第720話 残りレベル10

 アレンたちがS級ダンジョンでアイアンゴーレム狩りをして3日目のお昼過ぎだ。

 あと20日ほどでアレンは17歳になる。


「やったわ! レベル89になったわよ!!」


 セシルがたかだかと原魔の杖を振り上げ、勝利宣言する。

 累計3兆3000億の経験値を積み上げ、アイアンゴーレム狩りの終了を意味した。


 レベル99までに必要なアイアンゴーレムは41兆だ。

 必要な日数は1日10時間で1500体のアイアンゴーレムを狩るとして約21日かかる。


・レベル99までの残り必要日数

(410000-33000)÷(12×150×10)=約21日


 亜神級の霊獣を狩れば1体でレベル10上がる。

 21日間に渡って毎日10時間狩りをするよりも効率が良いと判断する。


「さて、ここでの狩りは終わりだな。大地の迷宮へ行くぞ!! いや、先に魔法神イシリスのところで研究が進んでいるか確認するか」


 時間進行形のクエストは逐一進捗を確認し、報酬の貰い損ないを防止する必要がある。


 S級ダンジョンから魔法神イシリスの研究施設に転移する。

 ピラミッド構造の最上部に移動し、コミュニケーションを取りずらい魔法神になんとか進捗を確認したが、どうやら研究の邪魔をし過ぎて鬱陶しかったらしい。


 巨大な試験を両手で掲げて魔法神イシリスは襲い掛かってきた。


『ど、ど、どこだ!! 私の研究の邪魔をする奴は!! で、で、でてこい!! ぶっ殺してやる!!』


 魔法神はあまりの怒りに活舌が回らなくなっている。


「……ちょっと、だから言ったじゃない。研究はまだだって。怒らせてどうするのよ!!」


 殺気だった視線で顔をぐわんぐわんと左右に移動させながら魔法神イシリスが、ボサボサの髪を逆立て、憎悪に満ちた神力を全身に漂わせ、息を潜めるアレンたちから離れていく。

 アレンたち6人は今、素材を解体する台の後ろでララッパ団長の非難を受けている。


 ララッパ団長に進捗確認したところ、魔法神イシリスの研究はまだ終わっておらず、「古代魔法」をセシルに提供できる状態ではないと聞いた。

 だが、アレンはではどこまで進んでいるのかと研究に励む魔法神にしつこく状況を確認したところ、現在に至る。


「ふむ、行ったようだな。このまま姿勢を低くくして撤退するぞ……」


 アレンを先頭に、ソフィー、ルーク、セシル、フォルマールが研究施設の下の階層へ向かうためのキューブ状の物体へ、ほふく前進しながら音を殺して移動する。


「まだでございましたわね……」


「そうね。ソフィー、残念だったけど、あら、何してんの? 移動しないの?」


 セシルが前進を進めても、下の階層への転移が始まらないことに疑問を思った。

 魔法神にバレないように小さな声で、キューブ状の物体に交渉を進めるアレンに疑問を思った。


「よしよし、交換したぞ。じゃあ転移!」


 アレンは信仰ポイントと2つのアイテムを交換した。


【信仰ポイントと交換したアイテムの簡易説明】

・練習の杖(強):100億ポイント

 スキル経験値10倍、クールタイム80%削減、知力9割減

・霊力魔力置換リング(音声認識):100億ポイント

 霊力と魔力は等価交換、音声認識で霊力から魔力、魔力から霊力へ変更可、最大魔力(霊力)の秒間1%変更


 セシルの説明に答えることなく、危険なこの場を後にする。

 研究施設の安全な1階層まで移動すると、アレンはセシルにたった今手に入れた杖を渡す。


「何よこれ?」


「あとは霊獣倒してレベルを一気に10上げるからな。大地の迷宮ではこれを使って、スキルレベル上げを優先してくれ。プチメテオもスキルになってクールタイムも1時間になったからな。これでスキル上げに専念できるはずだ」


「なるほどね」


 アレンが大地の迷宮で探すのは亜神級の霊獣だ。

 シャンダール天空国、原獣の園、広大な神域にも亜神級の霊獣がいると思うが、随分狩り過ぎて見つけずらくなってしまった。


(まったく、リポップの調整ミスってるぞ。もっと狩りさせろ。まあ、霊獣は命の循環の淀みらしいからな。淀みが無くなったと)


「そっちは何だよ。1人だけ指輪手に入れてずりーな」


「これは霊力と魔力を変換できる指輪だ。霊石狩りが捗って不要かと思っていたが、霊獣が随分数が減って、人間界で魔力から置換しないといけなくなった場合に備えてだ。まあ、普段は神界で霊力回復リングで足りるんだがな」


「ふ~ん」


 分かったようで分からないような返事をする。


 アレンたちは原獣の園で霊獣の釣狩りをするため、砦を設け、霊石集めを竜人や獣人に依頼した。

 結果、数千億ポイントにもなる霊石を集めてくれたのだが、最近では随分、霊獣が減ってきたようだ。


 数十万年もの間、霊獣を狩らずにいたため、増えてしまった霊獣は、アレンが欲望のままに狩らせた。

 その結果、自然沸き数を超えて霊獣を狩り過ぎて、最近では収集できる霊石の数は10分の1以下になってしまった。


 十分な効果の霊力回復リングを手にしたため、信仰ポイントを稼ぐ必要が減少した。

 ペクタンのお陰で回復薬の生成が捗りそうなことも含めて、魔力と霊力を交換できるアイテムを手に入れた。


 必要な物を手にしたアレンたちは大地の迷宮に移動した。


 カンカン


 大地の迷宮入り口に設けられたドワーフの職人たちの金づちを振るう音がする。


『よし、良いぞ。良いぞ!! その調子だ!! あと3回だ!!』


(ん? この声は確か)


