第553話 創生

 アレンがミュラたちのダンジョン攻略を手伝い始めて3日が過ぎた晩のことだ。

 アレンとセシルは神界の冒険を中断して、実家のロダン村に帰っている。


(さて、そろそろ検証は概ね終わったし、神界攻略に戻るかな)


 家族団らんで食卓を囲んでいる。

 ついでにセシルとダンジョン攻略を手伝ったライバックたち3人もいる。

 お呼ばれさんのように隅に静かに固まって座っている。


「はい、アレンの分よ」


「ありがとう、母さん」


 この世界にきて何百回、何千回と食べた母手作りのスープだ。

 スープを渡され、木のスプーンで口に運ぶ。

 食材は昔より良くなったが、変わらずの美味しさを感じる。

 母のテレシアは村長の嫁となり、祖母たちも手伝っているものの、今でも家事はもっぱら母が行っている。

 1000人を超えるロダン村には、商店組合や農業組合などいくつかの寄合がある。

 祖父母たちはそれぞれの寄り合いに顔を出し、話をするなど、ロダンの村長運営を手伝っているらしい。

 まだ若いロダンよりも祖父たちの方が、話が通りやすいこともあり、手伝ってくれて助かっているとか、そんな話もダンジョン攻略の合間に聞けた。


「ダンジョンはもう終わりなの?」


 アレンが村の運営や、実家の近況について思い出しているとミュラが隣から話しかけてくる。

 手が動かしづらい程接近しており、アレンに対してベタ甘えだ。


「ああ、そうだ」


「え~つまんない~」


 アレンの答えに裏切られたかのように、ミュラは不満顔に変わった。


 今回、5つのA級ダンジョンの攻略が終わり、ミュラ、ロダン、ゲルダはS級ダンジョンまで行けるようになった。

 さらに転職ダンジョンの攻略まで終え、3人とも転職が終わった。


【転職結果及び現在のレベル】

・ミュラは僧侶★⇒聖者★★ レベル60

・ロダンは才能無⇒槍使い★ レベル60

・ゲルダは才能無⇒斧使い★ レベル60


 ミュラは上位の才能に転職し、ボア狩りをしていたロダンとゲルダはなんとなくイメージ通りの才能を得ることができた。

 これは久々に創造神エルメアに感謝しないといけないかもしれない。

 既に転職後にS級ダンジョンに連れて行って、本日レベル60にカンストまでさせている。


「スキルレベルが上がって、転職ダンジョン改にいくようになれば、また手伝うよ」


「ぶーぶー」


 ミュラは不満らしいが、アレンはロダンやテレシアを見るが困った顔をしたまま返事がない。

 今まではマッシュが面倒を見てくれていた。

 マッシュがいなくなった後は、マッシュの1つ年下のクレナの妹のリリィがミュラの面倒を見てくれていたようだ。


 マッシュとリリィは、今は学園に通っている。

 槍使いの才能があるマッシュは今年2年生で、拳士の才能があるリリィは1年生になった。


(マッシュとリリィか。学園で合流しているんだよな)


 アレンは5大陸同盟で助言する立場にあり、Sランク冒険者として冒険者ギルドで口頭だけの指示で登録している冒険者の情報を開示させることができる立場にある。


 マッシュとリリィは一緒に家を借りて学園生活を満喫しているようだ。

 マッシュとリリィと同じ教室の生徒も何人かいるらしい。


 アレンはロダンとテレシアをゆっくり見るが、既に心を読んでかこれから話す内容に反対はしないようだ。

 少し悲しい顔をして、アレンからミュラに視線を移した。


「マッシュのところに行くか? リリィもそこにいるようだし」


 流石にアレンたちの冒険には参加させられないが、ミュラがここにいても退屈なのは3日一緒にいてよく分かっている。

 魔獣の怖さよりも、何を見るのも新鮮で、村から解き放たれた興奮を前面に出していた。


「え? マッシュお兄ちゃんの? 行く!!」


 キョトンとするミュラがアレンの言葉に理解が追いつく様子に、ロダンとテレシアは一緒にため息をついた。

 ロダンもこの状況を理解しているようで、なんとなく活発なミュラにこの村は狭いのかもしれない。

 マッシュとリリィと一緒に社会性を学んでほしいと思うようだ。


(随分デカく開拓したんだがな)


