第80話 勤め
年が明け3月になった。アレンは装備の確認を行なっている。マーダーガルシュを街から遠ざけた褒美とお礼で買ったミスリルの剣は刃こぼれすることなく使えている。
アレンは1年以上使っている愛剣を握りしめている。動きづらいからとマントは装備していない。服は従僕の格好をしている。これ以上動きやすい服がないので、服はこんなものかと思う。
アレンの目の前にはミハイがいる。どこか様子が違う気がするのは何故だろうか。
ミハイは3年にわたる学園生活を無事卒業できた。また、館でミハイと暮らせると思ったセシルが大喜びだ。
そんなミハイが魔導船に乗って帰ってきた。3年ぶりに帰ってきたのにアレンに用事があるとのこと。
僕と本気で戦ってほしい
微笑を抱え、いつもどこかにこにこしていたミハイに笑顔はなかった。
分かりました
本気で戦います
とアレンは答えた。何故か本気の戦いを求められた。今この庭先でミハイとの戦いを始める。いつも通り男爵家が連なり観戦をする。騎士団長が審判をしてくれるとのことだ。
去年も一昨年もアレンはミハイと試合をしている。しかし、今年はどこか雰囲気が違うようだ。並々ならぬ覚悟を感じる。
アレンは魔導書を出し、ステータスを確認する。
【名 前】 アレン
【年 齢】 10
【職 業】 召喚士
【レベル】 34
【体 力】 865+400
【魔 力】1340
【攻撃力】 472+400
【耐久力】 472+600
【素早さ】 883+600
【知 力】1350
【幸 運】 883
【スキル】 召喚〈5〉、生成〈5〉、合成〈5〉、強化〈5〉、拡張〈4〉、収納、共有、削除、剣術〈3〉、投擲〈3〉
【経験値】 1,490,410/7,000,000
・スキルレベル
【召 喚】 5
【生 成】 5
【合 成】 5
【強 化】 5
・スキル経験値
【生 成】 1,256/10,000,000
【合 成】 1,820/10,000,000
【強 化】 2,455,180/10,000,000
・取得可能召喚獣
【 虫 】 DEFGH
【 獣 】 DEFGH
【 鳥 】 DEFG
【 草 】 DEF
【 石 】 DE
【 魚 】 D
・ホルダー
【 虫 】 D30枚
【 獣 】 D20枚
【 鳥 】
【 草 】
【 石 】
【 魚 】
アレンは10歳になり年齢によるステータス減算が無くなった。お陰でステータスが随分見やすくなったなと思う。
過去2回の試合と違い、勝ちに行くつもりでカードの構成を変更した。草カードなど1枚も持っていない。共有で、外で狩りをさせていた召喚獣も全て仕舞った。
「ありがとう」
「え?」
ミハイにお礼を言われた。どこか、アレンが本気を出して戦ってくれることを察してくれたようだ。それだけ言うと、ミハイも剣を抜き、アレンと相対する。
「では、ミハイ様、アレン。用意はいいな?」
真ん中で騎士団長が試合の準備は出来ているか確認する。アレンもミハイも「はい」と答える。
「では、はじめ!」
その瞬間、遂に素早さが1400を超えたアレンが一気に距離を詰める。この一瞬で終わらせるつもりだ。
ミハイは一瞬表情に出したが、アレンの剣戟を受け止める。
(む、受けられた、いやこの動き、素早さは俺の方が上だぞ!!)
ミハイの動きで自分のほうが、素早さが上だと確信できた。アレンの攻めが始まる。
攻勢に出たアレンに対して、ミハイには焦燥の顔はない。丁寧に受け続ける。まるで授業で、同じようなことがあったかのような丁寧な受けだ。
アレンのほうが速いが、力はミハイのほうが上のようだ。ミハイと剣がぶつかり合う度にアレンのほうが押される。しかし、構わず剣戟を繰り返す。
男爵は2人の試合を見ながら神妙な顔をしている。男爵夫人、トマスやセシルは驚きの表情で試合を見ている。
(むう、合わせられる。なんだろう剣の動きを読まれているな。俺の剣術のスキルレベルが低すぎるからか?)
ミハイのお手本のような剣術の動きにいなされる。素早く動いているのに、スキルレベルの差で見切られる。
素早さで迫るのに後手に回ったミハイに攻められるようになる。まるで速いだけで単調な動きを予想しているかのようだ。
そして、動き続け息を切らしたアレンの喉元に剣が迫る。
「そこまで!」
騎士団長が試合を終わらせる。ミハイの勝利だ。
(ぐう、負けた。素早さが上だと感じたんだが、攻め切れなかったな。これはスキルレベルによる命中率の補正があるからか? もう少し素早さを上げるか? いや攻撃力が向こうの方が結構上だし、かなり力負けしてたしな)
ミハイとのステータス差とスキルレベル差による威力上昇、命中率補正の検証をしていると、
「すごいね。さすがセシルの従僕だ」
ミハイも息を切らしているみたいだ。
「はい、ありがとうございます」
(あれ? 握手ないの?)
