第255話 クリムゾン①

 アレンたちは神殿から4階層へ転移した。


「さて、今日はオリハルコンを探すぞ」


「ええ、ヘルミオス様が言っていた貝の中から見つけるのね」


 アレンは鳥Bの召喚獣を召喚し、皆乗り込んで上昇して行く。


 アレンは一貫して転送した場所から鳥Bの召喚獣を召喚するので、最近では他の冒険者も驚かなくなった。

 そういう不思議な能力を持った何かくらいに思っているのかもしれない。


 アレンはオリハルコンの塊を見つけて、クレナとドゴラの武器にしたいと考えている。

 オリハルコンの武器を手に入れることは、階層ボスの攻略や、日々の魔獣討伐の効率にも繋がる。

 今日からしっかりオリハルコンを探すことにして、オリハルコンの武器を手に入れたら、また葉っぱの上の魔獣と宝箱を探すことにする。


(ゲンブたち頑張ってくれ。大きな貝を見つけたら破壊していいから中にオリハルコンがないか確認してくれ)


 アレンは上空から魚Bの召喚獣を召喚し、水中に散開させた。

 50体全ての魚Bの召喚獣に水の底にある数メートルはあるシャコガイのような貝を破壊して、中に何かないか調べさせる。


 アレンはこのダンジョンを冒険していくつか分かったことがある。

 それはこのダンジョンは生きているということだ。


 以前、サラマンダーに焼かれた水面に浮く葉っぱは翌日には直っていた。

 そして、驚きの内容をウルから聞いたのだが、このダンジョン全体が日々少しずつ大きくなっていると言う。

 1階層の街並みも日々ゆっくり大きくなっていっているので、街もそれに合わせて大きくしていっている。

 街並みが神殿を中心に円状に建物や道路ができているのはそう言う理由があるそうだ。


 多少破壊しても直るので、貝を破壊しても、明日には直っているだろうという話だ。


「こうやってみたら、気になるところはたくさんあるな」


「そうなの。全部調べるの?」


「いや、今日はオリハルコンが見つかったという貝を探そう」


 澄み切った水のため、水の底まで見えるが、水深100メートルはありそうだ。


 宝箱以外にお宝が眠っていると聞いてシャコガイのような大きな貝を破壊している。

 しかし、お宝が眠るのはそれだけではないように思える。

 この澄み切った水の底を見たら、カニの巣穴のような穴だったり、船みたいなものまで沈んでいる。


 きっと、こういったものの中にも何かが眠っているのだろう。

 色々目移りするところではあるが、初志貫徹し大きなシャコガイからオリハルコンの塊を探すことにする。


 それから半日が経過する。

 何百、何千とシャコガイを破壊したが、中からオリハルコンの金色の輝きが見えることはない。

 魚Bの召喚獣は海中の魔獣を無視して広範囲に渡ってシャコガイを探し続ける。


「なかなか、厳しいな。やはりロゼッタさんにお願いするかな」


(オリハルコンが1日かそこらで見つかるはずないものな。ちょっとやり方を変えないと)


 怪盗ロゼッタの話を聞いて、とりあえず自分で探してみようとアレンは思った。


「……」


 セシルが答えない。

 お宝の探知スキルのあるロゼッタにお願いすることにかなりの抵抗があるようだ。

 お宝探しの対価にロゼッタに何を言われるのか分からない。


「ん?」


「どうしたの?」


「なんかデカい貝があるぞ」


 共有した魚Bの召喚獣がひときわ大きいシャコガイが海底にあるのに気付く。

 数メートルはある大きなシャコガイをアーケロンの姿をした魚Bの召喚獣が口で破壊しようとする。


 しかし、シャコガイがこれまでと違って破壊できない。

 Bランクの魔獣なら一噛みできる魚Bの召喚獣は、その辺の岩なら簡単に噛めば粉砕できるのにもかかわらずだ。

 これまでのシャコガイと明らかに様子が違う。


(お? これは当たりか。みんな集まれ)