「ちょと、ガイア様。もうハバラク先生は限界ですよ!!」


『ばっかやろおおおお!! 限界なんてねえんだよ!! なあ! ハバラク!!』


「ぬおおおおお! 1回…」


『よし、後2回だ!! いけるぞ! お前ならいけるぞ!! ハバラク!!』


 工房の奥で何やら騒ぎが聞こえる。

 眉を顰めるセシルが口を開いた。


「ちょっと、怪しいわね。何やっているのかしら?」


 そんなことを聞かれても分からないが、工房の中に入ることにする。

 

「失礼します。ハバラクさん。ん?」


 工房の中に入り、名工ハバラクへ声を掛けようとすると、大地の迷宮の裏側であった半裸でマッチョなスキンヘッドと目が合う。


『お、おう。アレンか。何してんだ?』


「それはこちらの言葉です。大地の神ガイア様、いかがされたのでしょうか?」


『ああ? 何がいかがだよ。こいつは俺の加護を受けているんだ。シゴいているんだよ!! 神器の重さは10倍だ!!』


「ぬぐおおおおおおお!!」


 人間界で3本の指に入ると言われる名工ハバラクは、大地の神ガイアにシゴきを受けていた。

 武器や防具を叩く神器「大地のハンマー」は調整型の鉄アレイのように重さを変更できるようだ。

 筋肉がパンパンに膨れたハバラクの二の腕には、青筋の血管が浮き出る。


(まあ、結局。大地の迷宮の報酬は神器を含めて「加護」「神技」「神器」全て、ハバラクさんに与えてしまったからな。おかげで神聖オリハルコンの武器や防具を造れるようになったし)


 アレンはこの状況にようやく分析が追いついてくる。


 大地の迷宮の報酬は鍛冶職人のハバラクがほとんど受け取った。

 唯一の報酬はアレンが受けとった「アレンの剣」だけだ。


 加護を与え、神器を預け、エクストラモードにして貰ったハバラクは大地の神の使徒と呼んでも良い存在だ。

 この場は大地の迷宮の入り口だが、大地の神ガイアの神域でもある。


 自らの使徒と呼んでも良いハバラクが神域で鍛冶に勤しんでいるので、より相応しい力を得るべく鍛え上げているようだ。


「……ぜぇ、ぜぇ。アレン殿か。ど、ど、どうしたんでぇ……」


 ようやく声が出るまで体力が回復したハバラクがアレンたちの来所に気付いた。


 大地の迷宮を攻略して1ヵ月以上過ぎているのだが、アレンたちが攻略を止めた後も、ハバラクは大地の迷宮のしごきを受けていた。


 どれだけの訓練を積んでいたのか、齢60を超えていると聞いていたが、体が随分がっしりと筋肉質になっていた。


「セシルのレベル上げのための大地の迷宮に来ました」


「また大地の迷宮か。じゃあ、俺も連れて行ってくれ。オリハルコンが切れてしまってよ」


「え? そうですね。でしたら次いでになりますが80階層のオルハルコン鉱脈へ目指しましょうか。このメンバーでどこまで行けるか分かりませんが」


(たしかに。神聖オリハルコンがないと仲間たちの強化にもならないからな。セシルのレベル上げだけのつもりだったが、一度に達成する目的は多い方がいいな)


 アレンの残りパーティーもガララ提督とヘルミオスのパーティーも、ヘルミオスの試練に協力中で大地の迷宮の攻略は随分おざなりになった。

 80階層にある大地の迷宮のオリハルコン鉱脈からオリハルコンを掘らないと、せっかくハバラクに、大地の神の報酬をまとめたのに意味がない。


 仲間たちの多くは神器を手に入れ武器が更新されたが、耐久力の高い防具も必要だ。

 ハバラクがこの1ヵ月、大地の神のしごきを受け、スキルに磨きが掛かっているなら、より強固な防具ができそうだ。


『亜神級の霊獣か……』


 大地の神がアレンたちの横で、皆の会話を聞いて一言呟いた。


「あれ? もしかして大地の迷宮に亜神級の霊獣はいない感じですか?」


『ああ? どうだったかな。1体くらいはいたような気がするが……。今の話だとその魔法女のレベルが上げなんだろ』


「魔法女って誰…よ?」


「そのとおりです。亜神級なら1体いれば十分なら十分です」


『そっか。それなら1体くらいいるんじゃねえのか』


「はあ……」


(何の確認だよ。まあいい。大地の迷宮でも亜神級の霊獣を狩り過ぎたからな。おかげでレベル250になったし)


 アレンは大地の迷宮でメルルたちが亜神級の霊獣を狩ったおかげでレベル250という前人未踏のレベルに到達した。


 ただ、この大地の迷宮の亜神級の霊獣は天使たちが神界で取られた者らしい。

 多く狩って在庫数を心配されたのかとアレンは思った。


「よし。ここから24時間の攻略が始まるからな。気合い入れていくぞ」


「腕がなるわね」


「セシルはその指輪をつけてスキルレベル上げを優先してくれ」


 レベル上げは亜神級の霊獣1体で事が足りる。

 目標の霊獣との戦いまでは、スキルレベル上げを中心に行動するよう指示する。


『……ようこそ、大地の迷宮へ。挑戦されますか?』


 土偶の形をしたダンジョン案内人が向かってくるアレンたちに声を掛けてくる。

 セシルのために亜神級の霊獣を探すアレンたちであった。




あとがき

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