第651話 大地の迷宮RTA⑳マグラ戦(3)

 マグラは目を細め迫りくる火球を見つめる。

 上空1キロメートルを切る中、タムタム、ハク、マティルドーラの3体が自らを犠牲にしてでもマグラを倒さんと動きを封じる。


『ふん、貴様らが騒ぐから何かと思えば。焼けただけのただの岩ではないか! グオオオオオオオオオオ!!』


 頭を上げ、凶悪な牙と歯が並ぶ口を大きく開けると、口元で光球が生じ始める。

 周りの光を飲み込むように、小さな玉がどんどん大きくなる。


「させないよ!」


 メルルが操縦するタムタムがとっさに手を口元に差し出した。

 光球を握りつぶさんとするが、タムタムの手が一気に融解を始める。

 タムタムのステータスでも耐えられないほどの超高熱が、光球には込められているようだ。


『ぐむむあ!?』


『炎極殺!!』


 タムタムの片腕を消し炭にしたマグラはブレスを使用する。


 とうとう腕の部分まで溶けるほどの、光球がさらにでかくなったところで、マグラは光球を吐き出す。

 セシルのエクストラスキル「小隕石」は100メートルほどまでに接近を許していたが、これ以上迫ることはなかった。


 マグラが吐き出した光球は10メートルにも満たない大きさだが、火球にぶつかると、表面から融解させながら大岩の中に入っていく。

 大岩の中央まで行ったところで、はじけ飛び、大小に砕かれてしまった。


 大小の岩石もマグラのブレスによって融解し、アレンたちの下に来る頃には、そのほとんどが原型をとどめないほど消し炭となり、蒸発してしまった。


「そんな……。私のエクストラスキルが……」


 セシルは膝からへたり込むほどの衝撃を受ける。

 後から出したブレスによって、簡単に消し飛ばされてしまった。


 魔力や霊力によって形成された岩などの物体は、発動者の知力を超える者でないと破壊できない。

 全魔力を込めたセシルとマグラと力の差は歴然のようだ。


『雑魚どもが! 貴様らもいつまでまとわりついている』


「うわっ!?」


 タムタムの中で操縦するメルルが衝撃を受けたため、思わず悲鳴を上げてしまう。

 マグラが腰を勢いよく捻り、その遠心力でタムタムを吹き飛ばした。


 腹部を大いに損傷したタムタムは、吹き飛ばされた先でエンジンを噴射させ、空中で停止する。


『大丈夫でしょうか。……新たな石板の受け入れを確認。体本体及び右腕部の補修が完了しました』


 ゴーレムの石板、アレンの替えの剣、メルスの天使Bの召喚獣の武器は全て、武器枠で、大地の迷宮では交換し放題だ。


「問題ないよ! ここからだね!」


 大きく損傷したため、メルルは予備の本体用石板(右腕)を魔導キューブに速やかに交換する。

 一瞬にして、融解して消し飛んだタムタムの右腕部は元通りになった。


『アレン殿もシア殿も我を背に!』


『分かっている! ガルル!!』


 特技「絶対防御」を使えるルバンカが一緒に最前面で戦うアレンとシアに助言をする。


 ピコンピコン


 ちらりと見たミニ土偶の目が赤く点滅している。


(ルバンカは今でも自己犠牲にするきらいがあるようだな。だが、そんなことを考えている場合ではないぞ。7分半か)


