第653話 大地の神ガイア

「394位? 何位中394位でしょうか?」


『大地の迷宮ができて394番目の順位となります。直近では攻略する団体がおりませんでしたが、最低順位ではあります』


(なるほど、なんだかんだで時間に余裕があれば、そこまで厳しい戦いではなかったからな)


 RTAはボスを撃破してからが本番で、記録更新のスタートだと思う。

 もう一度挑戦すれば、もっとタイムを巻けそうだ。

 アレンたちは100万年ほど前からあるという大地の迷宮の中で最下位だったが、攻略できた組が400団体しかいないのは少ない気がする。


「アレン、ちょっと、何の話よ」


 攻略したら記録だの順位の話を説明が始まったことにセシルが戸惑いを覚えているようだ。


「いや、攻略したなら順位を聞くのは当然だろう。ほかに記録はありますか?」


 神界のついでに他に記録があれば聞いておこう。

 前世では攻略時に手に入れたアイテムでポイントを加算されていき、高ポイントを競うようなこともしていた。


『当然ございます。個人での挑戦の場合、攻略時間上位10位まで名が大地の迷宮に刻まれるのです』


(たった1人で攻略だと?)


「おお!!」


「はぁ? なに話が弾んでんのよ!」


 真顔で状況を受け入れるアレンにセシルは声を上げる。

 土偶の目がカッと光ると入り口付近の土がメキメキと隆起し、巨大な石板が姿を現した。


 ゴゴゴゴゴッ


 文字が掘られた記念碑にはこの100万年間の大地の迷宮攻略の記録があった。


 ここは日の光が当たらない大地の迷宮入り口と反対側の出口だ。

 アレンは明かりの魔導具で記念碑を照らす。


【大地の迷宮個人の部ベスト10】

・1位 03:12:49 戦神ルミネア

・2位 03:55:32 獣神ガルム

・3位 06:11:43 武神オフォーリア

・4位 10:12:14 剣神セスタヴィヌス

・5位 12:34:18 風神ヴェス

・6位 14:45:16 大精霊神イースレイ

・7位 14:58:51 風の神ニンリル

・8位 18:45:33 獣神ギラン

・9位 19:20:50 時空神デスペラード

・10位 23:32:41 豊穣神モルモル


「戦神にもなると3時間かそこらで攻略してんのか」


「本当ですわね」


 少し元気が出てきたソフィーも話に参加する。


「む? 風の神が2柱もいらっしゃるって、ヴェスがいるな」


「ヴェス様ね。光の神アマンテ様の配下の神が何で参加しているのかしら?」


 アレンが気付き、セシルが補足説明したが、誰も答えを持つ者はいない。

 もしかしたら、処分されずに神界にいる古代神がもっといるのかもしれない。


(あとやる気のないニンリルも攻略しているな。風の神っていうくらいだから素早さ特化だからなのか。さてと)


 上位神たちの中にいたのは、あまり良い思い出のない風の神ニンリルだ。


 視線を土偶に戻し、そろそろ本題に移りたいと思う。


「あの、報酬を頂けると……」


『報酬でございますね。報酬につきましては、大地の神ガイア様から賜ります。ガイア様御光臨に際して、大地の迷宮を反転させたいと思います。落ち着いてお待ちください』


 ゴゴゴゴッ


「へ? え? ちょっと!?」


 大地の神ガイアの神域は、一片1000キロメートルの正四面体だ。

 グルリと回転を始め、はるか地平の先が明るくなっていく。

 元々、アレンたちは24時間前の正午頃、日の光る大地の迷宮の上部から潜っていき、現在反対側の最下部から外に出た。


 180度回転することによって、大地の迷宮の最下部が最上部へと変わっていく。


 遠心力によって不思議な感覚を覚えるが、眩しいまでの日の光が頭の上に達したところで、大地の迷宮の動きは止まる。


(回転が終わったってことは……。攻略したら出てくるって言ってたし、とうとうお出ましか)


 メキメキ


 大地の迷宮の地面が隆起し始める。

 人型大に湧き上がったと思ったら土塊が50歳過ぎの男の姿へと変わっていく。

 土塊だった肉体は健康的に日に焼けた人肌になる。


 頭頂部に髪のない、もみあげから顎、口元まで繋がった50代かそこらのおっさんが現れる。

 まるでボディービルダーなのかビキニパンツを履いたパンパンに張った筋肉に目がいく。


『攻略ご苦労だったな。まさか、本当に攻略する奴がいたとはな……。儂が大地の神ガイアだ』


(もこもこ出てきたな。もしかして、ずっと攻略の状況を見ていたのか)


「ちょっと、アレン」


「おっと、これは失礼。御光臨感謝します」


 これから報酬を貰わないといけない。

 恭しく声をかける。


 セシルの声と共にアレンたちは皆、大地の神ガイアの下に跪く。

 今起きていることに、頭のリソースを割きすぎてしまったと反省感を出す。


『まさか、人間の中で攻略するものが出てくるとはな。まあ、途中からそんな気がしてたがよ』


「いえいえ、他の神々の試練と比べてもかなり厳しい試練でございました」


『まったく、天使や神々の修行の場として、この大地の迷宮はあるんだけど、最近の世代が育つ前に人間たちが先に攻略してしまうのは流石にすごかったぞ』


「お褒め頂きありがとうございます」


(なるほど、神界闘技場と同じ理屈なのか。今聞くと繋がっていくな)


