第369話 町民の受入れ②
「次に、島における町の構成ですが、地図を見てください。島には町が4つ出来る予定です」
アレンは新しく入った5000人の島民について島の概要を説明する。
島があり、島の中央の山に神殿がある。
山の中腹には白竜のハクがいて、麓には鍛冶職人の工房群がある。
ここが旧エルマール教国から出てきた5000人用に作った町だ。
町の中央には商業施設や宿などいくつもの施設がある。
そして、町から少し離れた所は畑や牧場になっている。
「なるほど。就きたい仕事について聞いてきたのはこういうわけなのじゃな」
エールの町の町長が地図を見ながら話を聞く。
「はい。最初は配給が頼りになり、中々経済が回らないかと思いますが、次第に人々が慣れていくかと思います」
5000人はそれぞれ就いていた仕事はバラバラだ。
特に多いのは農民だが、肉屋や八百屋を営んできた者もいる。
なお、農奴はエルマール教国にいないし、この島には農奴も奴隷も作らない予定だ。
今就いている職業と島で何がしたいか希望を聞いて、それぞれの世帯ごとに希望の職業を割り振っている。
「町はこれから順次完成するということか」
「そうです。今回はエールの町の皆さんをお呼びしましたが、出来次第、他の町についてもお呼びします。全ての町が揃いましたら町長会議を開きますのでご参加お願いします」
火の神フレイヤのいる山を挟んで四方に4つの町を作る予定だ。
今回邪神教の教祖グシャラが行った光の柱が伸びたのは4か所だ。
その4か所で邪教徒と迫害を受けて島への移動を求めている。
町の名前は、エール、ムーハ、カール、クーレと決めている。
エルマール教国からは5000人が、エールの町へ移動する。
ムハリノ砂漠のオアシスの街ルコアックからは2000人が、ムーハの町へ移動する。
カルロネア共和国からは5000人が、カールの町へ移動する。
クレビュール王国からは3000人が、クーレの町へ移動する。
合計15000人が大小4つの町を作る。
連合国のある大陸と東西南北の位置関係は同じになっている。
ムーハの町は、土レンガを積み上げて作った建物の町を作る予定だ。
クーレの町は、湖か沼地の町を作る予定だ。
それぞれの町には町長と数人の副町長が就く。
ムーハの町以降は10日に1つずつ受入れの予定だ。
「軍がそれぞれ種族ごとに3つに分かれて島に駐屯するということか」
「そうだ。まあ、今後合同演習が始まる予定だが、駐屯地自体は分ける予定だ」
ダンジョンに籠っていて島の開拓に携わっていなかったシアが地図を見ながら聞いてくる。
エルフ、ダークエルフ、獣人の軍はそんな島を挟んで作った十字の町を避けるように駐屯地が作られる予定だ。
今回1つの町にしなかったのは、それぞれの国で文化も風土も違うのでいきなり一緒にして要らぬ波風や衝突が起きないための配慮だ。
軍を街の中に設けないのも、町民との無用な衝突を生まないためだ。
町の人には気持ちよくフレイヤに祈ってもらう必要がある。
「市長とはどういうものなのでしょうか? ペロムスさんが市長になられると聞いていますが」
「これは共和国に多い制度なのですが、町長を束ねるものですね。ペロムスは貴族でも王族でもないので市長ということにしました」
「なるほど。それで、ペロムスさんがその立場に相応しいということじゃな」
市長とは町長を束ねるものであることを意味すると伝える。
町長としては、なぜこのように若いものを市長という立場にするのか聞いておきたい。
「はい。詳しく御存じないかもしれませんが、ペロムスが運営するペロムス廃課金商会は年商金貨180万枚です」
「き、金貨180万枚じゃと!?」
(年商でびっくりしているな。年商金貨100万枚いくのはかなり難しいらしいし。現実世界なら年商1800億円くらいらしいし)
アレンの中で、金貨1枚10万円くらいかなというざっくりな想像をしている。
ペロムスは商業学校に通っている1年の夏にペロムス廃課金商会というお店を興した。
アレンは前世の記憶を元にあれこれアイデア、商材を提供し、そしてダンジョンに通ったりしながら稼いだお金を商会に投資した。
商会を興す発端となった話がある。
グランヴェルの街に高級宿を構える大富豪チェスターに、1つのお願いをしたことだ。
その願いとは娘のフィオナとの結婚を前提とした交際を認めさせるものだった。
チェスターからは「お前の商人としての価値を示せ。そしたら娘との交際を考えても良い」というものだった。
猶予は3年だけ待ってやると言われたそうだ。
困ったペロムスが1年の夏にアレンに尋ねると、アレンは「じゃあ、商人としてチェスターの宿屋を買収したらよい」とアドバイスする。
そしてできたのがペロムス廃課金商会というお店で、たった数年で、ガンガンデカくなっていった。
アレンのアドバイスだけが商会を大きくしたわけではなかった。
ペロムスには創造神エルメアが与えた「天秤」という、ものの価値を当てたり、比べたりする能力がある。
自在にエクストラスキル「天秤」を扱える域に達したペロムスには、商売をする上で必要な商品の市場価値を市場調査を必要とせず、瞬時にわかる力があった。
そして、2年目になってアレンの勧めで始めたのが、ローゼンヘイムからの貿易業だ。
この時にはアレンの仲間にソフィーがいた。
ソフィーに仲介してもらって、ローゼンヘイムとの間の貿易業を開始する。