【99階層・残り0:07:28】


 アレンはグラハンの特技「憑依合体」をした状態で剣を振るいながらも、ミニ土偶に表示された時間は、10分を切ったため秒針も表示されるようになった。

 催促するように光る土偶の目を見て、いよいよ時間がないことを知る。


『ギャウウウ!!』


『貴様、何だそのふざけた力は! 余の神器を奪っただけではないのか!! 調子に乗るなよ』


『ウギャウ!?』


『ハク殿! 阿修羅突!!』


 セシルのエクストラスキル「小隕石」を一息のブレスで容易く消し飛ばしたマグラだが、ハクの力に驚愕している。

 石像の状態から開放されて、力を得てもハクの力強さは異常だと言う。


 そのハクの方に狙いを定めたマグラが、肩にかみつき食い千切らんとする。


 シアを守りながら戦っていたルバンカが覚醒スキル「幻獣化」で上がったステータスで全力で特技を行使する。

 3本の右手の指先を揃えて、背筋に力を込めたルバンカが、ガルムの頬を特技「阿修羅突」で突いた。


『ぐは!? おのれ!!』


『むぐ!!』


 背中が仰け反るほどのダメージを負ったマグラが、返す刀でルバンカに前足を振るい切り裂く。


「オールヒール」

「オールヒール」


 速やかにグレタとイングリッサが、深手を負ったハクとルバンカを完治させる。


(たしかにロザリナやソフィーの力によって、バフは最高の状態だ。回復も間に合っている)


「皆気合い入れろよ!!」


「はい!」

「はい!」

「はい!」


 ガララ提督たちも諦めてはいないようだ。

 パーティーの仲間たちに檄を飛ばし、怪獣映画で出てくる戦闘機のように、遠距離からマグラに必死に攻撃を加える。


『小癪な! 貴様らごときにやられる我ではないわ! 貴様らを倒せば、余はこれで自由の身よ!! 燃え尽きろおおおおおおおお!!!』


『凍てつき大気よ。鉄壁となり我らを守りなりなさい!!』


 パキパキパキ


「イルザ様、すみません」


 氷の大精霊が氷壁を築き、マグラの強烈なブレスを消滅させる。

 大精霊たちも疲労を押して、戦いを続けている。


(おそらくこのまま行けば倒せるだろう。回復も守りも十分間に合っている。マグラはこの感じだと回復の手段を持っていないのだろう。だが、このままでは……)


【99階層・残り0:05:12】


 アレンはミニ土偶を見たら間もなく5分を切ろうとしていた。


 マグラは肉弾戦とブレスを使い、必死にアレンたちと戦う。

 どうも、大地の神と何らかの契約をしているようで、アレンたち大地の迷宮挑戦者に勝利すれば、この場から開放されるようだ。


 1万年という長い間封印されたマグラにとっても大事な戦いのようで、鬼気迫る表情を浮かべ、一切の妥協もなく全力で向かってくる。


 アレンは「簡単に倒せそうにない」「初見は流しが基本」という言葉が漏れそうになる。


「今回は厳しいようです。次回の挑戦でやり直すはいかがでしょう! 無茶な戦いはすべきではないと進言します!!」


 満身創痍のソフィーがアレンに退避を進言する。

 このまま無理な戦いをすれば、仲間たちに犠牲が出るかもしれない。


 守りも固めているが、ほころびが生じ、後衛や耐久力の低いシアが、もろに攻撃を受ければ、即死もありうる。

 蘇生が可能なキールはこの場にはいない。


(そうだな。次挑戦するときは、メルスがこの場にいるかもしれないからな)


 99階層までの攻略方法は分かった。

 命を懸ける瞬間ではないというソフィーの発言は最もなことだ。


「次がある。この走りは捨てても良い。そんな走り方をするものに自己ベストの更新はあり得ない。今を全力で走った者だけが記録を出すことができるのだ」


(そう。俺たちはRTA走者だ。今を塗り替えてこそ自己ベストは生まれる。ゴールは目前)


「え? アレン様、作戦があるということでしょうか……」


 ソフィーは話の半分も理解できず、固まってしまった。

 しかし、アレンの発言の先に何かこの状況を打開できる作戦があるのかと理解が進むが答えが見いだせないようだ。


『皆、最後の作戦です。少しでも可能性を上げたいので出口まで走って下さい!!』


「お? おいおいまじかよ!」


『急いで下さい!! 後衛を先頭に、ゴーレム使いたちは次に!!』


 アレンは鳥Fの召喚獣を使い、大声で叫んだ。

 ガララ提督は理解できなかったが、リーダーのアレンが言うならと、一気に移動を開始する。


『え? 余もか? がるる』


『そうです。ルバンカと共に後退を!!』


 四足歩行でシアとルバンカも、セシルやソフィーも後退を始めた。


『ぬ? 馬鹿なことがあるか! 鍵をもつ余を置いて、……逃がさぬぞ!!』

 

