第229話 リポップ

 アレンはギアムート帝国の外交官からのお誘いを丁重に断り、帝都でバウキス帝国行きの魔導船に乗り換えるために王都発の魔導船を降りた。

 その翌日にはバウキス帝国行きの魔導船の便があり、アレンたちはバウキス帝国の帝都を目指した。


 バウキス帝国を目指すということもあり、この魔導船には結構な数のドワーフたちが乗っている。バウキス帝国とギアムート帝国間には多数のドワーフの往来があるんだなと思う。


 成人していると思われる髭もじゃもじゃのドワーフは、14歳のまだ成長途中のアレンよりさらに背が低く、そしてムッキムキの筋肉質の体をしている。


「毎日毎日飽きないわね」


 今日も今日とて、食堂の個室を借りて皆で食事を摂っている。

 セシルは個室の中にも響いてくるムキムキのドワーフたちの騒ぎにため息をつく。


「ドワーフたちはお酒が大好きですから」


 ソフィーがセシルの言葉に反応する。


 今は昼食の時間であるが、ドワーフたちは朝だろうが昼だろうが夜だろうが酒盛りをしている。個室は防音設備が備わっていないため、横にいるセシルの声がたまに聞こえないほどの騒ぎだ。


「メルルもそういえば、お酒が好きだったな」


 アレンも会話に参加する。

 

 この世界はどうも12歳からお酒を飲んでいいらしい。

 ただ、アレンが前世のころから『ゲーマーはお酒を飲まない』の信条のもと、お酒を飲まなかったため、学園の拠点でもお酒を買うという選択肢はなかった。


 学園の2年生になってから、メルルが転入してきて、街中を皆で歩くと店の酒屋の前からメルルが動かなくなるので、拠点にお酒が配備されることとなった。


 酒樽で買ったので、キールやキールの使用人で年配の従者などもメルルと一緒にお酒を飲んでいた。なお、メルルはアレンが引くくらいお酒を飲む。


 そんなメルルの酒豪っぷりを思い出しながら、アレンは荒涼とした大地を見る。


(あまり、緑豊かな大地ではないな。だから魔導具の技術が発展したのか? って、ん?)


 既に魔導船は中央大陸から海を越え、さらにバウキス帝国の大地上空を飛んでいる。

 メルルから聞いていたが、ローゼンヘイムの緑豊かな大地と違い、荒涼とした茶色の大地が続いている。


 全ての大陸で一番魔導具が発展した理由はこの枯れた大地が理由なのかなと考える。

 そんなことを考えていると、白竜山脈に残してきた鳥Eの召喚獣がとんでもないものを発見する。


「アレン。どうしたの?」


 ご飯を頬張っているクレナがアレンの表情の変化に気付く。


「皆、聞いてくれ。白竜が生まれたぞ」


「「「え?」」」


 カルネル領は白竜がいなくなったので、これからミスリル鉱の採掘を再開する。

 その手助けをするため、アレンは召喚獣を使い再開に邪魔な魔獣の殲滅を行っていた。


 そんな中、グランヴェル領の山脈の中腹に白竜の幼体と思われる存在を発見する。

 白竜は、グランヴェル領側にいたときに巣にしていた大きな凹みにいる。


(白竜山脈には、白竜が1体存在するって設定になっているのか? これは完全にリポップだな。もしかして世界の理なんじゃ?)


 アレンは考え事を始める。


 前世の記憶をたどると、1つのエリアや1つのダンジョンに必ず存在するボスとなる敵のように、倒せば必ず再度現れる敵がいた。


 一度倒して、また現れることは『リポップ』と呼ばれていて、リポップのタイミングや頻度は様々だ。学園のダンジョンの最下層ボスは1日1回戦えることを考えれば、ダンジョン最下層ボスのリポップのタイミングは1日1回とも言える。


 既に白竜を倒して10日以上過ぎたのだが、新たな白竜が生まれていたようだ。

 これは白竜山脈には1体の白竜が存在するという、リポップの条件があると考えられる。

 

「アレン、どうするの? またやっつけるの?」


 セシルはこれからどうするかアレンに問う。


「いや、育てよう」


「え? 育てるの。飼いならすってこと?」


「まあ、そうだな。必ず1体存在するなら倒し続けても意味がない。それよりも魔王の能力も知りたいし」


(リポップし続けるものなのか、白竜を倒し続けて確認する方法もあるけどね)


「「「魔王?」」」


 いつも吹っ飛んだ思考をするアレンの考えが、今日も仲間たちには分からない。


 アレンは説明をする。

 魔王は全ての魔獣のランクを1つ上げたと言われている。

 生まれて直ぐの白竜のランクもそうなのか、一定期間過ぎたら急激に凶悪化するのか、この機会に成長を見つめながら調査する。


 そして、アレンたちが倒した白竜には自我があった。

 どうも魔王に操られている様子もなかったので、魔王の能力は魔獣を強くするだけなのかどうかも知りたい。


 あとは白竜自身の記憶だ。

 倒される前の記憶が引き継がれるなら、この世界の真理に1つ近づけるかもしれない。


「ほええ」


 クレナがどこまで理解できたのか分からないが、アレンの説明がすごいと驚いている。


「俺たちはこれからS級ダンジョンを攻略するわけだけど、あくまでもそれは魔王を倒すためだ。だが、今回魔王の配下にすら手こずることが分かったからな。やるべきこと、できることはしっかりやっておかないとな」


