第481話 バレットギア

 アレンたちは、鱗の門の2階層を鳥Bの召喚獣に乗って移動していた。

 結局1階層は3日ほど掛かってしまい、2階層に入っても3日ほど過ぎている。

 石畳の個室が完全に独立しているのは1階層と同じだった。

 転移を繰り返した先に、別の個室を移動していき、3階層を目指すのだろう。

 1階層との違いは、2階層は雷地帯となっており、罠の床板を踏むと雷が降り注ぐ仕組みとなる。

 鳥Bの召喚獣に乗るのは、床板に隠れた罠を踏まないようにするためだ。

 しかし、どうしても踏まないといけない罠がある。


 カチッ


 霊Aの召喚獣に頼んで踏んでもらった魔法陣から嫌な音がした。


「あ、すまない。転移装置じゃなかった」


 アレンが謝った瞬間、天井が光り、雷が落ちてくる。

 仲間全員が雷に包まれる。

 もう何度も食らっているので、慣れたものだ。


「ヒーリングレイン」


 キールは速やかに体力回復のため範囲回復魔法を仲間たちに振りまく。

 この「雷の罠」の効果は体力半減とマヒ効果だ。

 マヒ効果は草Cの召喚獣の覚醒スキル「香味野菜」で完全に防ぐことができる。


「ハク、大丈夫?」


『ギャウ!』


 ハクの背に乗るクレナから心配の声が上がる。

 ダンジョン攻略中にマヒ耐性を獲得したハクは、問題ないと力強く返事をした。


 この階層は敵が雷系の魔法を使ってきたり、転移装置の魔法陣が罠で雷が降ってきたりする。

 罠などで体力が半減したところで、魔獣たちの攻撃を受けるのもざらだ。


「それにしても、俺だけ悪いな」


 1人だけほとんどダメージを受けていないキールが申し訳なさそうだ。


「回復のタイミングが遅いと危険だからな」


 アレンはキールの腰に巻かれた黄色いバンドを見ながら言う。

 これは1階層で手に入れた「ライジングバンド」だ。

 効果は耐久属性を雷に変えてくれる。

 雷属性が優位な属性攻撃のダメージを増やし、雷属性攻撃のダメージを激減する。


 金の刺繍のある純白の法衣を着るキールに色合い的にぴったりだ。

 しかし、見た目ではなく、回復役がマヒはもちろんのことダメージを受けた硬直も避けることが狙いだ。


 そのほか1階層で3日間の間に出たバンドは以下の通りだ。


【鱗の門1階層で出たバンド】

・ファイアーバンド2本

・ストンバンド1本

・アクアバンド2本

・ライジングバンド1本

・ライトバンド1本


 それぞれの耐久属性に変化してくれる。

 中でも光属性はかなり上位の属性のため、次の門番戦ではクレナに装備させるつもりだ。


 なお、現在はライトバンドをソフィーが装備している。

 ライジングバンドの次に、ライトバンドが雷攻撃のダメージを軽減させてくれる。

 これは守りを優先するための措置だ。


 ソフィーの顕現する精霊は攻撃よりも回復や守備が得意だ。

 ここにはSランクの魔獣もいるのだが、アレンたちの攻撃面は圧倒している。

 であるなら、前衛や中衛の攻撃ポジションにいるものの耐久力を上げるよりも、守備面の底上げをした方がいい。


 今でも、Sランクの魔獣の直接攻撃を受けたらソフィーやキール、セシルは大ダメージを受けかねない。


 なお、他の腰帯はアレンの収納の中に入っている。


 次こそはと別の魔法陣に霊Aの召喚獣が乗ると、アレンたちは別の個室の空間に移動する。

 今度は罠ではなかったようだ。


 先ほどのキールの会話にセシルが思うことがあったようだ。

 鳥Bの召喚獣で、アレンの後ろに乗るセシルが話しかけてくる。


「それにしても、随分貴重な装備が出るわね」


 貴重なバンド装備が出ており、アレンたちが攻略中も牙の門3階層でオリハルコンの武器の収集が続けられている。

 一部はアレン軍の将軍級やヘルミオスのパーティーにも分配を進めている。