 様子の違う、この破壊できないシャコガイが当たりだと判断し、散らばった他の魚Bの召喚獣も集める。


 アレンたちも破壊できないシャコガイのある場所を目指して移動する。


「ここ?」


 近くに葉っぱのない水面の上空にアレンたちも到着した。


「ああ、さてどうするかな。エリーたち、ちょっと海底から取ってきて」


『『『承りましたわ』』』


 アレンたちはシャコガイの上空にたどり着いたが、まだ魚Bの召喚獣では破壊できないでいる。

 よっぽど頑丈なようなので引き揚げてシャコガイごと回収することにする。


 霊Bの召喚獣を数体海底に潜らせた。


 その時だった。


「む? 敵だ。すごい勢いでこっちに来るぞ!!」


(ん? この紅蓮の体は?)


 海中をシャコガイの方に向かう巨大な群れを、旋回させていた鳥Eの召喚獣が発見する。


「敵ね」


 アレンが警戒の声を上げたため、一気に臨戦態勢に入る。

 セシルがアレンの後ろで、杖を握りしめる。


「こいつはSランクの階層ボスだ! クリムゾンたちが来るぞ!!」


 敵が一体ではないことをアレンは知っている。


 鳥Eの召喚獣が見たのは紅蓮に染まる海竜で、クリムゾン=カイザー=シーサーペントと呼ばれている。

 そして、紅蓮の海竜を守るように固まって泳ぐ、色違いで一回り小さい青色の海竜は、カイザーシーサーペントだ。


 この通称クリムゾンと呼ばれるSランクの魔獣は、Aランク上位の魔獣を10体従えている4階層の覇者だ。


 水の底から引き揚げようとしていた霊Bの召喚獣たちも、水の底にいる魚Bの召喚獣たちも囲まれるようにやられてしまった。

 1体残らず光る泡に変えられてしまう。

 水中はクリムゾンたちの独壇場のようだ。


「敵は水中にいる。数を減らすぞ。セシルは氷魔法で攻めてくれ」


「ええ」


 火では効果が薄いと判断し、氷魔法を使って海中にいるカイザーシーサーペントを狙う。

 Sランクのクリムゾンより、Aランク上位のカイザーシーサーペントを優先して叩き、数を減らすことにする。


(さて、勇者はこいつたちが出たらマッハで逃げるらしいが倒せるかな)


 ヘルミオスはクリムゾンを倒したことはないとだけ聞いている。

 だから攻略法は自分らで見つけないといけない。


 クレナやドゴラも、水面からアレンたちを食らおうと水中から顔を出したカイザーシーサーペントの顔面に渾身の力を込めて、大剣や大斧を叩きこむ。


 Aランク上位だろうとアレンの仲間は2度の転職を済ませ、着実に力をつけている。

 既にレベル上げが終わっているということもあり、1体また1体とカイザーシーサーペントが数を減らしたその時だった。


『ギャアアアアス!!』


 水中からクリムゾンが大きな声で鳴いた。

 水上にいても聞こえ水面が振動するほどの大きな声が、衝撃波のように広範囲に伝わっていく。


(お? これってもしかして。例のあれか)


 そして、すぐにどこからともなく、やられた数と同じ数のカイザーシーサーペントがやって来る。


「こいつは仲間を呼ぶぞ!!」


「また振出しに戻ったじゃないっ、て!? あ、危ない!!」


 セシルも絶句するが、その暇さえクリムゾンたちは与えないようだ。

 海中から、光線のように水鉄砲を放ってくる。

 クリムゾンたちは水魔法を駆使して、上空にいるアレンたちを狙い始める。


 水鉄砲で出来た水の柱は数百メートル上空まで達する。

 ところかまわずガンガン打ち始める。

 もう水面に近づくのも危なくなってきた。


(くそ、一旦引いて、こいつらがいなくなったところを、こっそり取りに来るか)


