
グシャラを逃すまいと噛み砕く勢いで食らい付いた竜Aの召喚獣が首を掲げ、やってくる巨大な大岩に照準を合わせてあげる。
そして、グシャラを噛み殺す勢いでメキメキと噛み縛っているところに上から巨大な岩が降ってくる。
竜Aの召喚獣に噛まれながら、真っ赤に焼かれた大岩によって潰されていく。
『ひ、ひいいいいいい。魔王様! グガアアアアア!!』
絶体絶命のところでグシャラが最後に頼んだのは魔王による救済であった。
しかし、その叫びも大岩の中に消えていく。
竜Aの召喚獣の頭が1つ大岩の重さに耐えきれず地面に落ちたところで、アレンの魔導書の表紙が光り出す。
新しいログが流れたことを示している。
『上位魔神を1体倒しました。レベルが91になりました。体力が500上がりました。魔力が800上がりました。攻撃力が280上がりました。耐久力が280上がりました。素早さが520上がりました。知力が800上がりました。幸運が520上がりました』
「おお! レベルが上がったぞ! レベル5アップだ!!」
アレンの歓喜の中、ようやく邪神教の教祖グシャラ=セルビロールを倒すことができたのであった。
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