第276話 息抜き

「何か、こんな殺風景な景色も新鮮に感じられるわね。心が洗われるわ」


「……」


 セシルが岩がごつごつとした山肌を見ながら感想を漏らす。

 その言葉にどこか棘があるのは何故だろうか。

 鳥Bの召喚獣に乗り、前に座るアレンが無言で耐えている。


 この状況には訳がある。


 アレンは10日前、アイアンゴーレムといううま味を発見した。

 ときめきの情熱をもって1日100体倒そうと仲間たちに宣言した。


 実際に挑戦すると、初日は編成やはめ方の試行錯誤が多く、82体倒すのに15時間かかった。

 休憩は、一旦5階層の広間に飛んで再度挑戦する形だ。


 より効率的に、より短時間に、という当たり前のことをアレンはしたと思っている。


 しかし、アレンの仲間たちは違った。

 何が起きているのか理解するのにも時間がかかった。

 アレンが楽しんでいることも理解できなかったが、10時間を超える狩りが続く現状にセシルが爆発した。


 これは一体何なのかとアレンに詰め寄る。


 学園のダンジョンにいた頃も、S級ダンジョンに通っている時も10時間前後の活動は当たり前だが、狩りだけで10時間は狂気の沙汰だと言う。


 休憩を増やしたり、薄暗い部屋を魔導具で明るくしたり、5階層にお風呂を作ったりしたが、息抜きをしたいという意見が大勢を占めていく。

 

 アレンだけダンジョンに通うという考えもあったが、できれば仲間と共に狩りたい。

 じゃあ、息抜きはないものかと考える。


 今日のこれは息抜きが目的ではなく、別件で用事がいくつかある。

 それでも、息抜きも兼ねて、岩がごつごつした山肌に仲間たちと共にやってきた。


 その目的もあって、キールとメルルはここには同行していない。

 

「あ! あそこだ!!」


 前の方で飛ぶクレナが大きな声を上げ指を差す。

 今日のこの場を一番楽しみにしていたのはクレナなのかもしれない。

 背中にはいつもかけている大剣ではなく、漫画にも出てきそうな大きなお肉をひっさげている。


「本当だ。皆降りるぞ!」


 アレンもクレナの声に負けないように、大きな声を上げて降下を始める。

 そして、ここに来た目的の1つに近づいていく。


「なんだ? 随分デカいじゃないか。1年かそこらでこんなに大きくなるのか?」


 真っ白な巨大な生き物を見て、ドゴラも驚いている。


「ハクはずいぶん大きくなっているな」


 アレンは見上げるように大きい白竜の幼体、アレンが命名したハクを見る。


『おう、アレン殿』


『グルル!!』


 アレンが近づいてもっとよく見ようとすると、牙をむき出しにして小さく唸る。


『アレン殿を威嚇するではない!!』


 竜Bの召喚獣が威嚇したハクに激怒する。


『ク、ク~ン』


(犬みたいに鳴くんだな)


「なんかすごくデカくなっているわね。これが白竜の子供なの?」


「うん、すっごいでかい!」


 セシルも興味津々だ。


 今日はハクの様子見などいくつか用事があったので、白竜山脈にいる。


 白竜は竜Bの召喚獣が世話をしたということもあり、すくすくと育っている。

 体長は1年弱で5メートルほどに成長した。

 生まれた時に2メートル以上あったので倍の大きさになった。

 食欲旺盛で竜Bの召喚獣が狩った獲物なら何でも食べる。


「オロチ出てこい」


『『『おう!』』』


 5つの首の竜Aの召喚獣を出す。

 今日は竜Bから竜Aへの引継ぎも兼ねている。


 今まで竜Bの召喚獣にハクを世話させていたが、ステータスも高く首が5つある竜Aの召喚獣の方が世話しやすいだろうと考えている。

 当面、竜Bと竜Aの召喚獣の2体で一緒に世話をさせて、ゆくゆくは竜Aの召喚獣のみに交代しようという考えだ。


(それにしてもツバメンは有用だな。まあ、Aランクの召喚獣は全て有用なんだが。活動範囲がかなり広がったな。というか飛べるようになったし。ふふん)


