第280話 頼み

『ミスリルゴーレムを1体倒しました。経験値16億を取得しました』


「すげえ! 一撃じゃねえか」


 石Aの召喚獣の覚醒スキル「収束砲撃」が直撃し、ミスリルゴーレムの体を激しく粉砕して倒すことができた。


「そうだな。たぶん、この敵は素早さと攻撃力にステータスの大部分を振っていたんだろう。死に戻りも発動してくれたし」


 アレンはミスリルゴーレムに勝てた理由を分析する。

 

 石Aの召喚獣の特技「吸収」は遠距離攻撃で受けたダメージを吸収していく。

 吸収量には限界があり、限界以上に吸収すると石Aの召喚獣は砕けて倒れてしまう。


 この時、石Aの召喚獣は体に亀裂が入っていくのだが、キールの回復魔法や大地の恵みなどの回復アイテムでは直すことができない。


 唯一直す方法は、石Aの召喚獣のもう1つの特技の「死に戻り」だ。

 これが発動すると、一旦吸収限界がリセットされ石Aの召喚獣の体の亀裂が消える。

 そして、吸収が継続されていく。

 確率は10回に一度、自動的に発動するのだが、発動すると蓄積したダメージが2倍の分、収束砲撃の威力も2倍になる。


 覚醒スキル「収束砲撃」は、物理攻撃と魔法攻撃の2つの特性を持つ攻撃だ。

 ヒヒイロカネの金属球が物理攻撃、吸収するために集めた魔力が魔法攻撃となる。

 物理攻撃には弱かったり、魔法攻撃には弱かったりする敵に絶大の効果を発揮する。

 物理と魔法両方に耐性が強い敵が少ないのも、この覚醒スキル「収束砲撃」が威力を発揮する結果となる。


(たぶん、このゴーレムは物理攻撃に弱いんだろうな。逃げまくっていたし)


 もし、耐久力に自信があるなら、あんなに逃げ回る必要はなかっただろうと思う。

 行動がすなわち、自らのステータスの優位性と欠点を現すとアレンは考える。


(それにしても、吸収と収束砲撃か。これからの俺の戦いにピッタリの特技と覚醒スキルだな)


 これまでの石系統の召喚獣についても優秀だった。

 しかし、今回の特技と覚醒スキルはアレンが完全に求めていたものに合致する。


 吸収は雨あられのように広範囲に受ける遠距離攻撃から、仲間や守りたい者たちを守る。

 収束砲撃は単体攻撃だ。

 既に大軍相手にも優位な戦いができるようになったアレンにとって、弱点であった一点集中の高火力の一撃だ。


 魔神を想定しているのかなと思う。

 1つ欠点を挙げるならば、Sランク以上の敵の攻撃だと完全に吸収できないことだ。

 今回はミスリルゴーレムによる遠距離攻撃の7割は吸収できた。

 残り3割はメルルのタムタム、ソフィーの精霊の力を借りて仲間をミスリルゴーレムの攻撃から身を守った。


「お!? やった。銀箱じゃねえか!!」


 キールが歓喜の声を上げる。

 ミスリルゴーレムのいる位置に銀箱が落ちていた。


 宝箱を開けてみる。

 中から指輪が出てくる。


(なんだ。また指輪か)


 アレンが確認のために装備してみると攻撃力が5000上がる。


 5階層に来て、1つ新たに分かったのはステータス3000上昇の指輪が最後ではないということだ。

 より上位の指輪が5階層の銀箱から出る。

 銀箱の出る確率は学園にいた頃のダンジョンと同じく10回に1回ほどだ。

 なお、金箱はまだ出ていない。

 既に1日100体のアイアンゴーレムを倒す方法を確立している。


 ステータスが5000上がる指輪はほぼほぼ揃いつつある。

 銀箱から結構な割合で出るので、パーティー全体で各20個ずつくらいは欲しいところだ。


 そして、奥の方にキューブ状の物体が現れ、そして木箱が置かれている。

 開けるとミスリルメダルが入っている。


「とうとう揃ったわね」


 アレンが中から出すと、ようやく最下層ボスと戦えるのかとセシルが呟いた。


「そうだな。一旦この広間から出るか」


 そう言って、キューブ状の物体に話しかけ、ミスリルの間に移動する前の場所に戻る。


「どうするの? もうはめちゃうの?」


「ああ、とりあえず、どんな感じになるのか確認するか」


 クレナの問いに答える。

 まだ、最下層ボスには挑戦しないが、どういう風になるのか確認するとアレンは答える。


 とりあえず、目の前の台座中央の窪みにピタリとハマるミスリルメダルを入れる。

 少し深めの窪みに吸い込まれるように入っていく。 


「おお!」


 3つ全てのメダルがはまったので広間にある4つ全ての魔導具の灯りが強く光り始める。


(これが、メダルが揃ったということか)