ペロムスのエクストラスキル「天秤」は貿易に特化していた。
輸入したいもの、輸出したいものがいくらで売れるのか瞬時で判断できる。
儲からないものは売らないし、利益率の高く儲ける商材を厳選し取引することができる。
ただ1つ難点なのが、需要までは分からないため買いすぎると在庫になるということだ。
そして、その翌年には、ローゼンヘイムにお願いしてバウキス帝国とギアムート帝国とも貿易できるように許可の申請を出してもらった。
ここまでするとペロムスの独壇場で、今ではペロムスとの取引をもう少し抑えるべきという陳情が、バウキス帝国やギアムート帝国の自国内の貿易商人から上がり始めている。
今では年商は金貨180万枚に達し、ラターシュ王国でも2番目の規模の商会になった。
1番はラターシュ王国の王族が運営する国営企業のような存在だ。
そして、世界的に見てもペロムス廃課金商会は87番目の年商を誇る。
なお、ベスト1から30位まではバウキス帝国に本店を置くドワーフたちの商会が占めている。
結局去年、チェスターの系列の宿屋を1つずつ買収していき、残すはグランヴェルの街の高級宿を残すのみというところでチェスターに認められた。
チェスターからは商人として戦ったので一切恨みもなく「ぜひフィオナを嫁に貰ってくれ。商人としての儂の目に狂いはなかった」と言われたそうだ。
今では、チェスターの系列の高級宿はペロムス廃課金商会の傘下となっている。
今では商会だけで1000人を超える人を雇っている。
グランヴェルの街の大きな働き口となっている。
レイブンたちはペロムスが1人で困るだろうから商会設立以来お店の運営や護衛などを手伝ってもらっている。
グランヴェル領内で魔獣を狩りつくしたせいで仕事がなくなったところだろうと、アレンがペロムスにレイブンたちを紹介した形だ。
「っと、大体こういうことをやっています」
フィオナの話とか一部を省いて町長や副町長にペロムスのお店が何をしているのかの話をする。
「なるほど。貿易か。島の運営に丁度良いではないか。ペロムスと言ったな。アルバハルとも取引するときはよろしく頼むぞ。ああ、あまり稼ぎ過ぎないようにな」
「は、はい。よろしくお願いします」
シアはペロムスを見て、何か役に立つのかと思いながら話を聞いたが、その価値を上方修正する。
この島に必要なものは他国との取引だ。
この島は小さく、人口も少なく島の中で経済が循環するのは難しいので貿易は必須だ。
貿易商を務めるペロムスが火の神の信者たちと共に貿易をしながら経済を回していくのは悪くないとシアは思う。
そして、腕の良い貿易商とは今後も付き合いたいと思いシアも声を掛けておく。
「なるほどの。よその国と取引をして生活をしていくということじゃな」
町長たちも何のためにペロムスを市長にするのか分かったようだ。
町長は見た目で選んだが年の功なのか中身が伴ってそうだとアレンは思う。
「与えられた能力とアレンのお陰です。それで町長さん。お店の本社をこの島に移設します。私の従業員共々よろしくお願いしますね」
能力と友人に恵まれたとペロムスは言う。
そして、若い市長だがこれからよろしく頼むとペロムスは挨拶をした。
「よろしくなのじゃ」
「それともう1つあります。レイブンさん説明お願い」
市長としての自らの役割について十分に説明をした。
今回ペロムスが行うことは市場を持ってくることだが、もう1つある。
続きはレイブンに説明してもらおうとレイブンの方をペロムスは見る。
「ああ、俺の出番だな。今回、俺が団長でペロムス廃課金自警団を結成することになった。2人は副団長だ」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
リタとミルシ-が挨拶をする。
「ほう? 自警団とな」
レイブンに話を振るため、町長はレイブンを見る。
それはレイブン率いるペロムス廃課金傭兵団をレイブンが団長で率いていたが、この島にある4つの町の治安も守らないといけない。
腕っぷしのある傭兵団に自警団になってもらって町の治安維持をしてもらう予定だ。
犯罪を犯す者も出るだろうと100人くらいの収容規模の牢屋は既に作っている。
いつの日か、町民の反発が起きてペロムスが牢屋に入れられないかと前世でどこかで見た光景を思い出す。
(今後、自警団の中からアレン軍の中に入りたいものがいたり、人員の交流があるだろうけど、それは追々だな)
今後自警団からアレン軍、またはその逆。
町民の中にも、自警団やアレン軍への参加の希望者も出るだろう。
その辺りは追々決めて行けばいいと思う。
「それにしても、市長ではなく国王の方がいいのではないのか?」
土地があり、軍を持ち、民がおり、他国と取引をする。
それはもう国家であり、王国だろうとシアは思う。
「まあ、王国とかいうと他国が反応しそうだし」
態々国を作ったなんて言って他国に警戒されてもなとアレンは考えている。
そもそも王国を築きたいわけでもないし、この組織が未来永劫続くわけでもないと考えている。
大層な肩書は自らの行動を抑制することにもなりかねない。
「いや、だが」
「た、大変だ。町に魔獣が出たぞ!!」
シア獣王女がさらに反論しようとすると会議室に町民が飛び込んできたのであった。
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