 その言葉に仲間たちは頷いた。

 アレンの仲間たちの死力を尽くした攻撃も魔神レーゼルにほとんど通用しなかったことを覚えている。


 白竜の幼体の元に、1体の竜Bの召喚獣を向かわせる。

 向かう途中にグレイトボアを1体捕まえて、白竜の餌にするように指示をする。

 同じドラゴンの竜Bの召喚獣なら親代わりになっても違和感が無いのではという甘い期待からだ。


「名前はハクとしよう。あいつ、名を名乗れと言って自分は名前を名乗っていなかったしな」


 白竜は自分の名前を持っていたのか定かではない。


「名前まで付けちゃって、飼いならすことなんてできるのかしら?」


「それも含めての検証だな」


 テーブルの上で芋をむさぼっている精霊神は、どうもこのあたりの情報を秘匿しているように思われる。何も答えてくれないだろうから、思いついたことは全て検証する必要がある。


「お、街が見えてきたな」


 アレンが白竜の話をしていると、巨大な街が見えてきたことにドゴラが気付く。


(お、全世界最強のバウキス帝国の帝都か。高い建物も多くあるし、文明の発展具合が他の国の比ではないな。まあ、ローゼンヘイムのような自然あふれる街も好きだけど)


 魔導船の上からバウキス帝国の街を眺める。

 クレナが相変わらず、頬を窓にくっつけ帝都の様子を見ている。


「さて、着いたらどうするかな。メルルを探さないとな」


「そうですわね」


 しばらくすると魔導船が発着地に到着し、ドワーフたちがぞろぞろと降りていく。

 アレンたちもドワーフたちの流れに身を任せて一緒に降りる。


 まもなく夕方なのでメルル探しは明日にして今日はホテルに宿泊することにする。

 

(さすがに、右も左もドワーフばかりだな)


 初めての国はなにかワクワクするものがある。


 やはり行動範囲が広がって新しい国、新しい街に行けるようになることが『冒険の醍醐味』なのかもしれないとアレンは思う。


 街中は、建物は光沢があり、角が無く不思議な建物が立ち並ぶ。魔導列車も完備され、列車の中もアナウンスが聞こえてくるので、なんとなく町の中心っぽい響きの駅で下車することにする。


 高級そうなホテルらしき建物を発見し、カウンターを目指す。

 話を聞いたら、普通にホテルだった。


 とりあえず、男女で2部屋予約する。

 個室がいいと言ってくる者がいないので宿泊するときは大体2部屋だ。


「3階の部屋2つになります。3階へは昇降魔導具をお使いください」


「昇降魔導具?」


 クレナが何それという顔をする。


「たぶんエレベーターのようなものだよ」


「えれべーたー?」


 さらに分からないと首をこてっとするクレナも連れて、受付の者が指し示した昇降魔導具へ向かう。


 個室のようになっていて、中に入るとそこは行き止まりの狭い部屋だった。


「なによこれ、どうするのよ?」


「たぶん、何か仕掛けを作動させるものがって、あったあった」


 青い宝石のようなボタンのようなものが壁に埋め込められている。

 三角の形をしており、三角形の角の向きで、上にいくのか、下に行くのか選べるようだ。


(階数は選べないのか。どうやら、各階停車のようだな)


 3階に直接行けるようなものではないらしい。

 アレンが代表してボタンのような物に触れる。


 ブンッ


「お? 大丈夫かよ?」


 ドゴラもよく分からないものに動揺している。


「ああ、大丈夫だ。上がっている反応がないな」


 エレベーターのように上に上がっていく感覚はない。

 ボタンがほのかに光って反応しただけだ。


 とりあえず出てみると、床に「2」と表示がある。

 2階のようだ。


 なるほどと、もう一度昇降魔導具の部屋に入り、ボタンに触れてみる。

 さっきと同じようにほのかに光ったので、また部屋の外に出ると床に「3」と表示がある。

 3階のようだ。


「こんなんで、上の階にいけるんだな」


 ドゴラも床の3の文字を見ながら呟いた。


「そうだな。旅人はそれなりに荷物があるからこういった魔導具があった方が便利なんだろうな」


 そう言って、アレンたちはそれぞれの部屋に入り一晩を過ごす。



 翌日の朝、ホテルのロビーで全員揃うのを待っていると、1人のドワーフが配下を後ろに従え話しかけてくる。


「おはようございます。私は外務大臣を務めさせていただいておりますヌカカイと申します」「大変失礼ながら、ソフィアローネ様でいらっしゃいますか?」


「は、はい。そうですが」


(ん? また急に声を掛けられたな。今度はソフィーに用事か)


「お目にかかれて光栄に思います。個室を用意しておりますので、朝食がてらにお話などいかがでしょうか?」


 バウキス帝国の外務大臣だというドワーフから話しかけられるのであった。


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