 アレンたちはそのまま、最下層ボスへの転移先のキューブ状の物体の元に行く。

 アレンたちの目の前に最下層ボスへ転移してくれるキューブ状の物体が浮いている。


「問題ないと思うが、構えていてくれ」


 アレンは最下層ボスに挑戦するつもりはない。

 状況を確認し、必要な情報があれば収集するためにキューブ状の物体に話しかける。

 この物体は、学園にいた頃から求める最低限の質問には答えてくれていた。


「ああ」


 ドゴラが両手に大斧と大盾を力強く構える。


 アレンはキューブ状の物体に話しかける。


「すみません」


『はい。私は最下層ボス転移システムS505です。メダルが1枚ずつしか台座にはまっていません。1パーティーのみで最下層ボスに挑戦しますか?』


(ほう?)


「「「!?」」」


「ちょっと、1パーティーのみってどういうことよ!? 何パーティーでも最下層ボスに挑戦できるの?」


 横でキューブ状の物体とアレンのやり取りを聞いていようとしていたセシルが思わず声を上げてしまう。

 他の皆も同じ思いだ。


 キューブ状の物体は挑戦できるのは1パーティーのみではないと暗に言葉にした。


『最大4パーティー、合計50人まで挑戦出来ます』


 セシルの驚きながらまくし立てた質問にもキューブ状の物体は答えてくれる。


「今は1パーティーしか参加できないということは、4パーティー参加するためには台座に4枚ずつメダルをはめる必要があるということですか?」


『そうです』


(だから、あんなにメダルをはめる窪みが深かったのか)


「他にも質問させてください」


『どうぞ』


「1パーティーで挑戦するのと、4パーティーで挑戦するので、最下層ボスの強さは変わりますか?」


『変わりません』


「最下層ボス討伐報酬は変わりますか?」


『こちらも変わりません。最下層ボスの討伐報酬は何パーティーで挑戦しても4つです。ただし、まだ最下層ボスの攻略がこのダンジョンは果たされていません。ですので、討伐報酬は3つで、残り1つは特別な報酬をご用意しております。初回特典の特別な報酬はダンジョンマスターディグラグニ様との交渉となります』


「初回特典の報酬はこちらで誰が貰えるのか決めていいのですか?」


『もちろんです。報酬についてこちらは関知しませんので好きに決めてください。ただし、最下層ボスの間に行くためのリーダーの設定は必要です。こちらは転移の関係で必要になりますので、あらかじめお決めになってください』


(報酬についてはこちらで任意に決めて良いと。あとは、好きに転移したり出たりすることを防止するためのリーダー設定か。報酬ね)


「ちょっと考えさせてくれ」


 最下層ボスへの挑戦方法は分かった。

 報酬を貰える仕組みについても分かった。

 4パーティーで行けば、4つ討伐報酬を分け合う。

 1パーティーで最下層ボスに挑戦すれば、初回特典の特別な報酬も含めて4つ全ての討伐報酬を総取りにできる。


「もちろんだ。好きに決めてくれていいぞ」


 パーティーリーダーの方針に従うとキールは答える。


 アレンはそう言って、無言でキューブ状の物体と向き合い考え事を始める。


 キールが何か珍しいなと思いながら、アレンの様子を見ている。

 既に答えも持っているのか、普段から即断即決のアレンがどうすべきか考え事をしているからだ。

 

「やはり、この方法がベストか。ソフィー」


「何でしょう?」


「実は頼みごとがあるんだが」


 この時、キールは自分の勘違いに気付く。

 どうやって挑戦するかではなく、挑戦するにはどうすればいいのかアレンは考えていた。

 そして、その目的達成のためにソフィーに頼みごとをした。


「分かりました」


「いや、まだ何も言ってない」


「いいえ、アレン様の頼みは全て聞かせていただきます。それがローゼンヘイムの王女に生まれた私の務めです。私だからできることなのですよね?」


 アレンの頼みに、ソフィーは内容も聞かずに了承するという。


 アレンがソフィーを見ると、一切ふざけた様子の無い真剣な眼差しでアレンを見つめている。


「そうか。じゃあ、お願いするよ」


「ローゼンヘイムはアレン様に救っていただきました。そして今もアレン様と共にあります。どうぞ、何でもおっしゃってください」


 ローゼンヘイムの王女だから聞ける頼みだということは、アレンの様子からソフィーは分かった。

 何でもできるアレンが自分に頼みごとをする。


 それだけで、自分を生んでくれた国すら誇らしく思える。


「じゃあ、こういったことをして欲しいんだが」


 そう言うとアレンは、最下層のボスを攻略するため、ソフィーに頼みごとをするのであった。

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