第81話 オーク村①

 ミハイが王家に勤めるため、旅立って2か月ほど経った5月。


 アレンは白竜山脈の麓にいた。


 去年の10月から始めたゴブリン村掃討はその後も続け、長く連なる白竜山脈の麓からゴブリン村は姿を消した。


 アレンは52か所のゴブリン村を掃討した。1つの村当たり200体を超えるゴブリンがいたので1万体を超えるゴブリンを倒したことになる。


 騎士団もゴブリン村を掃討したが、全体の8割以上をアレンが掃討した。


 ゴブリン村が終わったので、今日はオーク村の掃討にやってきた。


 ゴブリン村はゴブリンキングがCランクの魔獣なので余裕を持って倒せる。

 しかし、オーク村のオークキングはまだ倒したことのないBランクの魔獣なので、今日はBランクの魔獣に挑戦するという意味合いもある。


(さて、明日にも騎士団が来そうだからな。さっさと倒そう)


 鳥Eの召喚獣による共有の情報では、明日にもこの村にやってきそうだ。できれば今日中に掃討してしまいたい。


 今回もゴブリン狩りで培った方法を踏襲する。村の裏手に5体の獣Dの召喚獣と1体の虫Dの召喚獣を待機させている。表門からアレンが襲い、10分程度たったら村の裏側からも攻めるという作戦だ。


(さて始めるぞ、ベアー、スパイダー、ハラミ、ブロン出てこい)


 6体の獣D、1体の虫D、1体の魚D、2体の石Dの召喚獣が現れる。門の死角に出したのだが、結構な数なので、村の塀にいる見張りに見つかりそうだ。


 ゴブリン村と作戦を変え、2体の石Dの召喚獣を用意した。弓や投げ槍を使ってくるゴブリンも多かった。オークが相手だとゴブリン以上に倒すにも時間がかかることが予想されるので、かなりの数の遠距離攻撃がアレンの下に届く可能性がある。


 2メートルにもなる大きな盾を持った銅像のような石Dの召喚獣をアレンの前方に配置して守りを固めることにした。これは石Dの召喚獣の実用実験も兼ねている。新たな召喚獣の可能性は常に検証していきたい。


 魚Dの召喚獣が特技「飛び散る」を使い、全員にバフがかかる。全ての準備が整ったことを確認する。


(オーク村初狩り、行こうか!)


 アレンの指示の下、表門から堂々とオーク村への掃討が開始される。


 全てのゴブリン村と同様に門には見張りがいる。オーク村も槍を持ったオークが2体門を守っている。編成された部隊が迫り、雄たけびを上げる。


 見張りの櫓や塀の上にも緊張が伝わっていく。けたたましく警戒を告げる鐘の音が村中に行きわたっていく。


 最前線にいる熊の姿をした獣Dの召喚獣たちが2体のオークをかみ砕き屠っていく。強化しており、1対1でも獣Dの召喚獣ではオークに負けないので余裕だ。


(むう、矢がガンガン飛んでくるな)


 アレンや召喚獣目掛けて矢がガンガン飛んでくる。石Dの召喚獣がアレンに当たらないように盾を上に掲げ、防いでいく。しかし、獣Dの召喚獣にはガンガン矢が突き刺さっていく。


(召喚獣は1体1体に体力が割り振られているんだけど、体力の残量が分からないのは残念だな。狩りをしていても急に倒れてしまうしな。もう少しスパイダー増やすか。でてこい)


 召喚獣の体力を見る方法は今のところない。やられ具合をよく見ておかないと急に倒れて光る泡に変わってしまう。


 これ以上獣Dの体力を削らせないために、虫Dの召喚獣をさらに2体増やして対応する。こういった調整についても記録を残し、今後のオーク村掃討の参考にしていく。


 蜘蛛の姿をした3体の虫Dの召喚獣が塀や見張り櫓に特技「蜘蛛の糸」をまき散らしていく。

 

 門を入ると100体を超えるオークの群れがいる。200体はいそうだ。


(よしよし、経験値がいっぱいいるな。皆ごちになります)


 アレンは喜びながら門から少し前進する。向かってくるオークの数が多すぎてあまり進めない。獣Dの召喚獣が特技でかみ砕いていく。


 そこに来ての、オーク村後方からのアレンが用意しておいた増援部隊だ。挟み込むように獣Dと虫Dの召喚獣が背面からオークを攻める。


 30分ほど攻めて、100体ほどオークを倒したその時である。


(ん? 火か、身を守れ!!!)


