第385話 ゴルディノ周回への挑戦①
アレン軍の出発式をした翌日のことだ。
アレンたちはS級ダンジョンの最下層にいる。
ここ最近は朝早くからやって来て、夜遅くまでアイアンゴーレムを狩り続ける。
狩りが終わったら、転移して拠点でぐっすり眠るを繰り返すのだが、今日は違う。
最下層ボスゴルディノに挑戦する日だ。
アレンのパーティーで、シア、ルーク、ペロムスを除いて全員がいる。
ペロムスも、今後一緒にプロスティア帝国に行くことになるので、パーティーに入れた。
ペロムス廃課金傭兵団は、ペロムス廃課金自警団に名前が変わり、レイブンをパーティーリーダーにして冒険者ギルドにパーティーとリーダー登録を済ませてある。
パーティーの編成はアレン、クレナ、セシル、ドゴラ、キール、ソフィー、フォルマール、メルルの8人だ。
シア、ルーク、ペロムスの3人はA級ダンジョン5つ攻略という、まだS級ダンジョンに入るための資格がない。
ペロムスは豪商の才能なので、資格を得たからといって、S級ダンジョンの最下層ボス戦に入れるかどうかは微妙なところだ。
(商人は馬車の中を温める要員なのかもしれないな。これも普遍の理よ)
「なんか思ったよりも少なく感じるわね。大丈夫なのかしら?」
アレンが、商人の定めについて考えているとセシルから不安だと言われる。
「多分倒せると思うぞ。それに『巣』の設置は完了しているからな」
保険で鳥Aの召喚獣を使い、仲間全員でいつでも逃げれるように、この空間から出るためのキューブ前に巣を設置している。
なお、この空間から直接ダンジョン外に出ることはできない。
どうやら、ダンジョンマスターディグラグニが結界のようなものを敷いているようだ。
(まあ、問題はないだろうがな)
そんな保険など使うことなく、アレンはこのメンバーで倒せると分析している。
「無理なら逃げるってことね。倒せなかったらどうするのよ?」
「その時は、どうせ勇者が暇そうにしていると思うから、勇者を誘うぞ」
「アレンって勇者を何だと思っているの?」
「勇者だぞ」
「もういいわ」
セシルが、人数合わせで世界の英雄である勇者ヘルミオスを呼ぼうとしていることに若干引いている。
ヘルミオスの立場がどれほどなのか5大陸同盟で分からなかったのかとセシルは思う。
「うん。がんばろう!」
「ああ」
「タムタムもいるのだ!!」
クレナとドゴラが意気込み、メルルがカッコいいポーズをとる。
キールやセシルは引いているが、脳筋枠は元気いっぱいだ。
以前は勇者のパーティー、ガララ提督のパーティー、ゼウ獣王子のパーティーを加えた40人以上で挑んだが、今回は8人で挑むことにする。
1パーティーで倒せば最下層ボス攻略報酬は独り占めにできる。
それになにより、レイド戦とは募集に時間のかかるものだ。
勇者とか魔王軍の侵攻も終わったことだし、暇していると思うが呼んでいる暇はない。
必要なら他のパーティーを誘ってレイド戦をするが、不要であるなら極力避けたいのもレイド戦だ。
立体的に動けるよう、鳥Bの召喚獣にキール、ソフィー、フォルマールが乗り込む。
アレンとセシルはいつものようにセットだ。
邪神教グシャラ戦で、クレナとドゴラの2人は自分の足で動いた方が戦いやすかったようだ。
最初の頃は鳥Cや鳥Bの召喚獣の素早さに頼っていた部分もあるが、ステータスも上がり自ら位置取りをしながら戦う方がよくなってしまった。
