第234話 魔導盤

 ヤンパーニの神殿でS級ダンジョンについて聞こうと思ったら、神官からメルルがゴーレム使いではないかと尋ねられた。


 ゴーレム使いとは、ゴーレムに乗れる才能があるドワーフの総称だ。


 そうですと答えると神殿の受付担当は『魔導盤』という漆黒の板を持ってきた。


(なんだか凹みがボコボコある感じだな。ここに何かを嵌めるのか? っていうか人型っぽい凹みがあるし、ここに何かを嵌めればゴーレムが出来上がるということか)


 魔導盤は片面は真っ平であるが、もう片面はかなりごつごつしている。


 メルルは嬉しそうに魔導盤と呼ばれた黒い板に繋がれた紐を首に通し、首から掛ける。

 どうやらこれがスタンダードな魔導盤の持ち歩き方のようだ。


 アレンはごった返した受付に並ぶドワーフたちを見る。

 他のドワーフの中にも首に漆黒の板をぶら下げている者をちらほら見かける。


(なんだか夏休みに朝早くからラジオ体操に行く小学生に見えるな)


 改めてメルルを見ると、嬉しそうに魔導盤を持っているので率直な感想を抱く。


「この魔導盤の凹みにゴーレムの部品となるものを、ダンジョンで手に入れて嵌め込んだらいいのですね?」


「そうです。ゴーレムの部品につきましては、この試練の塔の2階以降で手に入れるか、試練の塔の周辺にございますA級ダンジョンの最下層ボスからも稀に手に入ります」


 ゴーレムの部品が手に入る場所を教えてくれる。


「私の仲間のメルルは魔岩将という才能を持っています。ゴーレムにも階級があると聞いていますが、部品も階級ごとということですか?」


 アレンは質問を続ける。

 今日は質問をして、明日以降準備してダンジョンに入ろうと思っている。

 あらかじめ質問する内容を考えておいた。


 ゴーレムには階級があるという話だ。

 ゴーレムの強さには階級があり、才能に応じて動かせるゴーレムが強くなっていく。

 

 ブロンズ級のゴーレムを動かすには魔岩兵の才能

 アイアン級のゴーレムを動かすには魔岩士の才能

 ミスリル級のゴーレムを動かすには魔岩将の才能


 魔岩兵だとブロンズ級止まりだが、魔岩将の才能があればブロンズ級からミスリル級まで動かすことができる。


「そ、それは! 本当ですか!!」


 その一言で神殿の受付担当がカウンターに両手をついて目を見開き驚愕する。

 あまりの衝撃であったのか、それ以外の言葉が出ずメルルを上から下まで凝視していた。


(なるほど、これが1000万人に1人しか生まれてこない魔岩将の才能の価値か。ゴーレムによってはドラゴンすら1人で倒せるらしいからな)


 ドワーフの国での魔岩将の価値がどれほどか改めて知ることができたような気がする。

 アレンたちの後ろでも結構ドワーフが並んでいるが、「魔岩将とか言っているぞ」「まじかよ!」みたいな声が聞こえる。


「うん! そうだよ!」


 メルルが明るく返事をする。


「たしかに、この魔導盤には同じ階級の石板を嵌める必要があります」


 それから一呼吸おいて、受付担当がアレンの質問に答えてくれた。


「石板? ブロンズとかミスリルの石板ということですか?」


「そうです。1つでも別の階級の石板を嵌めると機能しなくなりますのでご注意ください」


 石板と表現したが、石ではなくそれぞれの階級の素材のようだ。


 アレンは魔導盤をさらにじっくり見る。

 10個ほどの凹みがあるが、そこに嵌める石板は同じ階級のものでないといけないらしい。

 随分ダブってしまいそうだ。


「同じアイアンの胴体部分が出るとどうなるのですか?」


「1つの魔導盤に複数の同一部位の部品が出た場合は、破損時の保険で持ってらっしゃる方もいます。ただし、不要だと判断する冒険者も多いですので、この神殿で買い取らせていただいております」


 部品の部位などによって値段が違うが、どうも金貨100枚以上で買い取ってくれるようだ。

 ゴーレム使い以外の冒険者も多くいるので、結構売りに来るという話だ。

 さすが、A級ダンジョンの上位のダンジョンで出るアイテムだと思う。

 

