第146話 ドラゴン②
「なんか、私達まで責められてるんだけど」
「まあ、連帯責任だからな」
「……」
ドラゴンの会話中にアレンが攻撃したため、ドラゴンを怒らせてしまった。
ドラゴンの怒りはどうもパーティー全体に向けられているようだ。
背中からセシルのジト目を感じる。
この世界は、ターン制のゲームの世界ではない。何もしなければ一方的に攻撃を食らうし、相手の油断をつけば2回以上連続で攻撃もできる。
ステータスがお互いにあり、素早さもあるので、ステータスが拮抗した状態なら一方的に攻撃をすることはできないが、今回のように話している間であるなら2回攻撃も可能だ。
(これで結構体力を削ってくれたかな)
ドラゴンは最下層ボス最強と言われる。どれほどの強さか分からないため、体力をできるだけ削ってしまいたい。ドラゴンが会話している間も、自爆してしまって減った分のカードを補充し、再度自爆させた。
強化レベルが7に上がったことによって、ステータスが上がったため、攻撃主体の覚醒スキルは威力が上がったものが多い。石Eの召喚獣の覚醒スキル「自爆」も威力が上がった。
草系統の回復薬や鳥系統の索敵系の覚醒スキルは効果が変わらない。
鳥Cの召喚獣の移動速度は強化により素早さが1500に達したため、かなり速くなったように感じる。
激怒したドラゴンが、牙をむき出しにして、2足歩行のままこちらに突っ込んで来る。
「行くぞ!!! 陣形を崩さないように」
「「「おう!!!」」」
クレナとドゴラが物怖じせずに武器を握りしめ、ドラゴンに突っ込んでいく。セシルは遠距離から魔法を掛け続ける。
クレナの渾身の一撃がドラゴンの足を襲う。しかし、殆ど肉に食い込まない。
攻撃力3000を超えてもダメージをそこまで与えられないようだ。ドゴラの攻撃も同じくあまり通じていないように見える。
ドラゴンの足に比べて小さな手、牙、尻尾による攻撃を、鳥Cの召喚獣が必死に躱しながら攻撃を続けていく。
(クッソ硬いな。これは防御力だけじゃないな。物理耐性絶対あるだろ)
敵に与えるダメージは、自分の総合的な攻撃力と相手の防御力で決まるのが基本だ。
総合的な攻撃力とは武器やスキルレベル、力リングなどの魔法のアイテムによって加算されていく。
しかしこれだけではない。霊Cの召喚獣が持っているように物理耐性というものがある。
ドラゴンは物理耐性があるようで、通常与えられるはずのダメージがかなり減算されているように感じる。
元々硬いドラゴンがさらにダメージを減算しているようだ。
何分も攻撃しないうちに、ドラゴンの喉元が真っ赤に輝きだす。喉の皮膚の下に輝くような何かが上って行くのが分かる。ドラゴンは頭を持ち上げ上体を反らす。
「ブレスが来るぞおおおお!!!」
アレンの一声で2体の石Cの召喚獣がセシルとキールを全力で防御する。そして、残り2体の石Cの召喚獣が覚醒スキル「自己犠牲」でパーティー全体を防御する。
このスキルはダメージが石Cの体力を削りきるまで、ダメージを肩代わりしてくれる。自己犠牲は範囲スキルなので、ダメージを受ける仲間が複数いれば、全員のダメージを一気に受けることになる。ダメージを受ける計算は石Cの耐久力に依存する。
ドラゴンの口が輝き、すごい熱量がアレン達を襲う。
(くそ、ブレス長いな)
吐かれ続ける炎によって、覚醒スキル「自己犠牲」を使っている2体が光る泡に変わってしまう。
クレナ、ドゴラ、アレンがブレスの中にいたため、3人分のダメージを2体で肩代わりしてしまったようだ。
アレンは予備の2体の石Cの召喚獣を召喚し、無くなった分の召喚獣を補うためカードの生成を急ぐ。
ブレスが止んだため、クレナとドゴラが攻撃を再開する。
『こざかしいいわあああ!!!!』
すると、ドラゴンの喉元がもう一度輝き始める。
また、来るかと思ったが、今度はこなかった。
(え? これって)
「やばい! 力を貯めているぞ!!」
魔獣の中には一旦力を蓄積し、一気に襲ってくるものもいる。当然ただただ連続して攻撃するより、一旦力を貯めたほうが食らうダメージは大きい。アレンはこれを「力を貯める」と表現している。