強敵との戦いなので鳥Bの召喚獣を使わず、地面に自ら立って戦うようだ。
「練習したほうが良かったか?」
「いや、問題ない。何か手に引っ付いている感じだ。すごく馴染むぞ」
うまい表現は見つからないようだが、すごく持ちやすいことはドゴラから伝わった。
昨日、名工ハバラクから完成したオリハルコンの大斧を渡された。
制作が始まって1か月以上かかってのことだ。
そんなに簡単に作れるものではないようだ。
その結果、ドゴラは神器カグツチとオリハルコンの大斧を片手ずつ握りしめる。
神器カグツチは中心に熱を帯びて血管のような赤みが網の目のように光っている。
刃全体が真っ赤になっているわけではないが、通常時でこの状態まで火の神フレイヤの神力が回復したようだ。
人々が火の神フレイヤにしっかり祈りを捧げたおかげだ。
名工と言わせるだけのことはあって、自分の体の一部のような一体感をドゴラはオリハルコンの大斧に感じるようだ。
クレナもバスクから頂いたオリハルコンの大剣を握りしめる。
「タムタム、降臨!」
朱色に輝くヒヒイロカネの超大型が降臨する。
メルルが乗り込み準備が完了した。
皆が皆、前回S級ダンジョン最下層ボスに挑戦したときの強さではない。
「じゃあ、始めるぞ」
そう言ってアレンは王化したメルスを召喚する。
目の前には全長100メートルあるブロンズゴーレム1体、アイアンゴーレム2体、ミスリルゴーレム1体、そして最下層ボスゴルディノが中央に、5体が横一列に並んでいる。
5体とも前回同様にある程度近づかないと動かないようだ。
一度最下層ボスを倒しても、最下層ボスが別のボスに変わることはないようだ。
『……ほう? たったそれだけの人数で我らに挑むとは、余程死にたいらしいな』
アレンたちが近づいていくと、ゴルディノがボス感を漂わせて語り始める。
「……私たちのことは覚えていないようね」
その態度や話の内容からゴルディノはアレンたちのことは覚えていないようだ。
A級ダンジョンの最下層ボスなど知能があり会話をする最下層ボスも、前回の戦いを覚えていなかったが、同じ仕様だということが分かる。
『恐怖と絶望の中で悶え苦しみ果てるが……』
「行けメルス!」
時間が惜しいので長い御高説など聞くつもりはない。
『ああ』
ゴルディノの話の途中でステータスが全て65000あるメルスが突っ込んでいく。
メルスだけは特注なようで、強化すれば全ステータスが5000上昇した。
『む!?』
話の途中でと言おうとしたが、メルスは1体のアイアンゴーレムに対して一気に距離を詰め、そのまま触れて、鳥Aの召喚獣の覚醒スキル「帰巣本能」を使い1キロメートル奥に一緒に転移した。
そして、王化した竜Aの召喚獣を相手にさせて、竜Aの召喚獣と共に転移させたアイアンゴーレムをボコボコにしていく。
王化した竜Aの召喚獣は攻撃力が25000あり、全長300メートルに達し、首が15本あり、その複数の首を使いアイアンゴーレムに巻きつき、締め上げる。
アイアンゴーレムを攻撃力でも大きさでも圧倒する竜Aの召喚獣が絡みつき、ゴルディノたちとの合流を妨げる。
そして、15の首を使いガンガン噛みつきアイアンゴーレムの体力を削っていく。
「よし、これでこいつらが後方に下がらなければ、お互いを蘇生することができなくなったぞ」
(テキパキいくわよ!)