「それは、この世界にもっと貴重な武器や防具があってもいいんじゃないってことか?」


「そうよ。私たち貴重な装備をダンジョンやオークションで求めているけど、足輪とか売られていなかったじゃない。何でかしら?」


 オークションの出品でも腰帯、足輪は見たことがない。


「首飾りは市場に出回り始めたな。やはり、数が少ないんだろう。後は、王家などが秘蔵しているとか」


 最近では、アレン軍の活躍もあり、S級ダンジョンの最下層で手に入る首飾りはオークションなどの市場で流通し始めた。

 アレンたちが学園にいたころ、首飾りをオークションで見かけることはなかった。


「なるほどね」


 アレンの答えにセシルは納得したらしい。


 貴重な装備は、市場で取引されるほどには扱われていない。

 最近では、プロスティア帝国が反乱で転覆しかけ、市場に流れた秘蔵の耳飾りがアレンたちの元にある。


 こういう国家転覆の危機でもない限り、貴重な装備品を王家は放出しない。

 物の価値が分からない王家がずっと秘蔵し続けるなんてこともあるし、王家だけでなく地方の領主が握りしめていることもあるかもしれない。


(あとは冒険者が装備したまま戦いの果てに死んだとかかな)


 装備品にも耐久性があるだろう。

 オリハルコンとかアダマンタイトほどの硬度でもない限り、冒険の途中で失われる物も多いだろう。


 今回のように入手条件が厳しい状況で、アレンたちが試しの門を挑戦せずに足輪や腰帯を手に入れることは難しいのではと考える。


 会話もしながら、アレンたちは2階層の攻略を進めていく。


「あら? なにかしら」


 転移装置の魔法陣で移動した先の床石に宝箱が1つあった。

 遠くから見てもキラッキラと金色に輝いている。


(金色の宝箱か。こんな色の宝箱は初めてだな)


「お! 宝箱じゃないか!!」


 キールが目の色を変える。

 しかし、キールも鳥Bの召喚獣に乗っているため、宝箱に向かうことはできない。


 罠や魔獣の擬態の可能性もあるので、慎重に確認する必要がある。

 1階層でも宝箱が出てきたのだが、2回に1回はAランクのアビスボックスという魔獣だった。

 そのアビスボックスとは見た目が違うようだ。


「オキヨサン、お願い」


『はいよ。ヒヒ』


 和風の死に装束を着た霊Aの召喚獣がピカピカした宝箱に手を触れる。

 すると、宝箱が床石の上で飛び跳ねるように動き出した。


『ギョギョギョ!!』


 ギザギザと大きな口が開く。


「敵だ」


『ケケケ!!』


 霊Aの召喚獣は握りしめる出刃包丁で宝箱型の魔獣を切りつけるが、甲高い金属音が鳴る。


 キン


『ギョ!!』


 ダメージはほとんど受けていなかったのか、カウンターにと霊Aの召喚獣に体全体で体当たりをしてきた。

 霊Aの召喚獣は後方まで吹き飛ばされていく。


(む? 結構な攻撃力だな。Sランクの魔獣か)


「敵は硬いぞ。アビスボックス以上だ。クレナ頼む!!」


「分かった!!」


 アレンの掛け声でハクに乗ったクレナが宝箱型の魔獣に突っ込んでいく。


 ギン


『ギョ!?』


 飛び跳ねる魔獣に合わせるように、オリハルコンの大剣の一撃が上段から振るわれる。


 先ほど以上に甲高い金属音が鳴ったが、今度は魔獣が吹き飛ばされていく。

 明らかにダメージを受けたようで、魔獣からも焦りや戸惑いのようなものを感じる。


「よし、何か落とすかもしれない。皆で囲むぞ!!」


 倒せないほどではないと判断したアレンたちはガンガン攻撃を加えようと指示を出した。


『ギョギョギョ!!』


 囲い込もうとすると、金ぴかに光る宝箱の魔獣は飛び跳ねるや否や、後方に下がって床の魔法陣に触れる。

 そのまま転移してどこかに行ってしまった。


(む? これは!!)


