第82話 オーク村②
「炎が上がっていたから来てみれば、なんだこれは?」
ひげを蓄え、顔や腕に無数の傷がある騎士団長がアレンの下に現れた。問いながらも、騎士団長は腰から剣を抜き、ゆっくりアレンの横を通り過ぎていく。
(騎士団長だ。到着は明日になりそうだったんだけど、もしかして走ってきたのか?)
騎士団長はオーク村で炎が上がっているのを見たのか、配下から聞いたのか急いで来たようだ。
「ちょっと、オーク村を討伐しようと思いまして」
聞かれたので正直に答える。目の前に広がる100体を超えるオークの死体を見れば、何をやっているのかは一目で分かる。アレンも起き上がり、騎士団長が召喚獣を標的にしてはいけないと、召喚獣たちをカードにしまっていく。石Dの召喚獣くらい守りのために残そうかなと思ったが、オークの前に散歩するように平然と歩いてゆく騎士団長を見てそれすら不要に感じた。
(がっつり召喚獣を見られたな)
タイミング的に召喚獣は騎士団長に完全に見られた。
『グモ?』
オークキングは新手が現れたと思い、騎士団長に警戒が向かう。
「オークキングか、これは我が倒す。他の雑魚はお前が倒せ、レイブランド副騎士団長」
「は!! 騎士団長」
(え、副騎士団長も来ていたのね)
アレンの後ろにいた槍を持った副騎士団長も、アレンの横を通り過ぎていく。
騎士団長のあまりの余裕ぶりが頭に来たのか、オークキングが渾身の力を込めてハルバードを振り下ろす。
『グモオオオオオオオ!!!』
身の丈4メートルに達するのではないのかというオークキングの渾身の一振り。ハルバードも2メートル以上ありそうだが、騎士団長はものともせず剣を片手に簡単に受け止める。
そして、騎士団長がハルバードの半分もない剣で、ハルバードを軽々とはじく。ハルバードだけでは威力を殺せなかったようだ。4メートルの巨体が一瞬宙に浮く。その一撃で頭に来たのか、オークキングは目が追いつかないほどの勢いでハルバードを振るう。
騎士団長とオークキングの激しい戦いが始まる。
そんな騎士団長とオークキングとの火花の散る戦いを後目に、副騎士団長はまだ生き残っているオークの群れに槍を肩に担ぎ進んでいく。一切の恐怖が表情から読み取れない。
それを見ていた、まだ数体いる魔法を使えるオークたちが魔法を発動する。上空に3つほどの火球が発生する。
「魔法か」
そう一言つぶやいた副騎士団長の輪郭が陽炎のように屈折していく。オークたちの群れの最前列のオークに、一瞬視界から消えるほどの速度で槍を突き出す。
槍先から衝撃波のようなものが飛び出し、5、6体のオークの腹に大きな円状の穴が開く。あまりの速度で出血するのが一瞬遅れたように見えた。その一番後ろには魔法を使えるオークが1体いる。どうやら魔法を使うオークを優先して狙ったようだ。
1つの火球が魔力を失ったのか四散する。しかし、残り2つの火球が副騎士団長に迫る。
「はっ!」
ひと振りで2つの火球を切り裂き、火球はその形を崩し四散する。
魔法は副騎士団長に通じず、一瞬怯んだかのように思えたオークたちが一斉に攻撃を仕掛ける。今までゆっくり歩いていた副騎士団長が、それに呼応するかのようにオークたち目掛けて駆けだす。副騎士団長はオークたちを縦横無尽にバターのように切り裂いていく。
騎士団長とオークキングとの戦いも決着がつくようだ。上から振り下ろした騎士団長の剣が、受け止めたハルバードも頑丈そうな鎧もものともせず、オークキングを縦に真っ二つにする。オークキングは騎士団長の相手ではないようだ。
数分もしないうちに騎士団長と副騎士団長はオークの残党とオークキングを片づけてしまった。
(めちゃくちゃ強い。さすが領内最強の男だ。副騎士団長も本当に強かったんだな)
騎士団長を知っているものは、戦鬼ゼノフと呼んでいることをレイブンから聞いた。