 アレンには鍵がないのに扉を開ける手段など到底なかった。

 マグラは理解できなかったが、これも何らかの作戦だと思った。

 1万年という長い間、ようやくやってきたアレンたちは、この99階層まで攻略してきた。

 ほんのわずかでも攻略されてしまう可能性があるのなら、追わないといけない。


(出口に走らせたのはもう時間がないからだ。この部屋も広すぎるからな)


 アレンたちが出口の竜が彫られた扉に到着する。

 少し遅れてガララ提督たちゴーレムたちが到着し、マティルドーラが到着する。

 最後にハクが扉の下へようやく到着するのではというところでアレンは新たな指示を出す。

 そのアレンはハクを見つめていた。


「アレン様、これはもしかして、ハクさんを……」


 アレンの作戦をソフィーは理解した。


「もう時間がないんだ」


『ギャウ?』


 視線に気付いたハクが首をコテッと曲げた。


『ハク、「|竜の魂(ドラゴンソウル)」を使うんだ。この状況を打開してくれ!!』


『分かった! ギャウ!!』


 アレンの叫びに、ハクはピタッと止まる。


『ぬ? なんだ? 若きドラゴン1体で何が……。どけ!!』


 行く手を阻むハクを押しのけ、アレンたちのいる出口の方へ向かおうとする。

 しかし、そんなマグラの行動は叶わない。


 ハクの体の中には一つの器があった。

 実態のない器だ。

 創造神エルメアが与えし神器だ。

 当然、アレンたちにもハクにもその器を見ることは叶わないだろう。

 その器から漆黒の炎か闘気(オーラ)のようなものがあふれ出した。

 ハクの体の中を、魂を漆黒の闘気(オーラ)を充満し、体の外までにじみ出る。


 純白のハクの体が漆黒の闘気に覆われる。


 メキメキ


 ハクの目が赤く輝いたかと思うと、全身がメキメキと大きくなっていく。

 一気に100メートルに達する巨躯、翼長は300メートルに達し、成長しきった完全な竜へと姿を変えた。


 ハクはこれまで使ってこなかった覚醒スキル「|竜の魂(ドラゴンソウル)」を発動させた。


 マグラと同等の大きさまで巨大になったハクは、凶悪な顔を浮かべ、目の前の敵に向かって大きく爪を振るう。


 ガシャ!!


『ぐあ!? なんだこの威力は!! まるで上位神ではないか!!』


 たった一撃の攻撃でマグラの片腕はもぎ取れ、腹部まで切り裂かれる。

 圧倒的な一撃にマグラは地面に落ちた自らの腕を見て、震えあがってしまう。


「ちょ、ちょっと大丈夫なの?」


「分からない。クレナがいないし……」


・ハクのステータス(竜の魂モード)

 【体 力】 401686

 【魔 力】 320342

 【神 力】 320342

 【攻撃力】 524458+60000(武器)

 【耐久力】 520483+60000(防具)

 【素早さ】 510941

 【知 力】 458818

 【幸 運】 383307

※修正するかもしれない


『き、貴様!? そうか! 竜神ゲフィオン様の魂までの……!? エルメア様は何を考えておいでだ!!』


『グルウウアアアアア!!』


 ハクの言葉でマグラの言葉の全てを持って行く。

 そこには、ドラゴンではあるものの、どこか子犬のようなものはない。

 ノシノシと腕がもげ、出血の激しいマグラにとどめを刺さんと向かっていく。


『炎極殺! 調子に乗るなよ! 消え失せよおおお!!』


『グオオオオオオオオ!!』


 セシルのエクストラスキル「小隕石」を消し飛ばした灼熱の炎を、近距離からハクへぶつける。

 しかし、ハクはマグラから遅れた状態で炎を吐いた。


 2体のドラゴンの吐いた炎がぶつかると、ハクの炎はあっという間にマグラの炎を飲み込み進んでいく。


『ぐは!?』


 鱗は焦げ、皮膚は燃え盛り、全身を大きく焼く。


『ぐるる!!』


『ま、待つのだ!? ぐわぁ!!』


 グチャッ


 悶絶するマグラが見たのは目の前で大きく口を開けたハクであった。

 ハクはマグラの首元をかみつくとおもむろに食いちぎったのであった。

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