第243話 ケンピー
岩山に魔獣が潜んでいることが分かったので、アレンたちは魔獣のいる岩山を目指して移動をし続けた。
岩山はいわゆる魔獣の湧きポイントというやつなのだろう。
霊Bの召喚獣だけだと効率が悪いので、魔力増加用に魔導書のホルダーに大量にある魚Bの召喚獣も砂の中を泳がせて岩山に向かわせた。
砂の中を泳がせて分かったが、砂の中にはかなりの数の魔獣がいる。
Bランクの魔獣なら、耐久力がかなり高いアーケロンの姿をした魚Bの召喚獣の敵ではないが、3階層にはAランクの魔獣が階層ボス以外にもいて、そういう敵だとさすがにダメージを食らってしまう。
魔獣がいたら逃げつつ死なないように岩山を探させて、魚Bの体力が減ったら、魔獣の岩山でキールの回復魔法の範囲内に召喚し、体力を全快にさせた。
こういったこつこつとした取組みが無用な魔石の消耗を抑えてくれることをアレンは知っている。
午前中いっぱいかけて、岩山の魔獣狩りをし、宝箱も発見することができた。
やはり、岩山の中に宝箱があった。
魔獣狩りについては、階層ボスは岩山の中にいたりいなかったりするようだ。
結果午前中の戦果として
・アイアンメダル3枚
・ヒヒイロカネの兜と剣
この成果に加えてAランクとBランクの魔石も手に入れることができた。
「ここなら十分にレベル上げが出来そうだな」
「そうね。もう一度転職するまで、ここでって感じかしら?」
「そうだな。ここならあと1月あれば全員一度カンストできそうかな。午後からも魔獣と石板探しだ」
宝箱からは石板が見つかると聞いていたのだが、武器や防具ばかりであった。
午後からも石板集めに勤しむ予定だ。
「ご、ごめんね。僕のために」
メルルが元気なさそうに言った。
(お? 急に元気がなくなったな)
メルルにはゴーレムの石板が全て揃うまで、大盾を持たせてセシルやソフィーの警護を任せている。
ゴーレムの強さを知っているメルルは、最初は自信にあふれていたが、1度転職をして学園にいた頃よりも仲間たちが明らかに強くなったこともあり、戦いの中での自らの役割に申し訳なく思い始めようだ。
結局午前中いっぱいかけて、4つのメダルと2つの宝箱を手に入れたが、石板は出てこなかった。石板は出るという話なので時間の問題だと思っているが、メルルとしては不安のようだ。
「まあ、いいんじゃないのか。ゴーレムが揃うのに何ヶ月もかかるというわけではなさそうだしな」
(半日で宝箱2個ゲットしたし。時間の問題だろう)
「でも……」
「メルルの力は多分単純な力では測れない可能性に満ちていると思うぞ。それにタンクとしても有用そうなのは、他のゴーレムを見たら明らかだし」
この砂漠地帯で活躍するゴーレムをアレンも仲間たちも見ているので、皆そうだよとメルルに伝える。
「うん」
何となくメルルも納得してくれたようだ。
「それにしても、アレンってタンクに拘るわね」
「む? そんなことないぞ。ちょっと詳しいだけだ」
アレンは条件反射で否定をする。
「そう言われたら、そうですわね」
セシルの言葉にソフィーも同意するようだ。
「何でタンクに」という視線がアレンに集まる。
「む~。まあ、隠すことじゃないけど、俺は前世でタンクをしていたんだ」
「へ~。そうなんだ。だから詳しいのね」
セシルはタンクという役割の重要性について熱く語るアレンを思い出す。
仲間たちもそうだったのかと意外そうだ。
召喚士としてのアレンを見てきたので、召喚士かそれに近い職業であったのかなと思っていた。
(まあ、タンクをしたかったわけではないんだけど。これは言う必要はないか)
「そうだ。だからメルル。俺は召喚士を自ら選んだが、職業なんてやってみないと分かんないし。どんな職業でもやっていると楽しくなってくるもんだぞ。長年やっていれば愛着も湧くし」
この世界での召喚士は思っていたのと違ったが、これはこれで楽しいと心から思っている。だからメルルも今は不遇かもしれないが気にするなと言う。
「そうなんだ」
「なんか説得力があるわね。経験談ってやつね」
アレンが前世で健一だった頃、初めてやったネットゲームでタンクの役割の職業を選んだ。
いくつもの職業があったのだが、見た目が強そうだという理由で選んだ職業がタンクであった。
タンクを選んだのではなく、選んだ職業がタンクだった。
ネットゲームが初めてだったので、健一の中で「タンク」という概念がなかった。
他の前衛職に比べて、攻撃力が低く耐久力があり、味方を守るスキルがあるなと思っていた。
そういう役割のタンクというポジションがあるのを知ったのはプレイを始めて1年以上経ってからだった。
タンクとしての役割をネットゲームのサービスが終了するまで全うしたと思っている。
タンクをメインでしたのは、最初にやったネットゲームが最初で最後であった。
(だから、この世界にいると言っても過言ではないけどな)
アレンがここにいるのは、その頃の思い出を大事にしているからだ。
そのころ夢中になったネットゲームの思い出が強かったことが、その後のゲーム人生や価値観を決めてしまった。
そしてその結果、やり込みたくてこの世界に来てしまった。
「でも、タンクってアレン様のお話では『役割』ですわよね? 職業は別にあるのかしら」
(む?)