 神界にいる天使や神にもレベルアップと同じかそれに似た成長の概念があるようだ。

 剣などの武器のスキル上げのために神界闘技場がきっとあるのだろう。

 目指す大地の迷宮は、レベル上げはもちろんのこと、集団でのチームワーク向上にもピッタリだと思う。


【大地の神ガイアの試練の報酬】

・20階層を攻略すると、エクストラモードになれる

・40階層を攻略すると、神技を貰える

・60階層を攻略すると、大地の加護を貰える

・80階層を攻略すると、神器「大地のハンマー」を貰える

・99階層を脱出すると、大地の神ガイアが願いを1つ叶えてもらえる


「もしかして人間最初の攻略には初回攻略報酬のようなものは……」


『ああ!? そんなものあるわけねえぞ! 報酬の価値を半分にしたものを2つほしいなら別だがな!!』


 サンサンと日の光を浴びてテカる頭皮に血管を浮かべて、大地の神ガイアが怒鳴る。


「それは申し訳ありませんでした……」


 こんなにはっきりと断らなくてもよいではないかとアレンは思う。

 交渉の余地のないはっきりとした性格の神のようだ。

 セシルたちが怒らせないでとビビってしまう。


『それで何が欲しいんだ?』


「でしたら、メルルのゴーレムの強化をしたいので……」


(装甲とか。大地の神ならガチガチに固められそうだし)


「え? 何言ってんだよ」


 仲間たちの皆が「そうじゃない」とギョッとした顔をする。

 すぐにメルルが反応して否定の声を上げる。


「いや、だって、マグラとの戦いで結構苦戦しただろ。これから厳しい戦いが待ってるからな。補助が効かないタムタムだと……」


 今回の攻略でタムタムの強化の問題についても確認することが出来た。


 どうしても、初期スペックが敵のステータスよりも劣ると、補助魔法を受けることが出来ず、対処の幅が低くなるのがゴーレムのタムタムだ。

 交渉で複数の報酬が得られるなら、自分の剣も強くしたいと考えていた。


(強化したメルスも加わったし)


 アレンには召喚獣の強化する目途がまだまだいくつもある。


「そんなの関係ないよ! みんなアレンの剣を強くするために頑張ってたんだよ!!」


「そうよ!」

「そうですわ!」

「アレンよ。何を言っておるのだ?」


 思った以上に仲間たちと意見が違うことにアレンは驚く。


 メルルの叫びにセシルもソフィーも答え、シアまでも会話に参戦する。


「そうか……」


 アレンは自らの思考の中に入り、大地の神ガイア99階層攻略報酬をどうすべきか改めて考える。


 どうやら、仲間たちが必死に戦い、長い時間をかけて99階層攻略を目指したのはアレンの武器を強くするためだった。


 何度も必死に戦い、剣を折られる状況で精霊獣には体を無数に切り裂かれている。

 仲間たちはアレンが安心して戦えるよう絶対に折れない剣を手にするため戦ってきたようだ。


 いい話ではあるが、パーティーのリーダーとして折れるべきか考える。

 大地の神ガイアの報酬は物理的に武器や防具だと効果が発揮しそうだ。

 そもそも中衛職のアレンが優先すべきか思考を加速したところでセシルの言葉で中断することになる。


「グラハンが召喚獣になってアレンいつも前線に出るわ。まだ自分のこと『中衛』だと思ってるの?」


「そうですわね。アレン様は『前衛』です。パーティーの要が折れる剣を握るのは、これからの戦いで厳しいものになりますわ」


 アレンが使ってきたパーティー用の専門用語の「中衛」や「前衛」を仲間たちが飛び出してくる。


「……分かった。念のためにメルル、ディグラグニに連絡してくれ」


「うん? 分かった。ディグラグニ、ちょっと連絡取れる?」


 メルルは自分の目の前に浮かぶ魔導キューブに声をかけた。


『あんだよ?』


「ディグラグニさん、魔法神の研究のお手伝いお疲れ様です。実は折り入って相談なのですが……」


『手短にな』


 最初にあった時から、交渉は手短にという態度が変わらないなとアレンは思う。


「メルルへの加護とかはどうなっているでしょうか。そのほか、メルルのための神器の提供の予定はありませんか?」


『は? 魔導キューブにタムタムへの魂与えただろう』


「確かにそれはディグラグニ様を倒した報酬でございますが、その後、メルルの加護を頂いたっきりになっておりまして……」


 ほかの神は神器、神技、加護などたくさんの報酬を貰っている。


『だあああもう。めんどくせえなぁ。じゃあこんな感じでいいぞ』


 メルルの魔導キューブからレーザー光線が生じ、アレンの目の前の中空に、神学文字で報酬リストが出る。


【ダンジョンマスターディグラグニの追加報酬(信仰ポイント)】

・10億ポイント:加護(中)

・100億ポイント:加護(大)

・500億ポイント:加護(特大)

・1000億ポイント:加護(極大)

・500億ポイント:神技「超神合体」

・500億ポイント:神器「ダンジョンブラスター」


「ちょ超神合体!? うおおおおおおお!! かっちょいいいいい!!」


 メルルが手をワナワナして絶叫する。


(ほむほむ、何だか忙しくて雑な試練になったな。信仰ポイントを提供するだけのようだが試練と呼べるのか)


 結構なポイントを要求してきたが、試練はポイントで良いようだ。


 きっとディグラグニに渡したポイントは魔法神イシリスに提供されるのだろう。

 

「じゃあ、これからの信仰ポイントの使用は俺の霊力上げよりもメルルの強化を優先するか。大地の迷宮にはこれからも通わないといけないし。あと、原獣の園には亜神級の霊獣を溜めているし……」


 霊力が回復する指輪や腕輪よりもポイント的にも費用対効果が大きそうだ。


「じゃあ、攻略報酬はアレンの武器ってことだね」


 アレンの思考を断ち切るようにメルルが念を押す。


「そうだな。皆、ありがとう。俺が大地の迷宮攻略報酬を貰うと」


 アレンの言葉に仲間たちはホッとするのであった。

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