 理解を示すロダンと違い、テレシアは悲しい顔をしている。

 これで子供たち3人とも全員家元を離れることになる。

 こうして、学園にいるマッシュに連絡をとって、ミュラの受け入れについて話をしようと思う。


「……いい家族だな。こんな未来もあったのか」


 ここまで黙々と食事に手を付けていたアレン軍のライバック将軍が口を開いた。


「そうですね。自慢の家族です。……ライバックさんは、帰る故郷はないのですか?」


 会話に参加してきたので、一瞬迷ったが話を振ることにする。

 この世界で星3つの才能の盾聖であったライバックの生まれはそこまで良くないことは想像が容易い。

 星3つのドベルグも農奴の出身だ。


「……家が貧しくてな。食事に手が掛かり始めたころ、先王様が運営する孤児院で生活することになった。先王様こそ我が父だ」


 ライバックが故郷の話を聞かれた時に用意している回答のようで、詳しい経緯までは話さないようだ。


「そうですか。では、何としても守らないといけないですね」


「そのとおりだ」


(なるほど、だから給金をラターシュ王国の王都にある孤児院に毎月寄付しているのか)


 金の使い方でも人間性が分かるとアレンは考えている。


 配下で部下のライバックの王家への忠誠心の理由を垣間見た瞬間だ。

 特に最後にアレン軍に入ったライバックについては調査した。

 インブエル現国王が何か悪だくみをしている可能性もあった。

 しかし、実直を地でいくライバックを、今では信頼をしている。


 こんな話ができたこともあり、ライバックを連れてきてよかったと思う。


 村の夜は早く、広場には誰もいない。

 アレンはセシルと共に、夜遅くまで創生スキルの検証を行う。


『コケコケッ』


「ふむ、やはり、卵を産む以外の効果があったか」


(これは俺の中の記憶をイメージにして召喚獣の設定をしたのか)


 既にいくつかの召喚獣が創生できるようになり、最初に分析をした鳥Hの召喚獣の分析が御座なりになっていた。

 虫Hも獣Hもあっという間に100体の軍隊を作れるのに、鳥Hは1日1個しか卵が産めなかった。


 別の効果があるのではと卵を回復薬のように使用してみたら、全ステータスが3000上昇した。


『アレン、今日も検証するの?』


『ギャウ?』


 アレンの横にはセシルの他に、クレナとハクの姿をした者がいる。


「そうだ。お前たちの特性もしっかり分析しないとな」


 この3日間で検証を済ませた、創生スキルと鳥Hの召喚獣について以下のようになった。


【創生スキル、創生した召喚獣】

・使用には霊力が必要

・創生した召喚獣は、共有、強化、成長などのスキルを使用可能

・スキルレベル1でHランクの召喚獣が創生できる

・スキルレベル2でGランクの召喚獣が創生できる

・スキルレベル3でFランクの召喚獣が創生できる

・スキルレベルは消費した霊力でスキル経験値が貯まっていく

・スキルレベル2に必要なスキル経験値は1万

・スキルレベル3に必要なスキル経験値は10万

・スキルレベル4に必要なスキル経験値は100万

・創生した召喚獣は霊力をもち、神界でないと自然回復しない

・鳥Hの召喚獣は、虫Hと獣Hの召喚獣、霊石1個、霊力1000必要

・草Gの召喚獣は、虫Gと鳥Gの召喚獣、霊石2個、霊力2000必要

・石Fの召喚獣は、鳥Fと草Fの召喚獣、霊石5個、霊力5000必要


(霊石は生成と違って10倍ずつ増えていかないのは、地上の魔獣ほど数がいないからか。霊力の必要量もそうだが、絶妙なバランスを感じるな。地上で魔力を回復させるか、神界で霊力を回復させるか、選択させるのもゲーム感半端ないな)


 霊獣を倒すと1体あたり1個から5個の霊石を落とす。

 片方を選択すれば、もう片方が成立しない感じは、取捨選択をプレイヤーに選ばせるゲーム感が強い気がする。


【鳥Hの召喚獣】

・白い羽毛に赤いトサカのある鶏の姿をしている

・体長は30センチメートルで空は飛べない

・特技「朝の目覚め」は半径1キロメートルの寝ている対象を目覚めさせる

・特技「朝の目覚め」にクールタイムはない

・覚醒スキル「黄金の卵」は1つの卵を産み、ステータスが半分の「ヒヨコ」を誕生させる

・覚醒スキル「黄金の卵」で生まれたヒヨコは1日で鳥Hの召喚獣と同じ姿になる

・鳥Hの召喚獣と同じ姿になったヒヨコは覚醒スキル「黄金の卵」を使用可能

・ヒヨコは親鳥の鳥Hの召喚獣を削除すると全て消える

・黄金の卵を使用すると全ステータスが3000上昇、効果は1時間

・覚醒スキル「黄金の卵」のクールタイムは1日


(黄金の卵は1日1個って絶妙なバランスだな)