圧倒的なまでの騎士団長と副騎士団長であった。ミハイから副騎士団長の強さは聞いていたが、その話のとおりであったようだ。クレナにボコボコにされた副騎士団長とは思えない。
(副騎士団長が使っていたのは、もしかしてエクストラスキルかな? そうか別に剣聖だけでなく全ての職にエクストラスキルがあるのか。それでいうと騎士団長はエクストラスキルを使ってなかったな)
戦況を分析していると、騎士団長がアレンに寄ってくる。
「騎士団が夕方過ぎには来るからな。それまでに片付けるぞ」
どうやら、アレンがここにいる理由は聞かないようだ。騎士団長、副騎士団長、アレンの3人で200体を超えるオークを村の中心に集めていく。わざわざ召喚獣を見せる必要もないので、自力でオークを運んでいく。
アレンがゴブリン村でしてきたのと同じように火葬するようだ。
「騎士団長、魔石は半分ほしいです」
「ぬ? まあそうだな、かまわぬ」
半分以上倒したのはアレンなので、魔石の取り分はしっかり要求する。集めたオークからさくさくと魔石を回収していく。それを何か言いたそうに騎士団長が見ている。見たいものがとうとう見られたというような、そんな表情であった。
Bランクの魔石も欲しかったが、騎士団長が止めを刺したので求めることはしなかった。
一か所にオークを集めたあとの処理を確認する。オーク村は、ここにあるとまたオークが使うかもしれないため焼却する必要があるという話だ。どうやらアレンがゴブリン村を焼いて回ったのは、やり方として正解であったようだ。
また、遺族が遺品を求めるかもしれないので、オーク村やゴブリン村で遺体を発見しても一か所に固めてくれるだけで良いという話だ。
3人が村の一か所に固めている時、騎士団が到着する。騎士団も通常の日程を前倒ししてやってきたようだ。
(そろそろ帰らないと間に合わんぞ)
アレンが太陽の位置を確認する。日がずいぶん傾いている。
ここは街からかなり離れているので、これ以上いたら今日中に街に戻れなくなる。一旦町に戻りますと言ったら、「あとで男爵には伝えておくから野営地に泊まるように」と騎士団長から言われた。
騎士団長にそう言われたら仕方ないと騎士団の野営地に宿泊する。
オーク村は悪臭がするので、村から少し離れたところで、騎士たちが野営や夕食の準備を始める。
鳥Eの召喚獣で上空から見ていたが、やはり100人くらいの騎士団のようだ。オーク村の掃討にはこれくらいの騎士がいるようだ。正直、騎士団長だけで行けるんじゃねと思うのだが、それぞれの役割がきっとあるのだろう。力だけで人数が決まるわけではないようだ。
騎士たちが慣れたように野営の準備を進める。
「アレンよ、こっちで飯にするぞ」
「はい」
アレンが隅で眺めていると、一緒に飯を食うように騎士団長に言われる。焚火に当たりながら、渡された野鳥のモモ肉をがつがつ食べる。
「ゴブリンの村が襲撃されていたが、あれもアレンだったのだな」
「そうですね」
騎士団長が眉を顰める。
「騎士団の長としては、どういう状況なのか知りたいのだが、この先にゴブリン村はあるのか?」
「多分ないかもしれません。52か所ほどゴブリン村を潰しましたから」
(最近新たにできた村は知らないけど、白竜山脈の麓にゴブリン村はもうないかな)
ゴブリン村は鳥Eの召喚獣を使って念入りに調べてつぶしてきた。それを聞いた騎士団長はさらに眉を顰め、難しい顔をする。
「聞いていた通りか、いや聞いていた以上か」
ブツブツと何か言いだす。
「え? 聞いていた? 何を聞かれたんですか?」
アレンの問いに騎士団長が語りだす。それはアレンがこれまでやってきたことだった。
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