第538話 精霊獣戦②
アレンたちは守りに徹しながらも1つのことを狙っていた。
それは敵の魔力と霊力切れだ。
アレンのマジックイーターは周囲の敵の魔力を吸い取る。
さらに、霊斬剣には魔力を消費して知力依存の攻撃をする以外に、もう1つの効果がある。
それは対象の霊力を破壊するということだ。
アレンはファーブルの何らかの攻撃が発動しなかった僅かな挙動も見逃さなかった。
(ステータスを鑑定できないから、可能性の段階ではあったが良かったぞ。この世界は魔力が回復しないからな)
魔力が回復しない世界で、魔力と霊力を執拗に削っていった。
もしかしたら、神級の霊獣はスキルや魔法に神力を使っているかもしれない。
霊斬剣は神力を削ることができることは検証できていないため、誤った作戦となる恐れもあった。
「よし、狙いは分かるな ソフィー、ルーク!!」
アレンの言葉にソフィーとルークは全魔力を精霊に込め始めた。
「アレン様、もちろんです! 光の大精霊ライト様!!」
ギリシャ神話のような出で立ち。頭にも、両腕にも金色の装飾品をつけた女性の精霊が姿を現した。
『ああ、全てを薙ぎ払う光と成せ!!』
光の大精霊の全魔力が手の中に集まったかと思うと、まばゆい閃光の塊がローゼンを襲う。
全身を焦がす光線をもろに受けたローゼンは、たまらず頭を振り始めた。
頭には全体回復をする葉っぱが大量についている。
「させるかよ。カカ、焼き払え!!」
『おう! 燃え尽きろ!!』
神級の精霊獣がどれほどのことかと、火の大精霊がローゼンの頭部を中心に灼熱の業火を両手の平から放つ。
回復させまいと葉っぱをすべて燃やしていく。
『アアアアアァアァァ!!』
悲鳴を上げている中、既にアレンはローゼンのすぐそばまで迫っていた。
(お互いの距離を空けやがって、お陰で貴様を狙い撃ちじゃ。回復役は真っ先に死すべし。火属性を食らえ!!)
ローゼンとファーブルがアレンたちを挟みこむ形で動いたため、今回の作戦がやりやすくなったと考える。
「霊呪爆炎撃!!」
アレンの剣にまとわりつく炎が髑髏のように溢れてくる。
おどろおどろしいグラハンの特技は、アレンの圧倒的な知力が合わさり、威力を圧倒的に向上させた。
『アアアアアァアァァ!!』
アレンのオリハルコンの剣が、ローゼンの木でできた体を、火属性が襲う。
幹を大きく粉砕し、ローゼン全体を燃やし尽くそうとする。
(む? 助けに入る、いや)
この一撃で消耗したソフィーやルークの魔力を天の恵みで回復している。
部屋の隅に待機させている霊Aの召喚獣が、ファーブルの動きを捉えた。
ヘドロ状態の体が一塊になって、アレン後方にいるソフィーやルークを狙う。
「ソフィー、ルーク守りを固めろ」
「え!? は、はい!!」
ローゼンへ一斉攻撃して間もなくの時に、ソフィーもルークも、ファーブルは背後で視界の範囲外だった。
そこを狙われた形になり、アレンはローゼンへのさらなる追撃を諦め一気に後方に戻る。
(いや、間に合わないけど。これは)
先に動き出したファーブルの方が、アレンよりも先にソフィーやルークに元に到着しそうだ。
しかし、ファーブルはその様子に、一瞬ヘドロ状の口元がニヤリと口角が上がったかと思うと、上部へ飛び上がった。
「やはり、フェイントか」
ファーブルは巨躯を飛び上がらせ、ソフィーやルークの頭上を越え、さらにアレンも飛び越えていく。
ファーブルの狙いはソフィーやルークではなく、アレンたちに集中砲火を浴びて、やられそうなローゼンだった。
ファーブルは、やられかけたローゼンの体をヘドロ状の肉体で覆い取り込んでいく。
メキメキ
「何が起きてんだよ」
「取り込まれていきますね……」
ルークとソフィーが絶句する中、2体の精霊獣は1つの精霊獣に合わさっていく。
精霊獣の上部にローゼンは体を根ごと移動し、先ほどよりも紫掛かった毒々しい色味の木の枝葉に変わり、赤、緑、黒の実を木の枝に無数につける。
下部はファーブルが担当するようで、オオサンショウウオのようにのっぺりとした形の体をかたどっていく。
下部のオオサンショウウオの体は毒々しく、至る所からイボができ始めドロドロの体液が零れている。
体長は3分の1が木の部分で、3分の2がオオサンショウウオだ。
2体の霊獣が合わさって30メートルほどの巨躯になってしまった。
『そのまま死ねば、楽に死ねたものを……』
大精霊神イースレイは思わず丁寧な口調だが、だんだん悪役のような語り口になっていく。
(背中や頭に木やキノコを生やしました系の敵か。あんまり良い思い出がないんだが)
色々なタイプの敵と前世で戦ってきたが、植物やキノコを生やした敵には、必ずある1つの特性があった。
『ギェココココ!!!』
アレンたちが様子を見る中、合わさって1体となった精霊獣が体を振り始める。
背中の木の赤い実が枝から落ちて、精霊獣の広げた口の中に入る。
ボリボリと咀嚼して飲み込むと精霊獣の体全身から魔力が溢れる。
「魔力が回復したということでしょうか?」
「天の恵みみたいだな」
ソフィーもルークも理解が進む。
どうやら消耗した自らの魔力を背中に生えた木の実を食べたら回復できるようだ。
(さて、攻撃は通じるかな)
次の行動をしてくる前にアレンは動き出した。
精霊獣との距離を詰め、霊斬剣を発動させた剣を額に叩き込む。
『ギェオパ!?』
(いけるか。いや、結構固いぞ。む!)