「……そうだな」
アレンは歯切れ悪く言った。
「え? 何よそれ?」
ソフィーの気付きに対するアレンの反応にセシルはかつてないほど違和感を覚える。
明らかに何かを隠している。
「いや、何がだよ?」
「ちゃんと言いなさいよ。職業は何よ?」
食事をしていたセシルが体をにじり寄せ詰めてくる。
「アレンは何していたの?」
アレンへのセシルの問い詰めにクレナも参戦する。
「そりゃ、冒険だろ」
(大冒険の他に何がある)
「ひ!? なんで! い、痛い。いやまじで!」
(り、理不尽だ!)
クレナの問いにアレンがボケたので、セシルからアイアンクローという名の制裁を食らう。
「言う?」
「えっと、鎧を着て、武器は槍や剣。盾も装備していました」
(懐かしきケンピーの思い出が蘇ってくる)
アレンは最初のネットゲームは『ケンピー』という名でプレイをしていた。
学生のころ初めてやったネットゲームで、カッコいい名前が思いつかなかったから自らの名前をもじって付けたのだが、これも長いこと遊んでいたら愛着が湧いたことを思い出す。
「おお!! カッコいい?」
アレンの前世を想像してクレナがどんな感じだったかさらに問う。
アレンは状況を変えたいがどんどん逃げ場が無くなっていく。
「うんうん。すごくカッコいいぞ」
「でも、それは装備であって、職業じゃないような……」
(おい、ソフィー。お前だけは俺の味方じゃないのか。って)
ソフィーもアレンの前世の職業がどうしても気になるようだ。
セシルに掴まって大変そうねという優しい感じが微塵もしない。
どうやらアレンの味方はここにはいないようだ。
「ちょ!? 痛いって!!」
「言うわよね?」
「は、はい。実は『聖騎士』という職業をしていました」
(装備も職業名もカッコいい職業だなと思って選びました)
聖騎士ケンピー誕生の瞬間だ。
初めてやったネットゲームが配信終了になりその後やったいくつものネットゲームを見たら、聖騎士のような重装備の職業は大体タンクであった。
単に当時の健一が無知であっただけだった。
「き、騎士!? アレンは騎士だったの! すごい!!」
「おい、騎士だと!? な、なぜ黙っていた!!」
その言葉にクレナとドゴラが立ち上がり強く反応する。
(ほら、だから言いたくなかったんだよ。クレナとドゴラが反応するし。これは誤解を解かねば)
2人がどれだけ騎士に憧れているか騎士ごっこをしていたころから知っている。
だから学園にいる頃、前世の記憶があり前世でもいくつもの職業をやって来た経験があると言ったが、聖騎士という『騎士』の単語のある職業をしていたことは隠していた。
「ご、誤解をしないでくれ。単に職業であって。名前も騎士とついているが身分とかは平民と一緒だ」
(俺サラリーマンだったし)
「んなわけないだろ!!」
ここにきて「またいつものセシルに絞られか」と静観していたドゴラが、かつてないほどのツッコミを発動する。
14年生きた彼の人生で一番のツッコミかもしれない。
「ん? キューブか? キューブだ!!」
休憩中も探し続けている召喚獣が、洞穴の奥で浮くキューブ状の物体を発見する。
(お、昨日ヘルミオスに聞いた通りだな)
「おい、何言っている?」
「いや、岩山の洞穴にキューブが出たぞ。皆もう休憩をしたな。いくぞ」
「お、おい。話はまだ終わっていないぞ! 騎士のこともっと聞かせろよ。っていうか、なんで黙っていた!!」
ドゴラの声を背にして、アレンは鳥Bの召喚獣を召喚し、皆の疑問の顔をはぐらかすように出発を促すのであった。
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