前回は通路に逃げたが、今回はこのだだっ広い空間でゴルディノと戦う予定だ。
今回の戦いは最下層ボス攻略報酬を目的に戦っているのだが、その戦い方において「時短」を意識している。
一秒でも早く倒したい。
『こ、小癪な! 矮小なる者たちよ。我らの真の恐怖を知るがよい!!』
「クレナ、ドゴラ、人数も補助も少ないからな。攻撃を受けすぎるなよ!!」
「うん、分かった! 前は任せておいて!!」
「おう、分かってる!!」
クレナとドゴラが突っ込んでいく。
とりあえず、ブロンズゴーレムに2人とも張り付いてもらう。
そして、ゴーレムたちは一撃一撃が強力なので倒すことよりも倒されないことを優先するように言う。
全長100メートルある敵のゴーレムたちは、ゴルディノを除いてステータス2万から3万の間だ。
ブロンズゴーレムのドリルパンチは3万強あると踏んで、不意打ちで殺されないようクレナとドゴラは敵の体力を削りつつ張り付いてもらう。
「うりゃあああ!!!」
タムタムに乗ったメルルがもう一体のアイアンゴーレムの動きを止める。
ヒヒイロカネゴーレムとアイアンゴーレムはステータス的にはほとんど拮抗している。
動きをこの場に留め、もう一体のアイアンゴーレムを助けに行くことをできなくさせる。
「ハヤテ、オキヨサン、タコスも戦うぞ」
『は!』
『けけけ、今日も殺そうかね』
『がってんでゴアス!』
王化した獣A、霊A、魚Aはゴルディノを除いて他の4体の敵側のゴーレムと大差ないステータスがある。
3体の召喚獣の狙いはアイアンゴーレムだ。
こいつを倒せば敵側は蘇生できなくなる。
2体のアイアンゴーレムを分断させて、優先して叩く作戦は前回と一緒だ。
俊敏に動くことができる獣Aの召喚獣は、強化した攻撃力でアイアンゴーレムを削り続ける。
そして、霊Aの召喚獣の特技「背後霊」を使えば、アイアンゴーレムの背後に一瞬で移動できる。
そしてクリティカルの出やすい背面を攻撃しまくる。
今回の王化によって魚Aの召喚獣は戦闘面で戦いに参加できるようになった。
王化によるステータス3倍は大きい。
それでも軟体動物とあって、耐久力が3倍でも2万いかず、この3体の中でも一番低い。
ゴーレムたちから滅多打ちに攻撃を食らうのだが、特技「タコの心臓」のお陰でそう簡単にやられることはない。
タコの心臓は3つあるので、命も3つあるという意味のようだ。
2つの心臓がつぶれてもいいようで、死ぬと瞬く間に体力と魔力が全快して復活する。
潰れた心臓は1つでも2つであっても1日経てば復活するし、キールのエクストラスキル「神の雫」でも1つ直る仕様になっている。
検証のためにキールにエクストラスキルを使ってもらったが、魚Aの召喚獣はやられたら召喚し直したほうが良い。
キールのエクストラスキルは常に使用できる状態にしておくことが大事だ。
『痛いでゴワス! むん!!』
命がいくつあっても痛いものは痛いようだ。
魚Aの召喚獣は今回1パーティーで戦う決め手となる特技「煙幕」を使う。
タコの容姿をした魚Aの召喚獣は口から煙幕を張る。
この特技を使うと敵の攻撃にミスが増え、クリティカルが激減する。
今までAランクの魔獣にしか効かず、使い道が限られていた。
Aランクの魔獣ならアレンたちならそんなに苦戦することなく倒せるからだ。
それが王化したことにより、Sランクの魔獣にも一部効果が出始めた。
これは現在25000ある魚Aの召喚獣の知力が関係していると分析している。
相手との知力差で効果の判定が大きく変わるようだ。
知力が低い魔獣でも全くデバフが効かない魔獣もいるのだが、今回戦う5体の内ゴルディノ以外への効果が抜群になった。
キールとソフィーが回復を担っているのだが、圧倒的に負担を減らしてくれる。
『何をしている。ミスリルゴーレムよ! すぐに敵を薙ぎ払うのだ!!』
(やはり膠着状態には高火力だよな)
ゴルディノが飛翔してこちらに銃撃してくるミスリルゴーレムに檄を飛ばす。
この中で一番攻撃に特化しており、耐久力はそれほどないが空を自在に飛んで遠距離攻撃をしてくる。
「ロカネルたち。全部吸収しろよ!」
待っていましたとアレンは、王化した石Aの召喚獣1体に、指揮化した石Aの召喚獣3体を召喚する。
いくら攻撃を受けても、反射することもなく、4体で全部吸収し続ける。
「いい感じね。もう少しで倒せそうよ!」
「ああ!」
アレンとセシルがアイアンゴーレムを攻め立てる。
そして、メルスと竜Aの召喚獣とタイミングを合わせて、転移していない方のアイアンゴーレムも倒す。
お陰で、2体のアイアンゴーレムを同時に倒すことができた。
『き、貴様ら、我を本気で……』
「よし、そろそろたまったな。ロカネルたち収束砲撃だ!!」
『『『……』』』
『な!? ぐは!?』
4体の石Aの召喚獣は覚醒スキル「収束砲撃」を放つ。
するとゴルディノがダメージに耐え切れず、全長100メートルもあるにもかかわらず派手に吹き飛ばされたのであった。
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