第269話 Aランク

 アレンたちはスカーレットを倒した後、クリムゾンに挑戦をした。

 クリムゾンは白竜と同等程度の強さのあるカイザーシーサーペントを最大100体呼ぶので消耗戦になる。

 仲間たちのエクストラスキルを温存しての戦いが難しく、2回ほど挑戦したが失敗に終わった。

 多少無理をすれば倒せるのだが、仲間を危険に晒すほどには急いでないという考えの元、クリムゾンの攻略は持ち越した。


 それから年が明けた1月1日に教会に対して神託があった。

 精霊神が言っていた通り、火の神の力が弱まり、そして転職制度が4月に開始されるというものだった。


 転職制度の詳細については、また追って神託があると言う。

 もしかして、方針が完全に固まっていないのかもとアレンは思った。


 今日は3日間ダンジョンを攻略した翌日だ。

 アレンたちは冒険者ギルドの取引を終え、急いで家に帰る。


「ちょっと、遅くなったな」


 外に出てもやや早歩きで拠点に戻る。

 ワクワクが止まらない。


(この気持ちの高揚はいつ以来か)


(お? 全員いるのか?)


「じゃあ、ダンジョンに行くけど、来たい人はどうぞ」


「待っていたよ。もちろん皆行くよ」


 この場にはアレンとヘルミオスのパーティーが全員いる。

 どうやら、全員参加するようだ。


「構わないですよ。ただ、検証に時間がかかると思いますので、その辺はご勘弁を」


 そう言って、アレンたちはダンジョンの2階層目指して、神殿に向かう。


 今日は本来であれば、3日間のダンジョン攻略を終えた後なので、ダンジョンを2日間休む日だ。


 しかし、昨日スキルレベル上げをしてようやく流れたログが、アレンの予定を変えた。


 行列に並ぶ中、アレンは何度も、魔導書のログをメモ機能に転写した記録を見る。

 もう1日中見ていられるログが記載されている。


『合成のスキル経験値が10億/10億になりました。合成レベルが8になりました。召喚レベルが8になりました。魔導書の拡張機能がレベル7になりました。等価交換スキルを獲得しました。王化スキル〈封〉を獲得しました』


 アレンは先日の晩、とうとう召喚レベルを8にした。

 召喚獣の検証をしたいのだが、召喚獣は巨大な可能性がある。

 拠点の庭先では検証できない召喚獣もいるだろうから、休み返上でダンジョン内で検証しようとしたら、アレンとヘルミオスのパーティー全員が見学するという。


(ぐふふ、とうとうAランクまできたで。15歳で達成できるとは)


 15歳になるまでひたすらにスキルレベルを上げ続け、とうとうAランクの召喚獣を召喚できるようになり、涎が止まらない。


 神器を奪われ、神託が下った。

 そんな危機的な状況下で、希望ともいえるアレンのスキルレベルアップだ。

 関心もあり、情報は共有しておきたいと言う気持ちもある。


 しかし、アレンの仲間たちはそれだけでついてきたわけではない。

 アレンは検証好きで、魔獣の跋扈する場所で検証に没頭するのが心配だった。

 学園にいたころのダンジョン内でもそうであった。


・01歳00か月 魔導書獲得、召喚レベル1、召喚獣Hランク

・01歳10か月 召喚レベル2、合成スキル獲得

・03歳00か月 召喚獣Gランク

・05歳11か月 召喚レベル3、強化スキル獲得、召喚獣F

・07歳09か月 召喚レベル4、収納スキル獲得、召喚獣E

・09歳10か月 召喚レベル5、共有スキル獲得、召喚獣D

・12歳09か月 召喚レベル6、覚醒スキル獲得、召喚獣C

・13歳11か月 召喚レベル7、高速召喚スキル獲得、指揮化スキル獲得、召喚獣B

・15歳03か月 召喚レベル8、等価交換スキル獲得、王化スキル獲得、召喚獣A


 神殿の行列を進みながら、これまで歩んできたスキルレベルを上げてきた記録を魔導書に追加する。


 ほどなくして、休み返上で2階層に転移する。

 さらに鳥Bの召喚獣に乗って、他の冒険者のいないところに移動する。


(さて、整理も兼ねて1つ1つ検証するぞ)