 前方の様子を見ていたアレンからは、オークの集団の後方から光源が発生したように見えた。

 真っ赤な炎が数メートル上空に現れると、火球となり一気にアレンに向かって飛んできた。アレンはとっさに石Dの盾を上部に掲げさせ、特技「身を守る」を発動させる。


 ズウウウウウン


(ま、魔法か!? やられたか、いやまだ大丈夫だ、って、ぶ! ガンガン飛んでくるぞ)


 オークの群れの後方にヒラヒラとした服に杖を持ったオークが何体かいる。火球が複数、上空に現れる。容赦なく火球がアレンのいる陣営に迫ってくる。


 異世界に来て初めての魔法をオークから食らう。


(魔法を使える奴もいるのか。む、反対側にいた召喚獣がやられたな。召喚獣を出し続けねば)


 挟み込むために用意していた召喚獣は全てやられてしまったようだ。ステータス画面のカードの枚数を見ながら、召喚獣が今何体いるのか確認する。


 獣Dの召喚獣をどんどん生成、強化、召喚をしていく。空中に浮いた魔導書が目まぐるしくペラペラと動き続ける。召喚獣の数がこの狩りの生命線だ。


(これは、ブロンももっと増やしておくか。というか貴様は死ね!!!)


 召喚を続けながら鉄球を1つ収納から取り出す。渾身の力を込めて後方にいる魔法を使ってくるオークの顔面を粉砕する。


(うし、1体減らしたぞ。守りを増やしつつ魔法を使うやつを優先して殲滅だ。む、見えなくなったぞ)


 1体の魔法を使うオークがやられた。それを見ていた横の魔法を使うオークが石Dの召喚獣の陰に隠れたのだ。どうやら石Dの召喚獣を盾にして身を守っているようだ。


(くそ、隠れたな、賢いぞ! ホーク、後ろの魔法を使うやつを捉えろ)


 共有しているホークがこの戦況を観測し続けている。


 しかし、共有している視界には捉えるものの、アレンの投擲は自らの石Dの召喚獣によって邪魔されてしまう。

 だからといって獣Dの召喚獣を使って倒そうにも、目の前にはまだ100体以上のオークがいる。オーク達に阻まれ、魔法を使うオークのところまで行けない。


 魔法を使うオークの火球を石Dの盾が何度か弾き飛ばしたため、辺りに火の手が上がる。塀も見張り台も煌々と燃え地獄絵図の様相を呈している。


(これは仕方ない。作戦は失敗だ。物量戦なら負けないから覚悟しておけ)


 魔法を使うオークの存在を考慮していなかったため、行動が後手に回った。魔法を使うオークの知略が優れているということもあるだろう。


 しかし、この2年半ほどの狩りによって、アレンは2万を超えるDランクの魔石を所有している。獣Dの召喚獣なら2万体以上出すことができる。多少ごたついても、時間の問題だと判断をした。魔法に耐えつつ、目の前のオークを1体ずつ倒していくことにした。


 30分ほど戦い、さらに数十体のオークを倒したその時である。


 魔法を使うオークのさらに奥から1体のオークが前方に迫ってくる。オークたちを払いのけ目の前に迫る。


(オークキングだ)


 明らかにオークとは違う魔獣だ。オークより二回りほど大きいその魔獣は一目でオークキングと分かる。鎧を着ており、大きなハルバードを持って、随分数を減らしたオークを掻き分け最前線に躍り出る。


『グモオオオ!!!』


 一声雄たけびを上げたかと思うと、一振りで2体の獣Dの召喚獣が光る泡へと変わった。アレンは慌てて再召喚を行う。


 どうやらオークキングの殲滅速度のほうが、召喚する速度より速いようだ。持久戦と思い増やし続けて30体以上になった獣Dの召喚獣が少しずつ減っていく。


(召喚獣が減る速度のほうが召喚獣を出すより速いな。ここは一旦後退か)


 後退したほうが良いと判断した、その時だ。火球がアレンをまた襲う。防ぐ石Dの召喚獣が、とうとう光る泡へと変わったのだ。


(やばい、ブロンがやられたぞ)


 さらに火球が飛んでくる。獣Dの召喚獣達がとっさに身を挺してアレンを守るが、爆風でアレンは吹き飛ばされる。


(あたた、これは戦況がこれ以上悪くなる前に撤退するか)


 吹き飛ばされた先で地面から立ち上がった、その時であった。


「ふむ、なんだか苦戦しているみたいだな」


「え?」


 頭を上げるアレンの前に騎士団長が現れたのであった。

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