第65話 買い物

 半年ほど過ぎた9月の下旬。今日はアレンの休日だ。


 いつもだったらグランヴェルの街の近くを走っているのだが、今日は街の中にいる。今日は10か月ほどかけて貯めたお金で買い物をすると決めた日だ。


 4月の終わり、執事から執事室に呼ばれた。話はマッシュの鑑定の儀の結果についてだった。

 マッシュには槍使いの才能があったという話だった。


 カルネル子爵は自分の子供に才能がないと喜んでいたが、アレンはそれを聞いてとてもうれしかった。


 また、アレンがグランヴェルの街で元気でやっていることも、使者を通して伝えたと言われた。執事に深くお礼を言ったのであった。


 街を歩くアレンだ。


「やや! これはこれは」


(ん?)


「あ、こんにちは」


 どこかで見たことある顔に、街中で声をかけられる。


「あの時はありがとうございました」


「いえいえ、無事でよかったです」


 以前、街の外で助けてあげた商人のようだ。深々と頭を下げられる。大の大人が、少年に頭を下げるので行き交う人の注目を集めてしまう。


 狩猟番になってから、この商人のように何人かの商人や旅人を救ってきた。冬はそこまで活動的ではない冒険者も春になると活動が活発になる。そんな冒険者も何人か救ってきた。

 月に1回程度のペースだが、鳥Eの召喚獣が索敵中、救援を求めてくる。

 狩猟番の仕事でもあるので積極的に救援を行う。命の草も必要なら、葉っぱの部分を握りしめて使っている。Eランクの魔石を5個消費してしまうが、特にもったいないとは思っていない。


「お~、いたいた。アレン」


 街で商人からお礼を言われていると声が掛かる。


 剣を腰に掛けた冒険者だ。横には2人の女性冒険者もいる。


「あ、レイブンさん。こんにちは。リタさんもミルシーさんもこんにちは」


「うし、先に飯だな」


「はい」


 時刻は昼前だ。飯に誘われてついていく。大通りに面したレストランに4人で入る。


(そういえば、街で飲食店に入るの初めてかもな)


 従僕の仕事と狩りに明け暮れたため、それ以外のことはほとんどしていない。街で遊んだことは一度もない。もう街に来て1年近くになるが、利用したこともない店、行ったこともない場所はとても多い。


「ほれ、まだ集めてんだろ?」


 料理を待っていると、レイブンから小袋を渡される。


「え? いいんですか?」


「当たりまえだ」


 袋を開けてみる。中にはEランクの魔石が100個ほどある。毎回きっちり100個くれるので、きっと今回も100個なんだろう。これで500個目だ。お陰でEランクの魔石もかなり増えてきた。魔石を麻袋にしまう。


 レイブンにも、少し前にグランヴェル家の者ということがバレた。どうやってかバレてしまった。冒険者も何人か助けているので、その辺りから伝わったのだろう。


 知られてからも、今日のように用事があると会っている。


「それで、なんで呼んだんだ?」


 まだ用件は伝えていない。レイブンが泊まっている宿屋に行ったらいなかったため、宿屋の受付に伝言をお願いし、今日、街の中心の広場に来てほしいと伝えてもらったのだ。


「実は、もう少し街から離れた場所で狩りをしようと思いまして。Cランクの魔獣の特徴などを教えてほしいです。あと一度に現れる魔獣の数などを」


「「「!」」」


 レイブンたち3人が驚いている。料理が運ばれてくる。銀貨数枚しそうな美味しい肉料理だ。


「お前、分かっているのか? Cランクの冒険者でも、運が悪ければ死ぬことがあるんだぞ」


「そうですね。だから、魔獣の情報が欲しいと思って教えていただきたいです」


 以前会ったときに教えてもらったのだが冒険者にはランクがある。魔獣と同じEランクから始まり、Sランクまであるとのことだ。同ランクの魔獣は基本的に倒すのに苦労する。運が悪ければ死ぬこともあるという。


