第479話 鱗の門
アレンたちは牙の門番を倒したその足で、鱗の門に向かった。
今回も門番をクレナとハクがあっさり倒したため、時間が余ったからだ。
このダンジョンは毎階層の攻略に時間かかる上に、門番に備えてクレナとハクのレベル上げも考えないといけない。
魔王軍の情報を勇者軍等と共有しているが、存在を疑う程おとなしい。
魔王は恐怖帝だったころも知略に優れていた。
前世と同じ失敗をしないように今回は計画的に世界を征服しようと、何らかの準備をしているに違いない。
1日も早くダンジョン攻略が求められる状況だ。
「ここも普通ね」
「そうだな、セシル。皆も注意してくれ」
『うむ。この門を抜けたら審判の門か。我は精霊の園に行きたいぞ』
セシルに返事をして、アレンは皆に声を出すと、大精霊が真っ先に返事をする。
精霊王も精霊神も返事もせずに、たまにソフィーやルークの頭の上で寝息を立てていたりするので新鮮だ。
「そうだな。大精霊神にも会いたいし、精霊の園は目的先決定だな」
アレンは大精霊ムートンの神界を目指す目的を聞いた。
大精霊の話では、神界にはいくつかの島というか区画のような物で分かれており、その一画に精霊たちが集まる場所があるらしい。
そこは「精霊の園」と呼ばれ、神格化した精霊王や精霊神が大勢いるという。
精霊の園を取り仕切るのは大精霊神イースレイという精霊神のボス的な存在だ。
まだ情報は確認中だが「精霊の園」はソフィーやルークの強化には欠かせない場所のようだ。
大精霊ムートンが仲間になったので、精霊神にソフィーに大精霊を紹介してくれと頼んでみたが、難しいという回答であった。
理由は2つあって、1つはこの人間世界にも大精霊のように力のある精霊がいるのだが、大精霊ムートンのように全力で力を貸してくれる者は稀だという。
エルフとダークエルフが争い続けていることを嫌って、中立の立場の精霊も多いらしい。
2つ目の理由はソフィーやルークは星の数が足りないらしい。
星の数は精霊使いとしての能力の高さを意味する。
契約を結ぶには星の数が少なくても良いというよっぽど稀な精霊を見つけないといけないとか。
大精霊ムートンは、試しの門に3000年前からいた経緯や、ルークの立場や人格を認めるといった稀な状況が重なって契約に結び付いた特例と精霊神から教えてもらった。
なお、精霊の園の他にも、獣神ガルムの支配する「原獣の園」という場所があるらしい。
この獣神ガルムにはシアの件で用事があるので立ち寄り確定な場所だ。
聖獣やら霊獣もわんさかいるとか。
(必ず、ゲットしてやるぜ)
アレンは聖獣に聖獣石を投げつけるイメージトレーニングを欠かさない。
神界には夢とトキメキしかないようだ。
アレンたちは、竜神の里の最後の遺跡に到着する。
古い遺跡の奥にはいつも通り、門番が彫られた巨大な門がある。
『ここは鱗の門。審判の門を目指す者よ。挑戦をするか』
「……はい」
デフォルメされ、本来の姿を失った竜の彫り物にアレンは一瞬考えた後、返事をする。
「アレン、どうしたの?」
クレナが顔を覗き込みながらアレンに尋ねた。
「いや、そうか。これが最後の門番かと思ったんだ」
(なるほど。準備だけは万全にしておかないとな)
「門番よ。試しの門に挑戦させてください」
『うむ。最後の門に挑戦するがよい』
アレンたちは門番の声と共に、その場から転移する。
飛ばされた先は、いつもの何もない空間だった。
「おお! 行き止まりだ」
『ガウ! イキドマリダ!!』
「クレナ、ハクはもう少し後方から来てくれ。レベルが1になったんだ」
先に進むなとクレナとハクに言う。
とうとう最後の鱗の門にやってきた。
敵はきっと強いと思われるので、油断は良くないとクレナの前に出る。
「これは、どういうことでしょう?」
ソフィーもクレナと同様に、違和感に気付いた。
この飛ばされた場所は、出口となるところが全くなく、完全に閉鎖された空間だった。
「調べてみる。ホークたち、上から見てくれ」
『ピー!』
鳥Eの召喚獣たちを広い空間に4体ほど展開させる。
ここは縦横高さ1キロメートルほどの空間のようで出口はなかった。
(特色のある床石と、魔法陣が3つか)
鳥Eの召喚獣の覚醒スキル「千里眼」を使うと、特色のある床石に魔法陣が3カ所で光っていた。
「ふむふむ」
「どう?」
アレンがダンジョン攻略を模索し始める。
「セシル、たぶん。俺の予想が正しければいけると思うぞ」
「なんなのよ」
大丈夫だと言ったのにセシルから呆れられてしまった。
安全策を取り、霊Aの召喚獣に一番近くの魔法陣を踏ませる。
魔法陣が輝きだし、霊Aの召喚獣が消える。
「消えちゃったね」
「まあ、消えるだろう」
「そうなの」
クレナが首をコテッとしながらアレンだけが理解している理由が分からないようだ。
『どういうことなのだ? お前らのリーダーはここに来たことがあるのか』
「ないと思うけど、アレンは別の世界から魔王を倒すためにやってきたんだ」
検証中のアレンに代わり、ルークが答える。
『なんと、英雄の類か!!』
「そういうこと」
ルークと大精霊もアレンに聞こえるようにあれこれ言っている。