 昨晩に召喚レベルが8になったということもあり、既に全ての召喚獣のカード化は済んである。

 Aランクの魔石はローゼンヘイムの戦争と、このS級ダンジョンで十分な数はある。


(魔導書のホルダーは予想通り70枚から10枚増えて80枚になったな)


 スキルレベルが上がる度に毎回10枚ずつ所持できる召喚獣のカードの上限数は上がっている。

 今回も10枚増えたので、貰える召喚獣の加護も10体分増える。


(ふむふむ。またスキルは2つ手に入れたぞ。等価交換と王化か。まずは等価交換スキルか)


 等価交換スキルの分析を進める。


 今まで同じランクの魔石で召喚獣を生成するしかできなかった。

 しかし、今回手に入れた等価交換スキルはその問題をどうやら解決してくれるようだ。


 魔石はランクが1つ上がれば、価格は10倍になる。

 ランクが1つ下がれば、価格は10分の1になる。

 何故、値段とランクがきっちり10倍、10分の1になるのかというと、それには理由がある。

 魔導具を動かすのに必要な魔石量はランクが1つ上がれば10分の1で済むし、1つ下がれば10倍の魔石が必要だ。


 等価交換スキルはこの法則に準じているようだ。


(等価交換はかなり使えるな。これで一部の魔石が足りなくて困ると言うことが解決されたし。スキル経験値稼ぎも捗るぞ)


 等価交換のスキルは、魔石のランクが召喚獣より1つ上なら、魔石の数は10分の1で済む。

 また、魔石のランクが1つ下なら、10倍の魔石が必要だ。

 そして、魔石のランクが召喚獣より高く、召喚獣を生成する際、魔石が余る場合、自動的に余った魔石が生成される。


・Dランクの魔石1個で、虫Eの召喚獣10体生成できる

・Dランクの魔石10個で、虫Cの召喚獣1体生成できる

・Dランクの魔石1個で、虫Eの召喚獣1体とEランクの魔石9個を生成できる


 仲間たちが見つめる中、アレンは魔導書に分析した結果を記録していく。


(もう1つの王化は封印されたままか。っていうか、魔神レーゼルを倒してからレベル上がっていないんだけど)


 魔神レーゼルを倒してレベルが76になった。

 レベル76から77に上げるのに4000億の経験値が必要だ。

 現在、装備集めなども並行して行っているということもあり、とてもじゃないがレベルが上がる気がしない。

 Sランクの階層ボスについても、階層が広すぎてとてもじゃないけど周回で数をこなして倒せる状況にはない。


「王化は当分使えそうにないな。さて、召喚獣を出してみるか。どんなのか見たいし」


 生成したカードで何となくイメージできているが大きさまで分からない。


「とうとう出すのね。どんなのかしら?」


 ずっと近くで様子を見ていたセシルが、アレンの独り言を拾う。

 セシルの声でやっと出すのかと皆の意識がアレンに集中していく。


「せっかくなので最初はデカいのから行くぞ。出てこいオロチ!」


 カードの絵柄をアレンは知っている。

 子供のころから見てきた、前世で神話の世界の存在だ。

 この世界に来た頃からずっと、こんな召喚獣を召喚したかった。


 そう思えるほどのときめきがカードの絵柄にはある。


『『『グルアアアアアア!!!!』』』


 アレンは1体の竜Aの召喚獣を召喚した。

 心臓を圧迫するほどの複数の叫び声とともに、仲間たちはその巨大さに上空を見上げる。


「何だこりゃ! すげえええ!!!」


 ドゴラが見上げたまま、絶叫した。


(デカすぎて、全体像が見えない件について。ホークの視界で確認するか)