下部は両生類のような柔らかい見た目だが、先ほどのローゼンやファーブル以上の耐久力が剣から伝わってくる。
2体の精霊獣が合体して、明らかにステータスが上がり、耐久力は向上している。
アレンはめり込んだ剣を抜き、後方に一旦下がろうとする。
しかし、オオサンショウウオの形をした口元から長い舌が伸びた。
アレンの腹部に衝撃が走る。
名工ハバラクによって錬金されたオリハルコンの鎧を砕き、アレンにダメージを与える。
骨が砕け、内臓がいくつも損傷する。
(とんでもなく痛いぞ。直撃はあり得ないと)
知力に比べて耐久力の低いアレンは、物理耐性が召喚獣の加護によっていくつも付加されているのだが、それを上回るほどの力が精霊獣にはあるようだ。
「トーニス様、回復を!!」
『うむ、任せるのじゃ!!』
後方まで吹き飛ばされたアレンの体力を水の大精霊トーニスがメリメリと治していく。
損傷した内臓も、折れた腹部の骨もあっという間に、痛みもなかったかのように完治する。
「攻撃は通じるが回復してしまう。長い舌はかなり距離が伸びると思っていた方がいい」
アレンは自らの体で稼いだ経験を、ソフィーとルークに共有する。
「じゃあ、もっと下がらないといけませんわね」
「そういうことだ。見た目もそこまで動きの速そうな姿をしていないが……」
耐久力や物理耐性がアレンよりもさらに低いソフィーとルークはアレンよりもかなり後方に下がろうと言う。
ここは全長1キロメートルを超える広い空間で天井もかなり高い。
精霊獣と距離を取ろうと思えばかなりの距離を取ることができる。
オオサンショウウオの背中にデカい木が生えた姿は、敏捷なイメージからかけ離れている。
この状況でどうやって倒すか考えていると、精霊獣がまた腰を振り出す。
(腰を振るのはローゼンの名残か)
精霊獣は腰を振り、今度は緑の実が木から落ちてくる。
一口で精霊獣が食べると、アレンが与えた額の傷がみるみる回復していく。
「見せつけてんのか。余裕じゃねえか」
ルークが代表して、今とった精霊獣の行動を分析する。
明らかにまだまだ体力がありそうなのに、勝利を確信し、余裕を見せるかのように、ニタニタした顔で精霊獣は体力を全快にするようだ。
ギョロリとした目が、アレンたち3人を捉える。
カメレオンのように左右の目が非対称にアレンたちを見つめる。
『ギョコ』
ニヤリと笑うと、また腰を振り出して、黒色の木の実を枝から落として食べる。
何をする気かとアレンたちに警戒が広がる。
精霊獣のオオサンショウウオ部分の体のイボが全て弾け、中から真黒なヘドロ状の膿が出てくる。
膿は空気に触れると気化し始め、精霊獣を中心に一気に体積を大きくしていく。
「毒攻撃だ。警戒しろ!!」
初めての攻撃だが、最も可能性のある攻撃を予想し、アレンは仲間たちに伝える。
あっという間に漆黒のガスのようなものがアレンたちに迫ってくる。
精霊獣自体は動かないことを確認し、魔導書を確認すると、アレンの体力が減り始めた。
「く、くっせえ! ゲホゲホ!!」
アレンも含めて、皆体の異常を訴える。
体力がメリメリと削られるガスを噴出しているようだ。
さらにアレンのステータスに「猛毒」とある。
(まじか。香味野菜も使っているのに、「超猛毒」だと)
アレンのステータスは「猛毒」とあるが、ルークとソフィーのステータスは「超猛毒」とある。
『なんだ、この毒は!?』
ルークが慌てて顕現させた毒沼の大精霊ムートンが驚愕する。
ルークを中心に、精霊獣の毒を中和する黄色のガスを全身から放出するが効果は完全ではない。
神級の2体の精霊獣が合体した力と大精霊の力では、精霊獣の毒効果が圧倒しているようだ。
しかし、ムートンのお陰でルークとソフィーの「超猛毒」は「猛毒」に状態異常が変わり、アレンの状態は「猛毒」から「毒」に変わる。
アレンは草Cの召喚獣の覚醒スキルで作成した香味野菜をいくつか使用し、アレンたちの毒状態を全て無くす。
しかし、精霊獣の出した漆黒のガスが蔓延しているため、いつまた「毒」状態になるか分からない。
『ギェコギェコ!』
精霊獣を見てみると、勝利を確信し、ニタニタと笑っている。
(精霊獣は自らの体力も魔力も回復し、攻めるのも大変だが、この広い空間を満たすほどの猛毒を噴出すると)
この状況でやるべき指示は限られてくる。
「ルークはムートン、ソフィーはトーニス維持で」
「おい、それじゃあ、どうやって攻めるんだよ。あいつは回復するんだぞ」
「これは、時間との勝負ということですね」
アレンの指示は完全な守りに入ったことを意味する。
「メルスが戻ってくるまで勝機を伺いつつ、時間を稼ぐぞ」
アレンたちと圧倒的な力を持つ精霊獣との戦いは続いていくのであった。
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