 そう思うアレンの肩には1羽の燕がいる。

 燕の姿をしているがアレンがツバメンと名付けた鳥Aの召喚獣だ。

 他の召喚獣に比べてかなり小さく弱い存在だがその能力はとんでもない可能性を秘めている。


 アレンは学園を卒業後、ローゼンヘイムの戦争にも参加し、そして勇者ヘルミオスのようにラターシュ王国以外にも知り合いが出来た。

 アレンはそんな知り合いのいるところなど、色々な場所に竜Bや霊Bの召喚獣を配置してきた。


 しかし、召喚獣は連続して1ヵ月しか召喚していられない。

 だから、白竜の世話だったり、各国の連絡係として置いていたり、ロダン村の開拓を手伝ったりする召喚獣は1ヵ月過ぎればカードに戻ってしまう。


 そのためバウキス帝国からローゼンヘイムやラターシュ王国、ギアムート帝国に空を飛ぶことができる竜Bや霊Bの召喚獣を前もって送っていた。

 中には、移動だけに半月や20日もかかって、残りの期間しか滞在できないなんてこともある。

 これも必要なことだと納得していた。


 しかし、とうとうアレンの召喚獣に転移ができる召喚獣が現れた。

 それが、今肩に乗っている小さな燕の姿をしている鳥Aの召喚獣だ。


 【種 類】 鳥

 【ランク】 A

 【名 前】 ツバメン

 【体 力】 200

 【魔 力】 8000

 【攻撃力】 200

 【耐久力】 200

 【素早さ】 10000

 【知 力】 10000

 【幸 運】 9000

 【加 護】 素早さ200、知力200、飛翔

 【特 技】 巣ごもり、巣作り

 【覚 醒】 帰巣本能


 Aランクの召喚獣全体の話だが1つ分かったことがある。

 Aランクの召喚獣から加護は必ず3つ貰える。

 2つはステータス増加で、もう1つは耐性であったり、カードや召喚獣にしていたら使うことができるスキルだ。


 鳥Aの召喚獣の加護に「飛翔」というアレンが単体で飛ぶことのできるスキルがある。

 アレンはヘルミオスのスキルのように自在に空を飛ぶことができるようになった。

 移動速度はアレンの素早さに依存する。


 「巣ごもり」は「巣作り」で決めたポイントにアレンのみ移動する特技だ。

 1日何回でも使える。

 帰巣本能は半径1キロメートルの範囲にいるアレンが指定した仲間を全員、巣作りで指定したポイントに移動する。クールタイムは1日だ。


 この巣作りはカードにした召喚獣単位で1つしか指定できないため、巣作りで指定した鳥Aの召喚獣を削除したら、もう一度巣作りをしないと「巣ごもり」で移動できない。


 この転移する地点をアレンは特技から「巣」と名付けた。

 移動する巣の場所単位で鳥Aの召喚獣が必要だという話だ。


 制作者のメルスから聞いた話では、アレンが召喚獣を使い、足りないと思った物、こんな能力が欲しいと思った物を優先して特技などにしてきたと言う。

 あとはランクや他の職業のバランスを元に決めてきた。


 アレンがBランクの召喚獣を使いヘルミオスと戦った時に、ヘルミオスの飛ぶスキルに憧れたこと。

 また、ローゼンヘイムの戦争では、移動に時間がかかり苦労していたことが今回のスキルを選んだ理由だと教えてくれた。


 なお、鑑定スキルもかなり欲しかったとメルスに言うと、Aランクで鑑定スキルを召喚レベル8で手に入れても意味がないと言われた。

 なぜなら、本当に鑑定が必要なのは強敵となるSランクの魔獣や魔神が相手だからだ。

 Aランク以下の魔獣はそもそも鑑定する必要もないだろうと言う。

 しかし、Aランクの召喚獣では恐らくSランクの魔獣は鑑定できない。

 上位魔神は絶対に鑑定できないらしい。


 上位の者は鑑定できないのはヘルミオスがアレンの召喚獣の加護を鑑定できないところからも納得いくだろうと言う話であった。


「ハク。ほい、肉だよ。お食べ」


『グルゥ』


 クレナがずいっと塊肉をハクに食べさせようとする。

 これはロダン村から持ってきた塊肉だ。

 クレナが目をキラキラさせながら差し出す。


(これは母性本能ってやつか。クレナにもあったんだな)


 アレンがクレナを見て失礼なことを考える。

 アレンからのハクの成長の話を楽しそうにクレナは聞いていたことを思い出した。

 

 いつも新鮮な肉を竜Bの召喚獣から貰っているハクは、干し肉にした肉を差し出されて困り顔だ。

 恐る恐るクレナから肉を貰いほとんど噛むこともなく飲み込む。


「いっぱい大きくなるんだよ」


『……』


「それで、飼いならすことはできるのか?」


『今のままでは難しいかもしれない』


 クレナの様子を見ながら、アレンがメルスに尋ねる。

 魔王は、全ての魔獣に影響を及ぼすと言われている。


「しかし、これまで自我を持っていた魔獣は多かったぞ」


 初めての強敵はマーダーガルシュだった。

 遊ぶように人間を殺すが、自我を失っているようには見えなかった。


 以前倒した白竜もそうだ。

 魔王に自我を奪われ、白竜が狂気に飲まれていたのならクレナ村は存在しなかったと思う。


『魔王は魔獣に力を与え、自在に操る。方法までは知らないが、恐らく隷属的なスキルを使用しているはずだ。個別に操られたらハクも無事にはすまない』


「なるほど」


 何となく言いたいことは分かった。

 クレナは横で話を聞いて心配そうだ。


 ハクの成長が見れたので、鳥Bの召喚獣に乗って、この場所を後にする。

 アレンがセシルと一緒に鳥Bの召喚獣に乗るのは、飛翔は持続的に魔力を消費するからだ。

 そんな勿体ないことはしないと、飛翔することは基本的にない。


「それで、鎧アリの巣は先にこっちでやるのね」


 後ろからセシルの声がかかる。


「ああ、今ハクがいるところからそんなに離れていないところに、鎧アリの巣があるからな。管理できるか実験をしようと思う」


 ハクのいる場所から少し離れた所に鎧アリの巣がある。

 鎧アリの鎧は、鋼鉄より硬くて軽い。

 しかし、ミスリルよりは劣る素材だ。


 この巣にも餌を与えて、鎧アリを繁殖して鎧アリ牧場にできないかという実験を始める予定だ。


 キールの治めるカルネル領はようやくミスリル鉱の採掘が始まったばかりだ。


 神器が奪われ時間がないが、カルネル領的に管理するのは難しいのではという考えだ。

 アレンの召喚獣で出来ることから始めようとしている。


 そう言ってアレンたちは息抜きを兼ねた次の目的に向かうのであった。

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