第404話 属性②
「アイアンゴーレムは一度倒して復活すると土属性に戻ります。属性付与はスキルレベルを上げてほしいので、掛け続けるよう指示を出してください」
キールは勇者軍を統括するヘルミオスに戦闘方法についてお願いをする。
「分かったよ。魔力が直ぐに尽きないようにしないといけないね」
アレン軍の方ではドゴラの魔力消費に合わせて魔力を回復させると言っていた。
また、ヘルミオスの魔力回復リングを3か月前に5大陸同盟で借りている。
魔力回復リングはドゴラに装備させている。
クレナに渡したルバンカの聖珠も、現在はドゴラが装備している。
ドゴラのスキルレベルを上げることをアレンは重要視している。
ドゴラが魔力を必要と判断したタイミングで、付与使いや、そのほかのアレン軍や勇者軍は魔力を回復させてほしいと朝の会議で伝えてある。
「なんだか、形になっていきますね」
ロホメット含めて、付与使いたちの動きは良くなっていくようだ。
結構ざっくりとした説明で動きがそこまで悪くないので、チームリーダーを任せられたキールはホッとする。
「うんうん。作戦としてはそこまで難しくないからね。ちなみに、アレン君は何でこんなことを思いついたのかな」
ヘルミオスは何故こんな作戦を思いついたのか、アレンの考えが知りたいようだ。
「それは確か、邪神教との戦いが影響しているようですよ」
「邪神教?」
アレンが属性に拘り始めたのはいくつか理由がある。
今までアレンの召喚獣には攻撃属性を変更する選択肢がなかった。
セシルやソフィーに攻撃魔法や精霊魔法の属性をしっかり判断するようにという程度だ。
そんな中、メルスが召喚獣に加わったことにより戦いの戦術の幅が広がった。
そして、ドゴラが火属性の神器カグツチを持つようになった。
ドゴラとメルルが戦う中、キールが付与使いの構想の発端について語る。
始まりは、エルマール教国で救難信号を受け、邪神教の教祖グシャラと戦った時のことだった。
仲間たちが色々な手段で攻撃属性を持つ中、圧倒的耐久属性を持つ者がアレンたちの前に現れた。
それが邪神教の教祖グシャラであった。
アレンは、漆黒の炎に包まれた邪神教の教祖グシャラがなぜあんなに攻撃が通じにくかったのか分析と考察を続けてきた。
多くの命を集めたためだとか、上位魔神のグシャラの知力や耐久力が高く、攻撃魔法に強い耐性をもっていたとか色々ある中で、攻撃がほとんど通らなかったのは属性が原因ではという考えに行きついた。
アレンの分析にメルスは、恐らくそれが原因だろうと言う。
この世界は属性という概念があり、攻撃には攻撃属性が、守りの面では耐久属性がある。
攻撃属性が何なのか、耐久属性が何なのかによって、ダメージの比率が上がるということは、学園でも学習するほど、この世界でも一般的な考えだ。
4大神と呼ばれる4柱の神も4つの火、水、風、土の属性を支えている。
攻撃属性が火で、耐久属性が風なら、敵に大きなダメージを与えることができる。
逆に、攻撃属性が風で、耐久属性が火ならダメージは小さくなる。
そして、世界の属性には格があり、全てが横並びではない。
・唯一の属性がない属性、無属性
・基本属性(最下位属性)は火、土、風、水
・派生属性(下位属性)は、木、氷など
・中位属性は、時空、雷など
・上位属性は、光、闇など
・最上位属性は、神聖と暗黒
より上位のものは下位の属性に対して優位に効果を発揮する。
耐久属性が上位属性の光や闇なら、攻撃属性が基本属性(最下位属性)はあまりダメージが通らないだろう。
なお、この最下位属性を基本属性とも呼ばれているが、基本属性と呼ぶのは火の神フレイヤの命令だ。
属性について語るアレンの話を聞いたドゴラが、「何だよ。火の神フレイヤって最下位なのかよ」と言った瞬間に、火の神フレイヤが神器カグツチから降臨し、ドゴラをボコボコにしてみせた。
属性に優劣があるが、神に優劣はないという話であったが、ボコボコにされ、地べたに転がるドゴラにどこまでその話が聞こえたのか分からない。
そして漆黒の炎に身を纏う邪神教の教祖グシャラの耐久属性は何なのか。
それは『暗黒属性』であると言う。
精霊王の祝福により4万に達したセシルの攻撃魔法でもほとんど邪神教教祖グシャラにダメージが与えられず、少し削れた体力も骸骨教皇に癒されてしまう。
この世界で最も上位に属する属性の「暗黒属性」を纏った教祖グシャラにアレンたちは苦戦を強いられた。
「あ、ああ、暗黒属性か。さすがに属性変更できないんじゃない?」
なるほどとヘルミオスは理解する。
最初は邪神教の教祖グシャラがなぜ攻撃が通じないから話は始まっていたようだ。
そこから、属性に対する知識と魔王軍との対抗策にまで発展させた。
何か凝り性のようなものをアレンは持っている。
魔神レーゼルと戦った時の作戦も、一発勝負の状況でかなり綿密に作戦を立てたことを覚えている。
空中でも発動できるのか、エクストラスキルを外すともう一回使えるのかなど、当たり前のこと、ありえないことまであれこれ聞かれたことをヘルミオスは思い出す。
それだけ、試行錯誤をしたであろうアレンなら知っているはずのことがある。
それは付与使いが変更できる属性には限界があるということだ。
低い才能の付与魔法使いだと、変更できるのは基本属性の4つまでだ。