 上空に鳥Eの召喚獣を飛ばし、全容を確認する。


 竜Aの召喚獣は全長100メートルはありそうな、ヤマタノオロチ、ヒュドラーのように複数の首に分かれた大蛇の召喚獣だ。

 掲げた頭は5つに分かれており、胴体から尾の先まではるか先まで続いている。


 【種 類】 竜

 【ランク】 A

 【名 前】 オロチ

 【体 力】 10000

 【魔 力】 7700

 【攻撃力】 10000

 【耐久力】 9200

 【素早さ】 10000

 【知 力】 6000

 【幸 運】 8000

 【加 護】 攻撃力200、素早さ200、ブレス無効

 【特 技】 猛毒の牙、超再生

 【覚 醒】 地獄の業火


「ステータスも強化も何もせず1万に達したか。というか特技が2つあるぞ」


 アレンは魔導書と竜Aの召喚獣を見比べながら、その強さを肌で感じる。

 1万に達すると言うことはAランク上位の強さの魔獣とも互角で戦える。


 そして、召喚獣のバフスキルや、キールの補助魔法などでステータスを上げることができる。


 それから、他の召喚獣についても、一通り確認していく。

 召喚獣の特技や覚醒スキルは一度で理解できなかったり、検証しきれないものもあるので、一通り触りだけの確認だ。


(よし、とりあえずこんなものか。じゃあ、いよいよメインディッシュだ。新たに追加されたこの召喚獣だけ、他と雰囲気違う気がするな)


「どうしたの?」


 クレナがアレンの異変に気付く。


「ん? クレナ。今回実装された召喚獣がなんとなく他と違う気がするんだ。とりあえず、出してみるよ」


 言語化するほどの違和感ではない。

 1年以上かけて追加された久々の新たな系統の召喚獣だ。

 気持ちが高揚しすぎたのかなと思う。


「うん」


 アレンは召喚レベル8になって初めて召喚できるようになった召喚獣のカードを魔導書のホルダーから取り出す。

 Aランクの魔石も十分にあるので、高速召喚も使いすぐに追加した召喚獣の合成方法は分かった。


「よし、出て来い」


 カードは光の泡となり消え、召喚獣が姿を現す。


 その姿はくせ毛の強い10代後半くらいの男だ。

 竜Aの召喚獣とは違い、人間大の大きさだ。

 半裸で頭には光の輪が浮いており、背中には羽が生えて地面から少し高い位置に浮いている。


(カードの状態の通りか。完全に天使だな。というかカードに天使Aって書いてあったし)


「「「え?」」」


 皆もアレンが召喚した新たな召喚獣の姿を見て声を上げる。


 アレンと天使Aの召喚獣の目が合う。


『……』


 1人と1体が沈黙のまま見つめ合う。


 すると、天使Aの召喚獣はアレンから視線を外し、辺りを見回す。

 まるで、ここがどこか分からず確認をしているようだ。


 そして、自らの両手や体に異変がないか見たり動かしたりしている。

 まるで、自らの身に何かあったのか確認をしているようだ。


 それが終わるとアレンや仲間たちに改めて視線がいく。

 吸い込まれるような視線にドゴラが一瞬怯んでしまう。


(何か混乱しているのか? 大丈夫か?)


 アレンは天使Aの召喚獣が自らの状況が分からず混乱しているように思える。

 とりあえず、視線も合ったことだし声を掛けてみようと一歩前に出た。


 そこで何かが分かったかのように天使Aの召喚獣は閃いた表情をする。


『そうか!! エルメア様は聞き入れてくださったのか。キュベルめ。見ておれ! ぶっ殺してくれる!!』


 しかし、アレンの言葉を返すことなく、喜びを爆発させ物騒な言葉を口にする。


(何か気合の入った天使が召喚された件について)


 何か凄い召喚獣が出てきたなとアレンは思うのであった。

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