第277話 成人式②

 アレンたちは鎧アリの巣を管理できるように草Aの召喚獣を植えてロダン村に戻って来た。

 これで管理がしやすくなるので、あとは竜Aの召喚獣に飼育を任せることにする。


 転移先の「巣」にはロダン村の実家を複数体登録している。

 各所からロダン村に飛んできたので、明日までロダン村に転移できる鳥Aの召喚獣がいなくなってしまった。


 そのため、鳥Bの召喚獣に乗ってロダン村まで戻って来た。


(結構慌ただしいな)


 アレンは、実家であるロダン村の村長宅周辺を見る。

 かなりの村人が慌ただしく出入りしていることが分かる。


 近くに降り、実家の建物に入って行く。


「ただいま。母さん。何か手伝おうか?」


 テレシアが慌ただしく料理を作っている。


「あら? もう戻ったの? もうすぐ準備できるから広間でゆっくりしていたら。お客様もお待ちよ」


「じゃあ、そうするよ」


 厨房で、お手伝いさんと一緒に料理を準備する母のテレシアにそう言われたので、広間に皆と行くことにする。


「ピッピちゃん!! あれ、なんか違う……」


 言われた通りやってきた広間には結構な人が既にいる。


 この実家一番の大広間に入るなり、妹のミュラがアレンの肩に乗る鳥Aの召喚獣の元に寄ってくる。


 インコの姿をした鳥Gの召喚獣に「ピッピちゃん」と名付けた。

 鳥Aの召喚獣は鳥Gの召喚獣と同じくらいの大きさだが、色も形も違うので違和感があるようだ。


『ピピ!』


 とりあえず、鳥Aの召喚獣を鳴かせて、ミュラの肩に乗せてみる。

 そして、ミュラの体の周りで羽ばたかせる。


「わあ!! ピッピちゃん!!」


 ミュラがキャッキャ喜んでいる。


「おい! ミュラ!! 大人しくしていろって言っただろ!!」


「は~い。マッシュ兄ちゃん」


 ミュラが騒いでいるので、アレンの弟のマッシュが諫める。

 一切反省していない不満顔の表情でミュラが返事をする。


(俺が騒がせてしまった気もしなくもない)


「ただいま」


「お帰り。アレン兄ちゃん」


 アレンの3つ下のマッシュは去年12歳になった。

 ミュラの世話もしっかりしてくれて、随分成長したなと思う。


「おう、アレン。帰って来たか」


「うん。もう少ししたら始まるらしいよ」


「そうか。急な話で父さんはついていけないぞ。ちょっと、皆を呼んでくる。すまないがお客様の相手をしていてくれないか」


 父のロダンは困った顔をしている。


(村長頑張ってくれ。皆参加したいって言うから仕方ないのだ)


 ここには、ロダン村に住んでいるゲルダ一家やドゴラの両親だけでなく、メルルの両親やキールの妹と使用人も来ている。


 メルルの両親は平民でバウキス帝国の帝都近郊に住む。

 何でもメルルの父は軍人で下級兵士だと教えてくれた。

 あまり自分のことを話さないメルルであるが、メルルにはメルルなりに戦う理由があったことを知る。

 自分が前線で活躍することで守れる人がいたのだ。

 ダンジョン攻略中は一度も会うことはなかったが、今日のイベントについてメルルの両親も誘った方がいいかと聞くと、声を掛けてほしいと言われた。


 メルルが両親の元にやって来ると温かい雰囲気の中、会話している。

 キールも久々に妹のニーナと楽しく会話をしている。


 メルルとキールが今回、ハクの成長を見に来なかった理由はこれだ。

 家族との久し振りの親交を深めていた。


 ドゴラは気恥ずかしいのか親の許にはいかない。

 1人だけ思春期真っ只中だなと思う。


(これなら、転移スキル手に入れたし、もう少し皆が家族と会う機会を設けるか)