 前世の童話で、金の卵を産む鶏の話を思い出す。

 鶏は金の卵を毎朝産むのだが、欲深い夫婦が1日1個しか産まない鶏の腹を裂いて殺してしまうみたいな話があった。

 結果、鶏が死んで金の卵を産めなくなってしまったみたいな人の欲望の哀れさについて説いていたような気がする。


 ヒヨコにして数を増やすのか、黄金の卵を使用してステータスを上げるのか考えないといけない。


 3日で創生のスキルレベルを3まで上げて、召還できる召喚獣が増えた。


 【種 類】 草

 【ランク】 G

 【名 前】 キントン

 【体 力】 8

 【霊 力】 4

 【攻撃力】 5

 【耐久力】 8

 【素早さ】 10

 【知 力】 10

 【幸 運】 8

 【加 護】 魔力2、幸運2

 【特 技】 秋の味覚

 【覚 醒】 旬の味覚


 【種 類】 石

 【ランク】 F

 【名 前】 ネバー

 【体 力】 20

 【霊 力】 14

 【攻撃力】 15

 【耐久力】 20

 【素早さ】 10

 【知 力】 13

 【幸 運】 10

 【加 護】 体力5、耐久力5

 【特 技】 ねばる

 【覚 醒】 マネマネ


【草Gの召喚獣】

・栗に手足の生えた姿をしている

・体長は10センチメートルで会話はできない

・特技「秋の味覚」は半径1キロメートルの範囲で霊力1000回復

・覚醒スキル「旬の味覚」は半径1キロメートルの範囲で霊力が秒間100回復する

・覚醒スキル「旬の味覚」の効果は1時間

・覚醒スキル「旬の味覚」のクールタイムは、一度スキルを発動すると元には戻れないため、ない

・覚醒スキル「旬の味覚」は地上では発動しない

・特技や覚醒スキルを発動すると、栗の実の状態になり元には戻れなくなる


【石Fの召喚獣】

・ドロドロのヘドロに手と顔がある姿

・体長は1メートルで会話は泥状態だと「ネバネバ」しか言わない

・特技「ねばる」は敵の攻撃を受け、分裂した自らの体を元に戻すことができる

・特技「ねばる」にクールタイムはない

・覚醒スキル「マネマネ」は、①アレンが名前が分かり、②アレンが姿を見たことのある条件を満たした対象1体の装備品を含めた姿、ステータス、声色等のマネをする

 ステータスに武器・防具・魔法具・魔法によるバフ効果は入らない。

・スキルをマネするためには、①スキル名が分かり、②アレンがスキルをみたことがあるものに限られる

・全長15メートルのハクのマネもできる

・発動時間は1ヵ月、クールタイムは1日


「なんか色々できるわね」


(だが、敵のスキルをマネするのは難しいか。鑑定眼だとスキル名は表示されないし)


 セシルはアレンが記録する魔導書を覗きながら感想を漏らす。

 魔導書は若干光っており、闇夜でも読むことに困らない仕様だ。


「ああ、特技と覚醒スキルの特性が違うことも生成スキルで召喚した召喚獣との違いか」


 生成スキルで召喚した召喚獣は特技の上位互換が覚醒スキルなことが多かった。

 例えば、天の恵みと地の恵みだと、天の恵みしか使い道はない。

 今回、創生スキルで召喚できるようになった召喚獣たちは、特技と覚醒スキルは効果が分かれていて、両方に使い道があるように感じる。


『ほおお!』


 アレンの言葉にクレナの姿で、行動をマネをした。

 創生スキルを手に入れていないにも関わらず、この行動はアレンの記憶を共有しているようだ。

 相槌を打っているつもりだが、どこかわざとらしさがある。


「ふむ、知り合いレベルだと違和感があるのか。キュベルの姿をして魔王軍に潜入しようと思ったんだが」


『ふうううむ!』


 石Fの召喚獣はクレナの姿で腕を組み唸っており、わざとらしさに磨きがかかる。

 アレンが共有で指示をして、ほぼ無言だとバレないが、前世の記憶でお互いの愛称が違って、敵陣内でバレてしまうなんてオチをよく見た気がする。


(ミストと呼んではいけないな)


「とりあえず、今は他の召喚獣を開放するためにも神界に戻ろう」


 ロダン村でやるべきこともやったし、神界で霊力を回復させながら、創生のスキルレベルを上げたいと言う。

 

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