2年連続で試合した後の握手があったのだが、今日はないようだ。観戦した男爵家とともに館の中に戻っていく。
それから時が流れて、夕方。
アレンは給仕をしていた。
「それにしても、アレンはとても強いのですね」
男爵夫人が試合の終わりに言う暇がなかった賛辞をくれる。
「ありがとうございます、ミハイ様に比べたらまだまだです」
「そうよ、ミハイ兄さまに比べたらまだまだなんだから。明日から剣術を習いなさいよ」
セシルはニマニマしながら言う。これはミハイが館に帰ってくるのもそうだが、自分の従僕が強いのも嬉しいようだ。
「そうですね、またお暇なときに剣のご指導いただきたいです」
そう言って軽くミハイに頭を下げセシルの言葉に答える。
「それなんだけど、セシル」
「なんですか? ミハイお兄様」
「これから3年ほど、王家の勤めがあるんだ」
「え?」
今日からずっと館にいると思っていたミハイは3年ほど館を離れると言った。セシルがショックで固まる。
「ごめんね、言ってなくて」
「そんな、いつからですの?」
「明日からかな」
「……」
さらにショックを受ける。もう言葉も出せなくなってしまった。
「大丈夫、今度手紙を書いて送るから」
ショックで固まってしまったセシルは、それ以上何を言ってもミハイの言葉が聞こえないようだ。
(明日から王家の勤めで出ていくのか。何かカルネル子爵の言葉を思い出すな)
以前、カルネル子爵が自らの子に才能がないことに喜んでいたことを思い出す。学園を卒業したあと、何か面倒な勤めがあるのかなと思っていたがその通りだったようだ。
学園を頑張って卒業して、3年家を離れて仕事があるのかと思う。
翌日の朝だ。アレンは朝食を摂っていると、執事が使用人用の食堂に入ってくる。9時にミハイが館を出るので、皆で見送るようにとのことだ。
なんの勤めなんでしょうねと従僕長のリッケルに聞いたが知らないという話だ。12年務めた従僕長でも知らないことがあるんだなと思いながら、セシルの部屋を目指す。
9時にミハイが出発するが、8時からセシルの世話がある。
部屋を片付けている時、洋服を着替えたセシルを見るとまだ元気がないようだ。3年というのはとても長い。王家の勤めは春休みのようなものもないので、手紙だけになるとミハイが言っていたことを思い出す。
使用人たちが玄関に集まっていく。玄関は大きく開放され、玄関前には既に馬車が停めてある。
2階に伸びる階段を挟むように、使用人が玄関先で2手に並び立つ。従僕の末席のアレンも使用人の端っこに立つ。一番末席なので玄関の扉の隣だ。
カチャカチャ
(鎧を着ているな。あの姿で王家の勤めに行くのか)
鎧を身に纏い、腰から剣を差したミハイが降りてくる。その後ろからゆっくり男爵家の皆が降りてくる。セシルはずっと顔を伏せがちだ。
1階に降りるミハイがセシルの頭をポンポンとする。
「ミハイお兄様、お帰りお待ちしております」
「うん、またね、セシル」
そういうと、ミハイは玄関に向かう。
(いってらっしゃい、って、ん?)
そのまま出ていくかと思ったが、まっすぐアレンのもとに寄ってくる。
アレンはなんだろうと思いながら、向かってくるミハイを見つめる。
すると、ミハイがアレンを抱きしめた。
(え?)
「アレン、セシルをよろしく頼む。守ってあげてくれ」
「は、はい」
アレンの頭1つ分大きなミハイが、アレンを抱きしめセシルを守るようにお願いする。アレンは驚きながらもなんとか返事をする。
アレンとの抱擁を解いたミハイは玄関に足を数歩進め、馬車を背に告げるのだ。
「それでは、グランヴェル家の勤めを果たしにいきます」
男爵家に見送られながら、ミハイは馬車に乗り込む。
(あれ? 震えていなかった?)
ミハイに抱きしめられた時、鎧を着ていてはっきりとは分からなかったが、どこか震えていたかのようにアレンは感じた。こうして、ミハイは王家の勤めのためにまた館をあとにしたのであった。
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