 なお、この神殿で買い取りをするのはゴーレムに関わる部品のみであると教えてくれる。

 それ以外の魔獣を倒して手に入れた魔石であったり宝箱などから手に入った武器や防具などは、神殿の目の前にある冒険者ギルドで売買をするようにとのことだ。


 どういうダンジョンなのか、何階層まであるのか等のダンジョンの攻略情報については、基本的に何も教えていないと言われた。

 学園の冒険者ギルドとは違い、攻略するのに必要な時間であったり、出てくる魔獣のランクのようなものは基本的に教えてくれないようだ。

 ただ死亡率の高いダンジョンなので自身の責任と判断で攻略に向かうようにとだけ忠告される。


 ここにいる全員がA級ダンジョンを5つ制覇した者達だ。

 自分で調べろということなのだろう。


「色々ありがとうございました、まだあるのですがいいですか?」


「もちろんです。何でしょうか?」


「この魔導盤はダンジョンの中でも手に入るのですか?」


「いえ、この魔導盤はこの神殿にディグラグニ様がお与えになった物です。ダンジョンのどの階層でも手に入ることはありません」


(やはり、ここでしか手に入らないのか)


「分かりました。では先程、この魔導盤を『貸す』と言われましたが、『購入』はできますか?」


 受付担当はアレンたちがダンジョンの攻略のために質問をする前に、メルルがドワーフであることに気付いて、この魔導盤を『貸す』と言ってきた。


 メルルとは、今後も一緒に冒険をする予定だ。

 ゴーレム使いのメルルは、ゴーレムがあってこそだと思う。

 そのメルルに必要な魔導盤の所有者がメルルではないことが今聞いた話で一番の問題だ。

 この問題を解決しなくてはいけない。


「えっと、申し訳ありません。魔導盤はバウキス帝国の所有物です。貸与が基本でございます」


 受付担当に丁寧にお断りされる。


「基本? では、例外もあるということですね?」


「はい、金貨1万枚をお出しになる場合のみ、魔導盤をゴーレム使いにお譲りしております」


(なるほど、そうかそうか。こうやって1万体はいると言われるゴーレムを集めたのか)


 アレンはここまでの会話で理解をした。


 バウキス帝国がこの神殿の管理運営をしている。

 そして、ゴーレム使いと思われるドワーフがいれば積極的に魔導盤を貸与し、石板を収集させる。

 石板の同じ部位が集まればゴーレム使いのドワーフは恐らくそれを神殿に売りに来る。

 魔導盤の在庫がどれくらいあるのかまでは分からないが、戦争が差し迫った状況になったときに、貸与と言う形にしておけば、ドワーフの冒険者から取り上げることもできる。


 そして、どうしても魔導盤が欲しければ金貨1万枚渡しなさい、ということなのだろう。


「1万枚ですね。出しますのでご確認ください」


「え?」


 アレンは受付担当の神官には見えないが、カウンターの上に魔導書を反転させ収納のページを開く。


 そして、取引に便利なように100枚1袋に小分けにした、金貨の入った小袋をカウンターに落としていく。


「これで金貨1万枚のはずです」


 アレンは確認していいですよ、と身振りで示す。


「「「……」」」


 仲間たちがじっとアレンの様子を見ている。

 セシルはなんとなくこうなることが分かっていたようだ。

 ため息をついている。


 少々お待ちくださいと受付担当が一旦神官用の部屋に引っ込んだ後、何人か呼んできて金貨を数え始めた。


 小一時間ほどかけて、金貨による魔導盤の購入と、この魔導盤がメルルのものであることをメルルの冒険者証に登録する手続きが終わった。


「ありがと」


「いや、まあ、当然の対応だな。さて、もう暗くなってきたから冒険者ギルドに寄るのは明日だな」


「そうね。今日は泊まって明日にしましょ」


受付担当への質問とその後の手続きで遅くなったため、今日の予定はここまでにしようとアレンが言い、セシルもそれが良いと言う。


 こうして、翌日は冒険者ギルドに立ち寄り、その足で、不動産ギルドでダンジョン近くにある賃貸の1軒屋を借りた。

 ホテルだと食事も出てくるしベッドも快適で良いのだが、天の恵み作成のように、どうしても人目を気にする部分もある。


まだ家具も無い部屋で仲間たちとわいわい食事を摂る。


(さて、ダンジョンに行く以外ですべきことはほぼ済んだかな)


 そんな中、アレンは口にした。


「ちょっと、聞いてほしい。これからの俺らの課題について話をしておきたい」


 アレンは、ダンジョンを攻略するだけではなく、仲間たちにはそれぞれ問題や課題があると思っている。

 その点について話をするのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る