第141話 学園武術大会①
一週間を経て、学園武術大会が始まった。
武術大会は、各国にある学園都市がしっかり目的を果たし、魔王軍討伐のために才能のある子を育成しているか確認するために行われるようだ。
学園を作り、他国の王族を学長に就任させたから、全て安心だと言うわけにはいかない。各国が牽制しあっている。
各国の来賓が学園に対する厳しい視線を向ける中、大会は進められていく。他国の書記官と思われる者が生徒の戦いを見ながら、何かを記録している。
先日行われた予選で大会参加者は100人ほどから16人に絞られた。
予選が終わり、今日は本戦が9時過ぎに開始された。トーナメント形式なので、4回勝てば優勝だ。その後、優勝者と剣聖ドベルグとの戦いが待っている。
観客席は2手に分かれている。5000人強の生徒の観戦者がその3分の2ほどを占めている。
そして、各国の来賓と、王太子や王国の貴族達が観戦している。明らかに身分の高そうな服を着た人たちがいる。そして、護衛の騎士隊もたくさんいる。
当然来賓や王侯貴族は、本戦のみの観戦だ。
(あいつが王太子か。早めに顔が分かってよかったかもな。10歳の才能のある娘とやらは連れてきていないのか)
アレンは、観戦しながらも鳥Eの召喚獣を空に飛ばし、王侯貴族や来賓の中央に鎮座する王太子を、鷹の目で視認する。
年は40代前半だろうか。前世の海外ドラマで見たようなオールバックに髪をきめたイケメンだ。俳優といっても悪役が似合いそうだなと思う。
配下か大臣か知らないが、それなりの身分の貴族の話を聞きながら、観戦している。
(勝負の方はもうつきそうだな。クレナの相手、結構粘るな)
今、クレナが図体のデカいムキムキな両手剣使いの生徒と決勝戦を行っている。
「クレナはずいぶん成長しているのだな。まだ1年なのに3年生相手に押しているな」
横で鷹の目のような男から話しかけられる。
「はい、グランヴェル子爵」
先週、急遽クレナが学園武術大会に出ることになったのだが、鳥Fの召喚獣を使ってその旨を伝えると「我も向かう」と言ってきた。
話を聞くと、どうやら今後学園にくる予定もあったのだが、王太子がやってくるので不安に思ったのだろう。愛娘の強奪を命令した、張本人である王太子がやってくるのだ。
騎士団長を引き連れ、学園都市にやって来た。
アレンは王侯貴族が座る側からセシルとともに観戦している。当然学園の許可も取ってある。キールやドゴラもいるが子爵がいるのでいつもより大人しい。
『おお!! なんと!! まだ1年生のクレナが優勝候補トリベルガを打ち破りました』
闘技場全体に魔道具と思われるスピーカーの声が響き渡る。
トリベルガと呼ばれたクレナの対戦相手が、武器を投げ出し大の字になって天を仰ぐ。クレナが対戦相手を破って優勝を果たした。
生徒や貴族達からもどよめきが上がる。3年生の優勝候補を1年生が破った。
この世界はステータスがあり、才能により成長の上昇値の違う世界だ。それはここにいる2年生も3年生もこれまでの経験で分かっている。貴族達も知っている。
しかし、これほど差が生まれるものなのか。剣聖はこれほどの者なのかと動揺している。
『それでは、しばし休憩を挟みまして、剣聖ドベルグ様との試合を行いたいと思います』
礼をして2人が闘技台から離れていく。観客は大きな拍手で2人の善戦を称えるようだ。
(ふむふむ。武器は、クレナがヒヒイロカネで、対戦相手はミスリルだったしな。それでいうと対戦相手はスキル使いまくりだったな)
アレンがクレナの優勝について分析をする。
この大会はスキル使用可であったが、クレナが先日ヒヒイロカネの大剣を手に入れたため、対戦相手の身を案じてのスキル不使用である。
武器が変わった時の攻撃力の上昇値はかなり大きい。
(武器を勘案しない強さだとこんな感じかな)
・クレナより担任がやや強い
・優勝候補トリベルガよりクレナはやや強い
「優勝したよ! アレン!!」
「ああ、クレナおめでとう」
クレナが運動会の種目を終えた子供のように真っ直ぐアレン達の元に戻って来る。
子爵も仲間達もクレナの優勝を称える。
(む、王太子がこっちを見ているな)