アレンは、霊Aの召喚獣が別の空間に飛んだことを確認する。
霊Aの召喚獣が飛んだ先の足元には先ほどの空間で踏んだ魔法陣と同じ魔法陣がある。
(やはり別の空間に飛んだな。ホークも送ってと)
飛んだ先は別の模様の石畳に覆われた縦横高さ1キロメートルの空間のようだ。
鳥Eの召喚獣に覚醒スキル「千里眼」を使わせると、魔法陣が今度は4つランダムな場所にあった。
別の空間に飛んだ霊Aの召喚獣に、足元の魔法陣をもう一度踏むように指示をすると、アレンたちのいる場所に戻ってきた。
「これは、魔法陣を踏んで空間を移動していく階層のようだ。無限ループもないし、元来た場所に戻れるからぬるいぞ」
(どれくらいのパターンがあるか知らんが時間の問題だ)
「まあ、さすがアレン様ですわ!!」
「ちょっと、何でこんなのすぐに思いつくのよ」
「やったことがある」
(割とイージーなやつだ。1階層はどの門もそこまで難しくないな)
「はぁ」
セシルの言葉にアレンは即答するので、これ以上何も言えない。
アレンの理解が早かったのは、同じタイプの転移式ダンジョンをやったことがあるからだ。
そこは箱状ではなく、入り乱れた迷宮の中に転移スポットがあり移動していた記憶がある。
箱状な空間で、床石の模様にも特徴がある。
魔導書にもメモするが、アレンの知力の高さなら転移先の空間が100以上用意されていようと暗記できそうだ。
アレンの前世のゲームはダンジョンで出来ていたと言っても過言ではない。
ラスボスの城も、塔も洞穴も全部ダンジョンだったがそれだけではない。
大陸を地下通路で移動するのも、山脈をトンネルで移動するのも、悪さをする中ボスを倒すのも全部ダンジョンだった。
真っ暗で松明がないと何も見えなくなるダンジョンもあれば、転移を繰り返させるダンジョンもあった。
とりあえずダンジョンを作ればユーザーは納得すると製作者側は思っていたのかもしれない。
ダンジョンを攻略したという記憶がアレンの前世のゲーム人生の大半の記憶だ。
『アレン、お前マジかよ!? なんでそれを早く言わない!!』
「ちょ、ちょっとディグラグニ。落ち着いて!」
魔導キューブからアレンの話を聞いていたディグラグニが興奮し荒ぶる。
魔導キューブが原型を留めないほど、ダンジョンについて詳しく聞きたいというディグラグニをメルルは落ち着かせる。
パーティーは分けずに進むことにする。
まだ敵と出会っていないし、安全策は大事だ。
鳥Eと鳥Aと霊Aの召喚獣を1組とし、5組作って同時進行で転移先のパターンを暗記していく。
1時間が経過しアレンたちが10回、20回と転移を繰り返した先の事だった。
空間は無限と思われるほど続いていた。
「ふむ、これはちょっとパターンが多そうだな、っと、戦闘態勢に入れ!!」
ガンガン暗記している中、転移先でのことだった。
飛んだ先に周りに気配がした。
大鎌をもって浮遊するゴーストのような魔獣とアレンたちは目が合う。
広い空間の中央に飛ばされたアレンたちは霊系統の魔獣の群れの中にいた。
地面に足をつかない大鎌を持った魔獣が一気に距離を詰めようとした瞬間、ハクが炎を吐いてけん制する。
大精霊も強酸で出来た球状の物を大鎌に当てていき敵の武器を奪う。
「インフェルノ!!」
霊系統には火属性の相性が良い。
セシルが火魔法で蹴散らしていく。
『リッチを倒した。経験値400万を手に入れた』
(Aランクの魔獣だな。Sランクはいないのか)
何百という魔獣たちはAランクの魔獣たちのようだ。
ガンガン蹴散らしていく。
そのたびに、クレナとハクは爆発的にレベルが上がっていく。
エクストラモードの経験値テーブルにいるクレナとハクだが、一気にレベルがそれぞれ50に達する。
ただ、せっかく魔獣が出るならSランクの魔獣が出てほしいと思う。
Sランクとなると1体当たり経験値が億に達する個体もいる。
それから半日ほど過ぎた。
「アレン、そろそろ戻りましょう」
「あと1回転移してから戻ろう」
「それさっきも聞いたわよ!!」
次の転移先がゴールな気がする。
アレンたちパーティーは「巣」を設置すれば、いつでも同じ場所から門の攻略を開始できる。
1つや2つ転移先を確認しても意味ないだろうとセシルは叫んだ。
「本当に1つだ。これで終わりだ」
「本当よね? 次で最後よ」
ダンジョン中毒を患っているアレンがラスト1転移だと念を押す。
何の会話だろうとアレンとセシルの会話を仲間たちは聞いている。
アレンが全ての思いを込めて、床にある新たな魔法陣を踏んだ。
転移した先に何かがいる。
「て、敵!?」
存在に気付いた仲間たちが一気に臨戦態勢を取る。
巨大でふくよかな黄色の毛で覆われている。
赤いトサカに、虹色の尾があるなんとも不思議な鳥だった。
「えっと、この鳥は?」
アレンは聞いていた特徴を思い出す。
そして、魔導書から聖獣石をゆっくりと出し、重心を低くしていく。
かつてないほど聖獣石を握る手に力が籠るのであった。
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