高い才能になれば、高位の属性も変更ができ、その成功確率も上がってくる。
ただし、神聖属性や暗黒属性を変えるのは不可能であるというのは世界の常識だ。
「たしかに。創造神や暗黒神が纏う属性ですからね。もし、また暗黒属性の敵が出てきたら、ヘルミオスさんのエクストラスキル『神切剣』をお願いしたいと言っていました」
今回の勇者軍の構想に上位魔神は想定していない。
戦える限界は魔神までで、属性についても上位属性が限界であるとキールは言う。
「ああ、僕のエクストラスキルは神聖属性だからね」
それぞれの属性には神や精霊がいると言われている。
神聖属性は創造神エルメアが担当しているので、絶対的な威力となる。
創造神エルメアが勇者ヘルミオスのために用意したエクストラスキルだ。
「はい、それなら暗黒属性にも対抗できるかと」
そして神聖属性に対を成すのも暗黒属性だ。
暗黒属性は、創造神と同等の力を持つと呼ばれる暗黒世界の支配者である暗黒神が纏う属性であると言われている。
創造神も暗黒神も不可侵の存在だ。
「やっぱり、ヘルミオスのエクストラスキルはすごかったのね」
「うむ、そうだな。エルメア様が与えし特別なスキルだ」
ロゼッタもドベルグも納得する。
「その時は声をかけてよ」
「遠慮なくって言っていました」
アレンはヘルミオスが了承することも分かっていたようだ。
なお、キールは神聖属性の浄化魔法が使える。
才能星3つの聖人、聖女以上なら浄化魔法が使えるようになる。
ただし、単純な威力だと勇者ヘルミオスのエクストラスキルには遠く及ばない。
「でも、これからどの程度属性変更が効くか分からないけど、光や闇属性を持たせるのも大変だよ」
「そうですね。その場合は無属性で統一するとも言っていました」
「なるほど。全ての属性に弱いが、特別苦手な属性もないからね」
何でもかんでも高い属性が良いとは限らない。
低い属性でも有効なものがある。
それは神聖属性や暗黒属性にも有用なものだ。
それが無属性だ。
無属性は全属性最下位で、付与魔法使いでも扱える、基本中の基本の属性だ。
剣などの攻撃スキルは無属性なことが多い。
圧倒的上位の耐久属性の敵が出た場合は無属性の攻撃に統一する。
物理無効など特殊な敵でなければ、無属性の攻撃はどの耐久属性にも通じる。
上位属性に対して下位属性や苦手な属性で攻撃するくらいなら無属性が良いと言うのも一般的な考えだ。
「でも、ここでこんなに属性について勉強するなんて思いもよらなかったわ」
ロゼッタが呆れながら口を開く。
「いえいえ、アレンの近くにいるとこんなもんじゃないですよ」
「それは大変ね。でもS級ダンジョンにいた時もそんな感じだったわね」
アレンといると、やり込んだことの分析や話に付き合わされることが多いとキールは言う。
属性について、自分がこんなに多くのことを語ることができるのはアレンの話をずっと側で聞いていたからだ。
ロゼッタもそんなアレンの様子を思い出した。
誰よりもダンジョン攻略に夢中になっていた。
「何か楽しそうね」というのがロゼッタがアレンと拠点で暮らしていた時の感想だ。
「そのアレン君はどこにいるのかな?」
「そうですね。今極秘任務中なのですが、『力を求めて』と言ったところでしょうか」
「それは何だかアレン君らしいね」
昨日からアレンがいないが、ヘルミオスはそれ以上聞くことはなかった。
そして、アレンの仲間たちも半数近くいないことも問うことはない。
「ふむ。だが、これほどの手腕だ。既に軍は形になりつつある。キールも誇るがよい」
「ありがとうございます」
ドベルグが改めて、キールの対応を褒める。
現在、勇者軍とアレン軍のつなぎ役を一手にこなしているからだ。
これは数千の軍勢を動かしたことと同義だ。
大将軍級の働きをキールはしていることになる。
アレンがチームリーダーを任せた理由は、キールが誰にでも物怖じしない性格を分かってのことだった。
「それで、キールよ」
「はい」
ドベルグはそのまま話をする。
何か用事があるようだ。
「実はここに来る前にラターシュ王国から連絡するように言われている」
「連絡?」
「そうだ。冒険者ギルドの魔導具を使って、ラターシュ王国の王家に連絡をしてくれぬか」
どうやらドベルグはラターシュ王国の王家から託を預かって来ていたようだ。
キールは「分かりました。折を見て連絡します」と返事をする。
ドベルグは用事までは聞いていなかったようなので何だろうとキールは思う。
「さて、話はこんなものかな。僕もスキルがまだ上がりきっていないんだよね。ドベルグさんもですよね」
ドベルグの用件が終わったようなので、ヘルミオスが改めて言う。
「うむ。あとは戦いながら考えればよかろう」
そう言って、ヘルミオスとドベルグがそれぞれの剣を握りしめる。
「じゃあ、私は落ちている宝箱を回収するわ。貴重なお宝が危ないわ」
ロゼッタは宝箱の回収担当になると言う。
数分に1体のペースでアイアンゴーレムを狩るので、アイアンゴーレムが落とした宝箱が散乱し始めた。
ヘルミオスがロゼッタもいつもの調子だなとため息をついたのであった。
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