「アレン逃げちゃったよ」


 逃げられたと後方にクレナが振り向く。


「追え! 敵は貴重なアイテムを落とすぞ。必ず倒すぞ!!」


 アレンはすぐに次の指示を出す。


「本当か!!」


 アレンの声にキールが歓声を上げる。


「ちょっと、何か根拠あるの?」


「勘だ。貴重なアイテムと経験値を落とす敵は逃げると相場が決まっている! 絶対だ!!」


 答えになっていない答えがアレンから飛び出してきて、セシルは呆れる。

 宝箱の魔獣を追って、魔法陣を移動する。


「どこだ!!」


 目が金貨になってしまったキールが移動した先で、辺りを見回す。


『ギョ』


 少し離れたところの魔法陣の前に宝箱の魔獣はいた。

 アレンたちが自らを追ってきたことを確認して、宝箱の魔獣は魔法陣の上に乗る。

 転移の魔法が発動し、別の場所に移動してしまった。


「あっちだ! 追うぞ!!」


「ああ、絶対に逃がすな」


 キールの声に、アレンは力強く賛同する。


「絶対にこれ、罠でしょ!!」


 アレンたちと宝箱の魔獣の追撃が、いくつもの空間を飛び越えて行われる。

 追いながらも、戻ってこれるようにアレンは魔導書に転移先を記録する。


 いくつもの魔法陣を越えた先で、宝箱の魔獣との鬼ごっこは終わりを告げる。


『ギョギョギョ!!』


 勝利を確認したのか宝箱の魔獣は床石の上で小躍りをするかのように、アレンたちからかなり離れた位置で飛び跳ねている。

 

 宝箱の魔獣を囲み、アレンたちが近づけないように巨大な魔獣たちが空間を埋め尽くしていた。

 大きさからも、これまで倒した経験からもSランクのアンデットや死霊、鎧系統の魔獣のようだ。

 宝箱の魔獣はアレンたちをここまで誘導出来て、勝利を確信しているようだ。


「よし、殲滅だ。宝箱は逃がすな。メルルは特にデカいのを優先して倒してくれ」


「分かった。いくよ、タムタム!」


『了解しました。敵を視認、殲滅します』


 随分口調が賢くなったタムタムの目が輝くと、メルルを乗せたまま一気に加速した。


「メガトンパアアアアンチ!!」


 そして、魔獣たちに一気に距離を詰めたところで、巨大な大鎌を持った死霊の魔獣にタムタムの拳が伸びる。


『グギャアアアア!?』


 大きく叫ぶと大鎌を持った死霊の魔獣は四散する。

 ワンパンで倒したため、生きてはいない死霊系や鎧系の魔獣でも困惑と動揺が見て取れる。

 敵陣の奥深くに入ったタムタムを包囲しようとしていた。


「よし! タムタム、ペンタポッドを出して」


『ペンタポッド起動』


 タムタムはメルルの指示を聞いて、速やかに自らの分隊となる5体のペンタポッドを出現させる。

 包囲を搔い潜りつつ敵を殲滅していく。


「ふむ、さすがバレットギアとなったタムタムだ。もうSランクでも相手にならないと」


(バレットギアとかチョーカッチョイイ。浪漫しかないんだけど)


 試しの門の攻略前にタムタムは魂をディグラグニから与えられ、成長を続けてきた。

 Sランクの魔獣では敵わないほどの力をタムタムは獲得した。


 【名 前】 タムタム

 【規 格】 バレットギア

 【性 能】 C

 【操縦者】 メルル

 【ランク】 ヒヒイロカネ

 【体 力】 25000+20000+3600

 【魔 力】 25000+20000+3600

 【攻撃力】 25000+20000+3600+30000(強化石板)

 【耐久力】 25000+20000+3600

 【素早さ】 25000+20000

 【知 力】 25000+20000

 【幸 運】 25000+20000

 【機 能】 強化〈6〉、出力〈6)、加速〈6〉、照明弾、迷彩、予備動力、収納

 【規格値】 約5000万/10億


 Sランクの魔獣に囲まれる中、成長を遂げたタムタムが敵を一掃していくのであった。

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