 魔獣の討伐が今回の目的ではない。

 わざわざ終わりないこの戦いを続けるより、一度引こうと考える。

 そして、クリムゾンたちがいなくなったところで、シャコガイを回収すればよい。


「キャ!?」


「ソフィアローネ様!?」


 かなり高い上空にいる後衛の位置まで届く水鉄砲を受けて、ソフィーが悲鳴を上げた。

 フォルマールが無事か確認し、キールがすかさず回復魔法をかける。


「大丈夫か!?」


「ええ、ありがとう、フォルマールも大丈夫ですわ」


(やばいな。後衛に攻撃が達するし、ここは逃げの一択だな)


 アレンが逃げようとする。


 アレンが撤退を判断したとき、水の幼精霊ケルピーがソフィーの体に不安顔で顔をこすりつける。

 「大丈夫よ」とソフィーがケルピーを撫で安心させようとする。


 そんな手を振り払うように、ケルピーが体勢を反転させクリムゾンたちを睨みつけ、大きく鳴いた。


『キュキュ!!』


「ケルピー様、私なら」


「な!? ソフィアローネ様!!」


 そこまでしか言えなかった。

 ソフィーは体から全ての魔力が消えていくことを感じる。

 意識が遠くなっていき、フォルマールの叫び声も遠くで聞こえるような気がする。

 どうやら体力まで吸い取られてしまったようだ。

 

 水の幼精霊ケルピーが誰もが分かる形で暴走した。


「おいおい、冗談だろ。何だこれ? どうやったらこんなことが出来んだよ」


「おい、みんな巻き込まれるぞ!! 一旦下がれ!!」


 水面が広範囲で上昇し始めた。


 もっとも水面に近いところで絶句するドゴラに離れろとアレンが叫ぶ。

 信じられないことが起きたのだ。


『ギャアアアアアアッス!!!』


 クリムゾンたちが叫ぶがそんなことは関係なく行われた。


 クリムゾンたちがいる水を底から丸ごと持ち上げてしまった。

 透明なゼリーを中心だけくり貫いたかのように、クリムゾンたち11体が巨大な水の玉の中に入れられたまま上空に上がっていく。


(おいおい、100メートル以上ある水の底が剥き出しで見えるんだが?)


 どんな力が働いているか分からないが、水を持ち上げても、周りから水が流入しないようだ。

 水面にカッポリと巨大な穴が開いている。


『はは。アレン君でも驚くことがあるんだね』


「え? 幼精霊って聞きましたが、こんな力があるんですね」


 精霊神ローゼンは驚くアレンが嬉しかったようだ。


『幼精霊がって? 精霊とは神の眷属だよ? ケルピーは紛れもない水の神アクア様の眷属だ。四大神が1柱アクア様の眷属なら、精霊使いの全ての魔力と半分の体力を使えばこれだけのこと訳ないさ。はは』


 胸を張り、水の幼精霊ケルピーの力を自慢する。


(なるほど、水属性もあってとんでもない威力になったのか。って水が破壊されそうだ)


 巨大な水玉の中に封じたクリムゾンたちが体当たりをして、中から水玉を破壊しようとする。表面にヒビのようなものが生じていく。

 あまり分析も考察もしている暇はなさそうだ。


「エリー達、今のうちに回収してくれ!!」


『『『はい!!』』』


 霊Bの召喚獣を3体召喚し、今のうちに水が無くなった海底にある大きなシャコガイを引き揚げさせる。


 3体掛かりなら、この大きなシャコガイも持ち上げることができるようだ。


 アレンたちも含めて急いでこの場から離れる。

 アレンたちが離れてからそんなに時間が経たないうちに、背後からものすごい地響きのような音がする。

 水玉が破壊され、クリムゾンごと落下した音のようだ。


 アレンたちは、振り向くことなくその場から全力で離れて行く。

 こうして、巨大なシャコガイを1つ手に入れることに成功したのであった。

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