 8歳でまだ冒険者にはなれないアレンであるが、もし従僕を辞めたら次は冒険者かなと考えている。急いで必要な情報ではないが、念のために話を聞いておく。


 レイブンたちの冒険者ランクもCランクとのことだ。怪我を負った去年の12月、レイブンたちはCランクの魔獣である鎧アリに襲われたそうだ。群れを成すこともあるのでかなり危ないという話だ。


 アレンは狩場をDランクからCランクの魔獣に変更することを決めた。


理由としては

・ゴブリンが激減したこと

・レベルが上がり、ゴブリンではなかなかレベルが上がりづらくなったこと

・来月9歳になり、ステータス抑制が少し解放されること(元ステータスの0.8倍から0.9倍)

・Eランクの魔石は貰ったり狩ったりしてストックがあり、狩場を変えて狩る量が多少減っても余裕があること

・強化のレベルが4から5に上がったこと


 少し前に、騎士団長がグランヴェル男爵に、この半年でゴブリンによる民の被害が半減したと晩餐の際報告しているのを聞いた。


 街と白竜山脈の間にだけゴブリンがいるわけではない。もしかして他の原因もあるかもしれないが、アレンは9ヶ月で1万体を超えるゴブリンを狩っている。


 最近、ゴブリンの発見に時間がかかるようになってきた。魔石も貯まったことだし、次のランクに挑戦してみるかということだ。


 レストランで食事をしながら、Cランクの魔獣について魔導書にメモしながら聞いていく。


 食事が終わったので、買い物だ。身を守るため、9ヶ月目にして防具を買いに行く。


「いらっしゃい」


 レイブンにもお勧めを聞きたいので、4人で店に入る。子連れだなと店主から見られるが、気にせず物色をしていく。


「どんなのがいいんだ?」


「そうですね、移動に支障が出ないようなのがいいです」


 そういえば、初めて会ったときも走って居なくなったとレイブンは思う。


「じゃあ、鎧ではないほうがいいな。軽くて丈夫な服だと」


 レイブンが相談に乗っている中…


「アレン君だと、こういうのいいんじゃないのかな? ねえミルシー?」


「う、うん」


 リタが短パンを持ってくる。アレンの方に合わせて、服のサイズを確認する。何か甥っ子の服を選ぶ姉ちゃんのような気がする。


(ふむ、冬でも短パンの幼稚園か小学校の制服みたいだな)


「これはおいくらくらいでしょうか?」


 見た目より性能を重視する。むしろ性能しか見ない。


 アレンは健一だったころ、装備に求めていたのは防御力だ。ゲームによっては各種耐性のようなものがある。魔法に耐性とか、デバフへの耐性とかそういうものだ。防御力や耐性以外に防具に何かを求めたことがない。見た目を気にしたことがない。特にオンラインゲームでは、装備をデコレーションするサービスがよくあったが、利用したことは当然ない。


 もしも着ぐるみが最強の装備なら躊躇わず着ることができる。


 今後も移動をしながらの狩りを続ける予定なので、機動性も重要だ。防御力よりも重要だと考えている。防御力より大事なのは経験値効率だ。


「えっと、これは金貨2枚かな」


「これと同じように鎧ではない装備で、金貨5枚前後で考えています」


 装備に半分以上のお金を使う予定だ。


「ひゅーおっ金もちー」


「だったら、この辺だな」


・デススパイダーのマント金貨5枚

 色は薄茶色 ブレス耐性小、各種耐性向上中


・ホワイトバットのフード金貨6枚

 色は白 ブレス耐性中


(ほうほう、お値段的にこのあたりか)


「ブレスって確かCランクの魔獣は使ってこないですよね」


「まあ、そうだな。白竜山脈に行く途中の魔獣にはいないな。寒さ対策や、野営を考えるとマントのほうがいいんじゃないのか?」


 レイブンが的確にアドバイスをしてくれる。耐性どうこうよりマントのほうがいいとのことだ。値段が高いほうが防御力は高いと思うが、確かに機能性も大事かとアドバイスに従う。


「じゃあ、こっちのマントにします」


 こうして、Cランクの魔獣を倒すための準備が整っていくのであった。

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