第719話 時給150体

 アイアンゴーレムがあと少し近づけば、臨戦態勢になる中、アレンは仲間たちを集合させる。

 精霊の園でペクタンを草Sのアレンがセシルのレベルアップの予定を説明する。


「こんな感じでセシルのレベルアップを進めるぞ」


【セシル育成計画3ステップ】

①S級ダンジョンでレベル89までアイアンゴーレム狩り

②大地の迷宮で亜神級の霊獣を1体倒してレベル99カンスト

③時空神の試練再開 ※現在、加護のみ習得済み


 アレンが魔導書のメモ機能使って、ザッとしたセシルの育成計画を説明する。

 なお、③の試練はセシル1人で行わないといけないため、アレンたちは、勇者ヘルミオスの試練がまだ終わっていなければ手伝いに行く予定だ。


「なんか、こういうのも私慣れてしまったわ」


 すんなり受け入れてしまう自分に驚くこともないとセシルは言う。


「でも、アレンもリオンとかペクタンの特技とか検証するんだろ」


「そうだな、ルーク。まずはセシルのレベルを安定させて、それからだな。レベルはすぐに上がるだろうけど。じゃあ、メルスたち陣形を。ソフィーたちは『槍』、ルークたちは『盾』、フォルマールは2人のフォローを」


「ええ、アレン様」


「また、この頭を使うやつか」


「やれやれだ」


『ああ』


「なんか、不満を漏らしている奴がいるぞ」


(ほとんど)


「そんなことございませんわ、アレン様。ねぇ、フォルマール!」


「は!」


 ソフィーの言葉にフォルマールはしっかり返事する。


 アイアンゴーレム狩りはエクストラモードなどでレベル上限の開放やレベル1に下がったり、新規に加入した仲間の育成のために活用されてきた。


 億を超えるSランクの魔獣の中でも、アイアンゴーレムの経験値は15億だ。

 8人以下のパーティーだと12億稼ぐことができる。

 さらに2体で現れて、それぞれがほぼ無限に倒されたもう1体を復活させる。


 レベル上げに最適でS級ダンジョン攻略よりも少し前から始まったアイアンゴーレム狩りはアレンによって、効率を上げるため微調整されてきた。


 その分、狩りをする者たちの負担が上がるのだが、結果、ルークとフォルマールの不満そうな声が漏れてしまった。


 Sランクの召喚獣たちに陣形を組ませる。


 セシルはもちろんのこと、中衛のルークとフォルマール、後衛のソフィーもしっかり護衛する。


「精霊神の祝福! 生命の泉!!」


 神技「精霊神の祝福」、神技「生命の泉」を使ってステータスを上昇させて、ソフィーとルークが4体全ての大精霊を顕現できるようにする。


 Sランクの魔獣に相当するアイアンゴーレムであっても、油断できない。


『……』

『……』


 アレンたちが近づくとアイアンゴーレムたちは起動を開始した。

 大きな一歩で体を揺らしながらこちらに向かってくる。


 アイアンゴーレムは『槍』を持つ個体、『盾』を持つ個体がいるので『槍』と『盾』の呼称で仲間たちの中で認識している。


 ソフィーとルークがそれぞれ4体ずつの大精霊が『槍』と『盾』に対して、一気に距離をつめ取り囲む。

 アレンの召喚獣たちもワラワラと別れ、フォルマールのいる中衛の位置上空にはマクリスが魔力を込め、特技の発動を待って待機する。


『おらああああ!!!』


 ビキニアーマーを着た火の大精霊カカが槍を構える隙も与えず距離を詰め、顔面に拳を殴りつける。

 顔面は大きく陥没し、大きく後退する。


 吹き飛ばされるところで、ルバンカが待機しており、6本ある拳を打ち付けあっさりと一体倒し、光る泡へ変えた。


『アイアンゴーレムを1体倒しました。経験値12億を取得しました』


「やったわ。レベル上がったわ!」


 セシルの中で明らかなステータスの上昇を感じ取れたようだ。

 エクストラモードのセシルは、アイアンゴーレムを1体倒しただけでレベルが1から49まで上がった。

 ノーマルモードならこの1体でレベル58まで上げることができるのだが、エクストラモードはノーマルモードの10倍の経験値を必要とする。


 だが、アレンのアイアンゴーレム狩りの拘りはここからだ。


『リペアエナジー』


 パアッ


『盾』が『槍』が横で倒されたことに気付いて、魔法陣を発動させて復活させようとする。

 魔法陣の中から光る泡となって消えた場所に、頭から『盾』の全身が現れ始めた。


「よし、このタイミングだ!」


『ああ、分かってる! むん!!』


 天使B「大剣」を装備したメルスが大振りの一撃を振るう。

 盾ごと一瞬で破壊し、そのまま右腕を叩き切ってしまう。

 轟音を立てて地面に落ちたと思ったら、続けざまに雷の大精霊が頭上から雷を降らして全身を感電して倒した。

『盾』はなす術もなく、光る泡へと変わっていく。


(アイアンゴーレムのステータスは25000前後。バフもりもりの大精霊やSランクの召喚獣の敵じゃないぜ)