 そして、


「こちらです」


「うむ」


 別室で待っていたグランヴェル子爵と夫人、セシルの兄のトマス、執事、騎士団長に副騎士団長もやって来る。

 グランヴェル子爵がロダンに広間で一番の上座に案内される。


 ロダンはもう一度広間から出て行く。

 別室で待っているのは子爵だけではない。


 さらに、シグール元帥、ルキドラール大将軍、フィラメール老と数名のエルフが入って来る。

 グランヴェル子爵の右手に並び座る。


 エルフという見たことのない種族に驚くというより、高貴な雰囲気を出すエルフたちに村人たちの視線が集まる。


 今日はアレンたちの成人式をする日だ。

 S級ダンジョンでは、それぞれの親に祝われることなく子供たちだけのセルフで行った。

 しかし、今日は家族を交えて本格的にする運びとなった。


 何故こうなったかと言うと、アレンは鳥Aの特技の検証のため、「巣」を作った場所にあっちこっち移動した。

 どれだけのものを移動させることができるのか。

 どれだけの範囲のものを一度に移動させることができるのか。


 メルスはAランクの召喚獣の特技や覚醒スキルについてある程度の素案を考えてくれていた。

 しかし、召喚レベル8までまだ1年近く余裕があると去年の3月の時点では考えていた。

 そのため完全に召喚獣の設定について固まっていなかった。

 特技や覚醒スキルはもちろんのことデザインも含めて、創造神エルメアの決定が必要だという。


 素案のまま決定したとは限らないため、細かい検証は必要だった。


 この転移できるようになったことを簡単に説明すると、ロダンやゲルダから成人式をきちんとやってあげたいという話が出た。


 じゃあ、他の親もそうなのかと聞いてみると、グランヴェル子爵やローゼンヘイムの女王からも是非やって欲しいと言われる。

 貴族や王族にとって、子供が成人になるということは、大切な行事であるということもあり、切実にお願いされた。


 じゃあ、今まで会ったことのないバウキス帝国近郊の村に住んでいるメルルの両親や、カルネルの街にいるキールの妹のニーナと使用人もどうなのかと言う話になる。

 誰も断らないので大掛かりなものになってしまった。


 成人式はロダン村で一同に祝おうということになった。


 女王陛下はその立場から他国には行けないため、シグール元帥たちが代理人だ。

 ここはグランヴェル子爵の治める領ということもあり、一番の上座にはグランヴェル子爵と右手に夫人、そしてシグール元帥らローゼンヘイムの重鎮が座る。


 アレンたちとその兄弟は一塊になり、部屋の反対側にアレンたちの両親が座っている。

 なんだか家庭参観になったような気分もする。

 

「シグール元帥殿。このような場所に宿泊させて申し訳ありません」


 父のロダンは直接言えないため、グランヴェル子爵が代わりに言う。

 そんなグランヴェル子爵は下級貴族だ。

 大国の重鎮とも言えるシグール元帥にはかなり遠慮気味に話をする。


「なに。自然に囲まれ良いところではないか。それに英雄の生まれた場所を見ておきたかったからの」


 実はアレンの両親や育ったところを見たかったという本音もあるようだ。


 自然を愛するエルフたちにとって、のどかで木造の建物が並ぶ開拓村はそこまで気分の悪いものではないようだ。


 成人式が始まる前の子爵と元帥の会話の中、さらに、何組もの親子の村人が入口近くの下座に入って行く。


 アレンたちは開拓村ベビーブームに生まれた。

 だから、クレナやドゴラだけではなく、アレンと同じ年の子供は多い。

 この村を開拓するためやって来た村人には、アレンと同じ年の子供がいる親子が何組もいる。

 平民、農奴関わらず成人を迎えた子供の家庭が全員いる。


 アレンが農奴も入れていいかと言って、グランヴェル子爵が断ることはない。


 お陰で100人は入るこの大広間は結構な人数になってしまった。


「大人しくしているんだぞ」「わ、分かっているよ」という声が辺りからよく聞こえる。


「「「おおお!!!」」」


 明らかに上等な服を着ている人が上座に陣取っているため緊張した村人から緩み声が漏れた。

 この建物の厨房だけでは準備できず、近隣の家も使って準備した料理が、広間にどんどん運ばれて来たからだ。


 1頭丸焼きではとても大きいため無理だが、かなり大きなグレイトボアの塊を焼いたものが運ばれて来る。

 去年の秋に仕留めたもので、大きなブロックで干し肉にしたものだ。


 こんがり焼けていい匂いが部屋を満たす。


(やっぱり開拓村と言えばボアの肉だな)


 ラターシュ王国の王都にも立ち寄ったし、S級ダンジョンの街にももっといい肉はある。

 もっといい肉を用意することもできたのだが、成人を迎えるこの村の子供にとって、この肉が一番の御馳走だ。


 お酒くらいは上等なものをと、大樽を5樽ほどS級ダンジョンの街で一番いい果実酒を用意した。

 エルフは肉を食べないため、この辺りで取れる果物に、バウキス帝国名物のフカマンを大量に用意してある。

 配膳されると、お心遣い感謝するとシグール元帥が軽く頭を下げた。

 そして既に、精霊神がミュラの膝の上でフカマンを頬張っている。


 料理がすべて運ばれたところで、テレシアもロダンの横に座り成人式が開始される。


 グランヴェル子爵、シグール元帥、ロダンの順に成人になった子供たちへの祝辞が述べられたのだが、ロダンは緊張して何を言っているのか分からなかった。


「せっかくの祝いの席、遠慮なく食事をしてほしいと言いたいところだが、少し遠慮してくれると村長として助かる。そ、それでは、皆食事を楽しんでほしい」


 噛みまくったロダンの挨拶が終わる。

 精霊神だけ「待て」ができないのかすごい勢いで食べているが、ロダンの言葉とともに皆美味しそうに料理を頬張る。


 座った後、横に座るテレシアから「緊張しないの」とロダンが言われていたのが、久々に微笑ましく思ったアレンであった。

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