ブレスを吐くまでの間がさっき吐いた時の倍ほど長い。クレナもドゴラも攻撃を続けているが、全く倒し切れない。
そして、輝くようなブレスを吐き散らす。さっきよりブレスの範囲が広く、一瞬にして追加で出した石Cの召喚獣も、セシルやキールを守る石Cの召喚獣も消えてしまう。
さらに喉元が輝きだす。ドラゴンはアレン達を倒すにはブレスが有効と判断したようだ。
尾や牙での攻撃は鳥Cの召喚獣が俊敏で、中々捉えられない。
少し間をおいて、3度目のブレスを吐く。石Cの召喚獣の生成が間に合わない。なんとかセシルとキールを守る分の石Cの召喚獣を召喚する。おそらくセシルとキールがこのブレスをまともに受けると即死する。それほどの威力だ。
クレナ、ドゴラ、アレンがまともにドラゴンのブレスを受けてしまい、炎を纏い吹き飛ばされてしまう。ブレスの範囲外の上空にいる霊Cの召喚獣が慌ててアイテムで回復してくれる。
この時、クレナ、ドゴラ、アレンが乗っていた鳥Cの召喚獣は皆光る泡に変わってしまった。
4度目の喉元の輝きが始まる。ドラゴンは完全にブレスを使って倒しにきている。
(これはテッコウの召喚が間に合わないか。仕方ない)
「アレン、またブレスが来るわよ! どうするの!?」
「逃げるぞ! 全員一直線に下がれ!! 長期戦になるぞ!!!」
アレンはセシルの言葉に答えるように新たな作戦を伝える。
「「おう!!!」」
アレンがこのままごり押しして倒す選択肢を捨てる。ドラゴンのブレスの範囲や威力も攻撃の速度も把握した。そこから新たな作戦を導き出す。
一緒に吹き飛ばされたドゴラやクレナを見る。
「ドゴラ、クレナいったん下がるぞ!! クレナ?」
ドゴラはアレンの言葉に返事をしたが、クレナが空虚に佇み剣を握りしめている。
(あ、あれ、これってどこかで見たって、もしかして)
何年も前に見たことがある。しかし、今はそんなことを思い出している状況ではない。
もう一度、後退を叫ぼうとした時だった。
「や!!!」
クレナが大きく叫んだ。そして全身が陽炎のように、光が屈折したかのように揺らめく。
そして、叫びと共にクレナがドラゴンに突っ込んでいく。
ドラゴンはクレナに照準を合わせて、巨大なブレスを吐く。輝く炎にクレナが包まれていく。
「クレナ!!」
アレンは慌てて、回復アイテムを使おうする。
『グガアアアアア!!!』
しかし、アレンが次に見た光景は、大剣がドラゴンの片腕を切り落とすところであった。
クレナはブレスをものともせず突っ切ってしまった。
クレナの動きは、さっきまでとは別人のようだ。
ドラゴンから鮮血が吹き荒れる。悲鳴を上げながらも自らの体の数分の1ほどの大きさのクレナを殺そうとする。
アレンは陣形を立て直し、召喚獣の生成を急ぐ。クレナのこの力の持続時間が分からない。
(倒し切れるかな? ステータスが大変なことになっているんだが。 体力も鬼回復しているし。え? 秒間で体力1パーセント回復してね)
クレナのステータスは、かつてないほど上がっている。全身に浴びたブレスの火傷もすごい勢いで完治していく。
アレンの召喚獣のバフとキールの補助魔法を除いた、クレナのステータス。魔力は最大値。
【名 前】 クレナ 体力回復
【年 齢】 13
【職 業】 剣聖
【レベル】 58
【体 力】 2360+3900
【魔 力】 922+3000
【攻撃力】 2360+3900
【耐久力】 1654+3900
【素早さ】 1594+3900
【知 力】 942+3000
【幸 運】 1155+3000
【スキル】 剣聖〈5〉、斬撃〈5〉、飛剣〈5〉、紅蓮破〈5〉、豪雷剣〈5〉、剛体〈1〉、剣術〈5〉
【エクストラ】 限界突破
【経験値】 9,073,027/4千万
・スキルレベル
【剣 聖】 5
【斬 撃】 5
【飛 剣】 5
【紅蓮破】 5
【豪雷剣】 5
・スキル経験値
【斬 撃】 68,750/100,000
【飛 剣】 75,200/100,000
【紅蓮破】 82,000/100,000