クレナが仲間達と話す様子を、観客席の高所に設けられた王族専用スペースから王太子が見つめている。そんな王太子を鳥Eの召喚獣の鷹の目が捕捉する。王太子は少しの間クレナ達を見て、視線を変える。
そして、しばしの休憩が終わり、アレン達は闘技台を見つめる。
闘技台の上には、2人の剣聖が立っている。
『それでは、優勝者と剣聖ドベルグ様との試合を行いたいと思います。毎年の優勝者を返り討ちにしてきたドベルグ様の剣捌きが本日も見れるのか!!』
「ふむ、スキルを教えて数ヶ月も経っていないがここまで来たか」
ドベルグがスピーカーの声を無視して、クレナに語り掛ける。既に審判による開始の合図も行われている。
「うん」
「いい仲間を持ったな。大事にするがよい」
「うん!」
それだけ言うと、ドベルグは漆黒に光るアダマンタイトの大剣を振り上げる。それを見て、クレナもヒヒイロカネの大剣を振り上げ構える。
「我は魔獣を狩る者。魔族を屠る者。魔神を滅ぼす者」
「え?」
剣を振り上げ構えたドベルグが何かをつぶやいた。よく聞き取れなかったクレナが何を言ったのかと疑問の声を上げる。
「来い、剣聖クレナよ。貴様の全てをぶつけてこい!!」
「うん!!」
隻眼を見開き、クレナに激励を飛ばす。その掛け声に反応するかのように、一気に速度を上げ、クレナが大剣を掲げたまま突っ込んでいく。
遠慮のない全力で振り下ろされるヒヒイロカネの大剣。しかし、簡単に剣で防がれてしまう。
「何だこれは!? 全力で来いと言ったであろう。我が教えたスキルはどうした!!!」
「ギャフッ!!」
ドベルグが足でクレナの腹を蹴り上げる。バウンドしながら吹き飛ばされる。アレン達もクレナを心配し、身を乗り出してクレナの名を叫ぶ。
そんなクレナはドベルグだけを見る。よそ見できる相手ではない。
クレナはゆっくり立ち上がり、そして大剣を握りしめる。腹を思いっきり強打され、呼吸がしづらそうだ。ゲホゲホといいながら、呼吸を戻そうとする。
「どうした。もう終わりか? こっちから行くぞ! 剣聖クレナよ!!」
初めて、ドベルグから向かっていく。踏み込むときの衝撃で闘技台の床石にヒビが入る。
まだ呼吸が戻らないクレナは応戦するためにスキルを発動し対応するが、ドベルグもスキルを発動し全ていなしていく。
そして10分弱が経過する。
そこには、殆ど無傷の剣聖ドベルグと、全身に怪我を負ったクレナが横たわっている。あまりにも一方的な戦いであった。
救護班が慌てて、全身に出血が見られるクレナを運んで行く。
魔道具のアナウンスも観戦する者達は皆、沈黙してしまった。本来であれば、剣聖ドベルグとの試合はここまでしないのかもしれない。
アレン達は急いでクレナのいる場所に向かう。
クレナは医務室で魔法の治療を受けている。アレンは構わず命の葉を使いクレナを全快させる。
驚きながらも回復魔法をかけていた医療班が、医務室から退席する。
「負けちゃった……」
アレンと目を合わせたクレナが、残念そうに呟いた。
「そうだな。でも、よかったな」
「「「え?」」」
剣聖ドベルグに手も足も出せず、ボコボコにやられてしまったクレナに良かったとアレンは言う。皆から、この戦いの何が良かったんだと、疑問の声が飛び出る。
あまりにも一方的で、全く手が出せなかったクレナとドベルグとの戦いだ。
「クレナ」
「うん」
「力も、スキルも武器も全部ドベルグの方が強かったな」
(あの試合でドベルグは全力すら出していないと考えると、クレナの伸びしろは半端ないぞ)
「うん? そうだね」
全てドベルグの方が強かった。圧倒的な力の差だった。
「少なくともそれくらい強くなれるってことじゃないのか?」
「……そっか、そうだね!」
クレナはアレンがそれだけ言えば分かったようだ。足りないなら補えばよい。クレナもずっとそうしてきた。
負けたことなど、どうでもいいだろうと言う。
「来年の学園武術大会ではドベルグくらい簡単に倒せるようにしないとな」
「うん!!」
来年の10月にある学園武術大会で剣聖ドベルグにリベンジしようと言う。これから1年もあるのでやれることも多い。剣聖ドベルグの強さを知り、クレナに目標が出来た学園武術大会はこうして終わったのであった。
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