 10倍近いステータスの差があるため、アイアンゴーレムを瞬殺できる。


 ようやく全身が現れた『槍』は横で『盾』がやられていることに気付いた。


『リペアエナジー』


 パアッ


『盾』の倒された場所に魔法陣が現れ、頭部からゆっくり復活しようとする。


「よし。このタイミングだ! 復活しきる前に倒せば、攻撃の判断をする前に復活させるからな。時給を上げていくぞ!!」


「はい!」

「うむ!」

「分かった!!」

「レベルがどんどん上がるわよ!!」


 これまでのアイアンゴーレム狩りは『盾』を縛って、もう『槍』を倒して、「リペアエナジー」で復活させるという手法を使っていた。

 盾を縛るのは耐久力が高く倒しにくいため、時給(時間当たりの獲得経験値を表現するネトゲ用語)が、若干経験値効率が落ちるからだ。


 ただ、これ以上の時給効率が存在する。


 動けなくした『盾』は「移動」や「攻撃」などを一旦発動した行動パターンをやめ、「リペアエナジー」を発動する。

 この行動パターンのキャンセルは時間のロスを生むため、「リペアエナジー」の発動が遅れる。

 また攻撃が可能になるまで『槍』の復活を魔法陣から出現まで待たなくてはいけない。


 2年弱の試行錯誤の結果、片方を倒し、復活するまでに、もう片方を倒すことが一番効率が良い。


「時給150体だぞ!! フォルマール倒しきれなかった時のフォローのため真強打のまま待機だ!!」


 攻撃のタイミングで「槍」か「盾」を倒しきれなかった場合は、待機させていたフォルマールに追撃をお願いしている。

 特に「盾」は防御系のスキルがあるため、たまに攻撃にミス判定が発生し、しぶとく生き残ることがある。


 復活のタイミングで、復活させた方を倒すことが効率に繋がる。


「なぜ、こんなに効率に拘るのか……」


「集中だ!!」


『分かってるのらああ』


 フォルマールのため息を血走ったアレンが一蹴する。

 マクリスはアレンの作戦を理解し、口元に氷柱を生成し、空中で待機する。


 S級ダンジョン攻略前は1日100体倒していたアイアンゴーレム狩りは、改善を続けた結果、てベストタイムで1時間150体達成するところまできた。


 こうして狩りが始まって1時間が経過する少し前にセシルのレベルがまた1つ上がる。


「レベルがまた上がったわ! レベル60を超えて上がっていくなんていいわね!!」


 魔法を放つセシルが大声で唸る。

 仲間の中でずっとレベル60で止まっていたセシルにとって感動してたまらないようだ。

 さらに、レベル61以降になるとそれまでより、ステータスの上昇が上がるのも大きい。


「よし、77まで上がったな。セシルは魔法のスキルレベルを万遍なく使用して、上げておいてくれ」


「ええ!」


 アイアンゴーレム150体で経験値1800億ほど稼いだが、レベル89はまだまだ遠い。


(1時間に150体倒してもレベル89まで19時間弱かかるからな。最低でも2日はかかるし……。いや、さすがにネスティラドと午前中に戦ったばかりだし3日にするか。それにしても、お陰で検証が捗るな。菌床栽培の効果が半端ない件について)


 レベル89まで経験値は累計で3兆3000億必要だ。

 3兆3000億÷1800億=19時間弱


 今日はネスティラドと戦い、魔法神の研究施設、大精霊神の精霊の園へ行き、それからのレベル上げだ。

 流石に仲間たちの疲労も考慮し、今日は半日程度で抑えることにする。


 また、待っている間にペクタンとリオンの検証が進んだ。

 100メートルの大きさのアイアンゴーレム2体が激しい戦いによって倒される中、アレンは共有して、メルスたちに指示をしながらも、召喚獣の検証は進めてきた。


 ペクタンの特技「菌床栽培」を発動すると、ダンジョンの床石の足元に、菌糸が巡り、植物を生育さえるための苗床ができる。


 アレンは草Aの召喚獣を召喚すると、モモに手足が生え、目のついた召喚獣が現れる。

 覚醒スキル「天の恵み」を発動すると、菌床の苗床に体を埋め、メキメキと凄い勢いで木が生え、アレンの腰ほどの位置で「2つ」の果実を実らせた。


(2倍の速度で草系統の効果を成長させて、実る成果も2倍か。時給換算だと4倍近くになるな)


 アレンにとって召喚士とは、草系統の召喚獣をどれだけ実らせるのかにかかってきた。

 神界にきて、創生スキルは上げるため、霊石や霊力回復リングを求めたが、草系統のほとんどが魔力を必要とするため、その重要度は変わらない。


 なお、成長速度2倍、回復薬などが実る速度も2倍にもかかわらず4倍としないのは、実った回復薬などを収穫する必要がある。

 実をもいだり、葉を千切ったり、アロマ系だと木を引っこ抜かなくてはいけない。

 その上で魔導書や魔導袋に収納する必要がある。


 ペクタンの菌床栽培であっても、自動的に魔導書に回復薬を入れてくれるわけではない。

 1人で収穫まで行うなら、厳密には時給換算しても4倍にはならないだろうとアレンは踏んでいる。


【ペクタンの特技・覚醒スキル簡易版】

・菌床栽培 

 草Sの周囲100メートルに草系統の成長を2倍、成果も2倍にする苗床を生やす

 苗床維持にはペクタンが必要

・防護茸 周囲1キロメートルに耐久力1万上昇、物理、魔法、ブレス被ダメージ半減の胞子を飛ばす

・回復茸 周囲1キロメートルに回復の胞子を飛ばす

・復活茸 仲間を1人復活させる

・巨大茸 召喚士または召喚獣を100メートルまでデカくする。効果は幸運依存

・無敵茸 攻撃無効状態になる。持続時間は幸運/10000秒

・神種生成 神種を実らせる。クールタイムは月1個


 無駄な特技も覚醒スキルもない完璧な回復とバフ系の召喚獣だ。

 セシルの育成と新たに仲間になったSランクの召喚獣が進んでいくのであった。




あとがき

―――――――――――――――――――――――――――――――――、

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また皆様のお陰で無事、ヘルモードアニメ化の発表が出来ました。

ありがとうございます。

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