【豪雷剣】 69,900/100,000
『こ、こ、このくそ餓鬼がああああああああああ!!』
ドラゴンの口調がどんどん悪くなっていく。
全身から血を流し、深々と切られたドラゴンがブチ切れて、太い尾でクレナをはじき飛ばす。
クレナがバウンドしながら吹き飛ばされた先から、ドラゴンに向けて駆けていく。
どうやらクレナを吹き飛ばし十分な距離をとったつもりのようだ。ドラゴンの喉元がこれまで以上に輝き始める。
「やあああああ!!!」
しかし、吹き飛ばされた位置から一気に駆けていくクレナにブレスが間に合わない。
クレナが輝く喉元に大剣を突き立てる。
『グフアアア!!!』
喉元から大量の炎が噴き出す。炎に包まれたドラゴンが力なく倒れ込む。
『ヘビードラゴンを1体倒しました。経験値1600000を取得しました』
(160万ってことは1人で倒したら200万か。他の最下層ボスに比べても2、3倍多いな)
最下層ボスはAランクの魔石に変わる。
「クレナ、大丈夫か?」
アレン達がクレナに近寄って行く。クレナの体から出ていたものは既に消えている。
「うん、ドラゴンやっつけたよ!」
(いや、エクストラスキルすごすぎるだろ。副騎士団長ボコられるわけだ)
5歳のクレナが発動したエクストラスキルでボコボコにやられた副騎士団長を憐れむ。
クレナのエクストラスキル
・体力を秒間1パーセント回復
・全ステータスを3000上昇
「お、おおお!!!! 金箱だ!!!!!」
「「「おおおお!!!」」」
キールが金箱が出たことに気付く。金箱は銀箱に比べても素晴らしい輝きだ。
何か月もダンジョンに入って初めての金箱に歓声が上がる。
クレナが金箱を開けると中には1個の指輪が入っていた。
「指輪だ! 魔力回復リングかな!!」
クレナが指輪であったことに喜ぶ。
(指輪きたああ。こ、これはもう魔力回復リングしか有り得ぬ)
アレンも当然全身で喜ぶ。
「クレナ、魔力消費しているからつけてみて」
アレンは最大魔力が減ったクレナに指輪を装着させてみる。「うん」と指輪を装備する。
しかし、魔導書でステータスを確認するが魔力は回復しない。
「アレン駄目だったの?」
「……魔力回復リングじゃないみたいだ。ちょっとドゴラに装備させて見て」
ガッカリしながらも効果を確認する。「ああ」と言いながらドゴラが指輪を装着すると、体力が最大体力の1パーセントずつ回復し、ほどなくして満タンになる。
「こ、これは、体力回復リングだ……」
(ぐぬぬ、惜しい)
「残念だったわね。でもよかったじゃない。これで希望が持てるわ」
セシルがショックを受けているアレンにフォローする。体力回復リングが手に入るなら、魔力回復リングもそのうち出るだろうと言うのだ。
「でもあれね。私達ドラゴン倒してしまったわね」
セシルが何かに気付いたようだ。
「そうだな。白竜もいけるんじゃないのか?」
ドゴラもセシルが何を言いたいかに気付く。
「うん!! 白竜も今度倒しに行こう」
クレナがアレンを見ながら言う。
「いや、白竜はまだ倒さない」
「「「え!?」」」
アレンは白竜をまだ倒さないと言う。アレンこそ、白竜を倒したいだろうと思っていた皆から驚きの声が上がる。
「なんでよ?」
「今回の勝利はクレナがたまたまエクストラスキルを発動したおかげだからね。それに」
今回の勝利には運の要素がかなりあった。エクストラスキルなるスキルがあることについて、皆には既に説明してある。
「それに?」
「キールが家を再興する前に倒したら、キールが領主になることに難癖がつくかもしれないだろ」
白竜がいてもいなくても、契約上5年間の戦場の勤めが必要だ。その時、王太子が国王になっていたら、白竜のいない王領を簡単に手放すだろうか。何らかの難癖が発生するかもしれない。白竜がいるせいで王領にしてもうま味のない状態にしておきたいとアレンは言う。
悪い顔でそう言うアレンを見て、親父は戦う相手が悪かったんだなと思うキールであった。
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